白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#68 戦後Ⅶ

戦争が終わり、武装解除が行われたエルフィンド軍兵士はいきなりクビになって市井に放り出された。しかしオルクセン軍の指示した戦後処理作業により、街に浮浪者ばかりが溜まるようなことはなかった。

 

「気を付けろよ」

「へいへい、分かってますよ」

 

そして戦後のカワウ傭兵団はオルクセン国有銀行の現金輸送車列や物資輸送車列の護衛を行っていた。特に戦後になり何かと治安の悪化が全土に広がった事でこうした傭兵団による警護任務は需要が伸びていた。

 

後のPMCの走りのような任務を行う彼女達は復員によって職を解かれた元軍人などを多く雇い入れていた。彼女達は会社から支給されたレバーアクション式小銃やオルクセンが払い下げたエルフィンドの武器などを与えられ、車列の護衛に当たっていた。

 

「襲撃だ!」

「撃て!」

 

彼女達はそこで逃亡兵などによる強盗へと攻撃を行なっていく。

危険だがその分割が良い職である事に間違いはなく、何より軍人時代よりも給与が良かった事に多くの者が飛びついた。支払いが時折ティアーラになる事ことを除けば、彼女達は満足な仕事であった。

 

「またかよ」

「仕方ねえだろ。逃亡兵やら何やらで隠れてる奴らがいるんだ」

 

オルクセン国有銀行の頑丈な馬車は襲撃に対応できるように全周が金属製だ。その為重く、速度が遅いのが難点だった。

 

「おーい、手伝ってくれ」

「分かりました」

 

御者のコボルト族に答えるのは馬に乗ったヘレナである。かつてパルチザンだった者達も実に様々な道を歩んでおり、代表例で言えばアグネスはすぐにイヴァノンに団長を譲り、ウェンバネが副団長に任命されてから彼女はお抱えだった医師と共にグロワールの方に向かってしまった。

 

『グロワールに外国人だけで組んだ部隊があるらしい』

 

彼女はその話を頼りに行ってしまったのだ。途中で友人と出会ったから暫くはそこに留まるという話だ。

パルチザンだったイヴリン達はそもそもの村を後にした理由である南部に向かった。部隊長であったキアステンが斡旋をしてくれたのだ。他にもパルチザンに参加していた面々はいろいろな道を辿っていたが、彼女はカワウ傭兵団にそのまま入社を果たした。

 

馬の乗り方が一番上手いと言われた彼女は、パルチザンでの経験を生かして車列の護衛を主に担当していた。

 

「あー、泥に取られますね」

「畜生、こんなにぬかるんでるとは面倒だな」

 

昨晩に降った雨のせいでハマってしまった馬車を前に彼女は他の傭兵達を呼んで馬車を押させる。

 

「オークでもねえのに押せるのかよ」

 

御者はそう言って不安がっていたが、ヘレナはそれが嫌味を含まれていることを知っていて集まった傭兵達を指示した。

 

「数えたら全員で押して!三.二.一…今!」

 

そして全員が合図を送ると、馬車はぬかるみから脱出をした。馬車は再度動き出すのを確認すると、彼女は魔術通信を行う。

 

『こちらバングウッド〇二、今ぬかるみを越えた。作業再開して』

『バングウッド〇三、了解しました。後続の車列にも伝えます』

 

巧みに魔術通信を行なって車列はぬかるみにハマったにも関わらず予定よりも早く到着をすると、

 

「やるじゃねえか」

「それはどうも」

 

コボルト族は満足げにヘレナは当たり前だと言った様子で頷いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その時、キアステンはある場所を訪れていた。

その場所はエレントリ館。かつてのエルフィンドの聖地であり、唯一の黄金樹が植えられた場所だ。これからやる事に初めは焼け落ちた白銀樹でやろうと思っていたのだが、グスタフがエレントリ館に人のいない時間帯があったと言いながら侵入可能なルートを記した地図を渡してきたのだ。

 

『スパイ映画じゃあるまいし…』

『でも面白いだろう?』

『そりゃあね。これで興奮しないやつは居ないよ』

 

そんな会話をしてから地図を受け取った彼女は実に楽ちんなスパイごっこをしてこのエレントリ館に入ったのだ。しかも事前にグスタフが視察を兼ねてここを訪れて指定した窓の鍵をこっそりと開けたままにしたのだ。

 

「…さて」

 

荷物を一通り持った彼女は、明日にはオルクセンに旅立つ為、今日行う事にしていた。彼女は黄金樹のうろに入って木の根の部分に触れると、彼女の目に僅かに数式が浮かび上がった。

 

「解析…システム、ログイン…」

 

そしてぶつぶつと呟くと、僅かに手が輝き始めて触れた黄金樹の表皮も呼応するように光を伴い始める。

 

「…パスワード、ログイン完了」

 

キアステンはそこで黄金樹に介入を行うと、そこであらかじめ予定されていた介入を行う。

 

「プログラム、Gender code.Male or Female」

 

グスタフ以外には誰にも話していない仕事を淡々と行なっていく彼女。正規のルートでの介入のため、妨害はそもそもあり得ない。そして黄金樹は僅かに成長を始め、その成長速度は普通はあり得ないほどであった。

 

「ソースコード、改変完了。ダウンロード開始」

 

彼女はそこで静かにうろの中で拵えたプログラムが作用することを待っていた。

それは亡国を迎えたエルフィンドが新たに生まれ変わるための布石。自らを完璧な種族と謳う彼女らへの、最大の侮辱である。

 

「…五〇%…六〇%…」

 

そして黄金樹に仕込まれたプログラムはそのまま根を伝って半島全域の白銀樹へ送られ、アップデートされていく。今回の一件で幸いだったのはグスタフと友好関係になれたことだろう。

 

「やはり必要なのは神なんかではなくて現実の権力者ね」

 

そう言いながら触れていた手から離れると、アップデートを完了させた黄金樹は僅かにその姿を大きくさせていた。

白エルフ族への配慮と、王室との関わりからオーク族による警護が昼夜問わず行われている中、彼女はエレントリ館をで早く走って離れていく。

もう少しすればここでグスタフとディネルースの結婚式がある為、その下準備ももう始まっていた。

 

「…」

 

彼女は開けられた天窓を抜けて外に出ると、そのまま近くに繋げていたオリエンスに跨って走り去っていった。

 

その翌朝、毎日の清掃のために訪れていた白エルフの従者が黄金樹が一夜で成長をしたと大騒ぎになった。そしてその報告を聞いたグスタフは誰にも見えないようにほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

この日を境に、エルフィンドの各地で変化があった。

 

「目覚めたか」

「迎えにいくぞ」

 

とある村の白銀樹の近く、鳴き声を聞いた白エルフの二人はその木の下にあるうろに入っていく。

 

「…?」

 

そこでは相変わらず白エルフ族の赤ん坊が鳴き声を上げていたのだが、妙に違和感があった。

 

「え?」

 

赤ん坊を見た白エルは首を傾げたが、その直後にその違和感が分かって思わず声が漏れた。

 

「なっ…?!」

 

そしてその違和感に驚愕をしながら彼女は赤ん坊を抱えてうろを飛び出した。

 

「お、おい!コイツ見てくれ!」

「?」

 

そこで白銀樹から護符を作っていた白エルフが首を傾げ、赤ん坊を見た直後に驚愕をした。

 

「お、男だと!?」

「見ろよ、信じられねぇ」

 

それはかつて神話の中で三代目女王が消してしまったという噂の存在。

 

男のエルフ族の誕生であった。

 

他にも多くの症例が報告され、またこの頃から誕生したエルフ族に多くの異変があった。

 

月経の確認や、性別の有無。

 

主なところで言えばこんなものだろう。多くのエルフ族や魔種族、研究者達ですら驚かせたこの変化は、後年になってもずっと原因がわからなかった。結果として突然変異が生み出した奇跡であると研究所は報告をあげていた。

 

「ふむ、各所で男児のエルフ族が生まれてくるというわけか」

「黒エルフ族でも確認されている。大慌てで私に話に来る者もいたくらいだ」

 

報告を聞き、成婚を目前に控えたディネルースが言った。男の子が生まれたと言って泡を吹いて倒れた者もおり、半島全域で大騒ぎになっていた。

 

「なるほど、それは大騒ぎだな」

 

話を聞いたグスタフは数回頷いた後、ディネルースを見る。

その時、彼女はグスタフが何か知っているような気がした。彼はこうなることを予感していた、あるいは知っているような反応である。隠しているようだが、ディネルースは長年の経験で見抜いていた。

彼の中身を作った人物が知っているというものではなく、あらかじめその正体を知っているというそれだ。

 

「(何をやったのやら…)」

 

彼女はそこでグスタフの盟友となったある白エルフの顔が思い起こされる。あの二人、グスタフと同じ類の魔種族であることは承知している。そのため二人は悪ガキのようなことをして楽しんでいることも既に分かっていた。多分、グスタフはこの一件を画策したか、指示をしたのか、将又聞かされたのか…どのようにやったのかは定かではないが、彼女はまず間違いなく今回の一件に関わっていたと確信する。

 

ティリオンからヴィルトシュヴァインに向かう列車に乗り込んだその耳のない白エルフが出発する前日に黄金樹の急成長という異変が起こっていた。グスタフや私もひっそりと見送りに行ったが、その時に違和感を感じることはなかった。

 

しかし今にして思えばタイミングが良過ぎた。

 

キアステンという白エルフにも異変があったことから、下手をしなくとも戦後の方が大忙しであった。

 

 

 

その頃、噂に上がっていたキアステンは列車に乗ってある場所に辿り着いていた。

 

「でさ、男の子が生まれたもんだからみんなひっくり返っちゃっててさ」

「へぇ、そんなことがあったのね」

 

キアステンは隣でヘンナと歩いて話していた。

場所はオルクセン王国首都、ヴィルトシュヴァイン。初めて訪れたこの国はほかの国とも違った大きな発展を見せていた。

 

無数の大厦高楼の中には大鷲族が飛ぶための家もあり、キャメロットやグロワールとも違う街の景色がある。流石にこの時代でこの高さの建物となればキアステンも驚いて見上げてしまった。そんな中をヘンナはこの前複線化工事が始まった路面鉄道の新路線の工事現場を横に通過する。

 

「この先にヴァルダーベルクがあるの」

「なるほどね」

 

アルブレヒト中央駅でヘンナと待ち合わせた彼女は、そこで荷物をまとめて帰郷する予定であった。既にほかの村の者達は帰る準備を始めているという。

 

「そう言えば入植地は引き揚げが始まっていたわね」

「ああ、キアの所で運んでいるんだっけ?」

「そう、一応政府からお金も出たからね」

 

キアステンはそう話すと馬車鉄道から郊外の真新しい住宅街を見つけた。

 

「あそこがヴァルダーベルクだよ」

「おぉ…」

 

そこで彼女は黒エルフ族が暮らしているという街を見た。

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