ファルマリアやモーリアと言った南部の都市を次々と攻略をしていくオルクセン軍。
日付は一一月も終わりかけの頃。ちょうど第三軍がアルトリアを包囲して壮絶な砲撃戦を繰り返し、洋上ではオルクセン海軍が苦闘をしてエルフィンド海軍の装甲艦リョースタを撃沈せしめ、東部では第一軍の先鋒としてアンファウグリア旅団が占領をしたファルマリアを超えてネヴラスまで進出をしようとしていた時期。
戦場となったベレリアント半島において、キャメロット政府が派遣した邦人引き揚げ船がエルフィンドやオルクセン占領地域に到着をしてくる。
月の半ばにエルフィンド海軍によって行われたオルクセンの海岸部での砲撃は、数少ない勝利として新聞で大きく喧伝されたが、それは後に『赤ん坊殺し』としてエルフィンド海軍への憎悪に変わり、アルトリアにおける無慈悲な砲撃への口実となったのは皮肉と言うべきだろうか。
「…」
ティリオンで報告を読んだブレンウェルは鋭い眼光を報告にきた部下に見せる。
「開戦後の路線爆破は十二回、輜重隊への襲撃は二三回…」
それは開戦後、北部や中部に仕掛けられたエルフィンド軍への奇襲攻撃の回数であった。
襲撃した部隊は重装備で、レバーアクション式小銃や連続して弾が発射される武器を持っているという。
「何も襲撃をしてきた者達の特徴は一致しています」
「連射可能な銃を持った襲撃者だと?敵は軍隊か何かか?」
この時点で彼女はオルクセン軍がファルマリアなどで用いたパンパンと音を立てて連続で小銃弾を発射してくる兵器の情報を掴んでいた。
彼女はそんなものを持ち込んだ襲撃部隊がただの反政府勢力とは到底考えていなかった。
「いえ、軍隊ではないそうです」
「そんな訳はない。これほどの重装備を一介の反政府勢力が持っていると思うのか?!」
最後の方はほぼ怒声となってブレンウェルは部下を叱りつけて机を叩く。
襲撃者の特徴も千差万別で顔をスカーフで隠している者や、顔を泥だらけにした者や素顔の者。まるで一致していなかった。
「長官!」
すると部屋に別の部下が飛び込んできた。
「またです」
「チッ、今度はどこだ…」
「タスレンに向かう車列です。路線上に爆発を確認しました」
新たな襲撃の報告を聞き、ブレンウェルは舌打ち混じりに報告を聞き、彼女の脳内にベレリアンと半島の地図が書き起こされる。
「半島東部か…」
近い海岸沿岸部を襲撃され、その規模の大きさにブレンウェルはこの妨害行為が複数の組織によるものであると推察した。
その襲撃をされたタスレン郊外の鉄道路線。
「突撃しろ!」
「撃て!」
列車を襲撃したのは反政府系の組織であった。以前、秘密警察による摘発から逃れた彼女達は、その後に接触をしてきたとある同志から爆薬と火酒を受け取っていた。そして彼女達は戦地に向かう軍用列車に攻撃を仕掛けていた。
「迎撃!」
「撃て!」
そして襲撃を列車には完全武装した歩兵達が乗っており、無蓋貨車の壁面を縦に小銃で発砲を始める。
双方で銃撃が飛び交い、銃撃の応酬が行われる。しかし圧倒的な火力を持ち、尚且つ無蓋貨車によって膝撃ちで防護される陸軍部隊の方が圧倒的な優勢であり、襲撃を行った面々は次々と撃破される。
「ぎゃあっ!」
しかし火をつけた火酒が投げ込まれ、数名の兵士が焼かれて悲鳴を上げた。
「撃ち殺せ!」
「逃すなよ!」
指揮官はそれでも尚怯むことなく銃撃を行い、火炎瓶を投げた者を射殺していく。
「おい見ろよ」
「こいつら、指名手配犯じゃないか!」
そして死体となった面々を見てエルフィンドの陸軍兵士たちは驚愕をしながら破壊された軌道の修復を行なっていた。
このために機関車よりも前方に復旧資材の線路や枕木を備えていた。
「助かった…」
「でも気をつけろよ。まだ他にも隠れているかもしれないんだから」
そして森で立哨をしていた彼女達は、線路の復旧が終わるまで停車せざるを得なかった。
こうした列車や街道を狙った襲撃は開戦後に至る所で頻発しており、ブレンウェルは裏でを引いている者達がいるとすぐに結論づけた。
「捕まえた連中は?」
「はっ、尋問を行っています。間も無く情報が来るかと」
彼女達もこう言った後方での襲撃に対し、頭を悩ませていた。
「対応はどうなってるんだ?」
「現在、陸軍省は貨車に装甲と大砲を装備した改造貨車を製作して対応しています」
こうした襲撃に対し、エルフィンド軍は対応を拱いたわけではない。
路線が爆破されれば、それにすぐに対応をするために先頭の無蓋貨車に枕木や線路、犬釘などの復旧用資材を積み込み、武装した兵士達を乗せて移動をさせる。
「尋問が終わりました」
すると執務室に一人が出ていくと、また新しく白エルフの秘密警察の職員が入ってきて、保有している古城の尋問室で収集した情報を伝える。
「逮捕した襲撃者によりますと、キャメロット人に火炎瓶の作り方と爆薬を貰ったとのことです」
「キャメロット人…」
「茶髪碧眼で、胸が大きい女性だと」
「そうか…」
襲撃に使われた火炎瓶の材料は火酒、エルフィンドでは白も黒も問わずに火酒は大量に飲むため、市井でも簡単に確保ができる代物である。
「厄介だな…」
「姿勢に対する酒類の販売を禁止にしますか?」
「馬鹿者。そんなことできる訳がないだろう」
火酒は国を象徴する飲み物でもあり、エルフィンドの輸出品にもなる代物である。街に一つ醸造所が存在している状況で規制なんてあってないようなものになってしまう。下手をするとただでさえ敗戦続きであるというのに、暴動が起こるかもしれなかった。
「火炎瓶対策で陸軍省に装甲貨車に鉄板を張れと言っておけ」
「わかりました」
ブレンウェルに部下は敬礼をすると、急足で部屋を出ていく。
「すぐに爆薬を売りつけているキャメロット人を探せ」
「わかりました」
そして次に彼女は言う。
「入国管理局に連絡をしろ。茶髪で碧眼のキャメロット人を探せ」
「すぐに作業を行います」
次々と職員が右に左に走り回って最前線で戦っている兵士たちの後ろで彼女達もまた、内部からの敵の対応に悩ませられていた。
尋問で得られたキャメロット人を中心に捜査が行われ、彼女達はこの時点で国内に残置しているキャメロット人を洗い出す。
「こいつか…」
すでに多くのキャメロット人は引き上げ船に乗って国を離れており、その特徴で得られた旅券情報はすぐに合致した。
「アイリーン・アドラー…こいつだな?」
その日のうちに結果が出てきた。ログレスに在住する女性だと言う。
「この女を探せ」
「罪状は?」
「無い。相手はキャメロット人だぞ?」
つまりは令状無しで見つけた瞬間に拘束をしろと言う命令に職員は一瞬目を見開いた。
「分かったら行け」
「はっ!」
しかし逮捕するのはキャメロット人、外国人である。
この国において唯一、外交を持ち合わせた国であるキャメロット。その国の国民がこの戦争において反政府勢力に爆薬を売りつけている。そして路線を破壊して部隊の展開を脅かしている。
「…」
ブレンウェルは追い詰められてもおり、これ以上の失敗は自分がダリンウェンから得た信頼を脅かされていた。
「『分断せよ。然るべき統治せよ』…これは占領政策の根幹よ?」
「しかしこれは中々…」
目の前で土の下に埋められていくカツラとキャメロットの旅券。それを前にキアステンは言うと、その隣でアグネスは苦笑していた。
「もったいないですね」
「でも内務省でキャメロット人の私が特定されちゃったし、まあ危ないわよね」
彼女はそう言い、買収された秘密警察の長官から聞いた情報を前にため息を吐く。
「でもよく取り込めましたね。そんな人」
「元々プロ意識が高いからね。まあ今の教義を神格化した現政権には疑問を持っていたから狙ったのよ」
サラリと彼女は言うと、それを知ったアグネスは一瞬目を見開いた後に笑い出してしまった。
「…ふふっ」
「どうした?」
「いや、商会長のやることは末恐ろしいなと思っただけですよ」
アグネスは二〇代前半で見た目が固定されている若々しい白エルフを見て苦笑した。
「やれやれ、どうしてこんなに早くバレるかね」
「爆薬売って火炎瓶の作り方を教えたからじゃないんですか?」
「まあね」
そこで彼女は自分の履いていた靴を脱いで新しい靴を履く。
その靴は一見するとただの靴なのだが、裏面を見ると違和感があった。靴底が真ん中で線対象になるように作られていたのだ。
「これで足跡は分からなくなるはずだけど…」
「ええ、犬を連れてきていなかった陸軍が足跡を追って道に迷っていましたよ」
アグネスはそう言い、その時の光景を思い出す。
襲撃の後、足跡を追って追跡を行ったエルフィンド陸軍であったが、前後で足跡が同じなことで、どちらに向かったのかが分からずに森の中で遭難してしまうと言う失態まで招いていた。
「そろそろ潮時かね…」
「いえ、まだやれますよ?」
街道の近くで野営をしていた彼女達は、そこで履き替えたブーツを使って馬に乗り込む。
「まだやるの?」
「ええ、奪った武器はまだ大量にありますからね」
すでに仕入れた地雷は全て使い切ってしまった。元々それほど量を仕入れられなかったことから使い切る前提で最初の路線爆破などで景気良く使用した。
「すでに秘密警察の連中は積荷の記録を調べて商会のことを調べたんじゃないんですか?」
「さあね。少なくとも内務省の連中は頭を抱えていると思うわよ」
キアステンはそう言って頷くと、馬を常歩で歩かせて集団全員が馬に乗る。
「これからどうするんですか?」
「無論、続けるわ」
正直、自分が思っている以上にこの国は厄介であった。
鉄道路線は貧弱かと思っていたが、それ以上に復旧をするための愛国主義的思想による人海戦術ですぐさま復旧をしてしまう。最初のファルマリアに向かう列車だって、オルクセン軍の快進撃がなければすぐに復旧されていただろう。
「やれやれ」
「まあ行きましょう。我々には足がありますし」
そう言い、鞍から左右にぶら下げられた火酒と共に移動をする他の白エルフ達を見る。
火炎瓶にも使えるが、火酒であるため彼女達はそれを飲むこともあった。空になっても、中に爆薬を入れれば手榴弾としても使えた。
「よし、次にカナリアが鳴いたら移動するぞ」
「了解」
キアステンはそう指示をすると、馬を歩かせて南下をしていった。