白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#59 鋼鉄の竜Ⅺ

ベレリアント半島で行われたクーランディア攻勢。九日に始まったそれは一一日に入って第三・第四軍団の侵攻が行われていた。

 

「撃て!」

 

その間もタスレン近郊への砲撃が行われており、短い時間で二回ほど発射をした後に消えてしまうため、大鷲族による追跡も困難を極めていた。

 

「撤収!」

 

戦果の確認は市街地に潜り込ませた奇襲部隊による観測を受けており、暗号を使ってやり取りをしていた。

数発発射の後にトンネルに隠れてやり過ごす行為を繰り返していくと、次第にオルクセン側から『タスレン・シュネルツーク』と呼称される砲撃が行われていた。

 

「くそっ、またかよ」

「退避!退避ぃっ!」

 

物資集積所から総司令部による攻撃命令を受け取った補給部隊では、タスレン近郊でそう叫びながら慌てて兵士たちは逃げていく。

 

 

 

 

 

三月上旬から下旬にかけて、最前線ではアンファウグリア旅団による長距離斥候が行われていた。

 

「パルチザンがいて良かったですね」

「ええ、まだマシな地図が使えるわ」

 

死地に行く覚悟で送り出された彼女達は最低限の物資を与えられ、エルフィンド軍の制服や装備を使って偵察を行っていた。流石にパルチザンの使っていた血のついた軍服などではなかったが、彼女達は平然と制服を着て白エルフ族として流暢なアーブル語で会話をして立哨などをやり過ごしていく。

 

「それに我々は彼女らの拠点を使える。中はまだ物資の引き上げをされてないと来た」

 

斥候中、彼女達の支えとなったのは連絡係として残っていたパルチザンが提供してくれた抵抗拠点となる施設であった。それは狩猟用の待避用の山小屋であったり、小さな納屋に偽装してあったりして、中に幾許かの物資が残されていた。

 

「おお…」

「入念な準備は本当の様だな」

 

その建物は、あらかじめ施設に馬を繋げられるような設計で、中には三名ほどが使える施設が残されていた。

 

「ありがたく使わせてもらおう」

 

彼女達はそこでパルチザンが残していた拠点を使って入念な偵察と、敵情状況を把握して行く。そして事前にパルチザンや情報局から与えられた地図に書き加えて行く形で情報の差異や書き加えを行って行く。

そうして付け加えられた情報は帰還した際に大いに役に立つこととなり、オルクセン軍を喜ばせた。

 

「あそこまで詳しく書ける余裕があったのは、パルチザンの残した拠点のおかげだ」

 

後年、その偵察に出ていた兵士たちは口を揃えてそう話した。

上手く偽装をされていた建物は中に食料となる缶詰が備蓄されており、彼女達はそれを大切に使わせてもらっていた。

 

そして帰還後、その情報を頼りにアンファウグリア旅団は一一日の夕刻に進撃を開始していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

結局、会えるのは戦後になってからなのだろう。

 

ネブラスにいたグスタフは直感的にそう思った。

このクーランディア攻勢にて、ネブラスの目前までエルフィンド軍に侵攻を許したオルクセン軍であったが、後方の部隊までも動員して使った『奇跡のネブラス円陣』と呼ばれる陣地を前に進軍を行ったエルフィンド軍は攻撃限界点を迎えて撤退を始めていた。

現在、オルクセン軍は撤退を始めたイヴァメネル支隊に追撃を行っているが、兵站上の混乱や将兵の疲労、通信の混乱によって上手くできていない状況にあった。

 

タスレン郊外ではいまだに散発的な砲撃が行われており、第四軍団の補給を脅かそうとしていた。ちょうどパルチザンの半分が展開している地域であり、直に居場所を特定されるだろうと推察していた。

装甲列車というのは、その性質上から鉄道路線を守ることに特化した兵器であり、まだ鉄道以外の物資輸送の方法が馬車しかない今の時代では効果的な兵器でもあった。しかし欠点として線路上以外で移動は困難である。その為、線路をたどっていけば見つかるだろうと予想していた。

 

今いるメシャム号であっても、本国に置いてきたセンチュリースター号であっても、軍司令部としての機能があることから広義的に言えば軍用列車に入る。

 

「装甲列車はパルチザンの大敵だな…」

 

グスタフはそれを分かっているからこそ、報告を聞いた時は軍による砲撃で撃退することを提案し、向こうもそれを分かっているかのように頷いた。彼女達の行動はオルクセンにとっても重要なものであり、彼女達の通報を聞く為に態々大鷲族の編隊を送り込むほどであった。

 

「やはり、彼女達には勲章を与えるべきだろう」

 

それほどの活躍を戦争中に彼女達は行動で示してくれた。

総司令部も彼女達の敵情情報を欲し、魔術通信で暗号を送ってくれるので大鷲族にその情報の回収を依頼する。同族からの密告に警戒をしつつも、危険を犯してくれるその献身に何としても応えたかった。

 

ーー故に負けるわけにはいかない。

 

グスタフはきっと知られていないだけで多くの協力者が犠牲になっているだろうと予測していた。実際に犠牲になったパルチザンがいることもアンファウグリア旅団の報告書の中に書いてあった。

 

「鉄道網が発展をしていなくても、彼女達はそれを使う証左だな…」

 

またこの頃、タスレンへの砲撃とともに西部でも斥候に出て同地に展開していたパルチザンと接触をしていたアンファウグリア旅団からも装甲列車の情報が入り、エルフィンドは装甲列車を二編成運用しているという事実が発覚した。

 

「キアステン・ラーセン…」

 

戦争が終わったら会いたいものだ、と心の中で思いながら彼は今も苦労をしているであろう総司令部にいるグレーベン達への慰問を考えていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

一二日、午前。

キアステンはタスレン近郊に展開をして敵装甲列車の捜索を行っていた。

 

「くそっ、撤収が早いなぁ!」

「向こうも手慣れてきた証拠ですね」

 

クーランディア攻勢から三日ほどが経過し、上空を飛んでくれている大鷲族から粗方の情報を聞いてオルクセンとパルチザンが共有をした軍用地図を睨みつける。

 

「どこから撃っているのかがさっぱりわからん」

 

問題はそこであった。目下タスレンの物資集積所を攻撃しているという装甲列車は、神出鬼没で砲撃を行なって消えてしまう。大鷲族が飛び立って捜索を行おうとした瞬間にはどこかに隠れてしまうのだ。

 

「どうやって列車なんて隠すの?」

 

その隣でヘンナが首を傾げていた。彼女達、山岳猟兵連隊の一部はパルチザンとの協働のために残地しており、ヘンナはそこでアンファウグリア旅団本隊と分かれてキアステン達と半島東部を偵察していた。

装甲列車からの自衛のためにオルクセン軍の57mm山砲を二門ほど派遣されていた。

 

「うーん…」

 

地図を前に考えるキアステンは脳裏に幾つかの想像ができた。

 

「掩蔽壕を使った?」

「無理でしょ。こんな場所に戦争が始まってから作れるの?」

「じゃあトンネルは?」

「ここら辺にトンネルなんてあったかなぁ…」

 

装甲列車に対し、あーだこーだと黒エルフ兵と言い合って意見を出し合う。オルクセン式の教育を受けた彼女達は実に屈託なく話すことができた。

 

「そもそも砲撃があって、通報があって、慌てて追いかけているけど、その間に隠れてしまうわよね」

「問題はそこだ。連中、手際が良くなって撃ってから隠れる速度が早すぎる」

 

タスレンへの砲撃はクーランディア攻勢に合わせて行われていた。その為、タスレンに駐屯をしていた兵士たちはあっという間に物資集積所などを破壊してしまうこの攻撃にあだ名をつける始末である。

 

「操車場は?」

「一応、全部確認したけどそれらしい車両は見当たらなかった」

「線路上は…いないわね」

 

ヘンナが言いかけてやめた。そんなものは線路沿いに北上をしてきた彼女達なのだから、いたら見つけているはずであった。

 

「総司令部は、装甲列車の所在を通報してくれたら砲兵隊が対処をしてくれるそうだ」

「ありがたいね。ウチラで対処してくれなんて言ってくれないんだ」

 

キアステンは派遣された黒エルフの隊長に言ってから軍用地図を指差して指示をする。

 

「とりあえず、ココとココとココ、真ん中に砲兵を用意して、痕跡を見つけたら通報しましょう」

「了解した」

 

山狩を行うように彼女は魔術通信が万全にできる範囲で人員を配置しており、その距離に砲兵隊も頷いた。

 

「今、北部に馬を飛ばして人を呼んだ。明後日くらいには多分集められるから…」

 

彼女はそう言い、装甲列車の捜索にリソースを注いでいた。

この時期ともなると、軍用列車はこの東部ではほぼ見かけなくなっており、アグネス達に機関銃送るほどに非活性であった。

 

その為、今の彼女達は襲撃よりも装甲列車の捜索に重きを置いていた。以前の通り、装甲列車には大砲を持ち込む必要があり、砲兵隊の支援の方が有り難かった。

 

「…ん?」

 

その時、森の枝の上に登っていた一人の白エルフが双眼鏡を使って上から森を見ていた時に違和感を感じた。その違和感は森の奥、遠く離れた山の近くで見えた。

 

「っ!!」

 

よーく見てみると、森の木々の中から白煙が上がっているのが見え、直後に砲声が聞こえた。

 

「居たぞぉ…居たぞぉ!」

 

双眼鏡を押し当てて彼女は叫ぶと、下に居たキアステン達に叫んだ。

 

「北西に白煙あり!」

「ええ、砲声が聞こえたわ」

 

今し方の砲撃音はキアステン達の耳にも入っており、彼女達は一斉に顔を合わせた。

 

「伝令!装甲列車を見つけた!復唱はいらん!」

 

すぐさま隊長は指示を出すと、伝来として少し急いで馬に乗って走って行く。

 

「しかし時間がない」

「ええ、恐らくすぐに隠れてしまうでしょうね」

 

今までの通りなら、砲撃をしてすぐに彼女達はどこかに雲隠れをしてしまう。今まで大鷲族の上空偵察ですら隠れ切った為、警戒度は高い。

 

「追跡は?」

「多分無理。線路に立哨をしている歩兵がいると思うから」

 

ヘンナにキアステンはそう返す。これほど散発的な攻撃でありながら、集積所を的確に破壊している為、タスレンには観測者が潜んでいるとこはまず間違いなかった。

 

「魔術通信も今の混線具合じゃあまるで分からん」

 

隊長もそう言って肩をすくめた。ネニングの南翼で敵の大攻勢があり、ネブラス手前で撃退できたという報告が上がっていたが、それ以降の連絡が全くないこともその混乱の度合いを物語っていた。

 

「どうします?」

「追跡をして、増援が来るまで足止めってところですかね…」

「無茶を言う。相手は多数の歩兵に山砲二つと榴弾砲だ。こっちも最低で野砲が欲しい」

 

隊長の言うことはごもっともであったが、キアステン達はとにかく装甲列車の痕跡を追うために馬に跨った。

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