ロザリンドでの戦いから数日が経った。
私たちの部隊はいまだに西進を続けている。
「(どこに行くんだろう?)」
少なくともオーク達が逃げていったシルヴァン川がある南側に移動をしていないことに違和感を覚えながら私は他の同胞と共に歩く。
「総員止まれ!」
氏族長の一声で部隊はやっと足を止めた。場所はドワルフシュタインの首都、モーリア近くの森。そこで私達は隠れるように野営を行った。
火も見えないように地面に穴を掘った上から被せられ、見えにくくしていた。
「何をする気なんだ?」
銃を持って立哨をさせられている私は怪訝に彼女達の雰囲気に疑問を感じる。
少なくとも今の彼女達の目には緊張ではなく、愉悦が混ざっていたのだ。まあ、数日前にオークに対してアレだけの成果を上げたのだからそりゃそうだろうと思いとするが、目の前にあるのはそんな温かみのあるものでは無かった。
ーー侵略者の目。
明らかにこれから異常なことが起ころうとしていると、脳内で警鐘が鳴る。現在、この国ではオークの攻撃で少々疲弊と混乱の兆候が見られ、国境を越えた私たちにすら気が付いていないのか、ドワーフの軍勢と会うことがなかった。
そして立哨をしてモーリアの街を見ていると、ふと街の方から砲声がしてきた。
「?」
「始まった…」
何があったんだと思う前に一人の白エルフが言った。
「総員起立!」
そして砲声を聞いて氏族長が号令を出した。
「これより我々はモーリアに攻撃を行う!ドワーフは我ら黄金樹に愛されぬ者達だ!我らの大地に異物は必要無い!駆逐せよ!」
堂々と彼女は言うと、他の白エルフ達も囂々と声をあげて銃を持って立ち上がる。
「…民族浄化だ」
その意味を理解した時、私は顔を青くした。
私はドワーフを見た事はない。しかし彼等の治金や技術は優れていると知っている。農奴で働いていた頃、彼等の作った鍬で畑を耕した。頑丈で使いやすい彼等の農具は画期的である。この馬鹿どもはそんな彼等を滅ぼすつもりらしい。
自らは完璧な種族であると言う驕りからくる選民思想。正直言って禄でもない考えであると言うのはコイツらに言っても釈迦に説法であるだろう。
「総員、突撃せよ!捕虜は要らぬ!燃やし尽くせ!」
そして一斉に彼女達はモーリアに向けて突撃を敢行する。
『ドワーフの王が死んだらしいぞ!』
『モーリアの城門を開けた!』
『中に突入しろ!』
魔術通信ではすでにモーリアを囲んでいた城壁が破壊された事を言っており、すでに多くの白エルフの部隊が入った事を知った。
「(大変だ…!!)」
思わず私も彼女達の後を追うように懸命に走ってスパイク状の銃剣を取り付ける。市内では略奪・虐殺の嵐が吹き荒れており、多くのドワーフ達は突然の事に訳もわからずに死んでいく。
「何!?」
「撃て撃て!皆殺しにしてしまえ!」
夜中に集められたドワーフ達はそこで白エルフの一斉射撃で射殺をされる。突入したモーリアの城壁はとても高く頑丈に作られており、まず野砲程度では貫通できない。
「急げ!」
「他の奴らに奪われるなよ!」
街に入った部隊はそう言い、小隊単位で街の征服を始める。
「(助けないと…)」
私は銃を持ってそう思っていた。魔術通信でダダ漏れであったが、すでにこの国の王は死んだらしい。
「っ!」
ドアを蹴破り、モーリアの街を走る私は、所々が焼き討ちにあった家を見る。
「何だ!?」
「一体、何が起こって…?!」
すると酷く怯えた声と共に声がした。何やら話していると思って銃を持って息を殺して階段を上がると、
「隊長、こいつらどうします?」
現代アーブル語で会話しているのが聞こえ、私は装填済みのマスケット銃を二階に向ける。
「命令は抹殺だ。シルヴァンの北は我らのものだ。やれ」
「はっ」
そこで白エルフが銃を向けた時。
ッ!
一発の銃声が部屋に響いて、部屋の住人はその銃声に体を反応させた。
「は…?」
その時、指示を出した白エルフが理解できない顔をした。なぜなら、今まで隣にいたその白エルフの頭が弾けたからだ。
「っ!!」
すると階段下に隠れていたキアステンは飛び出して銃剣を後ろから白エルフの脳幹を狙って一突きする。
「がはっ!?」
白エルフは何が起こったのかがさっぱり不明なまま前のめりに倒れた。
「…」
二名の白エルフを斃し、蔑んだ目でそいつらを見ると、部屋で困惑している数人の小人。多分、この人たちがドワーフなのだろう。
「あー、えっと…」
正直、どうしたものだろうかと思った。とりあえず考えなしにやってしまったのでこの後のことは何も考えていなかった。
「私の言ってる事、分かりますか?」
正直、ドワーフなんて初めて見た上にどんな事を話しているのかだってわからない。だから私は取り敢えず知っている現代アーブル語で聞くと、彼等は理解した様子で数回頷いた。
「貴女は?」
「しがないエルフィンドの白エルフ」
そう答えると、そのドワーフは驚いた目をした。まあ、私ってエルフの耳じゃないから誰だって驚くわな。まあでもエルフィンド軍の制服着てるから察してほしかったなと言うのもあったが…。
「取り敢えず逃げて」
「で、でもどこに…?」
聞かれて少し困った。私はそこまで地理に詳しくない。文字も読めないのでどうしようかと思った。
「…南」
しかし今までの知識で私はこの国のことを大まかではあるが知った。
「南に行って。北は危ない」
少なくともこの国には三つの種族がいる。
まず一つは伝説でも語られている海を渡った面々。今は首都に住んでおり、正統派とか主流派とか、よく分かんないが、いわゆる今のこの事態を引き起こした馬鹿どもである。
もう一つは北部系の民族。いわゆる非主流派とか言われている民族。何かと黄金樹に近くて脳を焼かれた者どもは蔑みの目を見せていた。
最後に黒エルフ。彼女達は南部に多く定住していた。彼女達もまた白エルフから下に見られる事をされていた。
したがって、この国から脱出する上で最も安全なのは南に抜けてシルヴァン川を越えること。
「南…」
そのドワーフの女性は言葉を理解した様子で口にすると、私は死体になった白エルフから紙製薬莢とサーベルを奪う。
「街を脱出させてあげる。…信用しなくてもいいけど、死にたくなかったら着いてきて」
私はそう言うと、ドワーフの女性は頷いてそばにいた子供と元に家を出る。
所々で火事が起こっている中、二人の白エルフはキセルに火をつけていた。
「暇だな」
「つまんねえよ」
彼女達は制圧を行っているドワーフの首都の確保した場所を警備する任務を与えられていた。
「捕まえた奴らはどうするんだ?」
「さあ?」
そこで彼女達は軽く街の集会所を見ていると、
「うごっ!?」
一発の銃声が聞こえて一人の白エルフの胸を貫通した。
「何が、ゴホッ?!」
今起こった現象に驚愕する隙を与えず、背中から一本の刃が貫通する。
「っ!」
そしてその刃が引き抜かれると、頸椎から頭を刺された白エルフは斃れる。
「…こっち」
そして二人の死体を作った後、キアステンは手招きをして隠れていたドワーフの親子を呼び寄せる。
「(魔術通信もしていないね)」
新しい弾薬を装填しながら彼女は近くで鳴り響く魔術通信でも通報されていないと把握すると、彼女は聞いた。
「南に一番近い通りは?」
「こっちです」
ドワーフの女性は耳のない白エルフに疑問と驚愕を抱きつつも、息子を連れて走る。
「おい!」
すると街の集会所の前を通った時、どこかから声が聞こえた。
「こっちだ」
何処だと左右を見回すと、集会所の窓から声がした。
どうしたのかと思うと、そのドワーフは言った。
「た、助けてくれ!ここに仲間がいるんだ!」
彼はそう叫ぶと、聞いていたそのドワーフの母親は私を見た。
「…」
その時、私は困った。こんな状況で白エルフの私がどうしろと言うのだ。そして迷った私は取り敢えず集会所に傾けられていた家具を退ける。
「ふんっ!!」
おそらく出られないようにしたものだろうが、ドワーフは体格が私たちよりも小さいことから、家具は子供の私でも引っ張れるほどの大きさであった。
「農奴舐めんなよ…」
そして引っ張って家具をどかすと、私はドアを開けた。
「なっ!?」
「えっ?!」
その時、ドアを開けた先でお互いに驚愕をした。
集会所の中にはざっと数十名はいるドワーフが屯しており、ドワーフも白エルフの私を見て驚愕をした。
「な、何で人間がいるんだよ!?」
「人間がエルフィンドの制服着ているぞ!!」
「殺される…!!」
恐慌、驚愕、殺意。色々な目線が一気に私に向けられた。無理もない略奪を行なっているのはこちらなのだから。すっかりこの制服に怯えている様子に、私は魔種族として、まだまともな人であることを証明するために、言えるだけのことを伝える。
「…南に逃げてください。北は危険ですから」
それだけを言うと、私はドワーフの母親に言う。
「この人たちを案内できますか?」
「え?」
我ながら無責任だなと思いながら驚くドワーフの母親を見る。
「お願いします。私は土地の者ではないですから」
「…わ、分かりました」
渋々ではあった気がするが、そのドワーフの母親は頷いてくれると、私は奪った弾薬と銃を持って南の方に走り出した。
「大丈夫か?」
「ええ…大丈夫です。それよりも南に行きましょう」
するとその奇妙な行動をした白エルフに怪訝な表情をしつつ、集会所から出てきたドワーフ達は南に逃げ始めた。
「民族浄化なんて馬鹿なことを…」
街の通りを走りながら私は魔術通信を使う。
『助けてくれ!北側で猛攻にあってる!!』
すでに市内で乱戦の様相を示している中、最大出力で叫ぶと誰かが反応をした。
『数は?』
少なくとも魔術通信ができるのは白エルフが大半である。そのため、答えてくれた面々に私は堂々と、しかし切羽詰まった声色で叫ぶ。
『二〇以上!北側の塔だ!助けてくれ!もう耐えられない!』
我ながらいい演技ではないかと思った。事実、切羽詰まった様子に答えてくれた面々は部隊を移動させ始めた。
『北側に増援を送る。それまで持ち堪えろ』
返答を聞き、私はそのまま街の広場に飛び出す。