星暦八七七年一一月中旬。
終戦からかなりの時が経ち、オルクセンでも戦勝ムードは収まりを見せつつあった。
「…」
そんな中でキアステンとフレンはある場所に招致を受けてその場所に訪れていた。
「流石ですね」
「これがオルクセンだ。建築物をよく見ておきましょう?」
「ええ、ホテル開発に使えそうですからね」
多数の種族が行き交い、とても発展している様を前に二人は施設をよく見回していた。
その招致を受け、占領軍専用列車に乗ってヴィルトシュヴァインまでノンストップでやって来た。白エルフ族の目もあることから色々と馬車も公用車ではないものを選んだりと忙しかったが、そのような苦労をお構いなしに二人はある場所で降ろされた。
そこでは黒エルフ族が立哨を行なっており、その監視の目を向けられながら階段を上がり、入り口でオーク族による荷物検査と牝のコボルト族による身体検査を受けてから中に入った。
「やあ、待っていたよ」
「お久しぶりです。国王陛下」
そこでキアステン達は一礼をして出迎えたグスタフを見た。
二人はこの国の中枢でもある国王官邸に呼び出されていたのだ。表向きはベレリアント半島南部の経済報告であった。
「お初にお目にかかります。グスタフ・ファルケンハイン国王陛下」
そしてフレンも一礼をして正装で一礼をした。グスタフは丁寧な二人に頷いてから自ら案内する。
「まだお帰りになられた直後でしょうに…」
「ああ、まあこの後に晩餐会は控えているな」
キアステンにグスタフは頷くと、そのやりとりにフレンは驚きつつも、以前にグスタフと何度か会っていることは聞いていたので聞くことはなく後をついていく。
「今回は軍功労者への授与式だ。君たちの授与式は年明けになるだろう」
「えぇ…もう一人はグロワールに行きましたよ?」
「なぜだね?」
「グロワールの外人部隊に行ってしまいましてね」
アグネスの現状を伝えると、グスタフは笑ってしまった。
「ふふふっ、なるほど。そう言うことか」
「おかげで彼女の妹の面倒を見る必要が出て来てしまって…」
「良いじゃないか。彼女は粗相は悪いが、優秀なんだろう?」
「いずれはオルクセン軍に入隊するかもしれませんね」
「だとしたらちと厄介だな」
グスタフは笑うと、キアステンはその巨体を見上げて聞いた。
「それで、どうして私達をここまでお呼びに?」
「ああ、君たちにどうしても会いたいと言う者達がいたんだ」
「「?」」
彼の言葉に二人は首を傾げて顔を見合わせた。少なくとも白エルフ族に対する軽蔑の目が多い中で、わざわざ私たちに会いたいなどとは、新手の嫌がらせか何かかと思っていた。
「まあ、会ったら分かるよ」
彼はそう言い、わざわざ用意してくれた会議室の一つのドアの前に立つ。
「ここだ」
グスタフはそこでドアを三回ノックすると、その後にドアが開いて待機していた役人がグスタフやキアステン達を見て案内した。
本当は支店長も全員呼び出されていたのだが、予定が合わないと言う理由で二人が代表でこの場所を訪れていたのだ。
「お待ちしておりました。キアステン・ラーセン様とフレン・クレブス様」
役人はそう言って二人を会議室に案内すると、そこで二人は部屋に中にすでに複数の魔種族が立って話し合っていたのを見ていた。
コボルト族やドワーフ族ばかりで、彼らは楽しげに話していた。
「えっ…」
そんな中、フレンはその中のコボルト族を見て生きた止まったように立ち止まってしまった。
「やあ、久しぶりだね。フレン君」
「先生…」
フレンは一人のコボルト族を見て驚いた後に、涙を溢してその夫妻に近づいた。
「…」
キアステンは彼らを見て首を傾げていると、一人のドワーフの牝が近づいて話しかけてきた。
「あの…覚えていらっしゃいますか?」
「えっと…貴女は?」
「ヴェイル・ロータスと言います。モーリアでは本当にありがとうございました」
その時、彼女の脳裏に燃え盛るモーリアの景色の中で思い出した。
「…あ、あぁ」
あの時、最初に助けたドワーフの親子だ。言われるまで全く思い出せなかった。
「息子のヴァイリです」
「初めましてキアステンさん。会えてとても嬉しいです」
「…初めまして」
そこでオルクセンの軍服を着ていた若いドワーフの牡を見てキアステンは挨拶をした。彼は国境警備隊の隊長を務めている軍人であるという。
すると他にもドワーフ達がキアステンを見て驚いた様子で話しかけてきた。
「あんた、白エルフだったんだな」
「驚いたもんだぜ」
彼らはそう言いそこでキアステンはようやく理解ができた。
「国王…」
「ああ、ここにいる全員、君たちに助けられた人たちだ」
グスタフはそう言って会議室に集まった面々がどう言う集まりだったのか説明をしてくれた。
「元々オルクセンにはエルフィンド軍の制服を着たキャメロット人とか、魔術通信をするキャメロット人の話はあったんだ。噂のようにね」
「そう…だったんですね」
それはドワーフ族、コボルト族を問わずによく知られた噂話であった。事情を知り、キアステンは数回頷いた後に軍服を着たドワーフの牡を見た。
「大きく、なったんですね」
「はい。貴女にいつかお礼をしたいと思っていたんです」
そう言い彼はキアステンを見て頭を下げると、他のドワーフ達もキアステンに話しかけて来た。
「おかげで俺たちは生きられたんだ。感謝するぜ」
「ありがとよ」
彼らはそう言ってその子供の一人が一歩前に出て言った。
「俺の娘なんだ。逃がしてくた後に生まれた子でね」
「…そうですか」
キアステンはそこでドワーフの娘を見て軽くその頭を撫でた。
「おねーさん?」
「…お父さんとお母さんは好き?」
「?うん!」
彼女に聞かれた少女は首を傾げたが、幼い声で元気よく頷くと、キアステンは笑みを浮かべて頷いた。
「…名前を、聞いてもいい?」
「うん、イナンっていうの。おねーさんは?」
「…キアステンって言うわ」
「初めまして。キアステンさん」
彼女はそこでそのドワーフの子供と挨拶を交わすと、他にもドワーフやコボルト族達と次々と挨拶を交わしていく。
そのそばでフレンはコボルト族の牡と話していた。
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだね。フレン君」
そのコボルト族は嘗て、フレンに経済を教えた人物であった。
「また会えるとは思っていなかった」
「私もです。先生」
震えた声で彼女は嘗て使えていた夫妻を見ると、そこで若いコボルトの兄妹が出る。
「先生、お二人は?」
「私の子供達だ」
「双子なのよ?ほら、挨拶して」
そこで彼の妻がフレンに説明をした。出生率が低い魔種族において、子供自体が珍しいにも関わらず双子の出産である。
健康そうに見える二人はフレンを見て挨拶をした。子供がいるのを見てフレンは嬉しそうに聞いた。
「無事に…生まれて来てくれたんですね」
「ええ、貴女のおかげでね。この子達の救世主よ」
そこで二人の子供達にフレンは今にも泣きそうであった。
するとフレンの師匠であるコボルト族の牡も心底嬉しそうにフレンを見上げて言った。
「フレン君、君は…私の最高の弟子だ」
ステン商会。
コボルト族放逐の後に彼らから渡された貴金属類などを使って始めた会社は、今ではベレリアント半島随一の企業に成長を遂げつつあった。
「…はい」
ついに堪えきれなくなって彼女はハンカチを取り出して涙を拭った。そして彼女は常に持っていたカバンからアレを取り出した。
「先生、これを…お返しさせてください」
それは嘗て、別れる際に受け取ったあの計算機だ。するとそれを見た彼は一瞬驚いたが、懐かしそうに彼女が持っていた計算機を見た後に言った。
「いや、これば君がずっと持っていてくれ。そもそも私からの餞別で渡したんだぞ?」
まさかまだ持っていたとは思っていなかった様子で、そのコボルト族の牡は驚きつつも、その計算機を懐かしそうに見ていた。
「どうだろうか、色々と話を聞かせてくれないか?」
「はい。先生」
フレンは頷くと、嬉しそうに彼を見た。
その後、会議室にいた面々と話し終えた後、職務の合間を抜けてきたグスタフが話しかけて来た。フレンはあの後、オルクセン産業連盟の呼び出しに応えるために先に国王官邸を後にしていた。
「君が逃がしてくれた種族は今もオルクセンにたくさん住んでいる」
初めはこれの五倍以上は面会を所望しており、選別に苦労をしたという。中には顔を合わせたいだけで当事者では無い者もいたそうだ。
「…はい」
彼の言わんとすることは彼女はよく分かっており、キアステンは少し疲れてしまって、しかし心底嬉しそうな様子で立ち上がった。
「ありがとうございます、グスタフ国王」
そして深々と頭を下げると、それを見ていた彼は軽く首を横に振った。
「いいや、これは君の行ってきた行動の成果だ。私は何もしていないよ」
それはとある新聞社がパルチザンへの取材の際に、耳のない白エルフの言及があったことから始まったことだった。意図的にグスタフが流した情報でもあったのだが、予想以上に彼女との面会を望む声が集まったのだ。
「君は良くやってくれた。だから私は今までの君たちの行いも全てを見て、勲章を授けたい」
「…」
彼はそう言い、膝をついて視線を合わせて話しかけてる。それは今年の末に贈られる勲章授与式に関する話であった。
「受けてくれるかい?」
「…謹んでお受けいたします」
彼女は頷くと、グスタフも頷いてキアステンを見た。
後にキアステンは『救済の白エルフ』としてドワーフ族やコボルト族、黒エルフ族を救った英雄としてその功績を讃えられることとなる。
彼女は優れた資産家、投資家としての才能も持ち合わせており、後年には世界中の人間族の富豪達の相談役としても著名な人物となる。またグスタフとの交流も有名で、彼女を題材に多くの本も出版されることとなる。
彼女の功績は白エルフ族全体の名誉回復にも寄与することとなり、のちの戦後政策にも影響してくるようになる。
この時知り合ったドワーフやコボルト達は、後にステン商会発展の礎ともなる者達であった。
そんな人物を前に、グスタフはふと彼女の変化に気がついた。
「ところで、その護符は?」
「ああ、これですか?」
彼女はそこで首から下げていた真新しい護符を手に取ってグスタフに言った。
「貰ったんです。落としたら後が怖いですよ?」
「…そうか。それは吉報だな」
エルフ族は必ず持っている護符を見て、彼は少し嬉しそうに笑って盟友を見た。