白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#19 地下に潜る日Ⅶ

あの黒エルフ虐殺から一ヶ月ほどが経過した。

 

「入国理由は?」

 

その日、ノアトゥンの港に一隻のキャメロット船籍の機帆船が到着をした。

キャメロットと国交を持つエルフィンドは、唯一の外国船としてキャメロットの船を停めていた。そして貨客船から降りてきた乗客達は、そこで入国管理局の受付でパスポートを提出していた。

 

「観光の為です」

 

目の前で茶髪碧眼の女性はそう言うと、入国管理官の白エルフはパスポートに記された情報と目の前の女性の情報が一致し、同時に悪意が感じられないことを確認して判子を押した。

 

「ようこそ、エルフィンドへ。」

 

後が詰まっていたので流れ作業的に入国管理官は言うと、書類にサインをしていく。

 

「アイリーン・アドラーさん」

「ありがとうございます」

 

パスポートを返却され、ドレスに身を包んだ女性はそのままエルフィンドに入国を果たすと、その足で市内のホテルに入る。

ここは多くのキャメロット人などが住む外国人居住区であった。

 

「ふぅ、流石に疲れたわね…」

 

そしてその女性は帽子を外し、被っていたウィッグを外すと、その下から綺麗な金髪の髪を露わにした。金髪碧眼の人間族のような耳。

その合わせ技だけで彼女はエルフィンドの誰からもキャメロット人と疑われなかった。

 

「キャメロットと往復するとは…」

 

あの虐殺の後、彼女は西進してノグロストに着いた。

そこでキャメロットに向かう船乗り、一度ハンプシャーまで国を出た。

 

キャメロットにあるうちの商会と取引をしていたキャメロット人に会うために。

そこで暫くの間、以前のような取引ができなくなるかもしれないと言うと驚かれてしまったが、そこでオルクセンの新聞のスクラップを手渡して帰った。新聞を読んだキャメロット人は始めこそどう言うことだと困惑気味であったが、スクラップ記事を読んで目元を少し鋭くして理解した様子だった。

そして在庫だけでも欲しいといって大量に買い付けに来たことをこの後に事務所に向かって報告する。

 

「…」

 

そして次に彼女は街の掲示板に貼られていたある広告を見る。

 

『南部入植!南部は君達を待っているぞ!』

 

そんな謳い文句と共にエルフィンド政府より発行されていたこの広告。思わず焼き捨てたくなるが、あの黒エルフの放逐の時の自らの戒めとしてそれを手に取る。元々、この国にいるときに暮らしていたのはヘンナ達のいた村だ。なので私は家無き子を一二〇年ほど続けているわけだ。

 

黒エルフ放逐の噂はまだ北部にまで届いていない。政府はこの放逐に対し、初めは黙殺による封じ込めを行なっていた。

元々、白エルフと黒エルフの間には文化的・経済的な格差があり、今の女王陛下が黒エルフを登用し、その後に政府の手によって失脚・処刑までされたことでこの黒エルフの虐殺は始まった。

私のようなキャメロット人に化けた白エルフが林業で蒸気機関を持ち出し、今までの数倍の量の木材を提供していた。事実、商会宛に商工省より建材運搬の大量発注があったと聞いている。

 

「…」

 

どうか無事に生きていてくれと願いながら彼女はホテルで疲れを癒すと、翌日にはファルマリアに向かう急行に乗っていた。

 

 

 

 

 

その頃のファルマリア。

 

「分かりました」

 

フレンは渡された資料を読んで頷いた。

 

「建築用木材や焼成レンガ、他にも多くの建材が必要になる」

 

反対に座っていたのは商工省の役人。国を上げて行われる南部の開拓のためにティリオン近郊や国中小作人や浮浪者達が南部への移住を始めていた。

 

「南部で手広く行なっていたステン商会にも協力して欲しい。これは商工大臣、内務大臣からも所望されている」

 

美しい容姿に有力氏族の出、中央の連中が上に立つために必要な項目だ。

商工省のファルマリア支局に呼び出されたフレンは、そこで国からの大量発注を受けていた。

 

始まりは放逐が始まった頃、黒エルフを次々と襲ったことにより、フレンは商工省に乗り込んで『うちの利益がなくなったぞ!どうしてくれるんだ!?』と叫んだところ、代替として国は黒エルフの村に送る材料を発注したのだ。

 

「これで暫くは持つだろうか?」

「従業員を困らせずに済みそうです」

 

フレンの代で運送業者として南部で発展を見せたステン商会。その中身は多くの部門に分かれており、技術者も多く抱えていた。

 

「(試されているわけですか…)」

 

その時、中央から派遣されてきたと言うこの新しい役人を見てすぐに彼女は察した。

以前より黒エルフとの取引をほぼ独占してきていた我が商会はその影響力を南部の国境地帯に広げていた。その為、今回の放逐でステン商会は国家に対して反抗的な態度を取るので無いのかと危惧しているのだろう。

 

 

ーーだが問題ない。

 

 

フレンは資料を受け取ると、そのまま支局を出て止めてあった馬に乗り込む。

 

「(流石ですよ。商会長)」

 

予め対策を打っていたことに内心で賞賛と感動と尊敬を思いながら彼女は商会に戻る道を歩く。

このファルマリアでは白エルフ族が多く住んでおり、エルフィンド海軍の軍港もある。無論のこと、これほどの街であるために多くの白エルフ族が暮らしている。

 

「技術者の派遣に村の復興資材…一度にこれだけの発注となると中々に大変ですね」

 

ファルマリアの他にも南部のいくつかの都市に事務所を構えており、北部にも進出を始めている昨今。おそらく、北部やティリオンに近い商会が進出を狙ってくるだろう。

 

「…ほかの商会長とも顔を合わせなければなりませんね」

 

これは白エルフ同士の戦いでもある。巨大な資本を持つ彼女らに対し、ここで戦っては勝ち目はない。幸いにも敵は同じであるため、仲間内からの協力を得られやすいだろう。

 

そして馬を商会の事務所の厩に止めると、後のことを部下に任せて事務所に入る。

 

「商会長」

「ん」

 

一番最初に事務所を構えたファルマリア。昔からずっとここで取引を続け、港湾部に倉庫を持って取り扱いの品物を増やし、キアステンの提案した商法でその取扱量を一気に増やしていた。

 

「商工省からは何と?」

「発注の依頼よ。多数の建材をかき集めて」

「分かりました」

「それから技術者も、林業を国はさせたいらしいから」

「腕利の筏師や技師を出すように言っておきます」

 

彼女達は従順に、素直に指示の通りに作業を始める。そこに私情は一切ない。

 

「(待っていてください。師匠)」

 

優秀である部下達に満足しながら、内心である人に思いを馳せていた。

 

 

 

かつて、私は奴隷であった。

半島中部の耕作地。その中の一つの農場で生まれ故郷の村から追い出された私は、あるコボルト族の雄に買われた。

 

そのコボルト族は私が枝を使って収穫量の計算をしていたのを見て弟子にしたいと言った。そしてその後に御者として私はそのコボルト族に弟子入りをして商業を学んだ。

そのコボルト夫妻の御者である事が私は自慢であった。誰が何と言おうと、私は市場を知り、流れを経験した。

 

『市場とは川の流れのように刻一刻と変化する。場を俯瞰することはすなわち詳細となる』

 

そのように教えられ、私は良くしてもらったそのコボルト夫妻の御者として長いこと付き従った。

 

しかしエルフィンドは彼らを放逐した。

徴税権を付与されていた彼らから権利を奪って、放逐を始めた。

 

無論、コボルトであった師匠夫妻もその対象となった。

私は必死で守りながら夫妻を南に逃した。当時、夫妻は子を身ごもっており、何としても生かせねばならないと決心した。

そんな中、南のとある黒エルフの村がコボルト達を逃していると言うのを聞いた。魔術通信で伝え聞いた話に私は飛び乗るようにその村に向かった。

 

そこでは筏を繋げた橋の上を走る多数のコボルト族や馬を使って渡る姿があった。そして黒エルフが脱出をしていくコボルト達をマスケット銃を持って守っていた。

 

奇妙な関係もあったものだと思っていると、そんな黒エルフに囲まれてより一層と白く見えた一人の女性を見た。

耳が無いので人間族がこんな所にいるのかと驚いたが、もっと驚いたのはその直後だ。何と彼女は魔術通信を使っていた。

後々に聞いてすんなりと白状をされたが、彼女は耳が無いが白エルフであると言った。それがキアステンとの出会いだった。

 

私はそこでコボルト族を、自分をここまで育ててくれた師匠を逃した。

その時、別れる際に師匠は私に計算尺を渡した。

 

『私からの餞別だ』

 

もう使わないだろうからと、師匠は渡してきた。

 

「…」

 

その時に渡された計算尺は今も持って使っている。

 

偉大な師匠との思い出を振り返るために。

彼らを追い出し、焼き討ちをした祖国の所業を忘れぬ為に。

 

「至急でほかの南部の商会長達と調整をしてちょうだい」

「分かりました」

 

長年熟成されてきた怒りは、ついに秘書も感じることさえない。

フレン・クレブスは感謝をしていた。それはおそらく、同じコボルト族と交友があり、友人や夫を奪われたほかの支店長達も同じだ。彼らは皆、一様にコボルト族放逐の後、路頭に迷いかけたところをキアステンに拾われた。

 

「(素晴らしい…実に素晴らしい環境だ)」

 

彼女の頭の中にはエルフィンドの地図が浮かぶ。

絶頂すら超える興奮と狂喜が彼女の頭の中で今後の方針を練っていく。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それは黒エルフの放逐が終わった直後のこと。

ステン商会の支店長全員が集まってキアステンの話を聞いていた。

 

「「「えっ!?」」」

 

そして彼女の口から発せられた言葉に全員が驚いた。

それは今後、旧黒エルフ居住地に住まうはずの白エルフに対し、政府から発注があった場合は全力で応えるようにしろ。と言うものであった。

 

「つまり…我々は虐殺を支持した連中の言う事を聞けと?」

 

少し震える手で一人の支店長が聞くと、キアステンは頷く。

 

「結論だけ言えばそうだ。だか聞いてほしい」

 

そして続けて自信が思いついた提案を支店長達にする。

 

「我々は以前より黒エルフと取引をしていた影響で別館からの監視をされる。或いはもうされているかもしれない」

 

彼女は言うと支店長達に緊張が走る。

確かに言われると黒エルフ放逐からまだ日も経っていないのにも関わらず、すでに一部の村には白エルフの移住者達が住み始めている。準備が良すぎたと言っていい。

 

「そこでだ、地下に潜るにしても表に必要な入り口が必要となる。我々は、彼女達から信頼を得る必要がある」

 

信用ではなく信頼。つまり相手から感情的にも、客観的にも好感を持たれる必要があった。少なくともそれをできる規模を我々は持っている。

 

「まずは商工省だ。役人に怒鳴り込むか泣きつけ。彼らとて同族が路頭に迷うことはさせないはずだ」

 

彼女はそう言うと支店長達に大まかな方針を伝える。

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