白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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今回から溜まっている限り〇時と十二時に投稿をします。


#25 追放者達Ⅰ

黒エルフ放逐に際し、南部の経済状況は大きく変化することをあらかじめエルフィンド政府は理解していた。

そのために、入職を果たした白エルフ達による生産が安定するまでの間、南に物資を送る政策を行っていた。

前にとある白エルフがファルマリアで見た光景がそれである。

 

 

 

「…」

 

その日、エルフィンド内務省警察局治安維持本部長官、ブレンウェルはある報告書を見ていた。

 

ーー第一次移送集団襲撃に関する報告書。

 

それは南部にて拘束した黒エルフ族の集団が、移送中に何者かに襲撃をされて護衛が全滅をしたものであった。

 

「全滅か…」

 

どういうことだと思っていたが、急報を受けて後続部隊が駆けつけた時には一人も生きた黒エルフがおらず、白エルフの死体ばかりが並んでいたという。

 

「叛逆か…逃亡か…」

 

警護につけた部隊は確かに装備は弱小であった。なので集団で反乱を起こされては対応できなかったのかもしれない。しかしそれにしたって黒エルフの死体の数が異様に少なかった。

報告書には白エルフによる襲撃の可能性や、死体から出てきた銃弾が我が軍のものと同じ弾薬であることなども記されていた。

 

「八〇〇名以上の黒エルフはいまだに発見されていません」

「引き続き捜索を続けろ。これほどの人数だ、見つけた瞬間に情報を吐かせろ」

「はっ」

 

敬礼をして副官は執務室を後にする。

そして再び静かになった部屋で彼女は襲撃を受けて消えた黒エルフ達の居場所に疑問を覚える。

 

「南部は連中が暮らしていた場所…隠れる場所も承知しているわけか」

 

地の利は向こうにあり、後々から入植をした白エルフ達は事情を知らない。その為、隠れることが可能な土地なども知っているのだろう。

 

「しかし尻尾は出るはずだ」

 

何せ八〇〇名以上の人数だ。この規模の人数をあの狭い土地で隠すには限界がある。何、黒エルフは捕まえることができるだろう。そう想定して彼女は次にまた別の報告書を読む。それは南部の経済状況に関する報告書だ。

 

「南部の商会は連帯を組んで抵抗か…」

 

少し苦虫を潰した様子で彼女は現在、スクラムを組んで北からの攻撃を凌いでいる南部の商人達の報告書を読む。

当初の目論見では、北部や中央の商会を用いて秘密警察による監視網の強化を行う予定であった。しかし南部の商人達は自分たちの明日を守る目的で有力氏族なども巻き込んでこれに対処していた。

南部の有力氏族は商会に借金をしている者も多く、反抗することはほぼ無かったことだろう。

 

「音頭を取ったのは…ステン商会というのか…」

 

そこで挙げられた報告書の中には、南部の運送業者の名前があった。放逐前には黒エルフとの取引や運送代行を主に行っていた商社であることも記されており、秘密警察の中では要注意対象であった。

キャメロット人が現地の白エルフを雇って設立し、すぐに今の会長に譲ったと記されていた。

 

「…政府の命令には従順。至って不審な点は見当たらないか」

 

彼女は挙げられた報告書を前に軽く鼻で笑った。

 

「所詮、商人は金か…」

 

そこに教義も憎悪もない。ただ唯一の真理として金は嘘をつかないということだった。

 

ステン商会は最初に商工省の役人に泣きついて、当時の政策でもあったことから優先的に入植者へ提供する村々への建材搬入の発注を行い、その直後に次々と林業関係企業を傘下に収めていった。おそらくこの発注をちらつかせて買収したのだろう。

そしてその後に南部の林業をほぼ独占し、南部の火薬廠に木炭の納入を行った。

 

「まあその方が良い。我々とて監視対象を増やすリソースは限られている」

 

特に現在、北部を中心に反教義主義者への弾圧を開始しているところだ。

現政権による教義の神格化は、盤石な政治体制や独裁政権の樹立になると密かに抵抗を行おうとする非主流派思想集団や現エルフィンド首相、ドウラグエル・ダリンウェンへの反対派の議員などが危惧することであり、彼らは革命すら起こしかけないと囁かれていた。

 

 

現在はそちらの方に注力したかった。

 

 

南部でのこの襲撃に関してだが、同地ではとある退役軍人で構成された傭兵団が『一日徴兵』なる武器の講習会を陸軍に提案し、ネヴラスやファルマリアを中心に、南部で同様の催しが開催されているという。

この動きにブレンウェルは多少の警戒のために陸軍に対し、使用した薬莢は全て返却するように指示を出した。

 

「弾薬をくすねられて我々に撃たれても困るからな」

 

念の為、国内での銃の所持に関する法律の改訂もしなければな、と脳内のToDoリストに追加で書き連ねる。

先ほどの報告書の中にあった白エルフによる襲撃。無いわけではないので、国内にいる傭兵団全てに監視のために潜り込ませていた。

 

言っておくと、彼女はあくまでも内務省の人間である。そのような役人が陸軍省や法務省に頭越しで口出しができる時点で、この組織の異常さがわかる話だ。明らかに越権行為とも取れるこの権力に、現在のエルフィンド政府の複雑な支配体制が垣間見えるだろう。

 

連中(黒エルフ)はオークの尻を舐めたと聞いたな」

 

彼女はそこで川の南の国であるオルクセン王国に脱出した黒エルフが、首都近郊に移り住んだキャメロット語に翻訳された新聞を思い出す。

すでにこの事はキャメロットでも噂となっており、大使館からも懸念の通卓があった。この懸念に対し政府は沈黙した。

 

元々キャメロット以外にまともな国交がない国である。このような黒エルフ放逐に関する情報は『聞いていないから分からない』と答えることができた。

 

現在、とにかく政府は南部の食料品の価格下落のために注力をしており、生産が安定するまでの間に乳製品や肉類の輸送を行っているが、どちらも鮮度が大切であり、価格が安定するまでに二ヶ月は掛かると試算されていた。

 

「二ヶ月で終わるのか。優秀だな…」

 

彼女はそこでたった二ヶ月でそうした酪農・放牧による生産が安定してくるのかと感心した。やはり、我が民族は優れているらしい。

そして次の資料を見て、脳内で警戒対象を選定していく。

 

「南部の抵抗勢力…か」

 

ブレンウェルは現在の国内に潜む警戒すべき敵の中に南部の黒エルフを解放しようとする勢力があることに少しばかり警戒を示した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「分かりました」

 

その時、報告を受け取ったフレンは短く頷いた。現在、商会長として急拡大をしたステン商会の中にあって彼女は報告書を受け取った。

 

「中部と北部氏族は分かりやすいですね。まあ今の政権で軍権を奪われた氏族も多いですから、かなり恨みを買っていますよ」

 

彼女に直接報告がしたいと言って面白い土産話を聞いていたのだが、確かにこれほど滑稽で痛快な事はない。

 

「取り敢えず向こうの要望もあってクィドで支払いをしておきました。キャメロットの紙幣ですからまあ追跡は困難かと。意外と連中、頭回るんですね」

「ええ、曲がりなりにもあの独裁政権で生き残れる舌はありますからね。それで、帰りに密告は行いましたか?」

「無論です」

 

彼女は北部の反政府勢力に対し、相場の四倍ほどの価格で乾燥野菜や焼成レンガ、鋼材を購入していた。その分の余剰資金で彼女達は武器を仕入れていた。

 

「高値で買わざるを得なかったと言ったら色を変えて長官は話を聞いてきましたよ」

 

部下はそう言ってケラケラと笑うと、フレンも思わずに笑みが溢れてしまう。

 

「まあ精々仲間内で殺し合いをしてもらいましょう」

「ええ、それがとても楽しみです」

 

部下も数日後の新聞が楽しみだと言ってその日が来る事を待っていた。

 

 

 

 

 

その頃、北部のとある都市。

 

「もはやダリンウェン政権は無能だ!」

 

地下の薄暗い空間で一人の白エルフが怒鳴った。

 

「奴は教義のためと言って我々の政策に見向きもしない」

「教義の神格化はヤツの思う壺だ。我々はこれに対抗しなければならない」

 

そう唱えるのはエルフィンド政府において現政権への不満を持つ代議員達だ。国内の各氏族から選ばれてティリオンにて席を並べる彼女らは不満を連ねていた。

 

「左様。準備は整えております」

 

そこで一人がニヤリと笑って彼女達は地下に並べられた武器と兵士を並べる。

 

「我々はダリンウェン政権に対し、行動を起こします」

「うむ。我々に必要なのは教義の神格化ではなく、国民全員での食糧生産である事を知らしめなければならん」

「ええ、そして我々が作ったものを政府が平等に分けなければならない」

 

初期の共産主義思想に近いだろう。彼女達は少し前にキャメロットにて、オルクセン王国のとあるオーク族が出版した書物に深い感銘を受けていた。

 

 

ーーその書物の名を『資本論』と言う。

 

 

オークがこんな立派な思想を持つとは驚愕である。と最初は褒めたものである。豚共でもこのような本が書けるのだなと。

 

「このオークは賢いらしい」

「ふん、豚共の考えと我々の考えが合わさるのは癪だな」

 

白エルフが鼻白んで言うと、ドアを開けて一人の白エルフが駆け込んできた。

 

「ぎ、議員!」

「何だ?」

 

直後、外から銃声がした。

 

「秘密警察だ!」

 

誰かが叫んだ。

 

「くそっ、どうしてここが!?」

「チッ、撃ち返せ!秘密警察など恐るるに足らん!」

 

首都ティリオンの湖畔の港にて秘密警察は首都駐留の部隊に革命勢力の排除を命令。すぐに銃撃戦へと発展した。

 

「奴らは反教主義者だ!慈悲はいらん!皆殺しにしろ!」

 

指揮をするのは首都に駐留する陸軍部隊。近衛部隊である黄金樹(マルローリエン)旅団はこの戦闘に参加をしていないが、その苛烈な攻撃は彼女達の耳にも届いていた。

 

「馬鹿者、やり過ぎだ!」

 

同旅団長、アノールリアン・イヴァメネル陸軍中将は司令部で机を叩いた。そもそも内務省直轄の組織が陸軍省に頭越しに指示を出している時点で十分な越権行為である事は誰の目にも明らかだ。

 

そして港湾地区での戦闘により、革命を主導した代議員達は拘束をされ、秘密警察が持つ収容所へと送られた。

 

 

 

 

 

なお、この時押収をされた武器や弾薬は後日、処分前に運送をしていた馬車が事故で川に落ちて喪失をした。

 

「よくこんな武器を仕入れたわね」

「ええ、元々は我々の金で買われた武器ですから」

 

そして喪失をした武器を見て眼鏡をかけた白エルフと、とある歳を取らないキャメロット人は苦笑しながら大量の武器と弾薬を見ていた。

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