白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#6 一二〇年前Ⅵ

「ぎゃあっ!?」

「うがっ!!」

 

銃剣を刺し、発砲をする。

殺しているのは同胞(白エルフ)。敵である。

 

「がっ!ごっ!?」

 

刺された白エルフは意味がわからない様子で私を見つめている。当然だろう。味方であるエルフィンドの制服を着た奴らから背中を刺されたのだから。

 

「…よし」

 

魔術通信を確認して通報されていないことを確認すると、立ち上がってあまりを確認する。

 

「アンタ…」

 

そしてナイフで縛られていた縄を切ると、困惑した様子でドワーフ達は私を見る。

 

「…南に逃げて、川を越えて。そしたら、安全だから」

 

それだけを伝えて私はモーリアの街を走る。

所々で殺されたドワーフの死体も見て、顔を歪める。

 

巫山戯ている。

 

完璧な存在?教義?ではこの殺戮は何だ?

シルヴァン川の方は我らのものといった。ではコボルト族はどうなる?

 

「貴様らはオークよりも憎いぞ」

 

キアステンは確信した。おそらく、今後もこいつらは同じ事をしていく。

私は他にどんな種族がいるのかを知らない。記憶にある頃から農奴として使役される側であった私は世界を知らない。

 

「っ!!」

 

幸いにも白エルフはドワーフが魔術通信をしていないことをいいことに通信がダダ漏れである。故に何処に捕えられたドワーフがいるのかも把握できた。

 

「…」

 

本来、私のように制服を着てこんな事をするのは愚策であると分かっている。しかし子供の私であってもドワーフの服というのは体に合わない。

 

「南に逃げて。川を越えて」

 

次々と見つけたドワーフにそれだけを言って流していく。

困惑や殺意を向けられながらも、それでも私はやる事をやっていく。邪魔な白エルフがいれば魔術通信で誘き出して始末をするかその間にドワーフを逃す。

 

こんな馬鹿らしい事をする同胞に対するささやかな反抗のつもりでやっている。より多くの白エルフを殺せるの言うのであれば、より恨んでくれるのであれば、これほど興奮することはない。

 

「がっ!?」

 

今も建物の路地に隠れて至近距離で二名を立て続けに殺した。

 

「行って」

 

私はそう言うと、路地に隠れていた数人のドワーフが、銃を持った同族に守られて逃げていく。感謝も何も無かったが、それで十分だった。

 

「…ふぅ」

 

一体どれだけの人が逃げ出せただろうか。

不意にそんな事を考える。無我夢中で行っていたので、私の体は限界を迎えつつあった。しかし、だいぶ魔術通信の頻度が少なくなってきた。それの意味するところはわかりきっている。

 

「おい、大丈夫か?」

 

すると路地で座り込んでいた私に話しかけてきた人物が一人。白エルフだ。

 

「どうした?」

 

彼女達は耳や首元に普段の軍隊の規則ではあり得ない装飾品を纏っており、それがドワーフのものだと分かる精巧さだ。

私は無言で通りに指をさすと、そこでは斃れている二人の白エルフ。その意図を誤解しなかった二人は、途端に目線を鋭くした。

 

「君は大丈夫か?」

「はい…大丈夫です」

 

疲れた顔を見せて今にも倒れそうなキアステンに、二人の白エルフは彼女にエルフの耳がないことに気がついた。

 

「?人間族が何故ここにいる?」

「…生まれつきですよ」

 

私は軽く睨み返して二人を見ると、彼女達はその覇気にやや気圧されて唾を飲み込む。私は銃を杖代わりに立ち上がった。

 

「では、私は原隊に復帰しますので」

「あっ、ああ…」

 

怒らせてしまったと彼女達は耳のない白エルフを見て感じると、彼女は朝日の登ったモーリアの市街地を見る。

 

市街地はすっかり制圧され、昨日あった銃声も砲声も聞こえてこない。

 

「っーー!」

 

その時、私は途端に競り上がってくる何かを感じた。そして銃も放り投げて街の隅に立って嘔吐をした。

嫌なものを見たことによる反動か、将又味方殺しをしながらも平然と話しかけてきた白エルフに受け応えたからだろうか。

 

どちらにせよ、私はもう疲れてしまった。できることならこのまま寝入ってしまいたいほどには。

 

「…ふかふかのベッドで寝たいなぁ…」

 

それを知っている彼女はそう呟くと、一通り戦闘糧食の塊を吐き出した後に原隊が何処にいるのかを魔術通信で聞いた。

そして教えてもらって原隊が野営をしている集会所に立ち寄った。

 

「キアステン・ラーセン二等兵。帰還しました」

 

敬礼をすると、ほぼ単独行動となっていた私をまず氏族長は吐き捨てる。

 

「死んでいなかったのか」

 

開口一番にこれである。まあ死んでくれた方が向こうもありがたいのだろうが、中指を立てさせてもらう。

 

「失礼ながら生き残ってしまいました」

 

私はそう答えると、氏族長は私を見た後に軽く苦虫を潰したような顔を浮かべた。多分、氏族長の目算では私をこのロザリンド渓谷とモーリアで死んでくれたら儲け物と思っていたのだろう。

この氏族は国内でも中堅的な立場であり、そんな中からエルフ耳を持たない白エルフが産まれたとなったら、氏族全体の評判の問題となると考えたのだろう。

 

「失礼ながら氏族長。折り合った頼みが」

「…何だ」

 

そんなものはこっちから願い下げである。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

あのロザリンド渓谷での戦争が終わって少しした頃、政府から発表があった。それはドワーフの国を併合したと言う話だ。

私たち黒エルフの生活は殆ど狩猟によって成り立っている上に、そもそも国自体がそれほど他のコボルト以外の民族とも出くわさないので『へぇ、そうなんだ』で終わってしまう話であった。

 

「うーん、ちょっと今日は微妙かな〜」

 

背中にマスケット銃を持って私は呟きながら、成果の出なかった狩から帰る途中だった。

 

「…あれ?」

 

そして狩から帰る途中、道の途中で立ち尽くしている少女がいた。

 

「こ、こっちでいいのかな…?」

 

紙を持って見上げていたその子は困っている様子だった。

着ている服は私たちも少し前に着ていたエルフィンド陸軍の制服。背嚢も背負っていたその子は人間族かと一瞬思ってしまったが、その背格好には見覚えがあった。

しかし初めて会った時とは違って可愛げのある困り方をしており、少し面白くなって私は他人を装って話しかけた。

 

「何かお困りですか?」

「あ、はい…っ!?」

 

話しかけてその少女はこっちを見ると、驚愕した顔をした。

 

「やった〜、来てくれたんだ〜!」

「ど、どうも…お久しぶりです」

 

そう答え、抱きつかれたキアステンはヘンナを見る。

 

「い、痛い…」

「おっと、ごめんね」

 

ヘンナはそこでキアステンを見下ろす。

 

「…明るいんですね」

「私はどっちかって言うとこっちがいつもよ」

 

ヘンナはそう言うと軍服を着たままのキアステンを見る。

 

「来てくれて嬉しいわ。道に迷わなかった?」

「ああ、いえ。これに沿って読んでもらって、案内してくれたので…」

 

キアステンはそう言いってここまでくるのに散々苦労してきた事を思い出す。

 

「あ、やっぱり読めない感じなんだね」

「うっ…まあ、そうです」

 

彼女は少し恥ずかしそうにすると、ヘンナは理解した様子で頷くと彼女を村を案内しながら言う。

 

「だったら私が教えてしんぜよう」

「え?良いんですか?」

「勿論」

 

ヘンナはこの耳のない白エルフに対し、当たり前といった様子で頷いたのだ。

 

「文字が読めないと色々と苦労するしね」

 

彼女はそう言ってキアステンを村に案内する。

 

「ほらあそこ。私の村だよ」

 

そう言ってキアステンの手を軽く引っ張ってヘンナは彼女を招き入れた。

 

「ヘンナ、その子誰?」

「私の友人!キアステン」

「初めまして。キアステン・ラーセンと言います」

 

ヘンナの隣で帽子を取って頭を上げるキアステンに、礼儀正しい子だなと思いながら村のもの達は迎え入れる。

 

「珍しいね。人間族の子なんて」

「なんで陸軍の服着ているの?」

「あ、えっと…一応、私白エルフです…」

「「えっ!?」」

 

キアステンの告白に村の者達は驚愕した。

 

 

 

その後、キアステンはヘンナの住む木造の建物に泊まらせてもらうことになった。

 

「へぇ、軍辞めてきたんだ」

「…うん、そう」

 

そして建物の中で私はヘンナに頷く。

モーリアでの一件の後、私は軍を辞めると言って氏族長に言った。辞めた後にどうするのかと問われたが、私は旅にでも出ますと言ったら氏族長は二つ返事で頷いてくれた。

厄介払いができて清々したというのがあからさまに滲み出ており、隠す気もないのかこいつはと呆れながら数少ない荷物と共にモーリアを後にした。

 

「…何かあったの?」

「…ううん。特にそう言うのじゃないんだけど」

「嘘ね」

 

首を横に張ろうとした時、ヘンナはそう言って私を見てきた。

 

「疲れてる。ロザリンドの後、何があったの?」

「…」

 

そんなヘンナの問いにキアステンは何も答えなかった。

 

「…そっか」

 

彼女はこれ以上は無駄だなと理解した上で、彼女の肩を軽く叩き、その後に顔を体に押し込んだ。

 

「大変だったね」

「…うん」

 

その直後、ヘンナの体温によってか分からないが、彼女は軽く体を振るわせて何度も頷いた。

 

 

 

それからというもの、私はヘンナの家にお世話になった。向こうも私が捨てられたという事を察してくれたのか、いろいろと手を尽くしてくれた。

私は彼女の家で狩猟の側、文字や他の情報を教えてもらった。

 

「まずここにあるのがベレリアント半島で、ここには白エルフ、黒エルフ、大鷲族、巨狼族、コボルト族、ドワーフ族がいて…」

 

農奴で実際に何も知らない身であり、黒エルフと白エルフの微妙な関係については生まれの氏族の話で知っており、それなのにも関わらず彼女は言葉や知識を教えてくれた。

 

大体、ロザリンド会戦から五年ほどだった頃だろうか、私の耳のない白エルフというのは村に住んでいた黒エルフからもあだ名で呼ばれるようになった。

 

「耳なしさん」

「はい、何ですか?」

 

昔は蔑称であったそれも、今となっては愛称であった。

私は農奴の時にちょっとした農業の知識があったので、村で小さな畑を耕して家庭菜園を始めていた。植えていたのは主に根菜類。育成が早く、育てやすいことから個人的にヘンナに頼んで植えさせてもらっていた。

 

「うーん、本当は小麦よりも米の方が生産性が高いんだけどなぁ…」

「コメ?」

「ずっと遠い場所にある小麦みたいな植物。雨が沢山降ると育てられるんだけどね」

「ふーん?」

 

正直、農業に関してはキアステンの方が詳しかった為、ヘンナは詳しく聞いても分からないと思った。

 

「三圃式は冬に家畜の飼料が確保できないからやっぱり輪栽式のほうが効率いいけど土地がねぇし、金もねぇし…」

 

そう言って頭を悩ませている彼女を何度も見ていた。

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