キアステンは新しい物好きでありながら、現実的な買い物をする牝である。
「その武器、連射ができるんですって?」
「ええ…採用はしてもらえませんでしたが…」
性能評価試験であまり芳しくない結果となったその機銃の話は、当然国外に色々と足を運んでいたキアステンは知っていた。それが当時、内戦中であったセンチュリースターでグラックストンと同様に北軍の大統領の前で実演されていた事を。
「じゃあそれ、私が買い取って差し上げましょう」
「本当ですか…!?」
持ち込んだキャメロットの商人は歓喜した。これで不良在庫を抱えずに済むため、彼は購入を打診してきた女性にほぼ仕入れ値で売り飛ばした。
「ただし、私たちが買ったってことは秘密よ?」
「もちろんです」
センチュリースター内戦では紙製薬莢であったが、今回の提出に際してそれをエルフィンド軍が使用している銃弾に合わせた改造を施されていた。
それを提出の際に持ち込んだ五丁、全てを彼女は買ってくれた。値段は総額六二五ティアーラ。一介の白エルフが出せる金額ではないことを商人は分かっていたが、不良在庫となりかけた物を引き取ってくれたため、突っ込むと言う無作法はしなかった。
「また変な物を買って…」
なお、それを聞いて支払った出費にフレンは白目を剥きながら、明らかに傭兵が持つような武器ではない物にジト目でキアステンに言った。
「いや、これは使える武器だ。私が保証する」
「軍隊でも率いるつもりですか?!」
「んな訳あるか!」
そんな軽い喧嘩があったとされており、この武器は現在は来る日に向けて北部で射撃訓練を行い、いつでも行動に出られる準備はできていた。
見た目が似ていることからコーヒーミル・ガンとも言われ、手回しクランクを介して連続射撃ができた。
ーー襲撃にはもってこいである。
少なくともその機銃を保有しているとなると、色々と怪しまれてもおかしくは無いのだ。
「なんか、陸軍よりも重武装な気がしてならないなぁ…」
「うちらは金はあるんだ。かけらける場所にかけるべきだろ?」
「それはそうですが…」
商会が経営権を獲得した牧場で馬に乗りながら教練をしていたイヴァノンは思った『バレたら革命どころの騒ぎじゃないででしょうに』と。
いつの時代になっていてもそうだが、犯罪組織というのはいつだって正規軍よりも充実した装備を持っているものであり、ゲリラ戦法を展開してくることも相まって手をこまねく場合が多数である。
「商会長が提案した方法は最高だぞ?我々に攻撃目標も対象も自由に選ばせてくれるんだからな」
「その分、慎重に見極める必要があるってことですよ」
イヴァノンはそう言い、アグネスに少し注意をする。
「前は成功しましたけど、これからもうまくいくとは思えませんからね」
「当然だ」
するとあっさりとアグネスは頷いたので、イヴァノンは少し意外に思った。彼女の性格からしてどんな状況でもやることは変わらん!とでも言うと思っていたので、思わず続きが止まってしまった。
「どうした。意外か?」
「…ええ、まさかそんな常識的なことを言われるとは思っていなかったので」
「私をなんだと思っているんだ貴様は」
アグネスは心外であると言った様子であったが、イヴァノンは『それはない』と即答して睨まれてしまった。
その場所では連続的な射撃音が響き、それを単眼式の望遠鏡で見ていたキアステンは改めて舌を巻いていた。
「流石に凄いわね」
「ええ、これじゃあ騎兵があっちゅう間に死んでしまいますわ」
少し訛った方言で話す白エルフは穴だらけになって破壊された的を見つめて笑った。
銃の前には防楯が付けられ、射手の安全も確保してあるその武器は、先述の通り、エルフィンド軍で使われている小銃弾が使えた。
「取り敢えず、軍からくすねたんのも含めてしばらくは行けそうですわ」
そう言ってキアステンに伝えるのはこの五丁の機関銃を駆使する面々。列車襲撃などの大きな作戦目標に対して実行を想定しているため、彼女達は後年風の表現をするなら小隊支援兵といったところだろう。
機関銃手として扱い方を学んだ白エルフ、ウェンバネはそこで他の白エルフと共にこの山奥の射撃場で射撃訓練を積んでいた。
上の給弾口にエルフィンド軍の金属薬莢式の小銃弾を入れ、ハンドルを回すことで連射していく。しかし撃ち続けると銃身が加熱してしまうため、交換ができるようになっていた。
「もう習熟は良さそうね」
「ええ、これなら行けそうですわ」
ウェンバネはそう言い、自身ありげで頷く。
もはや民兵ではないのか?と言えるほど充実した装備類を前に彼女達は自信があった。
「でも意外でさ。これのメイン運用は北部ですか?」
「ええ、おそらく戦場は南部から中部にかけてだから、北部に戦線は移動しない。だからここら辺は後方拠点になる」
キアステンは脳内でもしオルクセンが攻めてきた時の想像をする。
かのデュートネ戦争でオルクセン・キャメロット連合軍がデュートネ軍と激突した最後の戦いであるグロースゲルシェンの戦い。おそらくオルクセン軍は『デュートネ戦争よ再び!』を基本にその時の戦争を反省して侵攻をしてくるに違いない。
最終的な目標はエルフィンドの併合だろうが、それまでの過程としてオルクセン軍は南部から中部で戦闘を行う。
「そこで我々が出るわけだ」
「まあ、事前にやる事は聞いています。やってやりますさ」
不敵に彼女は笑みを見せると、空薬莢を箱に詰めて馬車に積み込んだ。
着々とエルフィンド国内で反抗のための準備が進められている中、オルクセン王国においても戦争の用意はかかせない。
「そうか、ではこちらの決済は財務官に回してくれ」
ヴァルダーベルク中央にある庁舎。新しく作られた街であるヴァルダーベルクは、当然街であるため行政権を有する。その為、ディネルースが軍権を持っているとするなら、クルヴィアン・マルヴィシアは黒エルフの行政権を担っていた。
「新しい移住者には軍に入るかどうかの是非を聞き、入隊希望者は向こうに丸投げでかまわん」
「分かりました」
オルクセンの臣民として、オルクセンの定める法の元に約一万三千の黒エルフ族の代表として、彼女はヴァルダーベルク町長としてオルクセンの指導を受けながら仕事をこなしていた。
「町長…」
「何だ?」
連日の激務で疲労困憊、目元にクマを作った彼女はギロッと睨むように話しかけてきた部下を見た。
オルクセンの定める地方自治というのは、エルフィンドの地方自治と全く違うものであり、その差異に散々苦労させられた彼女達は日々の労働に疲れ果てていた。
「さ、参謀本部の方がお見えです」
「またか…!!」
夜叉のような顔つきの彼女に睨まれ、少し怯えながら来客を伝えると、彼女は天を仰いだ。
アンファアグリア旅団の編成が終わり、約八〇〇〇名が兵士として行くヴァルダーベルク。既に街には黒エルフに対して日用品や家具を売りに来る商人達が朝市を開催しており、オルクセンの民として地域の住民との交流も盛んに行われていた。
そんな中で彼女は度々、参謀本部から聴取のために時間を割かれることが多かった。彼等の目的はただ一つ、『キアステン・ラーセンについて』だった。
「お通ししろ」
「よろしいので?」
「私から言える事は全部話したんだ。それだけ言って帰ってもらう」
東部下流域から脱出した黒エルフ族の集団、最近では東部組などと言われる彼女達の中でも最も経済規模が大きかった村の氏族長であった為に、半ば強制的にヴァルダーベルクの町長に就任した。
「分かりました」
そこで行政官は頷いた執務室を出て行った。
そして出て行ったのを確認してクルヴィアンは大きくため息をついた。
「はぁ…街道の整備の方は?」
「順調に進んでいます。まあ元々演習場な上に農業試験場で、街から街道は整っていましたから、古くなった箇所を直していくので終わりそうです」
首都郊外に作られたヴァルダーベルクは現在も開発中の区画があり、首都の行政区の中に収められていた。その為、彼女は首都特別行政区の会議や顔合わせばかりがこの数ヶ月の記憶であった。
「
「ええ、警察の管轄は我々でも、軍の統帥権は完全に国が持っていますからね」
副町長であり、かつ妹である黒エルフが言ってこの国の行政について行くことに苦労していた。
「すべての権限を国王が持っている専制君主系だと言うのに憲法がある。国王以外で貴族はおらず、ロザリンドから一二〇年でこれだ」
彼女はそう言い、今の視界に広がる建立された街を見る。中央に行けばより大厦高楼が立ち並ぶ近代的な街があり、初めて見た時は見上げすぎて首を痛めたものだ。
「これほどの豊かさを持った国に比べたら、キアステンが故郷をログハウスと言った理由が分かってしまうな」
「ええ、全くです」
この家を建てるのだって規格化された建材が鉄道と馬車によって大量に届き、それをオーク族がその馬鹿力をもってあっという間に家を建ててしまった。
「さて、この建設許可証を出したら応接室に行く」
「分かりました」
そこで彼女は頷くと、書類にサインをして立ち上がる。
町長としての本人の自覚ではあくまでも代理である為、既に後任への引き継ぎ作業を始めていた。
「お待たせしました」
「いえいえ、こちらこそ何度も申し訳ない」
クルヴィアンは参謀本部からやってきた将校に挨拶を済ませると、応接室の席に座ってその将校に先手を打って早速話す。
「申し訳ありません。キアステン・ラーセンに関してはこれ以上は…」
「ええ、クルヴィアン町長の聴取は聞いておりますのでこれ以上の聴取はございません」
しかし将校から言われた事は意外な事だった。
「今日は新たな移住者達への聴取の結果をお渡しに入りました」
「…なるほど」
そう言えばそんなのを依頼していたかと彼女は思い返す。たしか、シェーンベルガー事件の聴取でキアステンに関連する話があればと思っていて依頼をしていたのだ。
「聴取の結果ですが、キアステン・ラーセンに合致する人物は残念ながら…」
「そうですか…」
しかし残念そうに話す将官に私は少し、彼女の変わっていない雰囲気に安堵を覚えた。