白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#41 開戦Ⅴ

エルフィンドとの開戦から約一ヶ月。

一一月も半ばに入り、南部のシルヴァン川、シスリン川を超えたオルクセン軍はその道中で占領地域でいくつかの発見があった。

 

「旧黒エルフ居住地域の新しい施設か…」

 

第一軍に従事していたカールは報告書を読んで口に出した。

 

「放逐後に建設されたと見られる施設です。全て同じ設計でしたので、図面を書くのにはそれほど苦労しませんでしたよ」

 

それは黒エルフが居住していた村々に建設されていた新しい施設であった。捕虜となった兵士や住民からの尋問で、これらの施設は入植直後に作られた施設であると答えた。

 

「材質はレンガと鉄筋コンクリートだと言っていたな」

「ええ、キャメロットで開発されたばかりの建材です。おかげで我々は野山砲を持ち込む必要がありましたよ」

 

そこで破壊され、修復が始められているというその村長や町長用の集会所も兼ねた施設の外観を見る。

 

「…報告書のこの転用可能なバルコニーとは?」

「はっ、屋上のバルコニーが大砲を設置可能なほどに巨大であると砲兵が申しておりました」

「そうか…」

 

その施設は見ての通りとても頑丈であるため、侵攻をした際には壊走した国境警備隊の一部の部隊が立て籠もって応戦をし、野山砲を持ち込んでやっと撃破していた。

今の所、旧黒エルフ居住地以外で同様の施設は確認されておらず、第二軍や第三軍は順調に進軍を続けていた。

 

「またその付近の村々の納屋も同様の材質で作られており、我々が接収をして堡塁代わりに使用しています」

「了解した。取り敢えず、この事は総司令部に上進してくれ。この先にもこのような抵抗拠点となり得る施設があるとな」

「はっ」

 

そして命令を受けて部屋を部下が後にすると、彼は軽くため息を吐いた。

 

「結局、まだ見つからないか…」

 

それは戦前、参謀本部にて企画された抵抗組織への接触である。既に接触後の資金提供なども加味した予算を編成していたのだが、いまだにその抵抗組織が見つかったと言う報告は受けていない。

 

「(だが見つからない理由も分かってしまう)」

 

彼はそこで他の戦域でも確認されている同様の事象にため息を吐いてしまう。

 

 

ーー魔術通信。

 

 

オルクセンではコボルト族や黒エルフ族などでしか行うことができない通信方法だ。しかし白エルフのみのここエルフィンドでは全国民がこの魔術を使える。

現在、アルトカレ平原を進軍しているアロイジウス・シュヴェーリン上級大将の指揮する第三軍では、占領地域の白エルフによる魔術通信を使った密偵がいることが確認されている。

第三軍はこのままエルフィンド有数の要塞都市であるアルトリアを包囲するのだが、その軍事行動は魔術通信によって筒抜けであった。

 

そして我々に味方をしてくれると推測される抵抗組織は白エルフである。故にこの密告がされる事を恐れているのだろう。魔術通信を日常的に使うことができる中で、彼女達は自分たちが抵抗運動をしていく事となると、通報をされる事が何よりも警戒している。

 

「(つまり、我々が見つけて接触を図らなければならないと言うことか…)」

 

恐らく、彼女達は我々が侵攻を始めた時点で作戦に入っているはずだ。

既に前線ではエルフィンド側に路線の破壊された後があり、機関車が復旧作業が途中のまま放置されているところをアンファウグリア旅団が発見し、電線の切断なども他の師団で確認されている。

 

「(しかし手がかりが少ない)」

 

カールはそこで耳のない白エルフに関する情報を現地に入ってから捜索をし続けているが、そもそもキャメロット人と間違われている時点で捜索は絶望的であった。

 

「路線爆破に使われていたのは地雷か…」

 

キャメロット製の高性能爆薬を使った地雷で、路盤ごと吹き飛ばされていたと言う。

 

「後方の撹乱のおかげで我々は助かっている。故に支援をしなければ…」

 

当該の事故車両は既にオルクセンの方で撤去が開始され、路線の復旧作業が始まっている。今は南部からも本格的に物資が搬入されていき、シルヴァン川に敷設された鉄道路線を徴用したことで間も無くすればシルヴァン川北岸からファルマリアまで鉄道が使えるようになる。

 

既にファルマリア港には海上輸送された船団の第一陣が到着をしており、キルシュバオム号を始めとした仮装巡洋艦艦隊による海上封鎖で拿捕された商船なども回航されていた。

 

「どうにかして見つけねばな…」

 

カールはその時の糸口を探っていると、彼のいた部屋に来客があった。

 

「やあ、調子はどうかね?」

「っ!これはこれは…国王陛下」

 

尋ねてきたのはグスタフであった。

こんな場所までご足労をさせてしまったことにカールは驚いて部下に直ぐにコーヒーを持ってくるように言った。

 

「すまないね、いきなり尋ねて」

「とんでもありません」

 

軽く首を横に振ってカールはグスタフをソファに案内すると、彼はそこでグスタフに聞いた。

 

「今日はファルマリアに居られるものかと」

「君の部署の方が進展がないと言う話を聞いてね」

「申し訳ございません」

 

カールは頭を下げると、グスタフは軽く首を横に振る。

 

「何の、その抵抗組織とやらはよほど警戒心が高いということだ。我々もして貰う手前、慎重に事を運ばなければならないだろう」

 

そこで提供されたコーヒー傾けてグスタフはそう答えた。

 

「何としても彼女達とは接触を図りたい。その黒エルフと取引をしていたと言う商会は?」

 

彼の質問に、既に旧黒エルフ居住地への物資の納入記録などから判明していた情報を伝える。

 

「はっ、ステン商会と言うファルマリアに本社を置く輸送や材木加工を行う業者です。黒エルフ放逐後に多くの輸送業者や林業関連施設を買収した南部の巨大企業です」

「その商会に組織との繋がりは無いのか?」

「それが…」

 

カールはそこで少し困った様子でグスタフに事情を話す。

 

「商会を調査したのですが、そのような証拠は一切発見できませんでした」

「…キアステン・ラーセンの名前は?」

「見つかりませんでした。またアグネス・ユーティライネンに関する情報も何も…」

「…そうか」

 

グスタフは少し残念そうに頷いた。カールとしては正直、ここまで白エルフに執着をしているようにも思える彼の言葉にカールは少し思った事を彼に言う。

 

「しかし陛下…」

「?」

「彼女達のことですが、あくまでも彼女達は()()()()行なった行動です。我々の戦闘を楽にさせてくれると言う点では、支援をする価値はありますが、はたして我々が支援をする必要はあるのでしょうか?」

 

カールの疑問にグスタフは少し間を開ける。

彼の言わんとする事は分かっていた。あくまでも彼女達の抵抗組織の破壊工作は勝手にやり始めた事であると、勝手にやってくれるのであれば我々が支援をしなくとも良いのではないかと言う疑問に、グスタフはコーヒーカップを置いてからカールに言う。

 

「確かに、向こうが勝手に起こした行動で我々が関与する必要も感じられないかもしれない」

「では何故…」

 

その疑問に彼は直ぐに答えを出した。

 

「彼女達が祖国への忠義を捨ててまで行動をする理由だよ」

 

グスタフはカールの目を見て言った。その目は強い感情を持った目をしており、思わずカールも背筋が伸びてしまう。

 

「今まで見てきたらわかるだろうが、エルフィンドに住む白エルフ達は強い愛国心を持っている」

「ええ、魔術通信で我々の居場所は丸分かりのようなものですからな…」

 

今の第三軍の状況などがまさにそれで、頭が痛くなる話だと内心で思うと、グスタフは続ける。

 

「それほど強い愛国心を持っていた白エルフ。それは彼女とて同じだ。なのに彼女達は我々に味方をする行動をとっている」

「…」

 

カールはそこでグスタフの話に引き込まれるように話の続きを聞く。

 

「恐らく、同族嫌悪から来るものだろう。彼女達は黒エルフ族の虐殺を目の前で見てきた」

「…なるほど、虐殺を行った事への嫌悪ですか」

「そうだ。『黒エルフを虐殺した奴らと同じに見られたくない』それが彼女達が線路を爆破し、電信を切断する理由だろう」

 

彼は今もゲリラ戦を展開している筈の白エルフ達のいるであろう北の方角を見る。

 

「私はエルフィンドを…この国を滅ぼそうとしている。当然、白エルフの自尊心は凡ゆる機会を使って必ず打ち砕からければならない。だが彼女達は率先して国への報復を行なっている」

「…確かに、我々の同胞として取り込まれれば、戦後の占領政策も比較的に楽になりますか」

「そうだ。我が国は『併合をした民ですら差別を行わない多民族国家』として白エルフ族もその臣民として受け入れやすくする必要がある」

 

グスタフはそう言い、カールにここに訪れた理由の一つを伝えながらその必要性を話す。

 

「その第一歩として、その白エルフの抵抗勢力を是非とも我々の同胞として迎え入れ、オルクセンへの抵抗感を薄めなければならない」

「…」

 

カールは薄々予感していたが、今の彼の話で確信をした。

今もオルクセンはベレリアント半島を北上しており、その道中で破壊工作が行われた形跡を確認していた。

そして白エルフ族をオルクセンの味方に付けることは、彼女達へオルクセンへの門度を開く、占領後に我々と接しやすくすると言う意味でも必要な事なのだと理解する。

 

「…分かりました。我が局も全力を上げて接触を行います」

「ああ、もしキアステン・ラーセンと接触をしたら直ぐに連絡を入れて欲しい」

「わ、分かりました」

 

グスタフの注文にカールは一瞬驚くも、国王からの命令であった為、何故かと聞くことはなかった。

以前にもキアステン・ラーセンの話をする時、グスタフはその報告を直ぐに持ってきて欲しいとカールに直々に伝えており、彼としてはそこまでその白エルフにグスタフが興味を示す理由が分からなかったが、ともかくも命令の通りに彼女に関する報告書は国王大本営に届けていた。

 

「ところで何だが、噂の施設というのはここでいいのかい?」

「軍事転用可能な施設でしたらそうです」

「うむ、少し見て回っても良いかい?」

「どうぞ、ご案内いたします」

「悪いね」

 

カールの案内でグスタフは師団司令部として徴用された建物の視察を始めた。

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