白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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後日談
#75 それから1


星歴八七八年の夏、キアステン・ラーセンの姿は遠く道洋に向かっていた。

世間ではさまざまな事件で持ちきりであったが、こちらは至って気楽なものであった。北オルク汽船が運営する道洋航路を通る船舶に乗り込んでいた。オルクセンの船ということもあり、オーク族が使うことを考えて色々と家具やベッドが大きかった事も彼女の生活を幸福にしていた。

 

本来であれば移動するだけで許可証が必要な今の白エルフ族であったが、彼女はグスタフから直々に旅券を発行するように外務省に頼んだことで白エルフ族最初の旅券発行者となった。

 

新年早々の授与式で勲章を授けられたキアステンは、白エルフ族として登壇し、新聞は白エルフ族発の勲章授与者として書き立てていた。

 

「…」

 

何はステン商会も道洋航路を開設したいものだと思いながら船に揺られながら新聞を読む。

 

後年、ベレリアント半島の輸送部門を独占したステン商会は、センチュリースター合衆国にて投資を行った石油事業や自動車事業などの投資によって莫大な富を得た事で本格的に船舶事業に乗り出し、そこで荷物をまとめて箱に入れてまとめて運ぶコンテナ輸送の原型となる運送方法の発明により莫大な利益を上げて世界最大の運送業者に発展して行くこととなる。

 

新年早々にグスタフとの約束をして旅立ち、途中でいくつかの港を経由しながら船は東進を続けていた。もうすぐのこの船の最終目的地である館浜(横浜)に到着をする。

 

最終目的地である秋津洲皇国は道洋の中でも漸く産業革命を迎えた新興国家である。嘗て、この国にキャメロットやロヴァルナの外国船が度々訪れて開国を迫ったことで、混沌の中で行われた維新は成就となってこの国に文明開化の光を与えていた。

 

「着いた…」

 

オルクセンの客船は橋を渡されて到着をすると、そこで地面に降り立って軽く腰を伸ばした。彼女はそこで新たにオルクセンの旅券を使って入国を行う。

 

「ようこそ、秋津洲へ」

 

入国の判子を押され、彼女は無事に館浜に入るとそこで周りの景色を見る。

 

「…何もねぇ」

 

無論、分かっていた話であったがこの国はまるでエルフィンドを見ているような景色であった。この国にも魔種族がおり、もっぱら『妖怪』と呼ばれているそうだ。

虐殺が行われた星欧と違い、聖星教の影響がほぼ皆無であったこの地域ではそうした虐殺は一度も行われたことがなかった。その為、この道洋は魔種族と人間族が混在して暮らしていた。そんな光景は、星欧では考えられない光景であった。

まだオルクセンでも十分な調査が行えていないが、この国には多数の魔種族が人間族と暮らしており、既に彼女も港の港湾労働者の中にコボルト族や『鬼』と呼ばれているオーガ族の姿を見て驚いたものであった。

 

「さぁて、まずは醤油が有名な土地でも探してみますかね」

 

そこで懐かしの故郷に限りなく近い場所で彼女は盟友の約束を果たすために街の中に歩いて行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その日、夏の燦々と照りつける太陽光線の元でキアステンは懐かしそうにその場所に立つ。

 

「うわぁ、だいぶ変わったわね」

 

場所は東亰国際空港。

初めて降り立った頃は何もなく、木造の低い建物ばかりであったその国は、今や遠くに多数の高層ビルディングが立ち並ぶ巨大な都市へと変貌していた。

国中に充実した鉄道網や道路網が敷かれ、少し前には新幹線という時速二〇〇キロ近くで走行が可能な鉄道も開通を迎え、世界中から注目される世界の果ての技術大国へと変貌していた。

 

星暦八九四年の秋華戦争九〇五年の秋露戦争において大華帝国や大国ロヴァルナを相手に勝利を掴んだこの国は世界へと踊り出し、第一次星欧大戦対戦によってその国際的な地位を盤石な物にし、星欧外発の列強入りを果たした。

 

この二つの戦争は、近代史以降初の魔種族と人間族が同じ国の元で共闘をして勝利した戦争でもあり、その事は遠く星欧にも届いていた。

隣の大華帝国は辛亥革命によりその国土が不安定であったことから次々と星欧諸国の侵入を受けてしまい、内戦状態となってしまった。

 

「ふむふむ…」

 

キアステンはそこでまた新たに新幹線の行き先を確認して早速噂の新幹線に乗り込んでいく。

東亰駅では零系新幹線が停車をしており、今日も多くの乗客を乗せていた。夢の超特急として、道路網の発達ですっかり冷え込んでしまった鉄道需要の回復を行うかもしれないと、オルクセンやグロワールなども後を追うように研究が行われている高速列車。世界初の高速鉄道である新幹線は、秋津洲を技術大国たらしめた産物であった。

既に全国に路線網を敷く準備が行われ、ベレリア運輸も積極的に投資していた。

 

第二次星欧大戦時、この国は大陸で政権を概ね掌握していた華那人民共和国との戦争を行い、キャメロット率いる連合国の攻撃を受ける事はなかったが、それでも道洋大戦と称される長い間戦争をすることとなった。戦時中、現地に残余していた資本主義勢力である国民党と協力をしたことで最終的に戦争に事実上の勝利をした。

 

その後は冷戦期に入り、その際にキャメロットなどの西側諸国からは極東の反共主義の砦として期待され、四番目の核保有国として革命後の混乱で資本主義思想の国民党が政権を掌握した南側の華那民主国と共にロヴァルナ・華那人民共和国を抑え込んでいた。因みに道洋での共産主義思想の排斥にはオルクセンも一枚噛んでおり、同国には多額の出資を行なっていた。

 

キアステンは久しぶりの入国を行い、著しい発展を見せる秋津洲の街並みを見ながら秋津洲国有鉄道の電車に乗り込んで東亰駅で乗り換えを行う。

ステン商会も勿論この国には今まで多額の投資を行っており、この国にも現地法人を構えるほどであった。

 

この国がまだ国際社会に出る前、ベレリアント戦争を受けてオルクセンの軍制や政治制度を大いに参考にしており、憲法もオルクセンのものを参考にしてようやく草案が完成した頃にオルクセンの王制から連邦制への移行と大規模な民主化である。おかげで初期の憲法草案を慌てて書き換える羽目になったというのだから面白かった。

 

『えぇ、間も無くーー、ーー〜』

 

戦後の経済発展著しい秋津洲の中で、鉄道に乗った彼女は数日をかけて鬱蒼とした森の広がる田園地帯に到着をした。ほぼほぼ現地の民しかこなさそうな場所に降り立った彼女は、そこで駅員に軽く驚かれながら切符を返してもらう。

 

「ありがとうございますね」

 

そして改札鋏で切り取られた切符を持って彼女は流暢な秋津洲語で話したためまた驚かれてしまった。

そんなこんなで田舎町に到着をした彼女は、駅前の商店街を軽く散策をしてそこで店先で準備をしていた店主に話しかけた。

 

「失礼」

「うおっ!な、なんでございましょう?」

 

話しかけられた店主はキアステンを見て驚いた様子で見てくると、彼女は流暢に秋津洲語で注文をしていくため、そのことで目を丸くさせながらもその注文に応えていく。

 

「うどんとこの梅干しと…」

「か、かしこまりました」

 

そこで次々と注文をすると、彼女は圓で支払いを済ませて店を後にした。

 

「どうも、ありがとうございました」

 

キアステンはそう言って去っていくと、店主は彼女を見て驚いた様子で見送っていた。

 

 

 

そして一通り必要なものを買い終えた彼女は、そこで街を抜けて手元に持った手紙を頼りに近くで農作業をしていた人に地図を見せてその場所を聞いた。

 

「アンタ、この家は伊藤さんの家やで?」

「ええ、彼女に用があるんです」

「ああ、取材の人かね?言っちゃあ悪いが、行っても無駄だと思うで?」

 

そう言い側作業を行っていたおばちゃんは少々顔を顰めたが、キアステンは軽く首を横に振った。

 

「いえいえ、古い友人なんです」

 

キアステンはそう話すと、農家のおばちゃんは驚き、しかし納得した様子でキアステンを見た。

 

「ほう、アンタ妖怪なのかい?」

「ええ、よくキャメロット人と間違われてしまいますがね」

 

もはやテンプレすら超えて日常会話となったそれにキアステンは人間族のおばちゃんに返してから帽子を外して一礼をしてから畦道を歩いて行った。

 

「めんこい子でなぁ」

「いやぁ、さすが外人さんだ」

「あんだけ大ききゃあ良い子ができるで」

 

そんな事を話しながらおばちゃん達は農作業を行なっていく。

最近ではさんちゃん農業が社会問題にもなっており、政府はこの問題に対応するために色々と政策を打っているが、いまいち効果が見込めていないとかなんとかだ。

 

「…」

 

農家のおばちゃんに教えてもらって目的地に辿り着いた彼女は、そこで鬱蒼とした森の中で竹で編まれた門を前に中を見つめた。

 

「ここか」

 

あらかじめ連絡を受けていた場所は小山の斜面にそうように建築がされており、見ての通り周りに人の気配は一切なかった。ど田舎もど田舎といった場所であり、こんな場所に引っ越すなよというのが本心だった。

新しい家を見上げて彼女は中に入って、そこで斜面に沿って敷かれていた石階段を登っていく。入り口には石製の鳥居があり、ここが元々神社であったことが伺えると、階段の両脇には多数の竹が植えられており、これによって山肌を丈夫にさせていた。

 

「…」

 

夏の日差しが生い茂る竹の葉の隙間から差し込んでおり、じめっとした暑い夏の熱をこの竹林は吸い込んでくれているように涼しかった。

 

「誰だ?」

 

するとその時、キアステンに話しかける一人の声が聞こえた。見上げると、石階段の上で仁王立ちで一人が立っていた。

その影はその手に銃を握っており、見るからに物騒であった。

 

「新聞屋か?」

「私だ。キアステンだ」

 

そこでその者に帽子を外しながら顔を見せると、銃を持っていたその人影は安堵し、驚いた様子で持っていた銃を下ろした。

 

「おお、久しぶりだな。キアステン!」

「ええ、手紙を受けとって飛んできたわよ」

 

彼女はそう言い、立っていた女性と久方ぶりの再会をした。その者は良く見ると鼻が星欧人のように高く、やや赤めいた顔を持っており、その背中には大きな一対の鳥の翼を持っていた。

見るからに魔種族と分かり、人間族とはかけ離れた容姿をしていた。

 

彼女の名は伊藤博美。この国で鴉天狗と呼ばれる魔種族の牝である。

キアステンとは遥か昔に知古を得た間柄であり、今の秋津洲皇国の中でも秋津洲初の内閣総理大臣にして、そして世界初の女性の内閣総理大臣であった。

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