白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#40 開戦Ⅳ

ファルマリア港への侵攻は、エルフィンド側達はファルマリア港要塞と呼んでいた外郭防衛戦への攻撃から始まった。

オルクセン陸軍の砲兵隊による砲撃が防衛戦の一角を破壊したのだ。

 

「…」

 

すでに市街地には多くの避難民でごった返しており、その様子を商会の事務所からフレンは眺めていた。

開戦から六日が経過し、モーリアや西部方面はすでに多くの街や都市が陥落をしていた。そして元々軍港のあったこの場所でもオルクセン軍の手は伸びていた。

 

「商会長」

「落ち着きなさい。別に我々を皆殺しに来たわけでもないでしょう」

 

彼女はそう言い、そこですでに占領された地域にいた技師達からの魔術通信の内容を聞いて把握していた。

 

「しかし相手はオークです」

「でも黒エルフは彼らの庇護下にあるのよ?」

「それは…そうですが…」

 

その部下はオークに対し、やや蔑みの様子を隠しきれずにフレンに答えた。

元々、オークという存在は、彼女らにとってみればロザリンド会戦が最後の接触であり、それ以来個々での接触もなかったことから、彼らに対する見方というのも変わらないはずだ。

 

「少なくともここは海沿いの商業区。近くに駐屯地もないから狙われることはないわ」

 

やけに落ち着いて見えるフレンの対応に、その部下はどこか冷たいものを感じ取って末恐ろしくなる。おそらく、彼女のことであるので次の商売のことでも考えているのだろう。

何せ黒エルフ放逐後に一気に規模を拡大させた企業だ。木炭製造工場や材木製造工場も傘下に納め、国立の火薬廠とも取引実績を作っていた矢先にこの侵攻だ。

 

「おや、砲撃が来ましたね」

 

すると街に着弾を始めた音を聞き、彼女は静かにコーヒーを飲む。

 

「まあ静かに待ちましょう。この様子では、おそらく今日中には決着がつくことでしょう」

 

彼女の予想通り、この日の夕刻に守備隊は降伏。指揮官は自決をした。

 

市街地にはオルクセン軍の陸軍部隊が駐屯を開始し、港にはオルクセン船籍の船舶がこれから停まるようになる。その様子を商会の事務所から見ていたフレンはほくそ笑む。

 

「さて、新しく人員輸送でもしないといけませんね」

 

彼女の目には一万人規模で避難をしてきた周辺地域の避難民が目に入っていた。

彼女はその避難民が戦闘を終えた自分たちの村や街に帰る際に乗合馬車業務を初め、後にバス会社を設立することとなる。

 

なお、ファルマリア陥落後にオルクセン陸軍より正式にステン商会が保有していたファルマリア駅から出発する路線に関する徴用を行うと正式な通達があり、思わず顔を顰めてしまった。しかしオルクセン側の十分な補填や、戦後の返還を条件に徴用書にサインをした。

 

「ご協力ありがとうございます」

「いえ…」

 

巨大な体のオーク兵を前にやや緊張気味にフレンは徴用されていく鉄道に今後の色々な予定がご破算だと思っていた。

オルクセン側としては、架橋前に大量に第一軍に物資を運べるとして建設途中であった路線を早急に敷設し、川を使った船舶輸送で先に荷物を送ってしまおうという話であった。

西部のモーリアなどの陸続きの国境と違い、東部はシルヴァン川を挟んだ国境であるため、鉄道路線が走れる架橋となると時間がかかってしまうので船舶輸送を予め提案されていた。しかし事前に建設中の鉄道路線がここにあることを脱出した黒エルフ達から聞いていたオルクセン陸軍は、この鉄道を徴用して残った工事を大量の工兵隊を用いて建設してしまう。

 

「こっちに着いた途端に鉄道工事かよ」

「まだ資材が残ってるだけ楽だぞ。元々はこっちから運び込む予定だったんだからな」

 

川から採取した砂利を散布し、硬め、枕木を敷設して線路を犬釘で固定していく。

 

「これ楽だな。ほぼ現地調達じゃねえか」

「元々、木材やら農作物やらこの砂利を運ぶ予定だったって聞いてるぞ」

 

鉄道技師による指導を受けながら敷設をしていく路線。かなりの距離を敷設予定で、すでに銀行からも融資を受けていたと言う。

 

「用地買収とか済んでんだな」

「ファルマリアまで伸ばす予定だったってよ」

「機関車は?」

「無いから鹵獲したのを使うよ」

 

彼らはそう言い、一ヶ月ほどで事前の計画書の通りに敷設をして全線の敷設を完了させてしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

オルクセン陸軍の開戦初頭の快進撃の報は、エルフィンド側でも届いていた。

 

「ふむ、向こうは奇襲攻撃か…」

 

キアステンはそこで今日発行された新聞を手に取る。『卑劣なる奇襲攻撃を許してはならない!』『国民よ、祖国を守る日が来た!』と言った謳い文句で国内の新聞は記事を書き連ねている。

全てが内務省による検閲を受けた新聞であることは昔から知られていたため、エルフィンドの市民は新聞をあまり信用してこなかった。しかしオルクセンとの開戦は今いるティリオンにおいても衝撃的なニュースとして飛び込んできた。

 

「奇襲…奇襲ねえ…」

 

ティリオンでコーヒーを飲みながら彼女は今回の発表に対し、それが嘘では無いかと薄々感じていた。

生憎、キャメロットと交流があるこの国において嗜好品といえばまずコーヒーであったため、すぐに紅茶を飲めないのが悔やまれた。

 

「(でなければこんな全部の新聞が奇襲と叫ぶわけがない)」

 

どこか責任のなすり付け合いによる情報の錯綜を感じ取られ、彼女はこのオルクセンの攻撃に同時に唖然となる。

周囲の白エルフ達はこの状況に憤慨する者や驚愕する者ばかりで、祖国を愛する者達によって既に軍に入隊する者もいた。

 

「(しかし宣戦布告から六日でファルマリアまで?些か勢いが良すぎる気もするが…)」

 

昔、グロワールが統一直後のエトルリアに武力侵攻をしたときに掛かった動員期間が四ヶ月ほどであると思うと、この侵攻は驚異的で、圧倒的な武力を投入しているに違いないと察した。

 

「お待たせいたしました」

 

すると彼女はウェイターが持ってきた食事を前に目を少し明るくする。

コーヒーと共に注文をしたのはライ麦を使ったパンに挟まれたきゅうりとハムのサンドウィッチである。キャメロットにおいてきゅうりは高級品であり、彼女もキャメロット人として繕ってきた影響か、段々と内側までキャメロット人になりそうであった。

 

「んん〜」

 

中にはマスタードが入っており、アクセントとしてピリッと舌にくる。

 

「美味い」

 

感想としてはそれだけだが、今後の事を考えるとこれもいずれ高級品となってしまうのだろう。戦争が始まり、オルクセン海軍による海上封鎖によって国外からの物資が入らなくなってきている。それはこのティリオンでも同様であった。

 

「…」

 

開戦により政府は動員令を発布し、北部やこの地から軍用列車を編成している。積んでいるのは大砲や火器弾薬。

基本的に人員は歩いて移動をするため、鉄道はあまり積極的に使わない。

デュートネ戦争の頃を基本に軍は教練をしているため、今となってはまるっきり古いといっても過言では無い。

 

「やれ」

「っ!」

 

物資と兵員を積んだ列車を確認したアグネスは言うと、線路上に仕掛けた地雷を起爆。路盤ごと吹き飛ばしてから戦果も確認せずに撤収をしていく。

 

「おい!何が起こったか報告しろ!!」

 

線路が爆発で吹き飛んだという通報を受けて鉄道の司令部は怒鳴ったが、電信も切断されており、どこで爆発があったのかを把握するのに時間がかかってしまった。

 

「ぐはっ!?」

「ぎゃあっ!!」

 

軍に後続している輜重馬車、そこに一斉放火が向けられる。飛び出してきた非正規兵にレバーアクション小銃で撃たれ、御者は頭を撃ち抜かれる。

 

ッ!ッ!ッ!ッ!

 

周りに草木をつけて隠していたエイガー機銃が発射され、持ち手を左右に振る事で無防備だった輜重馬車を襲う。

 

「なんだあれは!?」

「助けて!嫌ぁ!!」

 

機関銃で襲撃をされた彼女たちは瞬く間に機関銃の餌食となって斃れる。

 

「積荷を奪え」

「はっ!」

 

そこで襲撃を行った彼女達は馬車から弾薬を強奪すると、それを機関銃を牽引する馬に乗せて近くの拠点まで運び入れる。

現地調達を重きに置いているエルフィンド軍ではあるが、武器弾薬はどうしても専用の工場から運び出す必要があり、その車列を重点的に狙っていた。

 

「後続が来ます!」

「撤収しろ!」

 

そこで彼女達は輜重馬車から撤退を行う。

ここで強奪した武器弾薬はその後の抵抗運動にも積極的に使用され、エルフィンド軍を悩ませる事となる。

 

「やりましたね」

「ああ、大戦果だ」

 

拠点となるバラック小屋には鹵獲したエルフィンド軍の小銃と弾薬が積み上げられていた。

 

「流石に大砲は持って行けませんでしたが…」

 

奇襲攻撃の成功を受け、鹵獲できた武器の中にキャメロット製の7ポンド山砲などがあったが、重量過多で無理と言って破壊してきたのだ。

 

「代わりに壊したんだ。作るだけでも大砲ってのは一苦労なんだぞ?」

 

撤退をする際、鉱山用の爆薬を放り込んで砲身を破裂させた事で使用できなくした事で彼女達は徹底的に武器の破壊に努めた。

 

「これだけ集められたら、しばらくは戦えそうですね」

「…いや、それはどうかな?」

 

興奮気味な部下に、襲撃班の班長は冷静に考える。

恐らく、この状況をエルフィンド軍が放置する事はまずあり得ない。恐らく護衛ときた歩兵を付けてくるだろう、連中とてそこまで馬鹿では無いのだから。

 

「軍用列車は軌道破壊による足止め、もしくは脱線事故を引き起こし、輜重部隊は機関銃と森からの強襲による攻撃。これを基本にその場の環境に合わせてやり方を変えていくしか無いわね」

 

やっている事は所詮嫌がらせに近いため、向こうが本気で迎撃を始めればこちらは人員も火力も足りなくなってくる。その頃が潮時であると既にキアステンは言っていた。

 

「妨害が困難となったら、直ぐに撤退するのよ」

「分かっていますよ」

「色々と奪って隠す事も我々の仕事ですからね」

 

四名ほどの小さな襲撃班に分かれた彼女達は言う。

北部を中心に多くの山小屋やアパートに拠点を持ち、その数は軽く一〇〇を超えていた。

 

襲撃班はこうした拠点で寝泊まりをしており、暗号を受信してから襲撃に向かうルーティンを完成させた。

 

通報。

出動。

襲撃。

帰還。

 

このサイクルを回していく事で彼女達は北部で被害を拡大させてきた。

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