遊撃戦のために展開したキアステン達を迎撃する装甲列車。
「っ!」
見ていたアグネスも持っていた火炎瓶に火をつけて列車に投げ込んだ。火炎瓶は割れて一気に燃え上がるが、鉄板で覆われている上に山型の屋根は炎を被らずに下に流してしまう。
「くそっ!焦りやがって!」
アグネスは毒吐いて停車をした装甲列車を睨みつける。発射された大砲は山砲や重砲。いずれも生身の歩兵相手には荷が重すぎる火力である。
本来であれば頭上に来た瞬間に起爆をすれば効果があったかもしれないが、その前に爆破をしてしまったので列車は無傷であった。
「後進入れろ!!」
白エルフの部隊長が機関士に叫んで指示すると、運転室で逆転機を操作した機関士は慌てて列車を後退させ始める。
「撃て!」
そして装甲化された客車や無蓋貨車からエルフィンド兵が発砲を開始。これに呼応するようにキアステン達も撃ち返し始め、混戦状態になり始める。
「撤退しろ!」
「大砲を持ち込みやがった…!」
「救援をよこせ!」
相応に魔術通信が飛び交い、キアステン達パルチザンやオルクセン兵は撤退を開始し、エルフィンド軍もまだ満足な運用ができていない状態での接敵であったため、慌てて歩兵が降車中であるにも関わらずに後進を始めてしまった。
「撤退だ」
キアステンはすぐに指示を出して近くにいた構成員達に撤退を呼びかけると、彼女達は死体や護符を集めながら撤退をしていく。
「逃げるぞ!」
「逃がすな!撃て!」
その動きを見た歩兵部隊も追撃を始め、その様子をシモーヌも見て自由に狙撃を始める。
「…」
太陽に反射して光る胸の階級章を探したが、見当たらない。この時期、列車襲撃の際に指揮官の損耗が激しいと知った陸軍は、それが金属板を入れた階級章によるものだと理解して、多くの指揮官が階級章の付いた襟を裏返していたのだ。
「チッ」
指揮官が見当たらないことに軽く舌打ちをしてシモーヌはとりあえず拳銃を持っていた白エルフに照準を合わせて発砲をした。そして槓桿を引いて排莢、新しい銃弾を装填して発砲を行う。他のメイフィールド装備の構成員達も発射を行い、手に握っていた銃弾をレバーを引いて排莢をしてすぐに装填。発砲を行なってエルフィンド兵を迎撃する。
「っ!」
なにせ交戦距離が数十メートルと言う極めて至近距離の戦闘となったため、撃てば当たる様な状況が出ていた。
「くそっ!近すぎる…!!」
「伏せて!」
「こいつは伏せ撃ちしずらいの!」
ヘンナが叫ぶが、キアステンはそう返して銃撃を行う。伏せ撃ちになると効率が下がってしまうため、この状況では命取りであった。
しかしエルフィンド側は装甲で守られた客車から射撃をしており、立射や膝撃ちが可能であった。向こうのほうが圧倒的に有利である。
「くそっ!」
「小銃弾じゃあ歯が立たない!」
チーク材と鉄板で覆われた車両は、小火器しか持ち合わせていなかった襲撃側は苦戦を強いられる。
「撤退は?!」
『できている!増援もこっちに向かっている!』
幸いにもこちらの指揮官は砲撃から生き残っており、すでに増援部隊が来ていると報告してくれた。
装甲列車に積載された大砲の砲声は時折聞こえ、発砲のたびに狭い車内で装填を行うために、発砲の間には時間があった。
すぐにキアステンが撤退の指示を行ったことで、二度目の砲撃で巻き込まれた兵士はいなかった。
「っ!」
逃げる際、殿として爆薬に点火してキアステンは装甲列車に投げつけると、装甲列車の屋根で爆発する。強烈な8インチ砲の砲撃は陸上では大きな脅威となって襲撃者を撤退させていく。
「追撃が来るぞ!」
「迎撃しろ!」
アグネス達はまずオルクセン軍の歩兵達を撤収させ、その後に馬を使える自分たちが逃げる様にした。
さすがは統率の取れた軍隊なだけあり、歩兵達の撤退は迅速に行われた。
「何なのよ…もう!」
そして経験を積んでいたパルチザンの方も目の前の新兵器に驚愕をしつつも、爆薬を投擲してエルフィンド軍を迎撃していく。
そしてレバーアクション式小銃を持った構成員達も慣れた手つきで連射を行うと、その銃弾はエルフィンド兵達に当たっていく。
「撤退しろ!」
そしてキアステンが叫んだことで今度は構成員達が馬に乗っていく。
「逃げるぞ!」
「追え!」
すかさずエルフィンド兵達は追撃を敢行しようと線路を歩いてくる。
そこをキアステンは馬に飛び乗った後にレバーアクション小銃を持った構成員達を集めて南に逃亡を始める。
「迎撃するわよ」
「了解」
そこで彼女は拳銃を持ってそれを後ろに撃つと、一人のエルフィンド兵が撃たれて血を流した。
少なくとも彼女の持っている拳銃が有効打を出せている時点でかなりの近距離であり、馬上に乗ったレバーアクション式小銃を持った構成員が手綱を片手で握って発砲を行う。
「っ!」
そして装填用のレバーを中心に銃全体を回転させて見事なスピンコックを行うと、片手で装填を行って発砲をした。
「撃て!」
そして一斉に銃弾が放たれると、線路から逃亡を行う彼女達に出てきたエルフィンド兵は攻撃を行おうとした。
馬と人では走る速度が違うため追跡は困難であるが、メイフィールド・マルティニ小銃の射程距離を考えると十分に危険な距離である。
「っ!」
そしてさらに距離が離れているが、砲弾が着弾をした。爆発時の衝撃からして8インチ砲の砲撃である。
「撃て!」
砲撃を行うと、キャメロット製8インチ砲の八〇キロ近い砲弾が発射される。
上に撃ち上げられた大砲はネニング平原に着弾する。
「退却しろ!土煙の中を突っ込め!」
キアステンは叫ぶ。前装式の8インチ砲の射撃間隔はすでに分かっていて、五分以上の時間がかかる。
ファルマリア港の戦いにおいて前装式は装填速度が遅いことはすでに知られた事実であり、キアステンも昔から知っていた。
そこで騎馬を突撃させようとした時、
「っ!?」
直後にエルフィンド兵達の近くで土煙が上がった。
「…」
キアステンはどうしたかと思っていると、郊外の平原に野砲部隊が展開をしていた。
「撃て!」
部隊長が号令を出し、一斉に75mm野山砲が発砲。これらは先に撤退をしたオルクセン歩兵の緊急電を受けて展開した部隊であった。
「助かった…」
「行け!今のうちに撤退だ!」
安堵をしたキアステン達はそのまま砲撃に同様をする部隊を尻目に南に遁走を始めた。
その後、タスレン近郊に装甲列車がいたと言う報告が総司令部に上がった。
「厄介だな…」
グレーベンはその報告を聞いて顔を顰めた。
「当該の列車に搭載されているのは7ポンド砲や8インチ砲。報告では客車を改造した代物だそうです」
報告に来た副官も少し緊張した様子で答え、その装甲列車が発見された場所を前にどうしたものかと思う。
「発見場所はタスレン郊外。これからタスレンを占領することになるが、装甲列車の砲撃となると甚大な被害が出るか?」
「ええ、搭載しているのは…おそらく海軍の沈没艦から引き上げてきたであろう8インチ砲。当たればひとたまりもありません」
装甲列車で一際重武装としてあげられる8インチ砲に聞いていた誰もが沈黙をした。
センチュリースター内戦中に装甲列車の存在自体はオルクセン側も観戦武官の報告で知っており、前線で初めて見た将兵達より驚くことはなかった。
「客車も機関車も装甲化され、我々の小銃弾を全く受け付けなかったそうです」
「…」
機関銃で応戦をしたが、分厚い装甲に阻まれて歯が立たなかったという。襲撃部隊はこの戦闘で多くの死傷者を出しており、グレーベン達はこの装甲列車に対し、警戒感を露わにする。
「8インチ砲はエルフィンドが陸上で運用できる最大の火砲だ。連中、それを自由に移動できる様にしたか…」
「列車砲ですな?」
「ああ、こいつはちと厄介だぞ。なにせ装甲列車と列車砲を両方備え付けているんだからな」
軍用列車に付随していたことで多くの物資をタスレンに運び入れる予定だったと言うこの装甲列車。装備された大砲の数は知れているが、線路をどこでも移動できると言うことは、オルクセン軍の現在の進撃路と被ることとなる。
「線路上だけだが、機敏に8インチ砲が動けるんだ。おまけに7ポンド山砲や兵士で武装をしている」
グレーベンはこれから攻略を行うタスレンを前に進軍中のアンファウグリア旅団や他の部隊に注意喚起を行う様に言う。
「粗雑な作りだが、火力は絶大…か」
「このままではタスレンに侵攻した場合に被害が出るのでは?」
「いや、部隊はそのまま前進だ。相手の火力は都市相手には少ない上に、連中は同胞に上に砲弾を浴びせる事なんてできないだろう?」
「しかし…」
「良いか?ここで進撃を止めてみろ、連中の思う壺になる」
グレーベンは断言すると、タスレン近郊の鉄道を指差す。
「それに見ろ、我々がタスレンを抑えれば連中の装甲列車は北部を大きく迂回するルートを取らざるを得なくなる」
そう言い、エルフィンドに敷かれた鉄道を指差す。エルフィンド国鉄はタスレン以北は路線が限られており、ラムダル・エルドインを経由して大きく半島を回ってティリオンに到着をすることとなる。
「装甲列車は大きく迂回を必要とし、その間に我々はエルフィンドに降伏文書を突きつけられる」
グレーベンはそう断言すると、部下に言う。
「アンファウグリアと共にいるパルチザンに伝えろ。装甲列車の心配は御無用、そいつは我々が引き受けたとな」
「分かりました」
この時点で接触を果たしたオルクセン軍はキアステンの率いるパルチザンに十分な援助を行っており、小火器や爆薬の備蓄は十分にあった。
今も敵後方の拡散攻撃に従事しており、おかげでディアネンに向かう幾つかの引き上げた糧秣を積んだ編成を鹵獲することができた。
「パルチザンにはこのまま後方の撹乱をし続けてもらいたいものだな」
「ええ、彼女達の活躍は実に素晴らしいです。我々も助かります」
戦前より計画されていた現地抵抗勢力との接触は果たされた。あとは彼女達が敵の補給を少しでも多く燃やしてくれることを願った。