白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#58 鋼鉄の竜Ⅹ

ベレリアント半島西部、北海につながる荒海沿岸部のこの場所では、すでにオルクセンが制海権を手中に収めていたことで、今ではすっかり沿岸から見える範囲にですらオルクセン海軍の艦艇が航行していた。

 

「そろそろよ」

「分かってますよ」

 

そんな中、封鎖されていた検問を避けて南下を行っていた彼女達は、民間人立入禁止区域に展開していた。山間の道を使って南部に展開をしており、彼女達はそこで妨害工作を展開していた。

 

「行ける?」

「はい。問題ありません」

 

以前、前には無かった白エルフによる検問を見て、彼女達はこの先でエルフィンド軍が展開していると察し、沿岸部上空を飛行していた大鷲族を見て通報を行っていた。ありがたい事にオルクセン軍はパルチザンとの通信中継の為に大鷲族による前線を飛び越えた上からの敵情偵察を行ってくれた。

 

「今の所、大規模な部隊は確認できませんね」

「まあ、主力はディアネンに集結させているからね」

 

キアステンは双眼鏡を使って検問を行っていた理由を探っていた。

既にタスレン北部に敵部隊がいる事は展開した大鷲族によって判明しており、二羽の大鷲族はパルチザンとの情報と合わせて総司令部にこの内容を送っていた。

 

しかしこの情報は、総司令部で大きく報告をされる事はなかった。

 

「くそっ、エルフィンド軍の全戦線での進撃!?」

「奴らは何処まで進出してきた!!」

「最前線を突破されただと!?」

 

何故なら彼らは非常に混乱状態に陥っていたからだ。

 

日付は四月九日、後にクーランディア攻勢と呼ばれるエルフィンド軍による大規模な攻勢が始まってしまった。

この時の総司令部は泡を食ったように各所で混乱が起こっており、タスレン近郊の部隊は僅かに五〇〇名弱規模の兵員であったことも報告の重要度が後回しにされる要因であった。

 

 

 

そのディアネンに駐屯していた四二万の兵力が大攻勢を始めた事は直ちに魔術通信を介してある場所に伝えられた。

 

「閣下、ディアネン方面軍が攻勢を始めました」

「よし、攻撃を開始しろ」

 

場所はベレリアント半島東部、森の鬱蒼とした木々の中、山の中に掘られたトンネルの中で蒸気を上げてその時を待っていた指揮官は指示を出した。

 

「列車を前に出せ!」

「砲撃用意!」

「奇襲部隊の支援を行う。砲撃時間は三時間とする」

 

山の中では隠れていた装甲列車が、旅客列車に扮した軍用列車からの補給を受けて砲弾や装薬、弾薬を十分に受け取って砲撃準備を整えていた。

 

一両目に7ポンド砲を装備した屋根付きの改造無蓋貨車、二両目に装甲化した改造客車、鉄板を上から貼り付けて改造した機関車を挟んで四両目は8インチ砲を装備した列車砲運用を行える無蓋貨車、五両目にまた7ポンド砲を装備した改造貨車を連結していた。

 

一両目と五両目の改造無蓋貨車の見た目から鶏小屋(ホゥンセフース)と呼ばれ、資料では『改造武装列車』なる名称であったが、専らあだ名で呼ばれることが一般であった。

 

「撃て!」

 

そして少し前進をさせてトンネルから出ると、眼下にタスレンの市街地を確認した。

この前装式8インチ砲の射程はここからタスレンを砲撃するのに十分な射程を持っていた。そして放たれた砲弾は前線後方の物資集積所に着弾していく。

 

「街には当てるな。最前線に砲撃しろ」

「了解しました」

 

一度放たれた8インチ砲は再度装填のために仰角を水平近くまで戻されると、榴弾と薬包を装填されて再度仰角がつけられる。

 

「装填完了!」

「撃て!」

 

そして放たれた砲弾は後方からオルクセン軍を脅かす。8インチ砲の砲撃の間に軽量な7ポンド山砲による砲撃も行われ、一昔前の戦列艦の様に車体に何本もの麻縄をくくり付けたことで余計な後退を防いでいた。

 

「何だ!?」

「砲撃だ!後ろから撃たれているぞ!」

 

クーランディア構成で、第一・第五軍団に目が入っていたオルクセン総司令部は第四軍団からの報告に驚愕していた。

 

「タスレンに砲撃だと!?」

「後方集積所がやられている!」

 

そして密かに配置されていたエルフィンド兵が班ごとに分かれてタスレン近郊で警備をしていたオルクセン軍に襲撃を敢行していた。

 

「敵だ!」

「物資集積所が狙われているぞ!」

 

僅か数百名の兵士であったが、彼女達は次々と物資集積所を襲撃、糧秣に火を放ち、砲弾に爆薬を投げ込む。

 

「襲撃だ!」

「迎撃しろ!」

 

すぐにオルクセン軍も敵の目的が物資集積所の攻撃であると察すると、警護していた兵士たちは武器を持って襲いかかる白エルフ兵に攻撃を行う。

 

「くそっ!あいつら何処まで来ている?!」

「砲撃が来るぞ!」

 

エルフィンド軍の装甲列車による砲撃はオルクセン軍の後方を脅かす重大な脅威となった。

たった一門の砲、されど8インチの巨砲。放たれる榴弾は着弾のたびに巨大な土煙を上げていた。

 

「くそっ、装甲列車は何処にいたんだよ」

「パルチザンめ、しっかり報告しろよな」

「馬鹿野郎、軍隊みてえなことをあいつらができるかよ!」

 

迎撃をするオーク兵達はそう怒鳴りながら小銃を使って迎撃を行う。

現状、故障したグラックストン機関砲以外はこの後方に用意されていなかった為、攻撃に来た白エルフ兵は大砲や小銃のみで迎撃をするしかなかった。

 

「撃て!」

 

敵が建物に籠った場合、57mm山砲や75mm野砲の榴霰弾による直接射撃が叩き込まれた。そして駐屯をしていた村落でオルクセン軍は襲撃をしに来た敵兵を見て驚く。

 

「こいつら…」

「なんて奴らだ。私服を着ていやがる」

 

彼女達は市井に溶け込めるように私服を纏っており、物資集積所に襲撃を行っていた。かつて、パルチザンがエルフィンド兵の死体から軍服を剥ぎ取って襲撃を行ったことをそのまま真似をしたのだ。

 

「なんて連中だ」

「コイツらは軍をなんだと思っているんだ?」

 

そのやり方にオルクセン軍は信じられないと言うのと、その姑息なやり方に腹を立てていた。

 

 

 

 

 

同日、ディアネン郊外。

クーランディア攻勢が始まったその日、後方で物資補給を行っていたディネンに向かう路線の近辺。

 

「…」

 

深夜に人気が少なくなった場所で爆薬を仕掛け、すでに離れた場所に退避していたアグネス達は、クーランディア攻勢の噂が入ってきた頃合いに山の中で隠れていた彼女達はその姿を見た。

 

「来たぞ」

 

汽笛の音と共に彼女達 は言う。遠くで見ていたその列車は五両編成で、全体を装甲で纏った列車であった。

 

「装甲列車だ」

 

少々、忌々しげにその姿を収めてアグネスは言う。

そして森の狭間から見えたその列車は一両目と五両目に7ポンド山砲ではなく、37mmホッチキス回転砲を装備した改良型であった。

 

まだ彼女達は気がつく事はなかったが、この戦争中に使われた装甲列車は二編成存在していた。これら装甲列車にはそれぞれ『一号列車』『二号列車』と名称が与えられ、専用に砲兵隊の要員も配置されていた。

 

「爆破の用意は?」

「仕掛けは張りました。あとは獲物が掛かるのを待つだけです」

 

アグネスに部下はそう言うと、遠くで爆発音が聞こえた。

列車が走る路線上に点火装置と繋げた細い鉄線を張り、通過した直後に起爆するように作られていた。爆薬は夜中のうちに地面のバラストの中に隠してあり、彼女達の手際の良さが伺えた。

 

「これで暫くは列車も前に出られんでしょう」

「だと良いが…」

 

そこで彼女達はあっという間に歩兵を動員して線路を直してしまうエルフィンド軍に最近の襲撃の死傷者の多さから熾烈さを感じ取っていた。

 

「装甲列車の所在は常に把握しておけ。オルクセンから聞かれても答えられるようにな」

 

先に装甲列車の所在を確認した後、オルクセン軍との戦闘にさせないようにするために彼女達は妨害工作を行なっていた。オルクセン軍もこの装甲列車には十分な警戒をしており、パルチザンにはその所在を探るようにも言っていた。そしてオルクセンの砲兵隊が通報を受けてその場所に砲弾を叩き込む。それが当初の予定であった。

 

双方はこのクーランディア攻勢まで見つかる事はなかったが、片方は戦線に到着する前にパルチザンによる妨害工作を受けて停止せざるを得なかった。

 

「くそっ!」

 

爆発をした路線を見て装甲列車の指揮官は毒吐いて破壊された路線を見た。

ディアネンの総司令部から砲撃の支援要請を受け、車両に搭載された8インチ榴弾砲による攻撃を行う為に前進をする途中であったが、その道中で不自然な仕掛けがあると先んじて警戒に当たっていた白エルフ兵の通報を受けて、直前で列車を止めていた。

 

するとギリギリ膝あたり、視界からは見えくく、だから脚を上げる動作をしなければならないほどの絶妙な高さに張られていたそれは、導火線と繋がっており、バラストの下に隠された爆薬につながっていることを工兵隊が発見し、これの除去を行なっているときに起こった爆発であった。

 

「もう一つ爆弾が仕掛けられていたそうです」

 

少しして報告が上がってくると、どうやらその爆薬は下にばねの仕掛けと爆薬がもう一層埋まっており、上の爆薬を外すと、下の地雷が起爆する仕組みになっていたと言う。

 

「総司令部に伝えろ!『我々線路断絶、支援困難』と!」

 

最前線で味方が大戦果を上げていると聞き、悔しい思いで歯軋りをさせながら装甲列車の指揮官は東方を見つめる。

 

「…止まってる」

「上手いこといったってわけだ」

 

その様子を遠くからシモーヌや他の構成員が双眼鏡を使って見ていた。

狙撃兵である彼女達は偵察をすることも任務として与えられており、オルクセン軍に現地の地形情報などを共有していた。

狙撃をすると言う特性から計算が得意な面々が揃えられており、彼女達は淡々と仕事をこなしていた。

 

「オルクセンは苦戦してるって言うけど…」

「多分、本当だと思う」

 

彼女達は肌感覚でそう思った。まずディアネンに真っ先に送られていた物資は砲弾と弾薬であった。故に軍用列車の荷物は火を放ったら慌てて兵士たちは逃げていたのだ。

 

「…負けるのかな」

 

少し暗い声色でその白エルフは呟くと、シモーヌは背中にオルクセン軍の小銃を背負い直す。

 

「どうだろう?」

 

そして先が見えない方に軽く肩をすくめて答えた。

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