グスタフ達にロザリンドの頃の話をしたキアステン。
「あの時、私はただの一兵卒でした」
そう言い、彼女はロザリンドの頃の話をする。今この部屋にいる全員がロザリンド会戦には参加しており、当時のことは皆よく覚えていた。
「私は当時、医療兵だった」
「なるほど、後方にいたわけですか」
最前線で銃を持たされていたキアステンはグスタフを見ると、そこで彼女はふと思い出す。
「あ、でも指揮官は一人撃ちましたよ?」
「ほう、どんな奴だった?」
ディネルースに聞かれ、キアステンはその時の
「えっと…体が大きくて、でかいマサカリみたいなのを担いでいて…」
「ほう」
「大声で叫んでいて…あぁ、大きな牙が特徴的な人でした」
「…ほう?」
「私は撃って…多分ここかな?に当たって兜を弾き飛ばした気がします」
そう言い右頬をさすると、聞いていたグスタフ達は肩を振わせていた。
「?」
なぜ笑いだす?と首を傾げたが、直後にグスタフは言った。
「おい、シュヴェーリンの奴は居るか?すぐに呼んでこい」
「凄いな。こんなことがあるのか…」
吹き出して笑っていた二人はそこで困惑するキアステンを見ていた。
そのすぐ後、呼び出しを受けた一人の軍人がドアを開けた。
「儂の牙を折った奴がいるとは本当か!?」
そう言いながら入って来たもので、キアステンは猫のような驚き方をしてそのオークを見上げる。階級章を見て思わず彼女は息を呑んだ。
「げっ、元帥…」
アロイジウス・シュヴェーリン元帥。
アルトリア攻略ののちに元帥に昇格をしたオーク族の将軍であった。
「…」
部屋に入ってきた彼にキアステンは呆然と見ていると、グスタフは話す。
「ああ、この目の前の女性がそうだ」
「ほう?其方はキャメロット人ではないのかね?」
彼はキアステンを見て早々にそんなことを言うと、グスタフはわかってはいたが、流石の機転だなと改めて感心させた。
「シュヴェーリン。彼女はパルチザンの長をやっていたキアステン・ラーセンだぞ?」
「ほうほう、お主がか?」
「は、初め…まして…」
キアステンはガチガチに固まったままそのシュヴェーリンを見る。確かにあの戦場で見た覚えのある顔だった。
「ふむ、噂に聞く白エルフがまさかこの儂の牙を撃ち抜いた奴だったとは意外だったな!」
そう言って豪快に笑う元帥であったが、キアステンは報復に来たのではないかと気が気じゃなかった。キアステンはまさかあの時に撃った指揮官がこんな形で合うなんて思ってもいなかったし、できれば会いたくもなかった。
「はっはっはっ!しかし本当に白エルフとは思えん。本当にキャメロット人ではないのか?」
「ああ、彼女はロザリンド会戦にいたことは確証している」
グスタフはそう言うと、キアステンに紹介をする。
「キアステンさん。彼はアロイジウス・シュヴェーリン元帥だ」
「は、はい…」
いやまぁ、紹介をされても事前に知っておりますがなということで脳内が一杯になっていると、シュヴェーリンはキアステンの肩を叩く。
「お主、好きな酒はあるか?」
「あ、えっと…ウイスキー、できればバーボン・ウイスキーです」
「センチュリースターのか!良い趣味をしておる」
かろうじて彼の話について行こうとキアステンは好きな酒の話をすると、その様子を見て見かねたグスタフがいう。
「シュヴェーリン、相手は民間人だぞ」
「何を言うか。装甲列車に単身で突撃をして破壊した英雄だぞ?話を聞きたくなるものだろう」
そう言い彼は装甲列車に手榴弾を投げ込んで破壊したキアステンに興味津々な様子であった。
「それに、文民に与えられる勲章も考えるほどの活躍だと聞いておるぞ?」
「え?勲章…?」
そこで軽く驚いてグスタフを見ると、彼は頷いた。
「まあ、君たちの活躍は目を見張るものがあったので、君たちパルチザンには勲章を授与する予定なんだ」
「…」
聞くところによると、彼は赤鷲勲章の授与を考えているという。文民が与えられる勲章の中では最高位に近い勲章だ。
「表向きは黒エルフ族放逐の際に尽力をした。ということで君と、アグネス・ユーティライネンに赤鷲勲章は与えられる」
そのほかにも『876年戦争記念メダル』や『一般名誉賞』、『王冠勲章』などの勲章を考えているという。
パルチザンもその規定に加えてしまおうと言ったのはグスタフで、総司令部の将校達も彼女達がもたらした戦功を前に反対する者は誰もいなかった。
「なるほど、白エルフ族にも勲章を与えることで忌避感を低くするわけですか…」
「よく分かっているじゃないか」
後にグスタフが制定する『ベレリアント戦争勲章』は戦争時に英雄的な行動をとった全てのオルクセン軍兵士、治安部隊、パルチザンに与えられることとなった。
これはオルクセンという国が白エルフ族であろうと協力をしてくれた者は平等に扱うと言うアピールにもなった。
「何ですか、私を担ぎ上げるんですか?」
「むしろそれほどの功績を残して自慢しないのが驚きだと思うがな」
シュヴェーリンはそう言い、キアステンが今まで行って来た行為を振り返った。
「あまり自分を卑下に見ると、やっかみを受けることになるぞ?」
「卑下はしていません。私は、やれるだけのことをやっただけですので」
彼女の返答を聞き、シュヴェーリンは理解した。多分、この白エルフも敬愛する国王陛下と似たような方であるのだろうと。
すでに戦前に彼はグスタフから耳のない白エルフに関する話と、自分と同じかもしれないと言う話は聞いていた。そしてグスタフと知っている腹心に話していた様子から、それは事実であったのだろうと予測できた。
「そうかそうか。なら命をかけたのならその分の褒章はもらうべきだ。そうは思わんか?」
「ええ、それが被占領民の我々であるのなら尚更ですか…」
今後、白エルフ族に対する侮辱の目が解消されるまでは長い時間を要すると言うのはグスタフ達も分かっていた。
元々、エルフィンドに対して彼女は憎悪に近い感情を持ち合わせていたと言うのは薄々察していた。そして戦後になり、エルフィンドはオルクセンの配下に収まることとなった。
「まあいずれにせよ、この勲章が授与されることは確実だから良い服を仕立ててくれよ?」
「はぁ…分かりましたよ」
グスタフに呆れたため息を漏らすと、シュヴェーリンはそこでキアステンに聞く。
「どうだ、儂と飲まんか?パルチザンがどのような戦い方をしていたのか知りたいんだ」
「…地味ですよ?」
「構わん構わん!好きなだけ酒も用意してくれよう」
豪快に笑って酒を飲ませようとする彼にキアステンは面倒な牡だなと内心で思いながら鬱陶しそうな顔をしてしまうと、その顔を見て察してくれたようにグスタフが言う。
「シュヴェーリン、キアステンが食われないかと怯えてしまっているぞ」
「おっと、これは失礼したな」
たとえ白エルフ族であっても偏見の目で見てこないシュヴェーリンはそこでキアステンに言う。
「どうだ
「は、はい…」
途端にあだ名呼びをしてきた彼に対応をどうしたものかと思いながらもキアステンは頷くと、シュヴェーリン達は話があると言い、彼女はディアネンの市庁舎を後にした。
「つ、疲れた…」
そして帰りに馬に乗った彼女は途方もない疲労感でどっと疲れを感じてしまうと、トボトボと帰路についた。生理痛とか云々の痛みもどこかに吹き飛んで忘れてしまったような気がしてしまった。
戦争末期、オルクセン軍による砲撃により、その白エルフは窮地に立たされていた。最後に軍医に降伏をするように指示をし、暖かな太陽の光の元に出たところまでは覚えていた。
「っ…!」
強く差し込んだ光を見て、その者は目が覚めた。
「…」
俗に言う、知らない天井である。木で組まれた屋根が視界に収まり、僅かに顔だけが動かせられるようになると、そこで話しかけてきた人物が一人。
「起きたか」
その声は彼女にとってみれば勝手知ったる馴染みの声だ。同村出身の白エルフで、陸軍大学校に入っても三回の勧告の後に退学をした横暴な白エルフ。
「アグネス…」
そこで名をつぶやくと、彼女は柄にもなく本を読んで椅子に座っていた。
「どうして…」
「この村の近くで大怪我を負ったエルフィンド兵がいると言われて、センチュリースターに行く医者と一緒にいたんだ。まさか貴様だったとは思わなかったが」
そこでフッと笑って彼女は読んでいた本を置くと、ベッドで横になっていた白エルフを見る。
「久しいな、カランウェン」
「ああ…大学校以来だな」
そこでベッドで横になっていた患者、セレスディア・カランウェンはアグネスを見た。
「私は…どうして生きている?」
「知らねえよ。ただ、死んでるかもわからんほどの大怪我だったそうだ」
エリクシル剤を使わなければならないほどのものであったと言う。
「感謝しろよ。腕利きの医者じゃなかったら死んでいた」
「…そうか」
カランウェンはそこでアグネスを見上げると、そこで体を起こす。妙にグラリと来る感覚、エリクシル剤を疲労した体に使った時の感覚だ。
「…戦争は…」
「負けたさ。無条件降伏だ」
「…そうか」
その短い言葉でカランウェンは全てを理解すると、大きく息を吐く。
「…多くの部下を死なせてしまった」
「ああ、私もそうだ」
アグネスは頷いて答えると、その一言でカランウェンは理解した。
「…やはりそうか」
戦中、北部の鉄道路線を中心に多くの軍用列車や補給隊が襲撃を受け、それを見たマルリアン大将からそれと同じことをするように命令を受けていたのだ。話を聞いてカランウェンは以前に軍を追い出され、夫を失ったアグネスがやっていたのではないかと予想を立てていたが、それは見事に的中していた。
「?」
その時、アグネスはカランウェンに一枚の広告を渡した。それはグロワール語で書かれた軍入隊の広告だった。
「グロワールには、外国人部隊という外国籍の志願兵で構成された軍隊がいるそうだ」
「…」
「私の雇い主だった者の伝手で、今から私はそこに行く」
それはつまり、彼女は海外に出てしまうからついてくるか?というお誘いであった。
「…私に、国を捨てろと?」
「さあな。まあ、選ぶのは好きにしてくれ」
アグネスはカランウェンにそう言うと、グロワールの外人部隊の募集広告を見つめてからアグネスに答えた。
「荷物はどうすればいい?」
「ちょっと待ってろ。雇い主に言ったら貰えると思う」
アグネスはほんの少しだけ笑みを見せてカランウェンに言うと、出国の準備を始めた。