そ時は少し遡り、南部で過ごしていたアグネス達カワウ傭兵団は山間で野営をしていた。理由はここら辺で出てくる害獣達を撃つためでる。
「今日はよく当たりますね」
「ああ、なにせ狩る奴がいなくなっちまったんだからな」
そこで彼女達は丸々と太ったエルクを前にそう言う。
ここは黒エルフが放逐された事によってこう言った野生動物の天国が生まれていた。
「まあお陰で私たちは食うに困らないんだけど」
「さて、血抜きするぞ〜」
そう言って彼女達は狩った獲物の血抜き作業を始める。
彼女達は最近、南部の山岳部で狩猟を行って多数の肉を確保していた。彼らは乾燥肉や加工肉として保存食に加工して彼女達の重要な糧食となる。
『隊長、近くに集団が来ています』
すると彼女達に出力を極限まで絞った魔術通信が入った。偵察と付近の状況を監視していたシモーヌからの連絡であった。
「どう言うことだ?」
『分かりません。でも数百人は居そうな大集団です』
彼女はそこで木の上に登って状況を鮮明に答える。双眼鏡を使った視線の先では細い線のように街道を集団が歩いていた。
「黒エルフがいます。周りをエルフィンド軍が歩哨をしています」
『黒エルフ?生き残りがいたと言うのか?』
「ええ」
大木の枝の上に登って彼女は頷くと、アグネスは少し思考して直後に指示を出す。
『よし、状況を説明。総員、襲撃準備』
彼女が指示を出すと、血抜き中であった団員は驚く。
「え?じゃあこれどうするんです?」
「諦めろ」
「そんなぁっ!!」
弾丸を抜いて仕留めた獲物を放棄することとなり、彼女は絶句した。
「…」
そこでは馬車もなく、全員がただひたすらに歩かされ続けていた。
大人、子供、赤ん坊までもが氏族の生まれ関わらずに一緒くたに立って歩かされ続けていた。
周りには銃を持った白エルフが同行しており、一部は馬に乗っている。
この列から抜けだろうと逃げ出した者は即座に射殺され、その光景を二度も三度も見ていると次第にに彼女達は逃げる気力すら失われた。
「ヴヴ〜」
その時、軍用犬が何かに気がついて唸り声をあげて森に向かって鳴き始めた。
「おい、何をしている!」
「すみません!急に吠え始めて…」
馬に乗った士官に叱られ、彼女は手綱を引っ張って犬を黒エルフの集団に戻らせると、彼女達はまとまって移動をする。
向かう先はとある村。まだ後続もある為、すぐに移動をしなければならなかった。
「…」
その様子を木陰から見ていた一人がハンドサインを出すと、直後に森の中で銃を構えて発砲。
「っ!?」
白エルフの士官は驚愕する隙を与えられずに頭を撃たれ、馬から転げ落ちた。
「何!?」
「ひっ!」
突然の銃撃を前に彼女達は驚愕をして悲鳴を上げたり、逃げ出そうとした。
「逃げるな!射殺せよ!」
「でも闇が!」
「馬鹿者!」
逃亡を図った黒エルフに視線が向かった兵士を叱責すると、直後にその兵士は視線が右往左往していたところを胸に一発銃撃を受けた。
「くそっ!伝令!後続に伝えろ!襲撃だ!」
その直後、彼女は頭を撃たれた。
「命中」
枝の上で隠れていたシモーヌはエルフィンド軍の小銃を使って狙撃を行っていた。フォーリングブロック方式の小銃は、伏せ撃ちがしにくいという欠点があるが、このような高所であれば関係なかった。
レバーを倒し、鎖栓を解放すると中から空薬莢が熱々で出てくる。
そしてその薬莢を彼女は腰に下げたポーチに入れて新しい弾薬を弾薬盒から取り出して装填する。
そしてレバーを戻して再度引き金を引くと、発射された銃弾はまた新しい士官を狙撃する。彼女の桁違いに上達している狙撃の腕前は、キアステンから『士官を撃てと言う以外に言うことがない』と評価されるほどだった。
「撃て!白は一人も生きて返すな!」
アグネスはそこで檄を飛ばすと、森から白エルフを撃ちに団員達が出てきて射撃を行いながら黒エルフ達に顔を隠した状態で言う。
「貴女は…」
「こっちの森に、早く」
短く端的に伝えると、黒エルフ達は銃撃を行った方の森に逃げ始める。
『森を抜けたら、そのまま小川で止まれ』
魔術通信で彼女達は命令をされると、今までの白エルフ達への恐怖からほぼ全員が森と平原を分けていた小川の土手で止まる。
一時は仲間が助けに来てくれたのかと言う噂が流れて喜びそうになったが、顔にスカーフを巻いて出てきた者達に顔を青くさせた。
「白エルフ…」
「そんなっ…!」
彼女達は落胆した容姿で自分たちを救い出してくれると思っていた者達を見ていた。
その後、襲撃を行って逃亡をしたアグネス達。
「状況は?」
「馬鹿みたいに民間人を捕まえてしまいましたよ」
どうするんですか?と言う顔をする団員に、アグネスも少ししまったなぁと会う顔をした。
「何人いるか分かるか?」
「ざっと八〇〇人はいるんじゃ無いんですか?」
最終的には八八四名、黒エルフの放逐で生き残っていた黒エルフを保護した。
「どうするんですか?まだ人も物も足りていないのに…」
「南に送るしか無いだろう。話じゃあ、南に逃げた連中は生きているらしいしな」
アグネスはそう言うと、それを聞いていた黒エルフ達は驚きの様子を見せた。
この時、彼女達が救出をした黒エルフたち。なぜ彼女たちがこれほど大規模に移動をしていたのかは、この時の彼女たちは知る由もなかった。
この集団の行き先はレーラズと呼ばれる村。
後に『レーラズの森事件』と言われる凄惨な虐殺の為に移動をしていたのだ。
ファルマリア郊外では、時折銃声が響いていた。
「よーし!そこまでだ!」
掛け声に合わせて机の上に小銃が置かれる。撃っていたのは軍の主力小銃のメイフィールド・マルティニ小銃。
銃を撃っていたのは私服を着た白エルフ達であった。彼女たちはカワウ傭兵団の『一日徴兵』なる催しに参加した面々であった。
「薬莢を取り出して片付けろ!」
元軍人である傭兵団の団員が言うと、小銃のレバーを倒して空薬莢を排出して、それを足元の箱に放り込んでいく。
ファルマリアをはじめ、幾つかの街でも同様の催し物が開催されており、ライフルド・マスケットまでしか扱った事がない者や新しい銃器に興味のある物好きなどが参加していた。
内容は至って簡単で、午前中は今のエルフィンド軍の小銃の使い方を実演しながらその整備方法まで教え、午後は実射である。
「アグネスさん」
「ん?おお君か」
そんな中、少女は見覚えのある人に話しかけた。カワウ傭兵団の団長のアグネスだ。彼女も私を覚えていた様子で、挨拶をしてくれた。
「なんだ来ていたのか」
「はい。興味がありましたから」
「へぇ、花好きじゃなかったのか?」
「いえいえ、意外とこれでも多趣味なんですよ?」
私はそう答えると、そこで空薬莢を纏めて箱に放り込んでいく様を見る。
「アレは何をしてるんですか?」
「ん?ああ、陸軍から装備品を借りたからな。薬莢も終わったら全部返せって言われてんだ」
そう言い、今回の催しは陸軍が協力をしてくれていると言っていた。
まあこんなこと滅多な物好きか銃の扱い方に不安を覚えている人しか来ないんじゃ無いかって話だ。
「で、撃ちに来たんだろう?」
「はい。…まあヘレナ達には止められちゃったんですけどね」
「ふはははっ、悪い子だなぁ」
アグネスはそう言って私に笑うと、その後に私に銃の使い方を教えてくれると言った。
「よし、まずは銃の照準からだ。照星を合わせてあの赤い丸に向けろ」
「はい」
そこでアグネスは小銃の使い方を教えていく。
「これ、早く撃つための方法とかはあるんですか?」
私が聞くと、アグネスはそれを教えてくれた。
「銃を支える手の指で薬莢を持つことだな。まあ薬莢が太いから一本しか持たない」
こうやって、と言って彼女は見本で見せてくれた。一発撃って排莢、直後に握っていた薬莢を滑らかに押し込んで発砲。確かに早かった。
「元々、この型の銃の中でコイツは一番装填しやすい。だから早く撃てる」
「へぇ、じゃあ強いんですね」
「いや?コイツは伏せ撃ちができないから大きく体を見せて撃つことになる。まあ伏せ撃ちもできるが、ちと効率が悪いな」
彼女はそう言うと今度は伏せ撃ちで装填する方法を空薬莢を使って実演した。
足元で横になって一発発砲。直後に銃を逆さにしてレバーを倒して薬莢を出して装填。再び姿勢を戻して引き金を引いた。
「こんな感じだな」
「へぇ」
話を聞いていた随分と実践的な教え方だなと内心で思った。
今回、協力をしてくれたエルフィンド軍も、新しい銃器を経験した人員を増やせると言うことで協力的であったと言う。
「今日はありがとうございました」
「おう、困ったことがあったらまた言ってくれや」
夕方になってアグネスと別れると、少女は銃の使い方を思い出しながら街に戻る。
「銃を撃つときはこうで…」
一日徴兵と言ってはいたが、丸一日かかってしまうので村に帰るのは明日になる。その為彼女はファルマリアで一泊する予定であった。
ここから見えるファルマリア港は海軍の軍港もある為、遠くには海軍最新のリョースタ型が二隻止まっていた。
「珍しいなあ…」
そこで彼女は巨大な装甲艦が二隻もいることに軽く感嘆しながら街に戻る。
ファルマリアはここは辺では最も大きな街である為、必然と人や物も多くある。前に肉類の調達をしたときはその価格にひっくり返りそうになったが、国からの支援と南から送られてきた肉類が入るようになって値段も下がっていた。
「南…」
彼女はそこで街の民宿に泊まると、そこで瞼の裏にあの燃え盛っている黒エルフの村々が過ぎる。
「…」
その時、彼女はひたすらに今日持った小銃があったらどうしていたのかを想像する。
火をつける直前に松明を持った奴を撃って、次に教えてもらったあの速い装填方法で素早く撃つ。
あの時できなかった後悔を、想像で補完することで怒りの溜飲を下げようとしていた。
「…ダメだ、寝れない」
しかし今日の事で興奮をしていたのか、彼女は他にも寝ている白エルフ達を起こさないように民泊を出て外の空気を吸う。
「ふぅ…」
気分転換も兼ねて外に出てみたが、時間が時間の為にかなり人気は無い。
軍艦も出ていくことはないのでとても静かな物だった。
「…?」
そんな時、ふと彼女は街の中を歩いていた数人の人を見た。