散々焦らしてきやがったのはどいつだと言ってやりたかった。
目の前の四人の白エルフの他に、この峠には機関銃やレバーアクション小銃を装備した面々が隠れていたのだ。その数はおおよそ二〇名。
「予め追跡をされた時に使う道です。今回はあなた方がオルクセンだから良かったですが…」
峠道、そこで私服姿で現れた白エルフ。その首元にはスカーフが巻かれていた。
「降伏します。我々はどちらに?」
「…旅団本隊に連れて行け」
中隊長は拳を握って辛うじて言葉を絞り出すと、拘束をした彼女達を後方に向かわせる。
「貴様らの隊長は誰だ?」
「私だが?」
「違う、お前達に指示を出している奴だ」
機関銃を指揮していた白エルフに言うと、彼女はこう返してきた。
「ならあんた達の予想通りだと思うよ」
「…」
そう言う意味じゃねえよと言う呆れた視線を中隊長は送った。
作戦中に白エルフを拘束したという報はすぐにディネルースの耳に届いた。
「すぐに向かう。拘束した彼女達の居場所を教えてくれ」
彼女は第一軍総司令部から…国王大本営からの指示により、第一軍の先鋒を行うと共に国内に残置した抵抗勢力の捜索の命も受けていた。
「まさかこんな所で出会うとは…」
「我々はついているぞ。散々煮湯を飲まされ続けたんだからな」
彼女達はそう言い、馬を走らせて他の部隊や後続部隊に村落の占領を託して拘束をしたと言う峠まで向かう。
「…アイツらか」
ディネルースはそこで先に馬で囲んで座らされていた白エルフ達を見る。
全員が私服姿で背中に銃を背負っており、そのほぼ全てがレバーアクション式小銃やボルトアクション式小銃であった。
「なんて奴らだ…」
「豪華な装備してる…」
見ていた他の部下からそんな言葉が漏れる。当然だ、どれも最新式の小銃を兵士が持っているのだから。
「オルクセン陸軍、アンファウグリア旅団。ディネルース・アンダリエル少将だ」
「ウェンバネだ。まあ見ての通り民間人を率いていた」
「ふんっ、民間人か…」
これほどの武装と路線爆破をしていて民間人を装うかと軽く鼻で笑うと、同じエルフィンド式の敬礼をして彼女の仕草を見た。
「貴女…元は軍属だな?」
「ええ、モーリアの国境警備隊所属でした」
すんなりと彼女は頷いた。
「我々の様な上に立つ奴は皆、元軍人ですよ」
氏族に追いやられたね、と言って彼女はディネルースに臆する事なく話した。
「貴女方のお噂は予々聞いています」
「なら話は早い。キアステン・ラーセンを探している」
「彼女であれば、今頃はネヴラス方面に出かけているはずです」
「了解した」
するとウェンバネは予め持たされていたある物をディネルースに渡した。
「ディネルース少将、これを」
「ん?」
そこで渡された手紙をディネルースは受け取ると、中身を読んだ。
「…了解した」
その中身は南部に保護をした黒エルフがいる為、彼女達の保護をしてくれという物だった。
「まだ生き残りがいたのか」
「…ええ」
ディネルースの言葉にウェンバネは少し言葉に詰まった様子で頷くと、すこし彼女は首を傾げていた。
「うわ、何これ」
その後ろで峠に隠されていた機関銃を見て黒エルフ達は驚いた様子でそれを見た。
「エイガー機銃。五年前に性能評価試験で不採用になった兵器だそうです」
「連射できる武器だって」
「私たちのグラックストン機関砲と全然違うじゃん」
機関銃は峠に五台設置され、近くに偽装された厩があったその偽装のされ方に驚愕していた。機関銃自体も骨組みだけの傘に木の葉や枝を絡めて隠されており、見ていた黒エルフ達は驚いていた。
拘束をした面々からの尋問で知った情報を参考に彼女達は次々と敵を迎撃して到着をしてくる部隊を見る。
「おい、連中が見つかったって本当か?」
「ええ、年貢の納め時よ」
そして小さな峠はアンファウグリア旅団の一個騎兵中隊が集まろうとしていた。
「コイツらが?」
「ああ。他の部隊はネヴラス方面に偵察に行っているそうだ」
するとウェンバネがディネルースに言った。
「あ、でも間違って撃たないでくださいよ?」
「?ああ、そりゃあな」
「…多分、腰を抜かすと思うんで」
ウェンバネはそう言うと、合流するために馬を使わせて欲しいと言った。
ディネルースはそこで少し考えて部下二人を伴わせての移動を許可した。
「一応、逃げ出さないように見張を」
「分かりました」
そして馬を伴って彼女達は走り出していくと、ディアネンに向かう街道の途中の森に馬が繋がれていた。
「ここか?」
「ええ、普段我々は馬に二人乗りをしているのでね」
ウェンバネはそう言うと、彼女の鞍が二人乗りが可能な大型のものであると気がついた。
「なぜすぐに我々から逃げ続けていた?」
「通報されるのが怖いから」
ウェンバネはそう言うと、馬を降りて木に止めてから森の中に入っていく。
『ウィンドール01、入るぞ』
『了解。後ろから撃つなと客にも言っておけ』
『分かってるって』
魔術通信で言うと、視線の先で見張り役としてついてきた彼女達は、そこでいつの間に自分たちと連絡をとっていたのかと首を傾げたが、森の中を歩くと、足元で膝立ちをして望遠鏡や銃を持って警戒をしていた白エルフ達を見た。
「っ…エルフィンド陸軍?」
「おっと、撃たんでください?オルクセンの皆さんや」
そこでディアネン方面を監視していた面々のきていた服に彼女達は驚愕していた。
彼女達は皆、エルフィンド陸軍の兵士の格好をしていたのだ。背中には陸軍の正式小銃を背負っており、ぱっと見では敵軍の部隊が監視をしているように見えた。
「どうして…?!」
「裏切ったのか?」
制服を見て彼女達は驚くと、監視をしていたもの達は全員が顔に泥を被って白エルフとは分かりづらくしていた。
「いえ、元々は私服ですよ?」
ほら、と言ってきていた上衣を捲ると、下からシャツが見えて軍服の上に羽織っているのが分かった。
「っ!?」
そして黒エルフの二人はその時、目を見開いた。
その軍服は腹の部分が赤く血に染まっており、穴が空いていたのだ。するとその白エルフはケロッと吐いた。
「襲撃した列車の死体から剥いだんです」
「え?それって…」
「国際法違反じゃないか…!?」
敵の軍服を奪ってなりすましを行っていることに黒エルフ達は驚愕をしていると、その白エルフは言った。
「別にそんなのどこにも記されていませんよ。国際法に敵兵の服を着てはいけないなどと言うルールがありますか?」
「「…」」
対応した白エルフはそう言うと、聞いていた黒エルフ二人は驚愕をしつつ、それが自分たちが思っている以上に残虐非道な行為であることをうまく理解できていなかった。
「我々はあなた方と違って正規軍ではありませんから」
彼女は自嘲した様子で答えると、そこで望遠鏡を片付けてその白エルフはここにオルクセン陸軍の兵士がいる理由を聞いた。
「で、どうして敵軍の方がここに?」
「キアステン・ラーセンという人がここにいると聞いた」
「ああ、それなら私です」
「「…えっ?!」」
そして返事を聞いた二人の黒エルフは驚愕した目で目の前の白エルフを見た。
「え、でも耳が…」
黒エルフはそこで尖耳を持つ彼女に驚愕をすると、キアステンは言った。
「これは偽物ですよ。ほら」
そう言うと、軽く耳を持って話すと、ぼろっと耳が取れた。
「粘土で作ったものです。これなら簡単に見分けがつかなくなりますからね」
「「…」」
そして粘土で作った偽物の耳を取ると、そこで耳のない白エルフが現れた。
そのことに二人の黒エルフは驚きながら目をなん度も瞬きををさせた後に、ウェンバネの呼びかけてはっとなって意識が現実に回復した。
「商会長、オルクセンの旅団長がお呼びだそうで」
「ああ、すぐに行こう」
そこで彼女は着ていた軍服を脱ぐと、それを腕に持って戻る。
「捨てないのか?」
「ええ、動きずらいから脱いだだけです」
キアステンは血だらけの軍服を持ちながら黒エルフにそう答えると、そのまま他の仲間を残して繋げていた馬に乗ってディネルース達と合流をしたあの峠まで戻っていく。
その道中で監視役の黒エルフ二人は目の前の耳のない白エルフに色々と驚かされてしまった。
「どうですか?」
「敵はディアネンに集結しているらしい。顧客がアシリアンドでも派手にやったそうだ」
そしてウェンバネとそう話していたことで、彼女がこの抵抗運動を率いていると言うことが薄々察せた。
「アグネスの方は?」
「そろそろ戻ってくるだろう。機関銃支隊の方は?」
「こいつらに足止めされてさぁ」
キアステンは報告を聞き、軽く馬を速足で走らせながらすぐに彼女達は南下をしてアンファウグリア旅団の控える場所に到着をした。
「貴様がキアステン・ラーセンか」
「お初にお目にかかります。オルクセン軍の将官殿」
馬から降りてキアステンはディネルースと顔を合わせると、直感的にディネルースは察した。
「(思っている以上に若いな)」
グスタフと同年代か、あるいはもっと幼い年齢だろう。
目の前の耳のない白エルフというのは、本当に白エルフなのか?と疑問に思うほどにキャメロット人であった。
「ちなみに、本当に魔種族なのか?」
「ええ」
キアステンは頷くと、そこで魔術通信をしたのをディネルース達は探知した。
「私に会いになさったのでしょう?」
「ああ、黒エルフを助けた奇妙な白エルフ族がいるとな」
ディネルースはそう言うと自分よりも身長の小さい白エルフを見て挨拶をする。
「君のおかげで多くの同胞が救われたことをまず感謝したい」
「…そうですか」
キアステンはそこでディネースにややそっけなく答えると、彼女はそこで周りのアンファウグリア旅団の隊員達から向けられる視線を見回す。
奇怪・警戒・怨嗟。
実にさまざまな視線が向けられ、キアステンは彼女達から血の匂いを感じ取った。
「…ディネルース少将殿」
「なぜ私の名を知っている?」
「キャメロットの外来の新聞を読んだら分かりますよ」
軽く肩をすくめて彼女は言うと、ディネルースは納得をした。
「改めまして。私はキアステン・ラーセン、現在は遊撃戦を行う抵抗勢力の指揮を取らせてもらっております」
彼女はそう言い、ディネルースに挨拶をした。