白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#24 地下に潜る日Ⅻ

「薬莢…」

 

ファルマリアの海岸沿いで私はブツブツと呟いて言葉を並べる。

方から見れば奇怪に思われるだろうが、そんなことをお構いなしに彼女はそのとっかかりから推理をしていく。気分は推理小説に出てくる探偵だ。

 

「魔術…」

 

小声で彼女はブツブツと呟くと、彼女の中で何かが分かった気がした。

 

数日前、深夜のファルマリアを出歩いていたアグネス達。彼女達は港の倉庫街に移動をして、そこである倉庫の前に立ち止まった。

アグネス達は昼間は傭兵団で一日徴兵という奇妙な催しをして最近の銃器の扱いについての講義をしており、退役軍人が舌を巻くほど実践的な内容であるというほどの講義をしている。

 

「使用済…」

 

そして空薬莢はすべて陸軍に返却を要請され、その空薬莢の中に混ざっていた古い空薬莢。一日徴兵が始まる前に使われたと見て間違い無いだろう。

 

「(なんでアグネスさん達はそんな薬莢を混ぜたんだろう?)」

 

新品のと混ぜて隠すようにその薬莢はあったため、彼女はカワウ傭兵団が混ぜ込んだのだろうと推察をしていた。

少なくとも今の正式小銃とアグネス達が持っていた旧式の小銃は違う弾薬だ。前にもその銃を持っていたことから確信している。あの旧式小銃は何度か触らせて貰ったことがあるが、ボトルネックと呼ばれる形状をしている弾薬では無いため、見間違えるはずがなかった。

であるなら、あの薬莢はどこで手にれたのか?

 

「…黒エルフ」

 

その時、彼女の口から呟かれた一つの単語が自然と漏れた。

親友が焼き殺された時、火をつけた兵士が持っていた銃もエルフィンド軍正式小銃(メイフィールド・マルティニ)だ。

黒エルフ放逐の際にエルフィンド軍はあの小銃を歌って黒エルフを撃ち殺していた。

 

「っ…!」

 

そしてやけに手慣れた手つきで動かしていたアグネス。最新の小銃であるにも関わらず、トラップドア式の小銃を扱っていた彼女は操作に困った様子もなく、伏せ撃ちの技術まで体得していた。

 

「っ!!」

 

それの意味するところは、彼女達は以前にその小銃を使ったことがあるということだ。

 

「…そうか」

 

そういうことか!

 

彼女は理解した。アグネス達は以前にあの小銃を使ったことがあるのだ。

そんなエルフィンドが正式採用した最新の銃を、旧式装備を使っていた傭兵団が使い方を知っているなんて可笑しい。

 

「…行かないと」

 

そしてすぐに彼女は動いた。確かめにいくためにも。

そんな最新の主力小銃の扱い方を使えた状況なんて一つしかない。

 

 

ーー黒エルフ族の放逐。

 

 

小銃を満足に扱うために必要なのは経験であることは自分が最も知っている。

そしてフォーリングブロック方式の小銃の欠点まで彼女達は把握していた。つまりはその方法で使ったことがあるということの表れだ。

 

「だから、薬莢を混ぜ込んだんだ…」

 

彼女は確信した。カワウ傭兵団が古い薬莢を混ぜたのは隠すため。ではなぜ隠したのか?

空薬莢を増やすということは、その分だけ新品の弾薬が溢れることになる。

 

ーーそしてその新品の弾薬をくすねた。

 

弾薬をくすねるなんて泥棒行為をする理由なんて一つしかない。

私は少し駆け足になってあの倉庫街に向かう。場所はアグネス達が入ったかもしれないあの倉庫。

 

「…」

 

すっかり日も暮れて白エルフ達は夕食の時間帯であるが、お構いなしに彼女は倉庫の前に立った。

その倉庫は倉庫街の中でも古い施設で、近々取り壊して新しい倉庫を立てると言われている木造の古い倉庫だ。

 

私はそこで倉庫に入るために近くで入れる所はないかと辺りを走って確認すると、角を三つ回ったあたりで倉庫に入れるドアがあった。

そのドアは港に運ばれてきた荷物を入れるためにこの時間帯でも開けられており、簡単に入ることができた。

そこで私は静かに、足音を立てないように倉庫に入って中を見る。灯りの類は一切なく、天窓からの月明かりが頼りで魔術を用いて視界を確保する。

 

「…」

 

少し警戒をして倉庫の中を進むと、中には多数の木造のボートが逆さまに並べられていた。

新品なのだろう、木の匂いが充満した倉庫を静かに進んでいると、

 

「っ!」

 

彼女の背後に気配を判じて振り返ろうとしたが、そうなる前に後頭部に冷たくて硬いものが押し当てられた。

 

「静かにしろ」

「…」

「両手を上げろ」

 

そして私は指示された通りに両手を高く上に上げると、直後にため息の声が聞こえた。

 

「はぁ…まさかここまで来るとはね」

「…」

 

その声は覚えがあった。昼間に薬莢の片付けをしていた団員の声だ。

 

「団長、予想通りでしたよ」

「そうか」

 

するとその団員が拳銃を仕舞いながら常闇に話しかけると、直後にランタンの灯りが灯された。倉庫は明るいデービー灯に照らされ、その奥から椅子に座っていたアグネスが顔を出した。

 

「…やっぱり」

「その顔じゃあ、分かっちまったってことだな」

 

アグネスは私にそう言ってから笑うと、倉庫に向けて話した。

 

「おい、監視はいないか?」

「ええ、人影一つありませんよ」

 

そう言い、倉庫の梁の上で外を監視していた白エルフが答えると、彼女はそこで他にも多くの白エルフが隠れていたことを認識した。

 

「あっ!」

 

その中で私は思わず声を漏らした。

 

「ヘレナ!」

「イヴリン…」

 

出てきた白エルフの中には村で出稼ぎに行ったはずの子達がいたのだ。

 

「なんでここに!?南に行ったんじゃないの?」

「これはこっちのセリフだよ…」

 

困った顔をしている幼馴染にアグネスは笑って言った。

 

「だから言ったろ?絶対分かって来るって」

「いや…まあ、そうでしたけど…」

 

幼馴染はアグネスに言うと、私は全てを理解した。

 

「ちょっと、私を置いていくつもりだったの?」

「いや、それは…イデデデ」

 

私はとりあえず幼馴染の頬を抓った。

 

「どうせアンネ達を逃すためにアグネスさん達に頼んだんでしょ!?」

「…」

「はははっ!そこまで推察されるとはね」

 

図星で黙り込んでしまった幼馴染にアグネスは大笑いをした。

出稼ぎに行くと言って村を出て行った彼女達は、そこでそのまま南に行かずにこの傭兵団に入ってアンネ達を逃すために動いていたのだ。

そしてそんな私たちのやりとりを見た後、アグネスはゆっくりとした口調で、鋭い視線で私に聞いてきた。

 

「さて、事情は聞いている。もう分かるだろうが、我々のやることはまともな人間のすることではない」

「…」

 

黒エルフ放逐。

その際に白エルフ内で黒エルフと交流があったような面々が、放逐を行った政府に対して抗議や反抗を行う。その為にこの国に反抗を起こす。

 

「君に護符を焼き捨てる覚悟はあるか?」

 

アグネスのその問いに私は自分の護符を手に強く握って怒りに震えた声で返す。

 

「私は…親友を焼き殺したような奴と同じ目で見られるのまっぴらごめんです」

 

あの日、炎に包まれて泣き叫んだ親友。

泣き叫んでも助けられなかった後悔。

親友を焼き殺した白エルフの士官への憎悪。

 

それを改めて彼女は噛み締める。

 

「私は、生まれ変われないでしょうね」

「それは我々とて同じだ」

 

アグネスは静かに頷くと、ゆっくりと立ち上がって彼女に言う。

 

「よろしい、ではまず小銃の撃ち方を教える。ついてこい」

「わかりました」

 

彼女はそこで道を自分の意思で踏み外すことを選択した。

 

「ちなみに、なんでこの倉庫を一発で見つけたんだ?」

「アグネスさんの酒と煙草の匂いでわかりますよ」

「…」

 

私は即答をすると、直後にアグネスは目を見開いて絶句をして、この日から酒と煙草を自主的に控えるようになった。

 

 

 

 

 

こうした地下組織はカワウ傭兵団を中心に、他にも一日徴兵によってこの意図に勘づいた他の面々が密かに接触を図ってきた。

その全員が黒エルフと交友があり、親友や恩師などを殺害された者達であった。

その見定めをアグネス達は完璧にこなし、秘密警察さえ気が付かない南部の地下のネットワークが構築されようとしていた。

 

秘密警察(別館)の動きは?」

「ありません。警戒している所作はありますが、捕縛に向けた動きはありません」

 

ファルマリアのステン商会の事務所にてキアステンの問いにフレンが答えた。すでに彼女達は警察も買収しており、一番の成果だと、驚くべきことに秘密警察の南部管区担当の副長官と繋がりを持っていた。

カワウ傭兵団への秘密裏の反政府組織への加入の話はアグネスを経由してフレンも聞かされていた。

 

「そして木炭工場も加わったことで、必然的に火薬工場への納入も必要になりましたよ」

「おお、吉報ね」

 

国内にある王立造兵廠や弾薬工場への接触が可能になると知り、キアステンは笑みを浮かべた。

銃や大砲の装薬に使われている黒色火薬の原料は木炭・硫黄・硝石である。より良質な木炭を提供できる我々は、必然的に火薬工場にもその納入先が挙げられている。最近では政府より不完全炭化木炭の製造を受注し、五〇〇キロの納入を終えたところであった。おそらくは褐色火薬を製造する為であると容易に推察できた。

 

「でもこんなに短期間で拡大なんてよくできたわね」

「前々から輸送分野以外の産業にも手を伸ばそうと考えていました。黒エルフ放逐は我々にとって反抗の始まりでもあり、事業拡大の始まりでもあるということです」

 

フレンは商会長としてかけていた黒眼鏡をかけ直す。

 

「おかげで南部の林業、特に材木加工や木炭製造は我々の独占と言って差し支えありません」

「すげぇや」

 

純粋に黒エルフの放逐からの短期間でここまで拡大をさせたフレンの腕前に舌を巻く。

南部の商人達に北部への恐怖を植え込み、スクラムを組ませて連帯感を表し、南部と北部で経済的な境目を知らぬ間に形成する。見えない壁の完成である。

 

「南部の有力氏族も巻き込みました。北部の商会も地方税を絞られて歯噛みをしていることでしょう」

「こんなに美味しい話はないわね」

 

キアステンは笑うと、フレンもそれは愉快に笑う。

 

「ええ、なんとも素晴らしいことです。南部の移住者達がセコセコ働けば我々はより儲かるのですから」

「そして活動源になる」

「これほど滑稽なこともないでしょう!実に素晴らしい!!」

 

南部の産業基幹となりつつあるシルヴァン側流域の森林を利用した林業。エルフ達にとって聖地でもあったその地域だが、昔から黒エルフ達が木を切り倒して木材を納入していたこともあり、その労働力には事欠かない。

 

「それで、どうですか保護をした黒エルフ達の方は?」

「ええ、順調よ」

 

フレンの懸念にキアステンは問題ないと言って余裕のある声で答える。

 

「ベラファラス湾内は比較的波が平穏だから。できれば雪解け水が流れる春前には実行するわ」

「わかりました。最近は秘密警察もかなり南部に出てきているのでお気をつけください」

「ええ、仲間も増えたから気をつけないとね」

 

キアステンは頷くと、立ち上がって商会を後にした。

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