白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#29 追放者達Ⅴ

幌馬車の床の隙間に隠された私たちは、その後に上からいくつかの荷物が積み込まれて完全に隠されるのを認識した。

馬車の床は完全に光を遮っており、私たちを隠すためか、床には綿が敷かれていた。

 

「出して」

「了解」

 

そしてイヴリンが指示を出すと、私たちは馬車の床で仰向けになって今まで隠れていた村を出発した御者をしているのは、声からイヴリンと同じ村生まれのヘレナだと分かった。

そして私たちを隠したまま馬車は村を密かに出ていくと、そのままどこに連れて行かれるかもわからずに私たちはひたすらに幌馬車の中でほぼ身動きが取れない状況で目の前の木の木目を見ていた。

多分、私がこれほどまでにこの大きな尖耳を恨んだことはないだろう。この耳のせいで私は特に顔を動かすことすらできなかった。

 

「…」

 

私や匿われていた他の黒エルフ達も少しばかり緊張をした様子で進んでいく馬車の床の下で息を殺して、気配を必死に殺していた。もちろん魔術通信なんてできるわけもないので、目的地に着くまでこのままである。

 

「ねえ、どこにいくの?」

「静かにして」

「…」

 

私からの質問にイヴリンは何も答えなかった。それどころか、私たちの居場所がバレるからイヴリンが板を退けるまで何も話しかけないでくれと言われる始末だった。

そして馬車はガタガタと地面を揺らし、その度に頭を床板にぶつけて少々痛い思いをしていると、

 

「検問だ」

「了解」

 

ヘレナが言ったので、私達は途端に緊張をしており、同じく隠れていた友人がいたので、彼女の手を探って握った。

 

「大丈夫」

 

小声で私は話しかけると、その友人も静かに頷いた時の布の擦れた音が聞こえた。

そして幌馬車は止まると、そこでイヴリンが真上を歩いて降りて対応をした。

 

「通過をしたい」

「ん、中身はなんだ?」

「南部に納入する建材です」

 

馬車の真横、そこでイヴリンと誰か。おそらくは検問を担当している白エルフの軍人だと思うと、途端に鼓動が速くなる。

 

「…確認する。幌を開けろ」

「わかりました」

 

そこでイヴリンは頷くと、後ろに回って馬車の中身を見せた。

 

「…よし、通れ」

 

そして申告通り、中には焼成レンガや窓枠が入っているのを確認すると、白エルフはイヴリン達を通過させる。

彼女はすぐに馬車に乗り込むと、そこでそのまま馬車を進ませる。そしてイヴリンは馬車の後ろで銃を持って御者のヘレナに話しかけた。

 

「思っているより警戒していないね」

「まだここは入植地域じゃないからな」

 

彼女達はやや下を向いて話しており、あえて私たちに聞かせるように話していたのだ。

 

「で、隊長からは?」

「X-3、ちょっと急がないといけない」

「どうする?先に下ろしたほうがいいよね?」

「ええ、ファルマリアで積荷を下ろす予定だ」

 

二人はそう話しながら馬車を少し駆け足で進ませる。その会話で、私たちはこの場者が南に向かっていることを知った。

 

 

 

 

 

その後、二度の検問を抜ける事となった。

 

「中を改めさせてもらう」

「どうぞ」

 

白エルフの警備員が馬車を見て建材を見てから直後に乗り込んで私たちの真上を歩いた。

 

「…」

 

丁度眼前を白エルフの警備員が床板を踏んでいる。少し曲がった板が私の鼻に当たっていた。

隣では同じく隠れていた黒エルフが漏らしてしまいそうな勢いであった。私はそこで思わず彼女の握っていた手を少し強めに掴んで彼女が失禁をしないように意識をこちらに向けさせた。

 

「おい、詰まってんだから急いでくれよ」

 

すると中を見ていた白エルフに、別の人物がやや声を張って叫んだ。

 

「すぐ戻る」

 

そしてその声に応えて白エルフは幌馬車を降りて問題なしと伝えると、検問を通過した。

正直、生きた心地がしなかった。

 

数ミリという距離で白エルフとこの底板を挟んでいたのだから、もし床が抜けたらなんて考えてしまうと、私も漏らしそうになってしまった。

 

「この先がファルマリア」

「やっとか」

 

そこで私たちは大体、丸一日かけて南部一の都市のファルマリアに到着した。

周りでは喧騒の声がだんだんと聞こえてきて、私たちはそのまま馬車ごと市内の倉庫に入った。

 

「荷物届けに上がりました」

 

真上でイヴリンが言うと、そこで彼女は職員よやりとりをしてから次々と摘んでいた荷物を下ろしていく。

 

「いきなり呼んで悪かったな」

「いえいえ、ちょうど街の外に出ててよかったですよ」

 

イヴリンはそう話しており、その会話の相手には聞き覚えがあった。

 

「(あの傭兵の人だ)」

 

時折、私たちの村を回ってきていた商会の護衛をしていた豪胆な人。火酒というか、酒と煙草がとにかく大好きな人だ。

白エルフで、私たちにロザリンド会戦の話をよくしてくれた人だった。

 

そこでイヴリンやヘレナは私たちの上に積んであった建材をどけるように荷物を下ろすと、全部の荷物を下ろした後にアグネスが二人に囁いていた。

 

「二日後、こいつは…に持っていけ」

「了解」「分かりました」

 

何か彼女達はアグネスと話をすると、馬車に戻って私たちに言った。

 

「二日後に船を出す。みんなそれに乗って」

 

イヴリンは私たちにそう言うと、直後に馬車の底板を外す。

久方ぶりに見た顔は、私たちが馬車に乗る前よりも緊張しており、幌馬車も前後の幌を完全に閉じていた。

 

「静かに。これだけ食べて」

 

彼女はそう言い、私たちに固く焼き上げられた軍用の戦闘糧食を渡してきた。

ブロック状のビスケットのようなものだが、これは滋養がつく食べ物で作られていた。そして水と共にそれを飲み込むと、イヴリンは小さく私たちに話す。

 

「船に乗ったら兎に角、陸地に沿って南に向かうの」

 

そう言って彼女はこれから私たちにどう言う手順で国外に逃すのかと言う方法を教えた。

 

「他にも大勢の人がいるから、その人達も一斉に南に逃げることになっている」

「…イヴリン達は?」

「残る。私たちは白エルフだから」

 

彼女は即答した。

 

 

ーー白エルフだから。

 

 

それは今の黒エルフにとってどのようなことをしてもいい免罪符でもあった。確かに白エルフは黒エルフを放逐して虐殺をした悪人だ。

しかし私は、彼女がそれを言い訳にして自分自身もやりたいようにやる免罪符として使っているように聞こえた。

 

「…どうして残るの?」

 

私は恐る恐る聞くと、彼女は答える。

 

「白エルフがオルクセンに行ったところで恨まれるのは見えてるから。それに、私だってやりたいことがある」

 

その目は復讐者の目をしていた。煮えたぎる怒りを内包した、誰に向けられたのかはすぐに理解できた。

 

「…」

 

思わず私はその気迫に息を呑んだ。それほどの恐怖が今のイヴリンを形作っていた。そしてその直後、有無を言わさずに私たちを再び寝かせてから底板を閉じた。

 

「とりあえず今は寝て。まともに寝られるかはわからないけど、明後日の夜中に移動をするから」

 

彼女はそう言って馬車を終えいてヘレナ達と共に馬車に座って警戒をしていた。

私たちは海を越えるといきなり言われ、困惑をしつつも、寝ないと行けないと頭で叫んでいたので馬車の底で瞼を閉じて寝ることだけに集中した。

 

 

 

 

 

それからまたしばらくの時間が経ち、一日一回の食事をしてイヴリン達は私達を底板の下に隠したまま馬車を走らせる。

どこに連れて行かれるのかも不明なままで、私たちの中ではあの村にとどまっていた方が安全だったのではないかと言う話もあった。

 

「そろそろ着くから」

 

周りはすっかり暗く、街灯もないため闇が場を支配していた。そんな中でイヴリンは私達にそう言うと、馬車は止まって彼女は底板を抜いた。

 

「さ、降りて」

 

彼女は私達にそう言って下車を促すと、そこはシルヴァン川の河口だった。

複数の小舟とオールが用意され、そこでは既に大量の黒エルフを乗せたボートが黒エルフやフードを被った白エルフによって押し出され、黒エルフはボートに飛び乗っていた。

 

「河口沿いに南に移動するのよ」

 

魔術通信気配を悟られるから絶対に使わず、声だけで確認を取る。

顔を隠していた白エルフは赤い燐光で夜を味方にオールを使って河口を横断していく。私達黒エルフは基本的に夜目が効くため、こんな真夜中でも月明かりさえあれば簡単に山道ですら進める。

 

「載せられるだけ乗せて」

「分かりました」

 

夜中の河口、そこで馬車から直接乗る形で小舟に次々と黒エルフが乗り込んでいく。その中の一隻に私たちは乗せられた。

 

「どうして、村を出たの?」

 

そこで私はイヴリン達に聞くと、彼女は少し迷った後に教えてくれた。

 

「村の誰かがアンネ達のことをチクったから」

 

私は衝撃的だった。嘘じゃないのかと聞いたが、彼女は言った。

 

「信じなくてもいい。だけどずっとあそこにいることだけはできないから」

「…」

 

冷淡に、端的に彼女は言うと私達は小舟に乗って、艇長となった一人の黒エルフがオールを渡された。

 

「あの小舟について行くの」

「は、はい…」

 

指示をされ、先導役の小舟に次々と黒エルフは乗り込んで行って馬車は直ぐにその場を後にする。

 

「気をつけて」

「…」

 

短くイヴリン達も私達を乗せると、直ぐに小舟を押し出して私達をベラファラス湾に流した。彼女達は直ぐに次の馬車の為に去ってしまい、別れの言葉すらなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それは日記帳にて、ここに来るまでの間に書かれたことであった。移動する汽車の中で彼女はこの事を忘れないうちに全て書いたという。

ヴァルダーベルクで他の黒エルフ達が暖かく迎えられる中で、彼女はその日記帳を静かに閉じてアンネに返した。

 

「さあ、いきましょう。私の家があるから」

「姐様の家にですか?」

「ええ、この国はすごいのよ?」

「うん、あんな大量の種族とか見てたらわかる」

 

彼女は頷くと、街を歩く。

自分が手塩にかけて育てた子が帰ってきてくれた。それだけで今は十分だった。

 

 

 

後年、彼女の書き記した日記は本として出版され、多くの媒体で物語として黒エルフ放逐の凄惨さを語る上で欠かせないものとなった。

無論、この事件は国内で対エルフィンドへの風潮をより一層加熱させることとなった。

 

『エルフィンド討つべし慈悲は無い!』

 

新聞はそのように書き立て、国民は黒エルフ放逐による凄惨なこの時間で一気に開戦を望む声が高まっていた。

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