白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#26 追放者達Ⅱ

直ぐにもいなくなっちゃいそうな子だった。

 

私ならまず彼女のことをそう評価する。

 

金髪碧眼で、不健康的な白い肌で、目は霞んでいた。

初めは綺麗な壁だった場所も今や立派な二子山になっていて…。

 

ああいや、今は良いか。羨ましくてたまに突いてその張りのある弾力に自爆して悲しくなるだけだから。

 

兎も角、その白エルフの子は耳が無いので顔を見なくても直ぐに分かる。

ロザリンド会戦で初めて出会ったのが最初で、その時から彼女は同じ同族から差別をされていた。そりゃそうだ。今になって分かるが、彼女達は完璧な種族であることを意識している。

そしてエルフをエルフたらしめている外見がこの大きく尖った耳だ。それが無いのなら最早人と何ら変わらないのだ。

そんな同族嫌悪をされていた彼女を見て、私は何処となく目が離せなくなって彼女に村までの道を教えた。

 

そしてあの一二〇年ほど前のロザリンド会戦の後、彼女は私の村に来てくれた。その時、薄々感じてはいたけど、彼女は文字が読めない中で人に聞いてまで私の村に来てくれたのだ。それを聞いて私は『意外と活力のある子なんだな』と思った。

年齢も私とほぼ同じで、氏族を追放される形で村に来たのだと私は察し、氏族長に頼み込んで彼女を村に留めさせた。初めは何度も村を後にしようとしていたので引き止めるのが大変だったが、彼女も次第に諦めて村に留まるようになってくれた。

 

そして私達に狩猟以外の仕事を教えてくれた。

 

彼女は農奴であったことから畑弄りにさほど抵抗がなかった。

彼女は初めは私の家の裏庭で、次第に村の外の沼地を開拓するようになった。

 

干拓と呼ばれる方法で川沿いに石材を積んで堤防を作って、風車を作って水を抜いていくのだ。こうする事で水を抜いて新しく土地を作る。

川の近くであるため、水が溜まらないように常に水を排出する必要があり、畑の区画ごとに畦を作り、水を溜めて風車で自動的に排水をする。山脈から吹いてきた風が沼地を干拓して畑を作ったのだ。風車は彼女がアルビニーを旅した時に見たと言う風車の設計図を持ち込んでおり、風向きに合わせて羽を調整可能だった。

もしあの放逐がなければ、村の東側の干拓も始める予定であった。

 

「聞けば聞くほど、すごい白エルフだな」

 

話を聞いていた黒エルフが苦笑気味に私を見る。

 

「本当にね。まあ元々色々生まれがアレだから、拗れちゃってるのは否定しないけど…」

 

耳のない白エルフによる差別云々は、言うとまた彼女達の白エルフの憎悪をかか立てることになるので言わなかった。

場所はオルクセン首都郊外のヴァルダーベルク。黒エルフ居住地とも言われる、ベレリアから放逐された黒エルフが住む場所である。

 

「彼女は色々とすごいよ」

 

私はそう言い、小銃を傾けて焚き火を見つめる。

現在、ダークエルフ旅団…後にアンファウグリア旅団と呼ばれる部隊に志願して入隊をしたヘンナは、そこでオルクセン軍の教練を受けていた。

 

「白エルフにもそんな奴がいるんだ」

「元々同族からも追放されてた子だからね」

 

同じ部隊に配属された子が理解を示した様子で頷く。

 

「干拓した土地も大豆とかクローバーを植えてたりしたし、まあお陰で私たちは結構食べるものはあったりしたの」

「何でクローバー?」

「なんか窒素固定?って言うのをやって土地の改善をするとか何とか」

「ふーん…」

 

何のこっちゃと言った様子で首を傾げていた仲間は、そこで火酒を傾ける。

 

「すまない。その話、詳しく聞かせてもらっても良いか?」

 

そんな時、私は話しかけられ、その姿を見たヘンナや他の仲間は思わず驚いた。

 

「旅団長!?」

「け、敬礼!」

 

そこで慌てて立ち上がって旅団長、ディネルース・アンダリエル少佐にエルフィンド式の敬礼をした。

 

「悪いな。ヘンナ・アナセン少尉」

「い、いえ!」

 

彼女はヘンナを見ると、改めて聞いてきた。

 

「その白エルフの話をもう少し聞かせてくれ」

「は、はい!!」

 

ヘンナは少し辿々しくしてディネルースの質問に答えた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「干拓を進めた白エルフか…」

「興味がある話だとは思わないか?」

 

食事を摂りながらディネルースは反対に座る大柄なオーク、グスタフ・ファルケンハインに話す。

 

「ああ、さぞかし優秀な白エルフなのだろうな」

「開拓をした時にクローバーと大豆を植えたのはなぜだ?」

 

彼女の問いにグスタフは答える。

 

「それは今の話にもあったが、窒素固定と呼ばれる土壌改善をするためだろう。大豆は土が悪くても育つことができ、沼地を開拓した後に食料を直ぐに育てることができる」

「窒素固定とは?」

「土壌改善をするための作業だ。今言った二つ植物が有名だが、マメ科の植物で確認がされている」

 

農業学の第一人者でもある彼はそこでディネルースに話す。

 

「作物を育てる上で必要な要素として、窒素・リン酸・カリウムが必要になってくる。その二つの植物は、そうした開拓を行った土地を耕作地にするのによく使われてきたものだな」

「その白エルフはクローバーを育てている間に養蜂もさせたという話だ」

「なるほど。賢いやり方でもあるな」

 

しかし生活を補うには少し足りないだろうと予想した。おそらくは個人的な趣味からくるものなのだろう。

 

「その白エルフは耳が無いことで私もピンときた。シルヴァン川で黒エルフに林業させたキャメロット人がいると言われていたからな」

「なぜキャメロット人?」

 

純粋に疑問を感じたグスタフの時に彼女は答える。

 

「何十年も経って見た目が変わらない人間族がいると思うか?」

「…なるほど」

 

道理だとグスタフは納得する。既に恋仲として夜も過ごした事もある二人は気軽に話せる仲であった。

 

「その噂のキャメロット人は、私たちの間では最早公然の秘密と言って良かった。同族から追放をされ、身寄りのないところを東部下流域の村で暮らした」

 

ディネルースはそこでその耳のない白エルフの話をする。

 

「彼女はシルヴァン川の手付かずの森を見て木を切って川に流すようになった」

「…あの川は急流ではないのか?」

「だから上手い奴が筏を操作して下流まで運ぶんだ。私たちは筏師とか言っていた」

「木材流送か…」

 

そこでグスタフの脳裏には、自分の中身を作った男のいた場所での光景が浮かんだ。たしか観光名所にあったような気がした。

 

「東部の下流域で多くの同族が逃げられたのも彼女達がいたからだ。筏を繋げて浮き橋にした」

「…」

 

聞いたことがある話だった。それは嘗て、コボルト族が放逐をされた時のことだ。噂ではそこでも耳のない白エルフに関連しそうな話がある。

 

「耳のない白エルフか…」

「知っているのか?」

「ああ、ドワーフもコボルトの時も似たような話がある。エルフィンドには人間族の兵士がいるというのと、キャメロット人が魔術通信をしていたという話だ」

 

グスタフの話にディネルースはそんな話があるのかを軽く目を丸くしつつも、コボルト族には心当たりがあった。

 

「その部下はコボルト族を昔、川の向こうに逃したことがあるそうだ」

「…」

 

であるなら、その耳のない白エルフと言うのは、キャメロット人やら色々と言われている人物であるだろう。

 

「東部の連中は、白エルフに守られながら逃げてきたと言う」

「白エルフが?」

「ああ、ヴァルダーベルクの町長が言っているから間違いない」

 

その東部下流域から逃げ出してきた氏族の中でも最も経済規模が大きかった村の氏族長。それが今のヴァルダーベルクの行政を担っている町長である。

 

「キアステン・ラーセン。彼女の名前はそう言うらしい」

「キアステン…」

 

グスタフはその名を反芻してその者がどのような人物なのかを想像する。

 

「沼地の風車を使った干拓。クローバーや大豆の耕作」

「ついでに言うと、彼女は私達についてこずに国に残ったそうだ」

「そうだろうな。君たち黒エルフを放逐したのは他でもない白エルフだ」

 

きっと、居場所なんてできるわけがないと彼女達もわかっていたのだろう。

黒エルフを放逐した白エルフ。その光景をまざまざと見せつけられた私たちは、もはや白エルフは『敵』として見ている。

 

故郷を『奪われた』者と違い、彼女達は故郷を『捨てる』のだ。南に逃げると言ってもまるで意味合いが変わってしまう。それをディルネースはヴァルダーベルクや、アンファウグリア旅団の訓練を見て分かっていたし、自分だってそうだ。

 

「…彼女達は今も戦っているわけだ」

 

それを分かっているからこそ、この放逐からより多くの黒エルフを救い出してくれたその者達をグスタフは最大の敬意を表し、もし出来るのであればオルクセンの民として迎え入れたかった。

 

「彼女は仲間の傭兵団と共に国に残った。傭兵団の名前は、残念ながら分かっていない」

「…分かっていないだと?」

「ああ、聞いた時に彼女と同じ村の者や、彼女を知っている者達は全員がハッとなっていた。『そういえば名前を聞いたことがない』と」

「…そうか」

 

その話を聞き、グスタフはそのキアステンという白エルフの異常なまでの警戒心に舌を巻いた。

 

「(おそらく、誰にも悟らせないためだろう)」

 

それほど昔から彼女は準備を進めていたということになる。目的はまだ情報が少ないので定かではないが、そのキアステンという白エルフは国に残っておそらくは残った黒エルフの捜索と救助を行うに違いないと推察をする。

 

「現地の抵抗勢力というわけか」

「?」

 

グスタフの呟きにディネルースは首を傾げた。

 

「ディネルース、そのキアステンという少女に関してもう少し聞きたい」

「ああ、そうだろうと思って他にも一応聞いておいたぞ」

 

ディネルースは頷くと、そこでキアステンの話をグスタフにした。

 

「東部下流域の話は知っているだろう?」

「ああ、君たちとは別で虐殺の初期に川を渡って逃げ出した者達だな。私も彼女達が逃げてきてくれたことで君たちのことを知った」

 

シルヴァン川下流の広い浅瀬。間も無く冬の時期になる頃に始まった彼女達への虐殺は、主に二種類の者が居た。

 

「彼女達は白エルフに殺され、白エルフに救われた。ヴァルダーベルクの住人の中でも差異が起こっている」

「…白エルフに対する見方だな?」

 

グスタフは言うと、ディネルースは頷いた。

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