白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#45 開戦Ⅸ

夜遅く、商会の応接室にてカールはフレンと対面でソファに座っていた。

 

「どうぞ」

「ああ、これは失礼」

 

カールはそこでフレンから直接コーヒーを提供されると、カールはありがたくそれを受け取って飲み始める。

 

「んん、良い香りだ」

「まだ残っていた本物です。まあ味は保証しますわ」

 

彼女はそう言い、カールに答えてからカップを置いて一拍。

 

「それで、私共に何を要望されるのですか?」

「資金提供の申し出です」

 

カールは単刀直入に言うと、続けて言う。

 

「我々は国王大本営より、貴女方へその活動を支援するよう命令を賜っております」

「…」

 

彼の言葉に、フレンは少しだけ間を置くと、執務室のテーブルの引き出しを開けて一枚の紙をカールに見せる。

 

「これは?」

「我々から要求するものです」

「…」

 

渡された目録は、カールを持ってしても正確に書かれていると思った。

 

「ちなみに言っておきますが、我々はあなた方の想定以上に準備を行って来たのですよ」

 

そこでフレンはカールの目をしっかりと見て言った。

 

「…いくつかお聞きしても?」

「どうぞ」

 

カールはそこでフレンを見つめて渡された目録を見て聞いた。

 

「この中のあなた方が求める鹵獲した武器弾薬の提供は分かりました。爆薬も我々の方で準備させていただきます」

 

その要望書に記された内容は至って抵抗勢力らしい武器の要望であったが、末尾に記された内容に首を傾げた。

 

「この会社の買収に関しての阻止してほしいという提案ですが…これは?」

「戦後に向けた対応です」

 

フレンは短く答えると、その続きで理由を話す。

 

「我々は南部に輸送網を構築しています。しかしエルフィンドが敗北してこの地域がオルクセンのものとなった場合、オルクセンの企業による買収行為を我々の経済力では阻止しきれませんので」

「…」

 

素直に彼女は言った。確かに元々のエルフィンドの経済規模とオルクセンの経済規模は違う。すでに占領地域にはオルクセン国有銀行の支店が進出し、このステン商会もオルクセンとの取引を行うために保有していたティアーラ通貨のラング通貨への換金が行われているのを知っていた。

 

「我々とて従業員の明日を背負っておりまして、損切りの対象にはされたくないのですよ」

「…分かりました」

 

フレンの言葉にカールは頷いた。オルクセンの企業は彼女達の目にとってみても驚異的であるのだろう。

すでに陸軍は彼女達から私有鉄道路線の徴用を行い、路線敷設によってファルマリア駅から南部までの路線を走らせている。

そして何より、彼女達は北部で活動を行っている組織の支援している。これを使えば、多くの情報を仕入れられることとなる。

 

「そうですな…フレン・クレブス商会長、定期的に我が総司令部にお越しいただけませんか?表向きは、徴用した路線状況の説明と貴社の帳簿の数合わせという形で」

「分かりました。私めが赴きましょう」

「…よろしいので?」

 

商会長が態々顔を出しに来るということにカールはやや驚くと、彼女は頷く。

 

「ええ、元より我々でなければ知り得ない情報ばかりですので」

「っ…」

 

カールはその一言で十分だった。

南部に広く展開し、一部は北部までその手を伸ばしていたステン商会。彼女がいうならその支店長クラスの人間であれば誰もが知っているということだ。

 

 

ーーつまりこの会社は創設をした段階からこの計画を始めていた。

 

 

彼は震えた。それほど長い期間をかけてゆっくりと、しかし根深く憎悪の根を彼女達は張り巡らせていたのだ。

おそらく、彼女達ば武器を卸していたカワウ傭兵団に関しても彼女達が一枚噛んでいるに違いない。

するとフレンはカールの心を読んだように返す。

 

「ああお気遣いなく。カワウ傭兵団は()()()()我々と契約を交わし、南部へ資材を運ぶ馬車の護衛任務を行なっております」

「…」

 

つまり、カワウ傭兵団内部においても彼女は抵抗組織を隠していると言ったのだ。

カールでさえ部下の呟きがなければもっと発見が遅れていただろうと思っていた。この商会はエルフ放逐後に急拡大をした企業として、オルクセンとしては解体を考えている企業でもあったが、カールは全て理解していた。

 

 

ーー彼女達がここまでの拡大を行ったのは、エルフィンドに対して本格的に構える体制を構築する為であった。

 

 

その為に破壊された黒エルフの森に軍事転用可能な砦や堡塁としてあの村長用の施設や納屋を拵え、経済的にも南部の商人達にけしかけてスクラムを組ませ、北部との経済的な分裂を図った。

もしかしたら、我々が侵攻をあと一〇年でも遅らせていれば、エルフィンドは内戦状態に至っていた可能性だってあった。

黒エルフ放逐を使った内戦への一手。急拡大をし、南部で発言力を持つことで彼女達は知らぬ間に北部や中部の白エルフ族に亀裂を入れようとしていた。

だから、オルクセンが来ても対応できる様に予め準備をしていたのだ。その結果がこの目録だ。

 

そのことにカールは内心で顔を青くしてしまう。目の前のフレン・クレブスと言う商会長はそこまで考えていたのだ。

たった一度の放逐でこのような事を思いつくわけもなく、商会が創設された時期を考えればコボルト族放逐である。その頃から彼女達は虎視眈々とエルフィンド全土を炎の渦に巻き込もうとしていたのだ。

その事を相手に悟られないよう、彼は平静を装って要望書に書かれた物品に指を差した。

 

「そして…この粉乳というのは?」

「ええ、この場所に行ってください。そして彼女達を保護してください」

 

彼女が指を置いて指し示したのは南部のとある廃村だった。

 

 

 

その後、カールの指示を受けてその廃村に粉乳の缶詰などを持ったオーク兵が建物に入ると、

 

「おいおい…」

「赤ん坊じゃねえか…!?」

 

そこでは白エルフに介抱されていた黒エルフの乳幼児がおり、施設の外にて両手をあげていた白エルフ族数名はすぐに警戒を説かれて後方の野戦病院にその乳幼児達は送られた。

この保護をされた十四名の黒エルフの乳幼児に対し、グスタフはすぐに匿っていた白エルフ族から受け取った情報を頼りにオルクセン式の出生届を提出させ、亡命という形でオルクセンに送られた。

育児を担当していた白エルフ族の数名もこの時に亡命という形でオルクセンへの移住を提案されたが、全員がそれを断って占領地域に残地を選んだ。

 

後年、その保護をされた黒エルフ族を育てていた白エルフは取材にこう答えた。

 

「ええ、確かに別れるのは辛いですよ。なにせ一年近く育てて来ましたからね」

「ではなぜ彼女達を手放したのですか?」

 

オーク族の記者の問いに、彼女は少し間を開けながら答えた。

 

「だってあの頃の私たち(白エルフ族)に育てられたってなったら、あの子達は同じ黒エルフ族からも、白エルフ族からも差別を受けられてしまうでしょう?それで失輝死なんてことになったら悲しいから」

 

その時、取材を行った記者のペンは止まってしまった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃、最前線でアンファウグリア旅団はファスリン峠の戦いにおいてエルフィンド最強と謳われる騎兵師団の黄金樹(マルローリエン)旅団を迎撃せしめ、その後に北上を続けていた。

 

「…ん?」

 

その時、戦闘地域となったとある地域に展開していた第二騎兵連隊の一人が首を傾げた。

 

「どうした?」

「いや、あいつら何やっているのかなって?」

「?」

「あそこです」

 

そこで彼女が指を差して見ると、そこでは線路上に人影が見えた。

彼女達はこの先に進撃中であるというエルフィンド陸軍の部隊を追撃しようとしており、その道中で線路上に不審な影を見たのだ。

 

「…」

 

その影は線路上に何かを置いて行き、その後にどこからともなく現れた馬に乗って撤収をしてしまう。

 

「すげぇ」

 

ほぼ馬が止まっていないにも関わらず飛び乗ってあっという間に消えてしまった事に舌を巻いていると、その直後に線路が爆発をした。

 

「っ!?」

 

一瞬、敵による破壊工作かと思った。何せ今まで占領をした村落は全て糧秣が無かったのだから。しかしその直後、夜を灯りを灯した列車の急ブレーキ音が響いて機関車が爆発をした箇所に突っ込んで脱線をしたのだ。

 

「おい!」

「ええ!」

 

そこで魔術通信を使うと、そこでは誰かが言っていた。

 

『任務実行。追跡無し』

 

魔術通信を聞き、彼女達は襲撃で破壊された列車からエルフィンド軍が出てくるのを尻目に夜の闇に消えようとしていた。

 

「この先は峠だ。周りこめ」

「了解」

 

彼女達はそこで頷いて二騎を追いかける。

 

「今まで散々おちょくられてんだ。逃すかぁ!!」

 

彼女達はそう叫び、馬をを駈歩で走らせる。

彼女達は開戦以降、何度か似た様な魔術通信を受けており、その度に部隊を派遣したが、彼女ただはその前に逃亡をしてしまっていた。その度に悔しい思いをしていた。

するとその二騎は二人も乗っていることから騎兵よりも速度が劣っており、次第に追いつく。

 

「止まれ!オルクセン陸軍である!」

 

名乗りをあげて停止を呼びかけたが、二騎は止まらずに駆け抜けていく。

 

「チッ」

「隊長!威嚇射撃をさせてください」

「待て!この距離は当たる!」

 

小隊長は言ってこの先の地図を川や地図と照らし合わせてニヤッと笑った。

 

「そろそろだ」

 

すると直後に峠道の反対に別のオルクセンブラックの上衣を纏った騎兵が飛び出してきて追いかけていた二騎は馬を慌てて止めた。

 

「馬から降りろ」

 

小銃を向けて指示をすると、二騎から四人が降りてきて彼女達は慎重に近づく。

 

「そのまま両手を上げて」

「…」

 

一人が銃口を彼女達に向け、一人が近づいて四人の白エルフ族を見る。

 

「やっと見つけたぞ、貴様ら」

 

そして中隊長は跨ったまま彼女達を見下ろすと、白エルフの一人が言った。

 

「オルクセンさんか」

 

彼女達は分かっている様子でアンファウグリア旅団を見上げる。そしてニヤリと笑いながら言った。

 

「隊長さん、もう少し気配りが大事じゃ無いかい?」

「?…っ!?」

 

その瞬間、一瞬首を傾げたが、すぐに彼女は気がついて横を見上げた。

そこでは黒光りする銃身が峠の森の中で木の葉に隠されており、彼女達に照準を向けていた。

 

「…」

 

彼女はその事に驚愕をした。何も感じられなかったのだ。

すると包囲をしていた四人の白エルフは言った。

 

「やっとお会いできましたな。オルクセンに渡った黒エルフさん」

 

この言葉に中隊長は表情が引き攣りながら見ていた。

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