装甲列車の捜索と軍用列車の襲撃。それが今の所、パルチザンに与えられた任務であった。
「結局のところ、私達は正規軍の物量には敵わない」
キアステンは最初からその前提で動いており、また同族からの通報に非常に警戒をしていた。だから戦争が始まるまでは黒エルフ族の解放を行っていた。
放逐をされ、連れ去られ、奴隷労働を強制されていた彼女達であったが、その時の国の法律では一応窃盗という扱いになる。ただし、黒エルフ族の虐殺を見ていたと知られれば秘密警察の担当となって二度と日の光を浴びることはない。
しかし開戦後は軍用列車の襲撃と鉄道、街道、電信の破壊を担当する様になっていた。元々そうした輸送路が貧弱なエルフィンドには有効な手立てであった。
同族との接触を避ける為、攻撃は都市郊外の人気のない場所で行われ、この事が魔術通信に頼っていた白エルフ族との相性が良かった。彼女達は機関車との通信を電信に頼っていたが、襲撃に合わせて電信も切断をしていたので連絡が遅れてしまったのだ。
エルフィンド国鉄はキャメロット式の閉塞を使用していたが、それでは対応に微妙な差が生まれてしまった。なので魔術通信によって襲撃をされた区画の場所は判明させて、その後に復旧作業を始める。その間に襲撃をした部隊は撤退をする。爆薬は路盤ごと吹き飛ばす様に指示をしている為、復旧にはさらに時間を要した。
「街の食糧庫、弾薬集積所…もし連中が輸送をするとして、狙うならここだが…」
西方に進出をしたアグネス達は、そこで線路上を見て首を傾げた。
「立哨がいない…?」
以前であれば、パルチザンの攻撃で線路に置かれていた立哨をしていた歩兵の姿がほぼ見当たらない事に首を傾げた。少なくとも一ヶ月ほど前にここで爆薬を仕掛けた時は立哨中の歩兵や警察官が多くいた。
「多分、戦力としてディアネン方面に行ったのかと」
「…なるほどなぁ」
アグネスは彼女達が消えた理由を理解すると、ニヤリと笑った。
「どうやら本当に根こそぎ持って行った様だな」
以前よりも数の減った敵兵、その理由に理解する。
現在ディアネンに集結をしている二四万の兵力は文字通り都市守備隊や国民義勇兵、警官までも徴兵してかき集められた兵力だ。その過程で、若干の指揮系統の問題があったのだろう。線路上の警戒をしていた兵士も連れて行ってしまった。
「どうして報告をしなかったのでしょうか?」
「それは多分、うちの国特有の旧弊だな」
長い間、この国は有力氏族が自治を担っており、そこにぶら下がる形で多数の氏族がおり、樹形図の様に氏族の繋がりがある。
「生まれた氏族の権威が強すぎて、意見がしにくい状況だ。おまけに、敗残兵なんかも全て取り込んだ事でその上申がうまく上に伝わらなかったのだろうよ」
アグネスの予想は当たっていた。
この混乱している最中で、線路上の立哨までも持っていく事に、警備を担当していたアシリアンド軍の将校から懸念事項として伝えられていたが、戦時下の混乱と、とにかく糧秣や兵員をかき集めて整理していた混沌により、その上申はどこかに消えてしまったのだ。
「中途半端に近代軍制を取り入れた結果、指揮系統が混乱しているというわけだ」
「大変なものですね」
また海軍はキャメロット式、陸軍はグロワール式の近代軍制を採用していたのも指揮系統を混乱させた要因だろう。
「その点我々はいいぞ。何せ指揮官の下に直接部隊がいるんだからな」
「その分、補給も装備も不安定でしかありませんけどね」
「ぶははっ!違いない」
アグネスは笑うと、線路を見つめて指示を出す。
「監視がいないなら結構。やるぞ」
「了解」
アグネスの指示に従い、構成員達は一斉に線路に出て円匙で線路に穴を掘ると、その下に爆薬を投入して点火装置を繋げていく。
「いけるか?」
「いつでも」
そして立哨中の白エルフ兵に警戒をしながら彼女達は起爆装置を離れた場所から点火した。
爆発の光の後、衝撃波と熱波を感じて夜の路線上で爆発が起こった。
「いちいち犬釘を抜くよりかは楽だな」
「ええ、音でバレますけどね」
すぐに馬に乗って現場を離れると、彼女達は再びインフラの破壊を徹底して行う。すでに戦線は北上を続け、両軍はネニング平原で対峙している。
パルチザンの目的は変わらず、軍用列車の襲撃や糧秣の焼却などの妨害である。
「やれ」
日が上り、森の木陰に隠れていた彼女達は持っていた火炎瓶に火をつけて列車に投げつけると、木造の貨車は炎を纏い、火災が発生していく。
列車が止まったところをさらに追加で火炎瓶を投げつける。
「火事だ!」
「襲撃されている!」
すでにディアネンに集結をさせていた糧秣と兵力だが、まだエルフィンドには北部などに占領をされていない地域がある為、ティリオンやエルドインなど北部地域の物資輸送は継続して行われていた。
またエルフィンドの鉄道というのはまだ複線区間が少ない為、列車の襲撃によって路線上で停車をすると、そこが血栓となって物流の流れを堰き止めてしまう。
いくら現地調達を行うエルフィンド軍であっても、砲弾や銃弾、その原料となる金属や火薬の原料は後方から送る必要があった。
「逃げろ!」
「爆発するぞ!」
火の付いた貨車を見て慌てて逃げ出す白エルフ達、乗っていた護衛の兵士達も慌てて降りていくと、その燃えた貨車に積載されていた小銃弾に引火して爆発を発生した。
「ひゅ〜」
「怖、弾薬積んでいたのかよ」
パンパンと爆発音を聞きながら火炎瓶で燃やした貨物列車を背にして彼女達は森の中を走る。すると後ろから鳴き声がして追ってくる音が聞こえる。
「…犬だな」
「軍用犬ですね」
鳴き声を聞き、護衛していた兵士が軍用犬を放ったと理解すると、彼女達は固まって小銃を構える。
『シモーヌ』
『了解』
襲撃をしたアグネスは魔術通信で確認を取ると、固まっていた集団の少し離れた場所で隠れていたシモーヌが持っていた小銃の引き金を引く。
「っ!?」
オルクセンの最新式小銃は簡単に追いかけて食いつこうとした軍用犬の一匹を射殺した。
「撃て」
アグネスは言って固まっていた彼女達は持っていた小銃を使って発砲をする。以前にも似た様な事があり、そこで散会したとしても犬の嗅覚とすばしっこさでやられてしまうことを知っていたので、その対策で密集陣形を作っていた。
「私達は犬の餌かよ」
「でも犯罪者ではある」
「刑務所にだけは、まだ入りたくないね」
銃を撃ちながら彼女達は口々にそう言うと、軍用犬を迎撃する。その間に近づいてきた兵士たちにはシモーヌが狙撃した。
「くそっ、何処からだ!?」
「見えん…」
雪が積もり、枝と幹だけの森の中で彼女達は何処からともなくくる狙撃に身を屈めて撃たれた味方の止血を行っていた。
「裏切り者どもめ…」
そして銃を持って森を睨んでいた彼女達は、放った軍用犬の鳴き声がしなくなったので思わず毒吐いた。オルクセンの侵攻が行われている中で今までも多くの列車が襲撃をされ、仲間が死亡し、祖国を裏切った者達への彼女達の怒りは壮絶であった。
「探せ!生け捕りにする必要もない!!」
指示を出して森の中に進出をする。今、彼女達が敵対をしている者達は、明らかに利敵行為に走った者達であり、生け取りにする事もう必要なかった。
すでに国内では秘密警察が交錯をしたオルクセン迎合派の人間の摘発を行なっており、尋問の末にいくつか発覚した拠点の摘発を行い、事実その後に活動が低下していた時期もあった。
「…」
極寒の冬、息が白くなりながら彼女達は顔を赤くさせて森の中を歩いた時、
「っ!?」
銃声と共に隣を進んでいた一人が撃たれ、それに反応をしようとした白エルフ兵は撃たれた。
「ごはっ!?」
アグネスが自前で持っていたソードオフショットガンから放たれた12ゲージ散弾は簡単に追跡を行った白エルフを倒すと、そこで彼女はスカーフを巻いたまま、倒れた白エルフを覗き込んだ。
「かふっ…き、さま…ら!!」
体を撃たれていたが、かろうじて息のあったその白エルフの将校は睨みつけた。
「悪いな。こっちは昔にダチと夫をこの国に殺されたんだ。恨まんでくれよ」
しかしそんな睨みつけなど、ただの悪あがきにしか見えなかったアグネスは祖国に最後まで忠義を通そうとする心意気は尊敬していたが、持っていた散弾銃に新しい紙製の散弾を一発装填してから銃口を合わせる。
「じゃあな。私が死んだら、まあ愚痴の一つでも聞いてやるよ」
彼女は極端なまでに冷静に介錯を済ませると、周りにいた構成員に行った。
「付近の拠点から物資を運び出せ。もう戦争も終盤を迎える」
「分かりました」
「派手にやるぞ、こっちはいつも通りの作戦を実行だ」
そして彼女達はそれぞれが渡された地図を使って物資の回収をしていく。
弾薬や食料などを集め、自分の持つ装備品に分配していく。
「あまり持ちすぎるなよ」
「ええ、それで前に撃たれて痛い目を見たんで」
馬上で扱う分には連射が早く行えるレバーアクション小銃。最新式のものを提供してくれたキアステンにはアグネスは感謝していた。
「オルクセンのは?」
「まだ余裕があります」
こちらについてきたシモーヌはそう言い、オルクセンから渡された小銃を清掃する。
多く小銃を撃っていると弾頭の鉛が銃身の旋条にこびりついていき、命中精度低下や暴発の危険性すらある為、こまめに彼女は小銃の手入れをしていた。清掃用具一式も提供されていた為、シモーヌは槓桿を引いて薬室を開放した状態で銃口を覗き込んでいた。
「そいつの性能はどうだ?」
「オルクセンのは性能良いですよ。反動はちょっと大きい気もしますけど、撃ちやすいです」
以前に使っていたグロワールの銃弾と違って褐色火薬を使用していたオルクセン軍の小銃は、有効射程を大幅に延長させていた。
「そうか…」
アグネスはそこでオルクセンに以前の銃と取り替える形で受け取った銃に少し初めは不満であったが、部下がそう言うのならばと言った具合で配給を終えた後に森の中で馬と共に焚き火を焚いていた。
「あぁ〜、美味い」
オルクセンの牛缶を使ったスープを飲んで彼女は言う。ロッキングチェアでも欲しいな、なんて言うとロザリンドの頃の彼女のぶっ飛んだ話を聞いていた面々の失笑を誘った。