白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#67 戦後Ⅵ

エルフィンドのとの戦争が終わり、歓喜に沸くオルクセン王国、

占領されたエルフィンドには次々とオルクセン陸軍が進駐を終えていた。

そんな中、キアステンは再びグスタフの元を訪れていた。

 

「なるほど…エルフィンドが散々他種族の放逐を行っていた理由か…」

「ええ、昔から収穫量が減っていることは有名な話でしたから」

 

友人として、同郷の民として、グスタフはよくキアステンと話をしていた。そこで最初に話したのは、エルフィンドが放逐をする事となったとされるキアステンの推察だった。

 

「なるほど、つまりエルフィンドも結局は食に縛られていたと言うわけだな」

「明らかに間違った道を歩んだとしか思えませんけどね」

「だろうな」

 

彼女達は実によく意見を交換した。この国を治める上でどのような障害があるのか、どのような制度に問題があったのか、よく知る現地の民から直接話を聞いてみたいと言うのもあった。

 

「だから、収穫量が減ってくると我々は放逐を行って口減しをして、拡大政策を行ってきたんです」

「…」

 

キアステンの推察は妙に寒気が走るものだと彼は感じていた。それはおそらく、納得できてしまうからだろう。

 

「地方自治ですが…まあこれに関しては一度、オルクセンの地方自治を徹底させなければ、有力氏族から徹底して軍権を奪わなければなりません」

「ああ、それが原因でこの国の軍制はややこしいからな」

 

戦時中は『こいつらは近代軍制をわかっているのか?』と言わせしめるほど混乱していたエルフィンド軍の階級制度。その理由は力を持った氏族による軍権の掌握であると言うと、その事を理解した上で彼はエルフィンドの軍制の抜根的な改革を始めた。

 

「強力すぎる権力を持った地方自治の失敗例ですね」

「ああ、これを機会に我が国も地方自治に関してはよく見直さなければならんな」

 

彼はその事をよく承知した上でキアステンに言う。

 

「まあ、これから我が国は長い期間をかけて君主制から民主制に移行する」

「意外ですね。あっさりと統帥権を手放すなんて」

「最近のブームに乗っかる形だ。この気に我が国は武装中立を世界に宣言する」

「ああ、この大陸にスイスってありませんもんね。何ででしょうかね?」

 

キアステンはグスタフの構想に対して驚きはしなかった。この人の性格の良さはよく知るところであり、少ししたら勲章の授与式である。

 

「分からないが、その地域はエトルリアとグロワールとアスカニア、オスタリッチなどがそれぞれ分割してしまっているな」

「元々言語体系も違う場合がありましたしね、あの国は」

 

キアステンはキャメロットの紅茶を飲みながら答える。

 

「しかし、この経済規模の国で中立化ですか」

「嫌がる国が多いことは承知している。まあ、『当たって砕けろ』と言ったところかな」

「まあ、いずれは行けるんじゃないんですかね。審判(レフェリー)の需要はあるでしょうし」

 

彼女はグスタフとそう話すと、次にキアステンが質問をされる。

 

「君はこれから、オルクセンに行くんだったか?」

「ええ、友人に誘われてヴァルダーベルクに行ってから戻る予定です。途中でグロワールまで部下を送った後に」

「南部では君の商会に助けられた。川沿いに鉄道路線を建設していたのも、君の策のひとつかい?」

「他にもいくつか理由はありますけど、まあそうですね」

 

現在はシルヴァン川線と名付けられ、オルクセン軍が徴用を継続しているあの鉄道路線。オルクセン国有鉄道が管理をしているが、契約でいずれは返還をすることとなっている。

 

「あそこで森林鉄道をしながら、いろいろな機関車を揃えた保存鉄道も考えているって言うのが本音ですけど」

「ほぅ、なるほどそれは良いな。私からもひとつ参加させてくれないか?」

「ええ、構いませんよ?なんならお願いしたいくらいですし」

 

二人は楽しく、しかし実利的な話を混ぜ合わせていた。

 

「オルクセンの占領地域では過去に類を見ないほど収穫量が増えていて、その原因がいまだに分からないんだ」

「なるほど、あれだけ荒廃した土地なのに?」

「一応、軍の廃棄した野菜屑や廃棄骨が理由なのではなど言われているのだがね…」

 

農業に関してはキアステンが干拓を行った東部に関しても次々と干拓地域を行っていくことが決まり、森林鉄道も本格的に稼働するためにセンチュリースターから機関車を導入する予定であった。

 

「所で、君はこの後にしたい事とかはあるのかい?」

「色々と、まあ国が無くなって欲しいと言うのが目的でしたから、今後は観光地でも作っていきたいなと」

「ほう、例えば?」

 

南部の開発という言葉にグスタフは興味を示し、

 

「ヘレイム、ツェーンジーク、ソンネンなどに完全会員制ホテルなどを考えています。あそこは原生林が広がっていますし、何より元々国境地帯で何も開発がされていませんでしたから」

「なるほど…」

 

キアステンは既に半島南部の林業を独占している企業に支持をできる立場だ。おまけに黒エルフ放逐後に全土からかき集めた大工たちで建設会社も持っており、今もディアネン政府による復興ラッシュで儲けていた。

その為、彼女は白エルフ族の建設業に手広いネットワークを持っていた。独自で輸送ルートも持っていたので、他よりも格安で建築が可能だった。

 

「良いアイデアだな。先に越される可能性もあるんじゃないか?」

「いえいえ、まずオルクセンの皆様は測量からやらねばなりませんが、我々は既に測量済みですので」

「…ふふふっ、なるほど」

 

元々南部の黒エルフ族と深い関係のあった彼女は、南部の情報を知り尽くしていた。その為地の利があったのだ。後でその測量結果をもらえないかと聞くと彼女は頷いた。

 

「本当は我々が持つ鉄道が開業をした暁に工事を始める予定だったのですが…」

「すまんな。あの路線は便利だからまだまだ使わせてもらう事になっている」

 

何せシルヴァン川からファルマリアまで直通が可能で、船舶輸送があるとはいえ、鉄道で積み替えを行う方が早く物が到着できたのだ。おまけに砂利の採取も簡単であることから、線路敷設用の砂利をそのまま運ぶためにも用いられていた。

 

「まあ良いですよ。かなり借用料は貰っていますので、それに買収した製材所も製紙工場も稼働していますから」

 

その工事はいつでも始められるという。その話を聞きグスタフも己の構想を彼女に話す。

 

「私も、実はこのシルヴァン川を使った運河を考えているんだ」

「ほう、キール運河ですか?」

「まあ似たようなものだね」

 

場所的な話にグスタフは笑うと、部屋に地図を持ってきて鉛筆でなぞる。

 

「まだ測量も始まっていないから予想だけだが、モーリアを起点にベラファラス湾までを考えているんだ」

「ほう、だとしたらここら辺も影響が出るのでは?」

「うーん、ここはまだ大丈夫だと思っている。君達のあの風車は私もお気に入りだから、なるべく影響が出ないようにしようと思っている」

 

グスタフはそう言い、キアステンに配慮した言い方をしていてそれが少し面白かった。

 

「おっと、もうこんな時間か」

「話すことはまだまだ多いんですがね…」

「おや、もっと話そうと思っていたのだが?」

 

ここの所ずっとティリオンに詰めていた彼女は時計を見て軽く驚きながらも立ちあがろうとした時、グスタフが提案をしてきた。

 

「今日は食事をどうだろうと思っているんだ」

「ほう?」

 

すると彼は夕食を用意していると言ったのだ。その直後に彼の侍従長が現れ、グスタフは笑みを見せる。わざわざ用意してくれたと言うのなら、御相伴に預からなければ無作法というもの。キアステンはグスタフのご好意にありがたく食事の席に座る。

 

「宜しいのですか?私なんかを誘っていたら奥さんに叱られるんじゃないんですか?」

「それは…多分ないと思う。今日はアンファウグリア旅団が復員するから、その見送りのためにそっちで飲みに出かけているはずだ」

「まあ、成婚前にみんなで飲める最後の機会ですか…」

「そうだな」

 

グスタフとディネルースの結婚に関しては広く知られる所であり、異種族間の公式な結婚は何気に初めてかもしれない。大体事実婚であったりするからだ。

そして結婚発表するということは、ディネルースは王妃となってこの国に仕える事となる。もう昔のような氏族長から一国を代表する者になるわけだ。当然、今までのような自由奔放な生活は難しくなってしまうだろう。

 

「しかし、これでオルクセンは世界で唯一魔種族のみの統一国家というわけですか」

「これを気に人間族との結婚も積極的に進めていきたいと思っている。我々は長命だ。しかし人間族との間にはいまだに見えにくい溝があるからな」

「なるほど。白エルフの中にはキャメロット人と同棲する者もいますけどね」

 

そこで出てきた料理は牛肉を使ったクリームシチューであった。

 

「シチューですか」

「ああ、どうだろうか?」

「白米が欲しくなりますね」

 

キアステンは言うとグスタフは少し笑って、少し驚いた。

 

「なるほど、君は白米とシチューを一緒にいけるのか」

「もう体が米を欲しすぎていますよ」

「よし、君が育てた大豆と合わせて調味料が作れないか試そう。必ず」

「ええ、私もオルクセンを訪れたら道洋に飛びますので、その際に作り方を学びたいと思います」

 

ーー全ては豊かな食のために。

 

二人は決意を表明して、かつての故郷にして、ここでは馴染みのない料理の味を思い出しながら夕食を取る。

 

その後、世界中の美食家達から『世界中の料理を食べたいのであればヴィルトシュヴァインか東亰に行け』と言われるほど豊かな食生活を手にすることとなるオルクセン。その発展の源は食事であった。

 

「結局、どれだけ完璧な存在だと言っていた白エルフも『食』の前に振り回されることしか出来ませんでしたからね」

「食は全ての根幹というわけだな。我々は結局、同じ穴の狢ということだ」

 

グスタフはそう言いシチューをスプーンで掬って一口。とろみのある滑らかな味わいは程よい舌触りで、煮込まれた牛肉が触れた瞬間にほろほろと崩れていく。

 

「んん〜、こんなに素晴らしい食事は戦前以来です」

「今、市井では食糧不足に喘いでいるからな」

「まだ戦後すぐです。仕方ありませんよ」

 

そんな状況であっても平然と食事を続けられる時点で彼女の心臓の強さが分かるが、グスタフは食糧難の今のエルフィンドの解決策を考えていた。

 

「しかし、思っていた以上に食糧事情が悪いんだよな」

「そりゃまあ、肥料を与えずに農作やってたら土地が死にますよ。焼畑農業をするわけでもないのに」

「もはや輪栽式すら難しいほどだからな」

 

そんな事務的な話ですらグスタフはするようになった。キアステンという人物にどれほどの信頼を置いているのかが分かる逸話である。その親睦の深さはシュヴェーリンですら驚くほどであった。

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