エルフィンドとの戦争が始まり、次々と占領を続けていくオルクセン陸軍。
その途中、ネブラスの近郊でキアステンの抵抗勢力と接触を行った総司令部は実に様々な援助を行なった。
武器、弾薬、爆薬、起爆装置、火酒。
いずれもリストに載っていた要望された物で、総司令部は彼女達の要望をほぼ満額回答をしていた。
時期は一月を迎え、ディアネンに対して二四万の兵力が集結していることを知った頃の時期。
「軍用列車が出るそうだ」
パルチザンの構成員がキアステンに報告を入れた。情報源はラムダルに潜ませているカナリアからであった。
現在アンファウグリア旅団はタスレン攻略を目前に控えていた。
「よし、出よう」
軍用列車ということですぐにキアステンはアグネス達に指示を出す。
「我々からも支援で部隊を出そう」
「分かりました。ありがとうございます」
ディネルースもその情報を知り、後方の襲撃に増援を申し出てきた。
すでに第三軍の後方でも同様の白エルフによる輜重隊や後方への襲撃は行われており、この戦争は最前線での戦いと後方での戦いが入り乱れる戦争へと変わっていた。
但しこの戦争のあり方は、エルフィンド側に観戦武官がいなかったことや地道で派手な戦闘ではないことで、人間族への理解はそこまで浸透することはなかった。
「しかし、アグネス。お前が誰かの指揮下に入るとは思わなかった」
「いいもんですぜ?やりたい様にやらせてくれるんですから」
アグネスはそこで軍学校の教官と顔を合わせて笑みを見せていた。
後方への襲撃はエルフィンド・オルクセンの双方で行われ、アルトリアでダリエンド・マルリアン大将はこのオルクセン側の襲撃を大いに参考にしたと言われている。
キアステンは北部や付近の地形情報をオルクセン側に提供をしたのち、現地の先導役の任を受けていた。
戦前は黒エルフ族の解放や保護を行っていた彼女達は、アンファウグリア旅団の進出をきっかけに、匿っていた黒エルフ達の引き渡しも順次行って行った。
「おい、出番だぞ」
「分かりました」
増援で出ていくのは山岳猟兵連隊の一個小隊。馬に乗って移動をするキアステン達に追従していく。
「…」
山岳猟兵連隊の中でヘンナがいる小隊が選ばれた理由は薄々分かっていた。
この小隊は東部組も多く配属されており、キアステンへの抵抗感が少ないことで選ばれたのだろう。
「こっちだ」
「気をつけてくれよ」
走る馬は機関銃を装備しており、レバーアクション式小銃やボルトアクション式小銃を背負っていたが、装備に若干の変更があった。
狙撃兵に選ばれた白エルフが持っていた小銃は
以前使っていた小銃は、オルクセンの仮想敵国である
最新兵器の実物を所有していたことで、オルクセン側から武器の性能試験も兼ねた提供を要請されたのだ。
出納帳でその納入履歴を見たカール達は腰を抜かした。まさかエルフィンドでグロワールでも採用されたばかりの小銃を持っているなんて思っても見なかったのだ。しかも弾薬込みで!
当然、その性能を実物で試せるというのなら手に入れないわけはない。
購入した小銃は予備兵器として保管されていたオルクセン最新小銃を割り当てるということでカールはキアステン達に使っていた小銃を回収していた。
キアステン達としてもオルクセンと同じ武器が使えるのであれば便利なことはなかったし、何より彼女達は多くの鹵獲兵器を持ち合わせていた。
メイフィールド・マルティニ小銃は威力と射程距離に優れており、伏せ撃ちができない以外の欠点は特にないため彼女達は十分な鹵獲兵器の補給を受けて数度の襲撃を行っていた。
「よし、反対を頼みます」
「了解した」
歩兵小隊とともに線路が通っている場所でキアステンは黒エルフの指揮官に行って一斉に散会をしていき、線路上にパルチザンの構成員が爆薬を仕掛ける。
予定では三〇分後にこの場所に軍用列車が到着する予定であるため、手早く爆薬を路盤に仕込んで導火線を渡す予定である。
その間、キアステン達は列車が早く来ないかを警戒し、オルクセン側も敵や自分たちの動きを見て通報されないかを警戒していた。
「設置した」
「急げ」
そして線路上に路盤ごと破壊できる量の爆薬を、バラストを掘って埋め込んでいくとすぐに彼女達は森の中に隠れる。
「ほう…」
その様子を見ていた指揮官はその手際の良さに舌を巻いており、工兵隊や今後の作戦に合わせて使えそうだと思っていその作業を振り返っていた。
「大丈夫?」
「ええ」
今回は私服姿で森に隠れているキアステンに、隣でヘンナが聞いた。
メイフィールド・マルティニ小銃に銃弾を装填し、いつでも攻撃ができるように指の間に銃弾を握っているキアステン。その仕草は明らかに戦闘慣れをしていた。
小銃を握り、キアステンは反対で白い服にそれを通したシモーヌを見る。彼女はオルクセン軍の小銃を渡された初めの頃は不満だったが、空砲を使った試射で何度も撃って慣れると、今では以前の命中制度を誇っていた。その射撃精度にオルクセン側が驚くほどであった。
「…」
そして手符号で連絡を取り合うと、射撃がいつでも行けると言われる。
すると前方の路線上て隠れていた構成員が持っていた赤い手旗を振った。
「もうすぐ来るらしい」
「っ!」
キアステンの言葉にヘンナは息を呑むと、最小出力で魔術通信で一斉に隠れていた全員に言った。
『もうすぐ来る。総員準備』
事前に聞いていた小隊長達も息を呑んでこれから軍用列車を襲撃をすることに少しばかりの警戒をする。
元々は彼女達のやり方を見るための派遣であったが、彼女達の手際は参考になると判断したディネルースによる采配によって十分な支援を行うようになった。
すると遠くで森に入る前に鳴らした汽車の汽笛が鳴った。
タスレンはラムダルやアシリアンド、ノアトゥンなどの北部地域とを結ぶ幹線がある重要都市。無論、この都市の防衛のためにエルフィンド軍は来る物だろうと予想できた。
しかし今まで制圧してきた村落から物資が根こそぎ持っていかれ、それを見ていたキアステンはこれを焦土戦術と断定していた。
「…」
現在、ディアネンに向かって多数の橋梁が破壊されており、その修復を工兵隊は行いながら前進していた。
第三軍による遊撃戦への対応として山狩りが行われていると聞いており、かくいうキアステン達もいくつかの拠点が攻撃されていることを知っていた。
しかし、何十年と準備してきた抵抗のための布石は全滅のリスクを回避していた。小規模に分散配置された拠点は、構成員に配布した地図には全て載せておらず、たとえ地図絵お手に入れて全てを回ろうとしても、資材が途切れることはなかった。
「(やってることは完全に麻薬取引と同じなんだよな…)」
それが麻薬か銃弾か、その違いだけでやっていることは変わらないなと内心で苦笑をしてしまうと、列車のドレンの音が近づいてくるのがわかり、現在は冬であるため、暖かい蒸気が濛々と冬のエルフィンドに上がっているのが見えた。
「来るぞ」
改めて近くの構成員や兵士達に注意を促すと、列車は森林地帯の中を走ってきた。
「…?」
しかしやけに速度が遅めだなと思った。今まで何度か列車襲撃を行ったために、音だけで軍用列車の速度なのかどうかをだいたい察することができた。
「遅い…?」
「起爆用意だ」
キアステンの後ろで構成員が起爆装置を持って指示をすると、彼女はそこで入ってくる軍用列車に違和感を感じつつもその構成員に言う。
「起爆したら、迎撃に来た歩兵を迎撃するぞ」
彼女の言葉にいつも通りの列車襲撃だと思って構成員は頷くと、ヘンナ達も隠れながら列車が来るのを見ていた。
「…」
そして森を切り開いて敷設された路線を軍用列車が通過した時、
「っ!?」
キアステンは己の目を疑い、同時に他の面々も驚愕をした。
「なんだ…あれは!?」
その奇怪な見た目をした車両に誰もが驚いた。それはいつもの軍用列車で連結されているはずの兵士を乗り込ませた無蓋貨車や有蓋貨車ではなかった。
その車両はおそらく客車や無蓋貨車を改造したものなのだろう。二軸のボギー台車に長い車体を持ち、全面を鉄板で覆われており、厩舎のような山型の屋根を持った車両。
機関車も木材を切ったように直線的な形状になっており、通常の車体の上から鉄板を追加で装備していた。
「…装甲を纏っているぞ!?」
「おい、大砲まで積んでいるぞ!?」
そして車体に開けられた前面の砲眼からは8インチ砲を備えていた。
「…装甲列車」
キアステンはボソッと呟いた。
ーー装甲列車。
それは開戦後の列車襲撃に頭を悩ませらエルフィンド軍が行った対策。
今までは無蓋貨車に武装した兵士を乗せることで対応を行っていたが、敵が機銃を持っていることや火炎瓶攻撃に脆弱であったために緊急で制作をされたもの。
残っていた三等客車と無蓋貨車を改造して中にチーク材をいれ、火炎瓶対策でその上から鉄板を貼り付け、沈没前に回収をした海軍の前装砲を移植した。そしてそれを軍用列車の前方に連結した。
元々、装甲列車はセンチュリースター内戦で最初に発明され、路線防護のために使われた歴史があり、キアステンは初めてではなかった。
「早く爆破しろ!」
「馬鹿!待て!」
その初めて見る奇怪な車両に構成員が恐怖で起爆装置に手を触れようとしたところを慌ててキアステンが制止させようとしたが、すでに遅かった。
起爆したことで路盤ごと線路が吹き飛び、列車は停止をした。
「チッ、撤退しろ!」
キアステンは叫ぶと、一斉にその奇怪な車両を前に逃げ始めていく。
「攻撃せよ!」
襲撃を察した白エルフの指揮官が指示をすると、装填済みであった野砲が発射をされ、隠れていた構成員やオルクセン兵を殺傷していく。
「くそっ!」
放たれた砲弾はぶどう弾。装甲列車に装備されていた7ポンド山砲は容赦無く隠れていた者達に牙を剥く。
咄嗟にエイガー機銃をハンドルを回して機関銃手が発砲を行うと、列車から出てきた兵士たちはその銃弾に当たって倒れる。敵の小銃は放たれるが、防楯を持っていたエイガー機銃はその攻撃を弾いた。しかしそこに7ポンド山砲が放たれ、跡形もなく吹き飛ばされた。
「撤退しろ!」
キアステンが叫んだ直後、8インチ砲の砲撃が放たれ、襲撃部隊は撤退をするしかなかった。