白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#54 鋼鉄の竜Ⅵ

冬のエルフィンドの寒さはナイフの様に鋭い、それは誰もが認めるところだ。

特に山脈に囲まれた南部、黒エルフがいた場所は特に吹き付ける季節風が洋上で湿った雲を運んでくる為、雪が降り積もって冬は溜まってしまう。

 

「寒いな…」

「我慢しろ」

 

季節は冬、より一層寒くなったエルフィンドで、さらに濃い白い息をすることとなったパルチザン達は、冬の厚手の服を着て森の中を歩いていた。

 

時期は二月上旬。オルクセン軍ではリヴィル湖畔の戦いと呼ばれる戦闘がネニング平原で起こっている頃合いである。

オルクセン軍に若干の動揺をさせたその行動は数日の後に終了をし、オルクセン軍はエルフィンド軍を撃退し、この行動に総司令部は首を傾げていた頃だ。

 

その中でも彼女達、パルチザンはオルクセン軍からの補給を十分に受けながらゲリラ戦を展開していた。

第三軍に送られたゲリラ・コマンド部隊による遊撃戦も苛烈を極め、鉱山跡に隠れていた彼女達は、第三軍による迎撃を受けていた。

 

そしてそれは、エルフィンドの非占領地域でも同様であった。

 

「こっちだ!」

「包囲せよ!」

 

魔術通信も使い、指示を出すエルフィンド軍と警察。彼女達は通報を受けて森の中の山小屋に展開していた。

 

「突入するぞ」

 

そこで最初に警察官が立ってノックをする。

 

「開けろ!警察だ!」

 

扉をたたき、警察は返事が無いことに周りの兵士と同様に警戒をしながらドアを開ける。

 

「…」

 

そしてドアを開けると、直後に仕掛けられていた榴弾が落ち、床と接触をして着発信管が作動した。

 

「うわぁっ!?」

「ごはっ!!」

 

爆発の衝撃波で複数の白エルフが吹き飛び、木々にや地面に叩きつけられた。

 

「げほっ、げほっ」

「衛生兵!」

「くそっ!どんな爆弾だよ!?」

 

オルクセン軍の57mm砲弾を使ったトラップに白エルフ達は毒吐きながら救護を始める。古い山小屋が吹き飛んだことで木片も散らばり、榴弾の外殻と合わさって散弾の様になって襲いかかった。

 

「救護班!急げ!」

「くそったれ、騙された…!」

 

担架を持って急ぐ彼女達を、遠くからまた別の白エルフ達が音を聞いていた。

 

「爆発しましたね」

「ええ」

 

遠くで爆発した時の音を聞き、彼女達は森の中で白を基調とした服装で森の中を歩いていた。

冬に入り雪が積もる森林地帯を歩く為、彼女達は動いていても分かりにくい服を着ていた。この時期の白い迷彩服と言うのは実に便利で、この距離ともなれば動かなければまずバレない。遠くで悲鳴が聞こえ、叫ぶ声がする中を颯爽と馬に乗って走り去っていく。

 

「最近は増えましたね。拠点の摘発」

「向こうとて馬鹿では無いからな」

 

現政権に入ってからと言うもの、秘密警察というのは彼女達の大敵である。何せ監視の目というのはエルフィンド国民だ。全員が密告をすると考えても良い。我々が鉄道に対して破壊工作をしていることに対し、彼女達は躍起になって摘発を行っていた。

 

「最近は向こうも負け戦でピリピリしている。厭戦機運をなんとかしたいと思っているんだろうな」

 

特に最近はカナリアも一度鳴いたきり、二度目の連絡がつかない。おそらくは通報をしてすぐに秘密警察に拘束をされているからだろう。流石にこれだけ被害が出ると、エルフィンドでも夜間の魔術通信禁止令が出され、それがすぐに昼夜を問わず禁止になった。

 

非戦闘・非占領地域以外での魔術通信の使用は警察による拘束対象となり、カナリアとして姿勢に大量にいた浮浪者達などはあっという間に検挙された。無論、そんなことが続けば誰だって軍用列車の通報なんてしなくなる。

おかげで軍用列車がいつどこを出たのかが分からず、最近では軍用列車を見逃す事例も多くなっていた。

 

「オルクセンの話だと、一日一三〇〇トンの物資をここの列車は運んでいるそうだ」

「一日で…凄まじい量ですね」

 

鉄道で運ばれていく物資の量に部下が苦笑をする。少なくとも馬車何台分になるだろうかと計算をするだけでも凄まじい量になる。

 

「まあこれでもオルクセンからしてみたら貧弱というのだから、最近の戦争は恐ろしいよ」

 

アグネスはそこでキアステンから聞かされたある話を思い出す。

 

『今後、戦場では数億の砲弾が飛び交い、数十億の弾丸が飛び交う地獄絵図になるだろう』

 

それは世界を見てきた彼女のいつもの突拍子もない話だった。

彼女はエルフィンドから離れて星欧中を巡ってきた彼女、まだアグネス達が傭兵団に在籍していた頃のことだ。今まで数多の戦争や市民革命を見てきた彼女は、そこで見聞きした事柄を持っていたノートに執筆していた。

 

後年、この見聞録は一般人の視点から見た歴史の一片として重要な歴史資料となって人間族・魔種族の双方から利用されていくこととなる。

 

「ええ、商会長の予言は大当たりですよ」

 

部下の一人に彼女は頷き、冬の寒さで息も凍えそうになる中を森を抜けた。

 

「ふぅ…」

 

そして抜けた先には小さな村落があり、そこでは今日も暖炉の煙が上がっていた。

屋根は雪化粧に覆われ、急斜面で滑り落ちやすい構造の家だ。エルフィンドでは北部系の家の特徴であった。

 

「あっ、おかえり」

「ただいま」

 

そこで一人の白エルフ族の少女がアグネスに駆け寄って笑みを見せてきた。

 

「大人しくしていたか?」

「うん」

 

その少女に顔を近づけて聞くと、少女は頷いた。

 

「見ろよ」

「団長のあんな笑み初めて見た」

「すげぇ、団長が姉様やってるぞ」

「狼がウサギに化けてるぜ」

 

後ろで信じられないものを見て耳打ちをしていた部下達に『後でしばくか』と思いながら狩りから帰ってきた程で実際に獲ってきたウサギや鹿を村に運ぶ。

ここはアグネスの生まれ故郷の村落。馴染みの顔ばかりであるため、彼女達はここを中心に密かに活動を行なっていた。他の団員達は南部から逃げてきた仕事仲間ということでこの村で狩や薪の採取などを行いながら集会場を借りていた。

彼女は少し昔に近くの白銀樹で生まれた白エルフを氏族長が『軍を追い出されて暇だろ?』と言われて預けられた妹、エイル・イルマリン・ユーティライネンと共に暮らしていた。

 

「悪いね」

「いやぁ、ウチらしか狩が上手いのもいないし。まあ、足りなくなったらまた言ってくれや」

 

そう言い、村の広場に出てきた氏族長に彼女は言うと、彼女は安堵した様子でアグネスに言う。

 

「心配していたんだ。南部の方に行っちまってからしばらく帰ってこなかったんだからね」

「…別にいいだろ。イルマリンは喜んでたんだから」

 

傭兵団の長として南部に出稼ぎに行くことばかりであった彼女は、妹と共に地元から幼少期の頃から離れており、キアステン達とも面識があった。

しかし生まれ故郷の白銀樹から離れてしまったことで、あまり故郷ではいい顔をされなかった。南部や色々な場所を出かけたイルマリンは自分が珍しい経験をさせてもらっていたことを誇りに思っていた。

 

「お姉ちゃん?」

「ん、ちょっと待ってろ」

 

氏族長と長い喧嘩になる前にアグネスの裾を引っ張ってイルマリンが言ったので、すぐに彼女は狩猟をしてきた獲物の解体をしていく。

 

「助かるわ。最近はモノの値段も高くなってきて大変だから」

「ああ、少し前に街に行ってよくわかったよ」

 

アグネスはそう言って近くの街に降りた時に感じた物価上昇に表情を引き攣らせていた。戦争が始まり、まだ非占領地域であるこの場所は、珍しくエルフィンド政府によって糧秣の引き上げが行われなかった地域である。

北部とはいえ多数の村落や都市があり、穀物の売買などはこの地域でも行われていた。

 

「ネニングの方じゃオーク達が闊歩しているって言うだろ?」

「まぁな」

 

解体している途中、アグネスは平然と氏族長に答える。

 

「でも占領した地域じゃあ、オークは優しくしているって噂だが?…そっち持ってくれ」

「さぁね。まあ、とっとと戦争が終わって欲しいもんだよ」

 

そう言って氏族長は解体が終わったら呼んでくれと言って家に戻る。

残ったアグネス達は広場で狩猟をした動物達の解体を行っていくすでに冬の冷たい川水で血抜きとしっかり泥落としをし、内臓の摘出も終えてソリに雪を詰めて冷やした状態で吊るし、丁寧にナイフを使って革を剥いでいく。

今まで狩猟をしてきた動物の毛皮などは綺麗にいった場合などは頭に被ったりしており、冬の寒さをこれで凌いでいた。そして解体した肉類は村の者達に分けて支給し、各家で干し肉や塩漬けにされていく。

 

「よ〜し、これがお前らの分だ」

「分かりました」

 

戦争が始まり、穀物の仕入れが難しくなってしまったことでこの村では肉や野菜を主に使った料理や、蓄えてあった燕麦のミルク粥などが出されていた。

 

「私ロースいただき」

「あっ、いいなあ」

「ねえ、誰かシンタマと交換しない?」

 

部下達は分けられた新鮮な肉を前に、しっかりと火入れに注意しなければ酷いことになると知っていたので、各々持ち寄った飯盒で調理をしていく。

 

「お姐ちゃん?」

「ん、ちょっと待ってな」

 

妹に話しかけられ、アグネスは頷きながらも自分が食す用の分の内臓や肉を持って家の中に帰る。

骨は乾燥をさせて焼いて粉々にしてしまう。かつて彼女達の長であるキアステンに教えられた骨粉肥料である。初めこそ土に混ぜ物かと思ったが、彼女が実際に村に指導をすると、収穫量が増えてちょっとした贅沢ができたことから氏族長なんかは積極的に骨粉肥料を勧めていた。

教義には敬虔な人だが、現実を無視しないこの氏族長はアグネス達が来た時も先に宿泊費代わりにティアーラを渡したら理由を聞かずに村の大きな施設の集会所を貸してくれた。

 

「さて、夕飯にしようか」

「うん」

 

アグネスにイルマリンは頷いて家の中に入って行った。

 

 

 

その後、村の厩に繋げていた自分たちの馬の荷鞍に拠点から持ってきた弾薬を入れる。

 

「馬の世話、よろしくな」

「分かりました」

 

外に出てアグネスは飼葉を与えつつ、馬が凍えないようにするために火を焚く番の部下に言うと、村から密告者が出ないかどうかという確認も行なっていた。

装甲列車の捜索や軍用列車の襲撃を目的に彼女は帰郷をしており、その事はもちろん村の者達は知らない。

 

「気をつけろよ?最近は何かと物騒だからな」

「ええ、わかっていますよ」

 

アグネスに部下は頷くと、胸を張って答えた。

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