タスレン郊外で装甲列車の捜索を行っていたキアステン達は、春の芽吹きを感じさせる森のそばの街道を走っていた。
「この先に路線があるから…」
軍用地図を片手に彼女は言うと、後ろに乗っていたヘンナが質問をする。
「でもここら辺って隠れられる場所ってあるの?」
「地図に載っていないだけで新しく作られた路線があるかもだし…」
少なくとも鉄道用トンネルの類はここら辺にもあり、キアステンは列車砲とトンネルと聞いてあることが思い浮かんだのだ。
「撃って隠れて、大鷲族の偵察も逃れるんだったらトンネルかな…」
そこで彼女は後ろから追従する他の兵達もみる。彼女達は一様に武器を持っており、襲撃を取れるように火炎瓶の準備も済ませていた。
「最悪、増援が来る前に突っ込むかもしれない」
「え…?」
まじかよと言う信じられない顔をしてヘンナはキアステンを見ると、他にオルクセンの砲兵隊も砲を牽引して走っていた。
この日、最前線ではオルクセン軍による追撃が次々と始まっており、エルフィンド軍の魔術通信を巧みに使用した浸透戦術による攻撃も、その鋭さを失って各所で撤退が始まっていた。さらに大鷲軍団による爆撃もこの際に始まり、猛攻を加えていた。特にアンファウグリア旅団本隊などは大きく前進をしており、凄まじい勢いで西進していた。
「装甲列車を足止めして、後続の支援を待つ他ないだろう」
追従をして支援を行う予定の隊長もそう言い頷く。既に伝来は飛ばしているため、比較的早く到着をすることとなると推測できた。発見した時点で伝令を出したことにより、装甲列車への攻撃はすぐに総司令部に届くこととなるだろう。
「見つけ次第砲撃を開始せよ!」
森の中に入り、砲撃音が聞こえる中で彼女達は馬を降りて銃を手に持つ。
砲兵は手に山砲を握り、森の中で砲撃準備を整える。
「…」
無論、全員が警戒感をあらわにしながら足音に警戒をしつつ森を歩く。彼女達は小銃に銃弾を装填していつでも撃てる準備をしていた。
「何処?」
「見当たらん…」
そして森の中を誰かが必ず視界に収まる距離で歩いていると、一人の黒エルフ兵が指を差した。
「あっ、あれ…!!」
その先には森の中で風に揺られていた草木の塊があった。低木かとも思えたが、そもそものこの森に低木など存在しない。それは長いことこの場所を訪れていたから知っている。
「…いた、装甲列車だ!」
その直後、再び砲撃が行われ、その砲声と衝撃波で括り付けてあった木の葉や材木が揺れていた。その列車は全周に切り倒した生木を括り付けることで上空からの偵察も逃れ、近くにまだ建設途中であったトンネルを使って隠れていたのだ。
「砲撃準備だ!」
「砲を回せ!」
すぐに二門の山砲は砲撃準備を始めると、そこで小銃を持った歩兵隊は射撃準備を始める。
「目標正面だ。息を殺して襲うぞ」
キアステンはそう言って火炎瓶を持ち、ヘンナはこの頃になって現れた空き缶を使った簡易的な改造手榴弾を手に持つ。支援された爆薬を、キアステンの提案で擲弾に改造したのだ。
「まだ撃つなよ」
キアステンはそう指示をして他の面々を落ち着かせる。まだ列車がこちらに気がついた雰囲気はなく、撃ってくる気配はなかった。
「まだだ…」
足元に注意をしながら前進をすると、その直後。
「撃て!」
後方で準備を終えた砲兵隊が砲撃を敢行し、装甲列車の近くに着弾した。
「砲撃!?」
「敵襲だ!」
その爆発にエルフィンド側は驚いて迎撃体制を取り始める。
「チッ、もう始めやがった」
軽く砲撃に舌打ちをしてからキアステンは叫んだ。
「撃て!この気を逃すな!連中を生きて帰させるな!!」
彼女は言うと、全員が小銃を撃って牽制を始める。事前の情報共有と当時の記憶から彼女は持ってい小銃を使う。
「全員木陰に隠れよ!余裕があれば穴を掘れ!」
森の木陰に隠れ、射撃を行い、薬莢を排出する。そして弾薬盒から新品の弾薬を取り出して薬室に装填してから発砲する。
「(チッ、やっぱり単発じゃあ撃ちにくい…)」
レバーアクション方式以外で連発可能な小銃が本格的に登場してくるのは無煙火薬が登場してからの事。その為、黒色火薬の11mmクラスの銃弾と言うのは見ての通り手で挟み込んでも限界があった。
「うおっ」
すると直後に隠れていた幹に銃弾が命中する音が連続して聞こえ、思わず身を掻かめる。
「撃て!敵は近いぞ!」
かつての戦列艦のように壁面に多数の銃眼を用意した二両目の改造客車は、一斉に小銃の発砲を行う。後装式の銃であるため、照準をしたままの射撃が可能で、薬室を開放して新しい銃弾を装填していく。
後々に後装式大砲の照準的な構造となるほど堅牢な構造を作りやすいフォーリングブロック方式は、その分威力のある銃弾を使用可能であった。
「…」
その様子を見てキアステンは同じ場所に隠れていたヘンナに言う。
「ヘンナ、援護できる?」
「え?何するの?」
「大砲を壊す。近づいて火炎瓶を投げてくる」
その直後、57mm山砲の砲撃が近くをすり抜けて装甲化された客車に命中する。
「機関車を集中的に狙え!」
「りょ、了解!」
たった二門しかない山砲。キアステンは叫ぶと砲兵隊は機関車に照準を向ける。
その様子は伝令を受けて慌てて飛び立った大鷲族の飛行兵が驚愕していた。
「撃ち合ってる…」
「司令部!こちらホルス〇三!グリットG3で砲撃を確認!急いでくれ!」
装甲列車と撃ち合っている様子を見下ろし、緊急で魔術通信を行うとすぐに総司令部は第四軍の中で対装甲列車用に残置させていた野砲大隊にその場所への進出を要請した。
「急げ急げ!」
「遅れるな!」
「味方を死なせんじゃねえぞ!」
彼らは先日にネブラスまで突破を許した際、彼らはタスレンから駆けつける前にイヴァメネル支隊が撤退をしたことで間に合わず、悔しい思いの反省からすぐに動けるようにあらかじめ馬車に砲を連結させて待機させていた。その為に装備されていた75mm野砲を自分達のバカ力で牽引もして懸命な努力をしていた。
『ホルス〇三、これより接近して攻撃をする』
「待て。これから野砲大隊が到着をする」
『それまで踏ん張れない!』
しかしそんな野砲大隊が到着をする前に旋回を終えた7ポンド山砲による攻撃が森の木々を吹きばし、その破片が隠れてい兵士やパルチザンの頭上に降りかかる。破壊された樹木が落ちてきて隠れていた兵士たちに負傷をさせてくる。
「くそっ!」
頭に降り注いだ木片を振り落とすと、視線の先に装甲列車を睨みつける。直後、機関車に砲弾が命中して榴弾によって追加の装甲板に穴が開けられた。
「命中した!」
「撃て!」
キアステンはそこで持っていた信号拳銃を握って発砲を行うと、着弾をした弾頭は白燐弾である為、視界に白煙が広がる。
「視界不良!」
「構わん!撃ち続けて接近させるな!」
機関車を攻撃され、その影響で列車が動かなくなってしまった装甲列車。その車内で指揮官は叫ぶ。そして7ポンド砲の砲撃と小銃弾の連続射撃が加えられる。列車砲である8インチ砲は旋回不可能であるため、側面からの襲撃に対応できなかった。
「っ!」
そして白煙で視界が悪くなったところをすかさずキアステンは飛び出した。彼女の手には複数の導火線が繋げられた簡易改造手榴弾が握られていた。
「伏せ撃ち!全員で援護しろ!」
歩兵隊の隊長が叫んでオルクセン兵は全員が伏せ撃ちを始めると木陰に隠れていた他の構成員達も火炎瓶に火を付けて投擲を始める。
無数の銃弾が顔の側を掠め、頬から血が流れ、砲撃の衝撃波が体を揺さぶっていく。
「でぁああああああっっ!!」
そして無我夢中で走って転けて一回転をして列車の近くに取り付くと、列車砲を装備した貨車に取り付いて、その足元に数珠繋ぎの手榴弾の導火線に持っていた燐寸の火を付けた。
「っ!」
そして走る。これほどの手榴弾の威力がいかほどかは知らないが、爆薬を詰め込んだ代物であるので、まずまともに食らったら死亡する。車両の上では取り付いたキアステンに気がついて白エルフの士官が持っていた拳銃を取り出して引き金を引こうとしたが、先にキアステンは持っていた拳銃の引き金を引いた。
「がっ!」
「とりつかれたぞ!」
一人の肩を撃ち抜き、列車砲の砲兵が叫んだ。そしてハンマーを手で引き起こして素早く二発目を発射。その弾丸は叫んだ砲兵の頬を撃ち抜いた。
「…ふんっ」
そしてハンマーのレバーを引き起こし、引き金を引くと散弾が発射された。
その銃弾は綺麗に列車砲に命中して有効打を出せなかったが、直後に点火した手榴弾が起爆した。
「うおっ!?」
そしてその衝撃波でキアステンは木に叩きつけられると、その勢いで意識が飛んだ。
次に見た光景は、俗に言う知らない天井であった。
視界に眩しい電球の明かりが見え、それが視界を真っ白にしていた。
「…」
視界は徐々に瞳孔の縮小で慣れると、天井が天幕で覆われていることに気がついた。
「っ!痛ててて…」
そして呆然となっていると、直後に感じた痛みが現実感を与えてきた。
「まあ、もうお目覚めになられたのですか?」
するとやや驚いた様子で視界に話しかけてきた姿を見た。薄桃色の肌に豚のような大きな鼻を持ったオークの牝。着ている制服は白い看護婦の制服だった。
「…」
体を起こすと少しくらっとくる感覚があり、感覚的にエリクシル剤を使われたのだと察した。
「ここは…どこですか?」
「後方の野戦病院です。戦闘で負傷をしたのでここに運ばれてきたんですよ?」
親切にオークの看護兵は説明をすると、キアステンは軽く自分の手を握って状態を確認した後に看護婦に質問をした。
「…私は、どれくらいトンでいましたか?」
「二日ほど、これ以上目が覚めなければもっと後方に送られるところでしたよ?」
説明を聞き、だいぶやられていたんだなと思って周りを見ると、オルクセンの軍服を着た兵士たちばかりが溜まっており、その後にその看護婦に言う。
「すみません。ご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、これは私の仕事ですので」
誇りを持った様子で彼女は答えると、看護婦は去って行き、残ったキアステンは医者も驚くほどの回復力を見せて軽傷者収容所を後にした。