白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#44 開戦Ⅷ

季節は進み、一二月に入った。

あれからもオルクセン軍は進軍を続け、要所であったアルトリアを陥落させた。

三週間にも及ぶ砲撃戦の後、都市の糧秣が底をついたことで降伏をしたエルフィンド軍は、降伏をしたオルクセン陸軍の第三軍に多大な出費を強いていた。

 

洋上でも海軍の活躍によって制海権を手中に収めたことで完全にベレリアント半島は海から切り離されることとなった。

その頃、南部のファルマリアに司令部を置いた国王大本営の一室で、カールはいくつかの情報を収集していた。

 

「…」

 

それは以前、国王グスタフによって命令をされて行われた建築物の調査結果についてであった。

 

「つまり、南部の村落の施設の設計を行なったのはその技師で間違い無いんだな?」

「はい。設計をした白エルフ族の情報によると、ステン商会から資金提供を受けて設計をしたそうです」

「…」

 

それは黒エルフ居住地に建造されていた施設の設計者が漏らした情報であった。

 

「またファルマリアにて行われてる密偵の中に奇妙な通信があることも確認されています」

「例の…数字しか言わないやつだな?」

 

カールはそう言い、ファルマリアやモーリアでも確認されているその謎の暗号通信について報告を受けたグスタフが言ったのだ。

 

『これは難しい。しかし軍用の通信ではないな』

 

確かに、今までの密偵というのは基本的に古典アーブル語や日常会話風に偽装されたもの。しかしこの魔術通信はひたすらに番号を言うだけのものであり、異常であった。

 

『おそらく事前に決めてあった暗号表だろう』

『ではエルフィンドの諜報員?』

『いや、エルフィンドにそこまで規則を細かく決めた諜報員はいないだろう』

 

グスタフははっきりと断定した上でカールに答えた。

 

『魔術通信の会話可能範囲は約二.五キロ。これをもし本国に伝えるとしたら何人もの白エルフを解する必要があるし、何よりコボルト兵や黒エルフ兵に探知される。前線でもいくつか同様の報告が上がっているのだろう?』

 

事実だった。前線を進むアンファウグリア旅団は海岸沿いに何度か同様の通信がされていることを探知し、現場に急行をしたことがあったがその時にはすでに馬の足跡だけが残されていたと言う。

 

「普通なら拘束を装って接触をしてくるのではないか?」

 

カールは困惑気味にその報告を聞いた時は首を傾げたものだ。

戦争が始まってしばらくが経過し、それでもなお尻尾の掴めない抵抗組織に彼は頭を抱えていた。

 

「軍から漏れることを警戒しているのでしょう。なにせ彼女達にとってみれば周りが全て敵な訳ですからな」

 

すると部下がカールに事情を察した様子で答えた。

エルフィンドに侵攻して判明したことと言うのは、基本的に国民の多くは強い愛国心を持っており、最初の頃もオルクセンに対して敵対的な姿勢を見せていた。

 

「しかし、ここでもステン商会か…」

 

カールはそこで設計図の制作を依頼した会社の名前に指を当てて考え込む。

この会社は、黒エルフ放逐前は彼女達と取引をしていた企業であり、放逐後に一気に輸送業と林業を中心に拡大をした企業で、オルクセン陸軍はこの会社から保有していた建設中の鉄道路線を徴用していた。

無論、黒エルフ放逐前に取引をしていたことからカール達は早速事務所があり、尚且つ商会長がいたここファルマリアで商会長のフレン・クレブスに面会を所望した。

 

『キアステン・ラーセン?誰ですか?』

 

だが彼女から帰ってきた言葉にカール達は驚愕し、従業員名簿を見ても確かに彼女の名前はどこにもなかった。

彼女が嘘をついている様子は見受けられなかったため、カール達は困惑しながら事務所を後にしたものだった。

 

「このままじゃあ、見つける前に戦争が終わっちまいそうですね」

「それがありそうだから怖いんだ」

 

カールはそう言い、抵抗組織の隠匿具合に舌を巻きながら、同時に見つけられないことへの恐怖がわずかに出てきた。

 

「そう言えば商工省の役人が話を聞いて驚いていましたよ。『こんなものを注文した覚えはない!』って」

「ああ、あれは傑作だったな」

 

情報局に常駐していた士官達はそう言って税金を使って建築された建物が、注文内容と違ってひっくり返っていた白エルフの役人を思い出して笑っていた。

 

「あっ!そういえば南部に資材を運んだのもステン商会でしたね」

 

そこでペラペラと紙をめくって一人の士官が言った時、カールの机を叩く音が止まった。

 

「…待て」

「?」

 

そこで顔を上げた彼はその士官を見た。

 

「今、何といった?」

「え?ステン商会ですが…」

「そうだ。今、何と言った?」

 

詰め寄るように彼は士官に聞くと、ドワーフ族のその牡は持っていたバインダーの資料を見せながら言った。

 

「南部に建材を運んだのはステン商会と…」

「…」

 

ファルマリアの市役所で奪取した南部入植地への物品納入履歴を見て彼は考える。

 

「(建材の納入を行なったのもステン商会。設計も同社?そんなことがあり得るのか?)」

 

そもそもの話、役人がひっくり返って驚いていたあの建物。明らかに軍事転用を想定されて建造されたそれを、商工省の役人が知らないはずがない。あれの建造費は商工省が出した税金で作られていたのだから。

 

「(北側に向けられた施設。撃ちやすい構造…)」

 

今、彼の中で何かがつながった気がした。

 

「…おい、地図あるか?」

「こちらに」

 

カールに直ぐにベレリアント半島の地図が渡されると、それを見た彼は部下にさらに聞く。

 

「例の魔術通信があった街は分かるか?」

「あ、はい!」

 

そこで士官がカールに言われて次々とその不審な魔術通信が探知された場所を読み上げていき、その場所に鉛筆で印をつけていく。

 

「…」

 

そして印を打ち終えた彼は、次に今まで何度か名前の上がってきたステン商会の資料を要望する。

 

「…おいステン商会の簿記ってあるか?」

「こちらに」

 

散々抵抗組織があるかもしれないとして目をつけていた企業だ。銀行からも帳簿の資料を回収していた。そこで出納帳と合わせて見ていく。

 

「…」

 

カールはそこで商工省に提出をされていた商業登記の確認を行い、帳簿の名前と見合わせていく。

 

「…あった」

 

彼はそこで従業員名簿に残されていた一人の名前に指を当てる。

 

「メアリー・モースタン…」

「あれ?その人ってキャメロット人ですか?」

「ん?聞き覚えがあるぞ?その名前」

 

カールが名前を呟くと、一人の士官が言い、カールは直ぐに答える。

 

「登記簿だ。最初に申請されたキャメロット人の名前だよ」

 

そこで並べた商業登記を見て彼は言う。

 

「え?じゃあその人ってもう死んでるんじゃないんですか?」

「ああ、人間族だったら軽く一五〇は超えるからな。まずあり得ない」

 

長命な魔種族であれば一〇〇年などまだまだ若造であるが、短命な人間族であるならまずよほど健康的な人でもあり得ない年齢をしていた。

 

「しかし、この出納帳によれば一ヶ月前にも両替をされてキャメロットの銀行に支払いがされている」

「え…?」

「本人は死んでいるかもしれないのにですか?」

 

部下はそこでその講座に驚いていると、カールは続ける。

 

「ああ、しかも半年以上前だが引き出された記録もあるな」

「「「…」」」

 

従業員名簿から直ぐにその人物の出納帳を見て彼は言う。

 

「おい、ここ最近にステン商会が仕入れた武器。あったよな?」

「ええ、去年の末に狩猟用としてレバーアクション小銃とボルトアクション小銃が…」

 

少し慌ててステン商会から押収をした伝票の確認をしていく。

 

「…その販売記録は?」

「すべてカワウ傭兵団に売却をされています」

「その金額は?」

 

そこで士官はその金額を報告をすると、カールは出納帳に書かれていた資金の金額を見る。

 

「見ろ。売却の二週間前にカワウ傭兵団に支払いとして同額の報酬が支払われている」

「何と…!?」

「偶々では?」

「いや、よく見ろ。弾薬の購入費用も同じ金額だぞ」

 

そこで帳簿を持って来た部下が次々と紙を捲って直近の弾薬の購入費用と、カワウ傭兵団への護衛依頼の報酬の一部の金額が一緒であることを確認する。

 

「そう言うことか…」

 

カールは全て納得が行った様子で座っていた席に座り込むと、思わず笑みが溢れる。

 

「ふふふ…ふははははははっ!」

 

カールはひとしきりに笑い出すと、それを見ていた部下達は狂ってしまったのか!?と驚きの目で見ていたが、直後に彼は席を立つ。

 

「おい、ここに散らばった資料を片付けろ」

「局長、どちらへ?」

「商会に捜査に協力してくれた礼をしに行く。馬車を回してくれ」

「わ、わかりました」

 

カールの一言に部下達は慌てて資料の片付けを始めると、彼は用意された馬車に乗ってファルマリアを走る。

 

 

 

時刻は午後の八時。オルクセンに占領をされたファルマリアでは、白エルフ達は恐怖に怯えながら家で食事をとる時間帯であった。

 

「…」

 

その中で一人、商業街の事務所でフレンは残って残業を行なっていた。他の従業員達はすでに帰宅をしており、事務所には彼女しかいなかった。

入り口前の机を貸して仕事をしていると、店の入り口のドアが開かれた。

 

「失礼。フレン・クレブスさん」

「…おや、オルクセンの兵隊さんですか」

 

そしてこんな時間に店にやってきたコボルト族の兵士に、少し嫌な顔をする。

当然だろう、彼女はこれまでにオルクセンから帳簿や出納帳を持っていかれ、建設中の路線まで持っていかれたのだ。心象ははっきり言って最悪であった。

 

「また何か持っていかれるのですか?」

 

今度は港の荷物ですか?などと嫌味を効かせて聞いてきた彼女に、カールは被っていた帽子を取って返す。

 

「その節は大変ご迷惑をおかけしました。まもなく資料は全て返却させていただきます」

「…」

 

一礼をして彼は言うと、フレンはやや驚いた様子でカールを見た。

 

「それにつきまして御社には一つ、ご協力をお願いしていただきたく思いまして」

「?」

 

フレンはどうしたんだと首を傾げると、夜分遅くに訪れたカールは言う。

 

「メアリー・モースタンという女性について、お聞きしたいのですが…よろしいでしょうか?」

「…」

 

カールは言うが、彼女は表情を変えなかった。その為、少し仰々しく、そして正直に続けた。

 

「いやはや、貴女方には負けました。降参です。これほどヒントがあったにも関わらず遅れて申し訳ありません」

 

彼はそう言い、帽子を被り直してフレンに話す。

 

「カワウ傭兵団には一体いくら支払いをしたのかも含めて、詳しくお話をお聞かせ願ってもよろしいでしょうか?」

「…」

 

カールの言葉にフレンは間を開けてから大きくため息をついて、そして言った。

 

「意外と、オルクセンの捜査って遅いんですね」

 

その時の目はやっとかと言う呆れと疲れを混ぜたものであった。

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