エルフィンドへの侵攻を始めたオルクセン軍の中で、シルヴァン川東部を侵攻する第一軍。その先鋒を担ったアンファウグリア旅団は一日で渡河点から三〇キロ地点まで進出した。
「はっや」
「置いてかれる前に急げ!!」
騎兵連隊の進出速度に対応するために砲兵が渡河したばかりの山岳猟兵連隊も大慌てでさらに追従をして馬車を走らせる。奇襲+騎兵+現地調達が上手く組み合わさった結果だが、その進撃速度の速さは第一軍の司令部を驚愕させるほどだった。
「隊長!後続部隊と距離が離れすぎてます!」
「オークだろ?!だったら駆け足で後からでも追いつける!」
部下からの進言にも隊長はそう返して彼女達は片っ端から町村を落としていく。元々ここら辺の地の利はある為、どこにどんな村があるのかは全て覚えている。
「…」
生まれた故郷の村を攻め落とす事に対して、誰も何も言わない。無論私も。
「…」
攻撃を行ってしばらくした頃、私達の部隊は占領をしたとある村で後続のオーク部隊が到着をして引き継ぐまで立哨をしていた。
見上げるのは今も風に吹かれてその巨大な羽を回している風車。
干拓の排水の為に作られたその風車は、今も水を川に流していた。
「ただいま…」
そこはかつて私たちが暮らしていた村。今は白エルフが入植をしていた村。
川沿いには建設中の路線が線路を敷設されており、彼女はそれが以前にキアステンが話してくれた森林鉄道のものである事を知っていた。
私達の家は顔も知らない白エルフが住んでいた。
「ヘンナ」
「?」
見た目は変わらないのに、中身はすっかり様変わりしてしまった様子の村を背に風車を眺めていると、私は部隊長に話しかけられた。
「そろそろ後続がつく」
「うん…分かった」
私は頷くと、風車を背にして銃を持つ。
「大丈夫?」
「はい…奪われたら、またとり返せば良いだけなので」
「…」
私は淡々と答えると、隊長は一瞬驚いたように目を見開いたが直後に私の肩を持ってから共に歩き始める。村では私達を見て驚愕をしていた白エルフが、オーク族を見て恐怖をして見ていた。
「では、あとをお願いします」
「おう、任されててよ」
胸を軽く叩いて頷いた後続のオーク兵に村の占領を任せると、私達は村を後にした。
「行きましたな」
「ああ、変な気を起こす前に行ってくれて一安心だ」
そして黒エルフが見えなくなった頃に占領に来た部隊は占領した村でアンファウグリア旅団の兵士達を見送って安堵していた。
「できればそのまま北上して、ファルマリアも落としてもらいたいもんだ」
「怒涛のアンファウグリアですからな」
破竹の勢いで占領を繰り返す彼女たちの軍功は第一軍の中でそんなあだ名をつけられるほどに優秀であった。
「それより見てください。川沿いに建設中の路線がありましたぜ」
「本当か?」
そこで彼等は村から伸びている建設中の鉄道路線を知って驚いた。
「ファルマリアまで建設予定だった路線だそうです」
「何とまあ…」
「資材も残されたままです」
そこで報告に来た部下は線路も犬釘も納入されていた建設路線を見て言う。
「キャメロットの規格で作られていますが、路盤が頑丈に作られています。我々の鉄道も使えそうですね」
「ありがたい。徴用して開通をさせられないか司令部に提案してみよう」
彼の提案は直ぐに総司令部に上進されると、裁可を得て路線の徴用と建設が行われる事になった。路線が全体的に川沿いに建設されていた事もあって、ファルマリアまで荷下ろしが容易になると想定された。その為、浮き橋の架橋場所に変更が加えられた。
「こんな場所に路線を使っていたのか」
「元々森林鉄道用に建設が計画された路線だと言う話です」
既に軌間は1423mmで敷設されていた為、残りの資材もそのようにして建設が行われいった。
「しかし路盤が頑丈だし、枕木も
「楽なもんだ。まあおかげで補修には困らなさそうだぞ」
彼等はそんな事を言いながら一気に徴用した路線を占領地域に合わせて敷設をしていく。機関車は鹵獲したエルフィンド国鉄の車両を使っていく方針で決定された。
オルクセンとの開戦は中部のディアネンにいたキアステンはその日のうちに報告を受けていた。
中部某所の施設で彼女達はキアステンによって呼び集められていた。
「総員、よく聞きなさい」
そして彼女は牧場で鍛えた部下の兵達に伝える。
「吉報だ。待ちに待った開戦だ」
「「「!!」」」
彼女の言葉は彼女達の待望の言葉だった。組織は全員の背後に誰かいないことは確認済みの数十名で構成されていた非常に小さな組織である。
「昨日、ファルマリアやモーリアから報告を受けた。確実に向こうは攻めてきた」
「いよいよですか」
「そうだ」
キアステンは頷くと、彼女は続ける。
「これより我々は初期の目標の通り、作戦を始める。戦域外での戦いで全員が生きて帰れるとは限らない」
彼女は鋭い眼光で彼女達を見つめる。
「だが死んでこいとは言わない。思想と心中するのは勘弁だ。我々はなすべき事をやってとっとと帰ってくる。市井に紛れる事を何より考え、生き残る事を考えろ」
彼女はそう言うと敬礼をすると、集められた者たちも敬礼で返す。
「では諸君らの健闘に期待する」
「「「はっ!」」」
そこで彼等はそれぞれ渡された場所で計画を実行するための資料や符号表を持っていく。
「いよいよですね」
「ええ、私も出わよ?アグネス」
「分かっていますよ」
出ていく彼女たちに頷くと、全員が首元にスカーフを巻いていた。一部は頭に狩った動物の毛皮を被っていた。建物の裏手では複数の馬が厩に繋がれており、ほぼ全員が二人乗りで馬に乗っていく。
「我々の目的は増援の妨害。路線、電信、街道での待ち伏せですね」
「ええ、それできるように拠点も用意してあるから」
彼女はそう言い、自分の脳内に叩き込んだ抵抗運動用の拠点を思い出す。
「部下にはまばらに地図を渡してあります。まあ全滅のリスクは避けられるでしょう」
アグネスはそう言い、走り出していく部下たちを見る。
長い時間をかけて国内に多数の拠点を用意してきたが、秘密警察によって突入や差押を警戒して分散して弾薬や糧食を備蓄していた。
長い期間をかけて分散配置をして備蓄をしていた為、隠れ家は小さな納屋や市街地のアパートの一室に至るまであり為、全滅させられるリスクは低かった。
「しかし我々から接触するわけではないのですね」
アグネスは道中でそう質問をしてくると、キアステンは答える。
「どうしたってこっちは秘密警察の目がある。思った以上に彼女等は根深いところまで目を持っているからね。我々から接触するわけにはいかんよ」
彼女はそう言い、既に現政権の頃に誕生をして今の密告者ばかりの社会を形成した秘密警察を異常なまでに警戒していた。少なくとも反教義主義や反政府組織への密告などによって多くの者が捕えられ、消えていく環境が成熟されており、その事は密告を行ったことのある自分達も分かっていた。
彼女達は今までに仕入れた爆薬や銃弾でおおよそ半年間の戦闘を想定していた。狙うは電信、鉄道関連施設、街道の順番で北部を中心に襲撃を計画していた。
「今の秘密警察は反教義主義やら何やらの始末に追われているが、戦争が本格的になれば我々にその捜査の手が及ぶ事になる」
放逐以来、さまざまな場所に手を伸ばしてきたステン商会だからこそわかる警戒である。少なくとも追跡をされることとなり、今まで以上に周囲に警戒をする必要がある。
「傭兵団は通常通りの業務を行います」
「ええ、あくまでもこの行為をしているのは正社員ではないからね」
彼女は頷くと、馬に乗って駆け出す。
「手筈は?」
「整えていますよ。準備万端です」
自信満々でアグネスは頷くと、彼女たちは一斉に馬を走らせる。
「他の子達には伝えてある?」
「ええ、南部の入植地は敵だらけでしたからね。彼女達には苦労をかけました」
アグネスはそう言い、地下で半年以上の期間を過ごしてくれた仲間に感謝をする。彼女たちは密かに黒エルフの赤ん坊を匿い、オルクセン軍が占領すれば直ぐに投降するように言っていた。
「まあ、生まれてくる子に罪はないから」
「ええ、当然ですよ」
彼女たちはそう言うと、集団は街道の分かれ道で分散をしていく。大方四人ほどの小グループに分けられて行動を行う為、目立ちにくい。私服を纏っており、国際法でも保護をされない反政府的行動である。明らかな利敵行為であるが、彼女らは祖国に見切りをつけていた。
「行くぞ。偉大なる教義とやらを燃え滓にしてくれる」
「へへっ、それは良い。最高ですな」
アグネスも笑うと、彼女たちは街道を走って消えていった。
その日、ネヴラスからファルマリアまで陸軍が緊急で物資を運び込むための軍用列車が編成をされていた。
「出発!急げよ!」
列車に積み込まれたのは弾薬や糧食、砲弾などである。
汽笛を鳴らして組成された編成が貨物駅を出発してファルマリアへ移動を開始する。ドレンを吐き出して蒸気機関車は積み込んだ軍需物資を移動させようとした。
既にファルマリアの海軍基地が攻撃をされ、さらにモーリアやノグロストといった南部の都市が次々と攻略され、シスリン川を越えたとする情報も入っていた。
「…」
そして蒸気機関車というのは兎に角作動音が目立ち、走っている事は意外に遠くからでもわかる。
そして列車が出発をした事は既にカナリアと呼ばれる通報人が伝えており、主に身寄りの無い孤児が日銭稼ぎで行っていた。
「来たぞ」
「退避しろ」
線路の上、森に隠れていた数名の人影が機関車が来た事を確認すると線路から離れる。そして列車が走ってくるのを確認すると、森の中に隠れたその人影は列車が通過するのを確認する。
ッーーー!!
すると直後、線路上に仕掛けられた地雷が二つ、起爆して線路を吹き飛ばした。
「っ!?」
運転していた機関士たちは目の前で起こった爆発に驚愕をして急ブレーキを掛けたが、直前で爆発したこともあり、機関車は脱線をした。
「急げ」
「分かってる」
地雷の起爆を確認し、一斉に隠れていた者達は森の直ぐ外で待機していた馬に鐙を踏んで乗り込むと、そのまま颯爽と消えていった。