白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#37 開戦Ⅰ

星歴八七六年 一〇月二六日

ベレリアント半島におけるオルクセン王国によるエルフィンド王国侵攻が開始された。

この日、宣戦布告と共に行われたベラファラス湾奇襲攻撃やモーリア占領はその街に居を構えていたステン商会の目にも入った。

 

「しょ、商会長!港が!!」

「落ち着け!」

 

突如として水柱が上がった湾外に停泊中のエルフィンド海軍の軍艦に、それを見ていた夕食中だった部下が飛んで帰ってきて叫んだ。

その爆発を見ていたフレンは怒鳴って落ち着かせると、先ほど感じ取った爆発と衝撃を前に窓を開ける。

 

「何?!」

「爆発だ!」

「攻撃を受けているの!?」

 

海軍の軍艦が爆発したのを見て市民達が動揺をしながらその方を見ると、そこでは炎上して沈んでいくスヴァルタが沈んでいくのが見えた。

 

「…始まった」

 

フレンはそこでその燃え盛る軍艦と、その横を通り過ぎていった六隻の小型船舶を見た。そしてその奥から無数の艦艇がこちらに向かってくるのを見る。

 

「急げ!街の外に退避しろ!!」

「わ、わかりました!」

 

部下はフレンの指示に頷くと、慌てて事務所を駆け降りていく。

すぐに彼女は、これが戦争が始まったのだと察した。魔術通信を開いてみると、阿鼻叫喚の地獄絵様が広がっており、沈没していく軍艦を見る。

 

「オルクセン…」

 

その直後、洋上の艦隊から砲声が轟くと、軍港地区に停泊されていた軍艦に砲弾が着弾していく。

 

「っ!?」

 

フレンはその砲弾が着弾したと共に凄まじい閃光を放ち、軍艦を燃やしていくのを見た。直視できないほどに光が強く、思わず目を閉じてしまう。

ついで開けた窓から熱波が押し寄せ、夏が来たのかと思うほどの暖かさが感じられた。

 

「商会長!」

「分かってる」

 

すると階段を上がってきた部下が言ってきたので、フレンも街から離れて安全を確保する。表では何事かと燃え盛る軍港を見る者や、一目散に逃げ出し始める者などで通りは混乱状態にあった。

 

「一体、何が起こったのでしょうか…」

 

馬に乗りながら部下が呟いたので、フレンは燃えている軍港を見ながら答える。

 

「戦争よ…」

「せ、戦争…?」

 

いまだに飲み込めていない様子で部下は沈没していくスヴァルタや他の巡洋艦を見る。北海最強と謳われ、オルクセンの脅威となっていた装甲艦がこうも容易く撃沈されるとは、彼女達ですら思っていなかった。

 

「…」

 

オルクセン海軍による攻撃は瞬く間に軍港を破壊していくと、残っていた艦艇からも僅かながらに反撃をしていたが、あっという間に集中砲火で撃破されていく。

 

『こちらファルマリア、始まった』

 

そんな隣でフレンは魔術通信で一言伝えると、返答があった。

 

『了解。これより符号はGとする。送れ』

『了解』

 

短く魔術通信を行うと、その情報はバケツリレー方式でその日のうちに北部へと届けられた。

 

 

 

 

 

同じ事はモーリアやノグロストでも起こっていた。

 

「なんだあれは!?」

 

モーリア市街地に撃ち込まれた照明弾に市民は誰もが驚愕をしていると、その直後に市街地に砲弾が叩き込まれていく。

榴霰弾や霰弾による砲撃が市街地に多数降り注ぐと、商会で残業をしていた部下が執務室に飛び込んできた。

 

「すぐに地下室に入れ」

「は、はいっ!!」

 

モーリアにあった事務所は頑丈な煉瓦で作られた地下室があり、従業員達はまるで予感していたかのように落ち着いていた商会長に驚きつつも、それどころでは無かったので一斉に砲撃が続く中、地下の資料の保管室につながるドアを開ける。

 

「急いで」

「何なんだよもう…」

 

すると近くで着弾をしたのだろう、凄まじい衝撃が建物全体を襲った。

 

「ひっ!?」

「早く中に入って!!」

 

窓ガラスが衝撃波で飛散し、一気に風通りが良くなったのを見て一部の従業員は恐怖で事務所から飛び出した。

 

「…」

 

そして砲撃が至る区画で着弾していくのを確認していた支店長は、静かに魔術通信を行う。

 

『こちらモーリア、始まったぞ』

 

その魔術通信の返事はファルマリアのものと全く同じであった。

市街地に着弾をしていく砲弾は次々と国境警備隊の駐屯地を破壊していく。

 

「…事務所は離れた場所にしていて正解だったな」

 

その様子を見ながら彼女は部下から言われるまで窓を開けてその様子を見ていた。

 

「支店長…」

「すぐに瓦礫を退かせろ!生き残りを探せ!」

 

茫然自失となっていた白エルフの中で彼女は怒鳴ると、その声に我に帰ったように隠れていた従業員達は倒壊した建物などから聞こえる魔術通信などを使って救助を始める。

 

「大丈夫か!?」

「退かせるぞ!手伝え!」

「痛い!痛いよぉ!!」

 

悲鳴を上げて倒れている白エルフ達は街に出て倒壊した建物などの瓦礫をどかし始めて負傷者や死者を見る。そんな時、

 

「ん?」

 

突如地響きがした気がして全員が唖然となっていると、

 

「突撃ぃぃぃいいいっ!!前ぇぇぇえええっ!」

 

市街地に雪崩れ込んできたオルクセン陸軍の部隊に誰しもが驚愕をしてその方を見る。

 

「何!?」

「オークだ!」

 

誰しもが突撃をしてきて、その時にオーク族から聞こえてくる駆け足の地響きに恐怖で転倒をして呆然となって突入をしてきたオルクセン陸軍の部隊を呆然と見ていた。夜空も大地も震わせるほどの咆哮と振動は、多くの者を失禁させていた。

 

そして僅か数時間でモーリア市は陥落した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

開戦の合図と共にシルヴァン川を渡ったヘンナ達は、そこで夜の視界の先で対岸に辿り着いた。

 

「…ただいま。故郷」

 

北岸に足を踏んだ時、小さく、思わずそう言ってしまった。

アンファウグリア旅団はシルヴァン川東部下流域より侵攻を開始しており、これからファルマリアまで一気に侵攻する予定であった。

 

「周囲に敵影なし」

「了解。警戒せよ」

 

渡河を終え、周囲に広く展開を始める彼女達は後続部隊の到着を待つ。

既に工兵隊が支援をする海軍の汽船によって架橋作業の支援を受けており、砲兵が渡れる橋が早速作られていく。

 

そして次に騎兵隊が渡河を終えると、旅団長が歩いて馬を引いていた。

 

「状況は?」

「異常ありません。抵抗は確認されていません」

「よし」

 

そして騎兵隊が渡り切ると、私たち山岳猟兵連隊はそのまま近くの国境警備隊の詰所を襲撃に向かう。

 

「遅れるなよ?」

「分かってますって」

 

そう答えると、私たちは一斉に森の中を前進して詰所に移動をする。

その道中で、魔術で視界を確保しながら私はふと考えてしまう。

 

ーーもしこの銃で間違えてキアステンを撃ってしまったらどうしよう。

 

多分、東部組の子達の多くが軍に入隊しなかった理由がこれだろう。

自分たちを助けてくれた白エルフを撃ち殺してしまうのではないのか?そんな恐怖があったから、オルクセンに残ったのだろう。かくいう私だってそんな事はないだろうと思いながらここまで来たのだ。

 

すでに先方に出ていた部隊が交戦を始めており、その手に山刀を握っていた。

 

「うおっ!?」

 

そんな最中、私はふと気配を感じて思わず声を漏らしてしまう。

彼女の横を巨狼族が足音を立てずに歩いており、いきなり現れたことに心臓に悪いと思ってしまった。

 

「凄いですね、巨狼族って」

「馬鹿、あいつがもっといたらアタシら滅んでるよ」

 

そう言ってまた新たに国境警備隊の兵士を斃すと、鮮血が森の中に飛び散る。

 

「うわぁ…」

「…」

 

そして後続の私達はその殺戮された死体を見て思わず息を呑む。首のない白エルフの死体や、頭から血を流す死体。

一切の音を立てずに行われていく殺戮に私達は根源的な恐怖と興奮が入り混じる。

 

『連隊は一時停止、後続の到着を待て』

「了解」

 

国境警備隊の詰め所はすでに陥落され、中に常駐していた白エルフの国境警備隊員達は外に並べられていた。

 

「うへぇ…」

 

そんな詰所で待っていると、ヘンナはその詰所で空を見上げる。

久しぶりの帰郷にしては何とも物騒な帰り方だなと内心で思いながら彼女は煙草に火を付ける。酒保で事前に買った一本だ。前まで彼女に喫煙の習慣はなかったのだが、放逐後の日々の疲れなどからそれを忘れさせてくれる事で吸うようになった。

 

「どうだ?」

「なーんも変化ない」

「そうか」

 

少なくとも煙草を吸える余裕があると言うことで、詰所の監視塔から国境像を見ていた彼女は仲間に答える。

 

「とりあえず、この後架橋作業が終わったら本格的な侵攻だ。騎馬隊が先行して占領を始めていく」

「了解」

 

と言う事は本格的な移動は明朝あたりになるだろうなと長い経験で察すると、遠くから騎馬隊の駆け抜ける音がしてくる。アンファウグリア旅団の花形である騎兵隊がすでに先々の村々を占領しに向かったのだ。

 

「良いなぁ」

 

その姿に思わず私は本音が漏れてしまうと、聞いていた仲間が言った。

 

「騎兵に支援砲撃がない状態で敵に突っ込ませたら死ぬだろ?私らだって山砲を渡したら前進するんだ」

 

彼女はそう言うと架橋作業が終わるのを待っていた。

 

 

 

シルヴァン川の架橋は、筏での経験が豊富な元筏師が活躍をした。

 

「こっち、もう繋いで良いよ」

「了解」

 

鉄舟を並列に並べ、縄で固定し、その上に木板を並べていく。

これで橋の架橋作業は汽船から海軍兵士が手伝ってくれることも相待って既に半分ほど終えていた。

 

「早ぇな」

「慣れてっからだろ?」

 

その様子を、簡単に身軽に舟の上を飛んで橋を並べていく様を見て舌を巻くコルモランの乗員達。

 

「あれだもんな、アイツらってここを繋ぐのってもう何回もやっているのか」

「上流から筏流して材木を運んでたって連中だ。あの急流をオール一本で降ってたんだぜ?」

「おお怖い、怖くて俺には出来ねぇや」

「何だ、この前の移動遊園地にあったコースター見たいなもんだろ?」

「その前に乗ったら筏が沈んじまうぜ」

「違ぇねえ」

 

直後に彼等は大笑いした。口々に彼等は次々と架橋を行い、ピッタリと鉄舟を固定してその横を移動していく騎兵隊を見つめており、その手早さにこちらも楽なものだと思った。

 

「騎兵隊か…」

 

凛としていて見ているだけで惚れ惚れするなぁと思っていると、木板を黒エルフに渡したオークが言う。

 

「聞いたか?ファルマリアの連中、大成功したって話だぜ」

「羨ましいぜ。あんなド派手にやれたんだ」

 

既にこの時点でベラファラス湾の襲撃が成功した話は受けており、彼等は心底羨ましがっていた。

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