白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#15 地下に潜る日Ⅲ

北側の山岳地帯の近くでアグネス達が迎撃を行っている最中、村の東側の沼地地帯でも戦闘が行われていた。

 

「この先の村を攻撃せよ!」

「撃てぇ!」

 

軍勢は手当たり次第に黒エルフの街や村を襲撃し、家々を焼いていく。街道を塞ぎ、黒エルフ達を追い詰めていく。

 

「くそっ!」

「騎兵も居る。マズイぞこりゃ」

 

そして沼地では展開したエルフィンド軍による銃撃が行われており、背丈ほどある草木に隠れてキアステン達は抵抗を続けていた。

 

「チッ、騎兵まで持ち込むとは気前がいいなあ!」

「大盤振る舞いでしょうよ。仇敵がいなくなるんだ」

 

その隣で傭兵団の団員が嫌味を込めて返すと、持っていたレバーアクション式小銃を発砲する。

 

「うおっ!?」

 

その銃弾は斥候を行っていた騎兵に命中して跨っていた指揮官が倒れる。

そしてレバーを倒して新しい銃弾を装填すると、隣でキアステンは持っていた拳銃を発砲する。

 

「うおおぉおおっ!!」

 

すると草むらに隠れていた一人の白エルフ兵が銃剣を持って突撃をしてきた。

 

「…阿呆め」

 

ニヤッとキアステンは笑うと、撃鉄を操作して引き金を引いた。

 

「うっ…」

 

一発の銃声が響き、姿を見て驚愕をした白エルフ兵の顔面に多数の穴が開いた。

彼女の持っていた拳銃は、撃鉄の武器を変えるだけで、回転するシリンダーの軸が散弾の銃身となって放つことができた。

九つある銃弾は敵のリボルバー式拳銃の常識を突き、中央の散弾銃は敵の意表を突いた。

 

「この後に敵は来ると思うか?」

「次は砲兵隊でも持ってくるんじゃないんですか?」

「こんな沼地でか?」

 

持っていた拳銃のロックを外し、新しいシリンダーと交換するキアステンは部下の冗談に苦笑する。

キアステンは今の場所と自分の脳内にインプットされたベレリアント半島の地図を振り返る。

 

「どうやら、同胞は上流に追い込みたいらしい」

「んじゃ、我々はそれに沿うように西進ですか?」

「今頃、オルクセンの領土にも逃げ込んでいる頃合いだろう」

 

十分時間は稼げたと内心で思っていた。

 

「そろそろ秘密警察から怪しまれてもおかしくないかな?」

「そんなこと冗談でも言わんでください」

「悪いって…」

 

ブラックジョークのつもりが外れてしまったなと少し気を落とした。すると後方から俯瞰していた狙撃兵が魔術通信で伝えてきた。

 

『敵の撤退を確認しました』

 

廃村や木を利用して準備していた狙撃兵は正確に味方に情報を共有していた。

 

「偽装の可能性は?」

『後方に敵は見えません』

 

報告を聞き、本物であると確信してキアステン達は腰を低くして沼地から撤収を行う。

そして村に戻る途中、キアステンは部下に聞いた。

 

「我々の脱出路はどうなっている?」

 

小声で聞くと、キアステンの部下は答えた。

 

「村に捨てられた馬車があります。逃げてきた住民のものですが、許可は貰いました」

「よし、それを使おう」

 

キアステンは部下に命じて逃亡用の馬車と馬を用意してもらう。その間に現状を聞いた。

 

「味方の状況は?」

「今のところ負傷者も死者いません」

「それから軍の補給品をいくつか鹵獲しました」

「素晴らしい」

 

村に帰還すると、先ほどよりも人の気配が減った中でアグネス達は死体や残された物資などから奪った銃や弾薬を見て喜ぶ。

 

「これからは一般もこっちでいきましょう」

「そうね、なるべく鹵獲したものを使うように指示を出して」

「了解しました」

 

アグネスは意気揚々と、満足したすっきりした笑みを見せて頷いた。

なんと言うか、彼女は戦闘狂の素質があり、ピクニック感覚で今の夜襲を敢行して団員全員分の小銃と弾薬を奪ってきたのだ。

 

「なんでこんなことできるの?」

「我々が北部系出身だからかと…」

「?」

 

首を傾げたキアステンに団員が訳を話した。

 

「北部氏族は昔より中央から非主流派とみなされましたので…」

「…」

 

それは神話の頃の話。女王とともに海を渡った白エルフの中でも半島にとどまることを選んだ派閥を源流とする彼女達は幼い頃からそうした軍事訓練は行ってきたと言う。

 

「黄金樹に近いティリオンより賢明ね」

 

キアステンはその現象に思い当たりがあり、途端にフィリピン軍が脳裏を過った。

 

「商会長風に言うなら、『歴史が練り上げた矛盾』ですかね」

「おっ、よく分かってるじゃないの」

 

キアステンはそう言うとそこで彼女の昔の所属を思い出した。

 

「そう言えば…元々の所属は騎兵科だったわね」

「ええ、アシリアンド軍の方で」

 

彼女は頷くと、キアステンは聞いた。

 

「ちなみに、また馬に乗れと言われたら?」

「勿論受けます。馬は好きですので」

 

遠慮なく答えると、彼女はニッコリと笑みを浮かべた。

 

「よし、とりあえず全員奪った小銃で装備。弾薬が切れるまでこれを使いなさい」

「了解しました」

 

そこで訓練されたキレのあるエルフィンド軍式敬礼をすると、彼女達はレバーアクション式小銃から持ち替え始めた。

 

「あの…」

 

その時、アグネスやキアステンに話しかける面々がいた。黒エルフである。彼女達は最初、仲間を皆殺しにしてきた白エルフを見て恐怖や怨嗟の目で見ていたが、この数日の戦闘を経て信用をして何人かの黒エルフが残留を希望しだしたのだ。

 

「私も戦わせてください。お願いします」

「駄目だ」

 

しかしキアステンとアグネスはこれを拒絶した。

 

「どうして…」

「君達の助力を必要とするほど、我々も戦力を欲していない」

 

キアステンはそう答え、残地を希望する黒エルフに言う。

 

「南に逃げて、オークの庇護を受けなさい。そして今後、またこの国が放逐を始めたら、その者たちを保護して頂戴」

「「「…」」」

 

キアステンは彼女達にそう言うと、奪って積み上げた小銃に弾薬を装填して二本ほど渡した。

そして南にはオークの国があることをここに住む黒エルフ達は伝播した噂で聞いた。

 

「たとえ相手の靴を舐める格好になっても生き延びて」

 

懇願するように彼女は言うと、自分達よりも若いこの耳のない白エルフに黒エルフ達は後ろ髪を引かれる思いで承諾した。

 

「私たちに出来るのはこれくらいしかない。今は何とか抑え込めているけど、ここもいずれ危なくなる。オークの国に行きたくない他の同族は気絶させてでも連れていって」

「…分かった」

 

彼女は頷くと、胸元から艶のある護符を掲げる。

 

「君に白銀樹の加護があらんことを」

 

そう言うと少量の弾薬を持って彼女達は川に向かった。

 

「名演技ですね」

「おい、聞こえたらどうするんだ」

 

するとその一連の光景を見ていた団員の言葉にキアステンは少し諌めた。

はっきりと言うなら戦況は悪い。まず圧倒的に戦力が違いすぎる。向こうは正規軍、こっちは傭兵団数十名。戦線はジリジリと後退させられていた。

 

「黒エルフは見た目が違いすぎる。市井に溶け込ませることは不可能だ」

 

彼女達の容姿はあからさまであり、匿う事は不可能である。六芒星(ユダヤ)教を信仰する人間族のような同じ種族ではない為、放逐をした種族がいるとこの組織のことが露呈する可能性があった。

 

「我々魔種族は種族だ。民族で分かれているわけではないのが問題だ」

 

民族であったなら、彼女達を匿うこともできたであろう。しかし今まで白エルフが行ってきた放逐は種族の放逐。どのような文化や宗教があろうと、見た目が違えば抹殺の対象であった。

 

「我ながら酷いものです。対岸にいる敵に厄介ごとを丸々を送り込んでいるんですから」

「匿えない以上、我々は頼るしかあるまい」

「まあ生きてる方が大事ですからね」

 

今まで、世界を見てきた彼女(キアステン)だったからこそ、川を越えたドワーフやコボルトが生きている事を知っていた。

彼らが民族問題も抱えずに暮らしている事を知っていた。

 

「…情報はやはり必要不可欠だな」

「知に勝るものなしってことですか?」

「さあね…さて、そろそろアグネスが狂喜して突撃を始めないか気をつけなければ」

「大丈夫ですか?」

 

そこで少し不安がる団員にキアステンは言う。

 

「事前にアグネスに命令は出した。あとは彼女がうまくやってくれるといいが…」

「へへっ、団長を自由にさせるとは商会長も恐ろしい事をする」

 

団員はそう言って小銃を片手にまたピクニックに向かったアグネス達を思い出す。

 

「死なせたらコレ(クビ)と厳命した。彼女は軍でも三度の懲罰の後に士官学校を退学だ。命令も時折無視して、戦闘狂いで危なっかしいこともあるが、それ以外は優秀な軍人だよ」

「軍人で命令無視はまずいのでは?」

「ここは、生憎と軍でないのでね」

 

元軍人であるキアステンは皮肉るように返すと、指示を出した通りに動いてくれる事を願った。

 

 

 

「撃て撃て!敵を近寄らせるな!」

 

アグネスは叫ぶと、遅滞戦術でエルフィンド軍の妨害を開始。持っているのは敵から奪った小銃である。

 

「薬莢は全て持ち帰れとの命令だ。忘れるなよ!」

 

そして珍妙な命令を思い出しながら団員達は一発発射してレバーを倒すと、空薬莢を袋の中に入れていった。

 

 

 

 

 

 

その頃、シルヴァン川南岸。

ここは遥か昔からエルフィンド王国とオルクセン王国との国境地帯であり、河辺にはオルクセンの国境警備隊の駐屯地と見張り所が設置されていた。

 

「…ん?」

 

今日もエルフィンド側で何か異常が無いかをコボルト族の兵士が立哨をして見張っていた。河辺の上で見張り台に立っていた一人のオルクセンの国境警備隊は違和感を感じた。

今日は新月である為、川の様子を見ることは大変であったが、そんな中でもコボルト族の彼は川から聞こえる流水以外の音を聞いた。

 

「足音…?」

 

種族的に、耳の良いコボルト族であるが故にはっきりとその音を聞いた。

 

『急報!北岸より多数の足音を確認!!』

 

明らかに大人数が川の水を踏んで歩く音を聞き、コボルト兵は魔術通信を用いて警報を鳴らした。

 

「何だ!?」

「川を大人数が渡っているらしいぞ!」

 

急報を受け、駐屯地ではオーク族の兵士たちが飛び起きて銃を持って駐屯地を出ていく。

 

「エルフィンドの侵攻なのか!?」

「急げ!部隊は配置につけ!!」

 

国境警備隊は戦闘配備に移行して川に立って見張り所と連絡を取る。

 

「続報はどうなっている!」

「待て…なんか変だぞ?」

 

オークの指揮官が聞くと、監査をしていたコボルト兵は首を傾げた。

 

『気をつけて』

『流れが急だ。そこ、流されないで!』

 

聞こえてきた魔術通信にコボルト兵は困惑していると、オーク族の指揮官は歩いてきた集団に持っていた小銃を向けて叫んだ!

 

「止まれ!こちらはオルクセン王国の領土である!」

 

そして国境警備隊は包囲をすると、カンテレを照らして越境をしてきた者たちを見て絶句した。

 

「嘘だろ…」

「おい、怪我をしているぞ!」

「民間人じゃないか…!?」

 

彼らはそこで川を越えてきた黒エルフたちを見て驚愕をした。

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