白銀樹を捨てた女   作:Aa_おにぎり

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#8 一二〇年前Ⅷ

村を出た私はまずエルフィンドから最も近くて、船も出ている外国であるキャメロットを目指した。そのために北にあるノアトゥンという街に向かった。乗合馬車に揺られて約二週間ほどでその街に到着をする。あれほど盛大な見送りをされたというのに、そんなことももう昔のことだと思ってしまう。

 

ロザリンド会戦より一〇年、私は白銀樹を離れて国を出る。

私の知っている世界に似ているようで少し違う気がするこの世界に少し浮き足立っているのは自覚している。

 

「この先にあるはずだよ」

「ありがとうございます」

 

乗合馬車は大きな港に到着をして、そこで御者だった白エルフが指を差して教えてくれる。

 

「キャメロットまでの船が何処にあるかは知らないけど、この港なら出ているよ」

「分かりました」

 

ここから海外に向かう予定であり、私はキャメロット観光客としてベラファラスから来たというと簡単に納得してくれた。この人、国がほぼ鎖国していることを知らないのか?

 

「ふぅ…さて、行きますか」

 

改めて息を取り直すと、私は荷物と通貨をを持ってキャメロットに向かう船を探した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それからと言うもの、私は星欧中を回った。

 

キャメロット(イギリス)

グロワール(フランス)

アルビニー(ベルギー/オランダ)

イザベリア(スペイン)

アスカニア(バイエルン)

オスタリッチ(オーストリア=ハンガリー)

ロヴァルナ(ロシア)

エトルリア(イタリア)

イスマイル(オスマン)

センチュリースター(アメリカ)

 

とりあえず星欧中の国々は大体巡った。この間の期間に私は実に多くの国々を回って色々と巻き込まれたものだ。

後に私の知っている国に発展すると言うのであれば、八世紀半ばから始まった産業革命を迎えて人間族は大きく発展を見せていた。

 

グロワールではかの天才、アルベール・デュートネ(ナポレオン・ボナパルト)が帝政による星欧支配に反抗するためオルクセン・キャメロット連合軍が激突をして、デュートネ軍を押し返て首都リュテスまで逆侵攻した。それが星暦八一五年のこと。

 

センチュリースターに関してはバチバチにサムスター要塞砲撃による内戦に巻き込まれた形で慌てて逃げ帰ったものである。それが確か星暦八六五年のこと。

 

その間に何度か国に帰り、あのヘンナのいる村に戻った。

私が世界中を巡ってきた日記はヘンナ達へのいい土産となった。

私はエルフの中でも異端児である事は百も承知だが、彼女たちはそれを受け入れてくれた。

 

あの後、センチュリースターは合衆国と連合国の真っ二つに分かれたまま終戦を迎えた。ウィリアム・シャーマンやグラント将軍のような人はいなかったのかな?などと思いながら真っ二つに分かれたセンチュリースターに黙祷を捧げた。少なくともの後の時代の中東の惨劇が繰り返されないことを祈っていた。

 

「もう一〇〇年以上経過するのか」

 

思えばロザリンド渓谷での争いから時間が経ったものだと思った。

 

キャメロット有数の港湾都市、ハンプシャーのティールームで紅茶を飲みながらキアステンは新聞を読む。

現在、キャメロットにて滞在をしている私はそこでとある人物に誘われてこの店を訪れていた。

 

「お願いできませんか?」

 

反対に座った女性は私にそう言って頼み込んだ。彼女の名はイベリア・バード、自らを女性探検家と言い、エルフィンドへの探検を望む女性であった。一体全体、どこで聞いたのか私がエルフであると分かって私にエルフィンどの案内をするように言ったのだ。

 

「…貴方はキャメロット人ですよね?」

「ええ」

「なら、入国ができるのでは?」

 

キアステンの疑問は尤もであった。現在、ほぼ鎖国状態のエルフィンドにあって唯一国交と呼べる交易路を持っているのがこのキャメロットである。

星暦七世紀にこの国は対外進出を積極的に始めた。つい最近ではアフェルカ大陸において徐々にその進出の手を伸ばしていると言う。

私が知っている通りの歴史であれば、おそらくこの国はドミニオンを形成し、黄金時代を迎えることとなるだろう。

 

「ええ、ですが私のような一般人の入国は制限されています」

「…」

 

イベリアの言葉にキアステンは沈黙する。

現在、世捨て人のような生活を行っている祖国(エルフィンド)は、人間族が始めた産業革命に対しその繁栄を取り入れようと、またシルヴァン川より南で大きな繁栄を見せようとしているオルクセンという国に対抗するために本国ではキャメロットから技術者を招致して彼らの生み出した産業機関を取り入れていた。

しかしエルフィンドという国は厳しく入国が制限されており、今のところキャメロットでもそうした技師と外交官以外の入国は厳しく制限をされていた。

 

「お聞きしますが、なぜわざわざエルフィンドに?」

「かつて、エルフィンドについて記した本を読んだためです」

 

彼女はそう言い、王璽尚書次官として多くの国々を訪れたキャメロットの外交官の執筆した本について話した。

曰くそれにはほんの半分ほどがエルフィンドのことが記されていたと言う。ちなみに次に書かれた量が多かったのは極東の秋津洲という国だとか。

 

「それで、エルフィンドに行きたいわけですか」

「はい。貴女のことはエルフィンドから来たとマクヴェーさんやエルフパブからお聞きしましたので」

「…」

 

一通り話を聞いたキアステンは少し考える。今は無き、統一されていた頃のセンチュリースター合衆国初の1モルガン硬貨(フローイング・ヘア・モルガン)を指先で撫でるように動かしながら手の上で転がす。

目の前の女性の目は本気であり、今までの人生経験からしてもおそらくは脚にしがみついてでもついてこようとするに違いない。

 

そして何故彼女が私のことを知ったのかを理解した。てか野郎(マクヴェー)、面倒なことしやがったな。しかしキャメロットの旅券偽造に協力してもらった手前、断ったら後が怖かった。

因みにキアステンはグロワールから始まった旅券制度に対し、キャメロットのものを最初に取得していた。理由としてはエルフィンドはつい最近までキャメロットにせっつかれるまで統一した旅券制度を導入しておらず、氏族ごとによって違う旅券が発行されていたので、いまいち信用に欠けたからであった。

そして後者。昔から王族とも関係のあったエルフィンドやキャメロットという歴史的な理由から、船乗りなどのエルフ達はキャメロットにもおり、白銀樹こそないが港のパブなどでは彼女たちが出入りすることもあった。

 

「…はぁ、分かりました」

「本当ですか!「ただし、いくつか条件があります」っ!」

 

声をあげそうになる彼女に先手を打ってキアステンは言う。

 

「一、私の素性を聞かれても答えないこと。一、私のことは本のどこにも書かないこと。一、私はエルフィンドまで貴女を送ることしかできません。それでも構いませんか?」

「分かりました」

 

すんなりと受け入れるんだと拍子抜けをしたが、キアステンはイベリアに条件を出して彼女のエルフィンド周遊へ協力することにした。

 

「ではエルフィンドに入るために港に来てください」

「分かりました」

 

彼女は頷くと、キアステンは内心で『面倒だな』と思っていた。

 

 

 

その後、キャメロット有数の港湾都市であるハンプシャーに停泊している多くの船舶の中の一つに彼女を案内する。

 

「これは?」

「一応、ファルマリアに向かう船です」

 

目の前に停泊している機帆船はキャメロット船籍の船であった。これからベレリアント半島南端の港湾都市のファルマリア港に向かう貨客船であった。

前後に二本のマストがあるスクーナー型で、約一週間の予定である。

 

「ファルマリアに着いたらこの事務所を探してください」

 

彼女はそう言い、彼女に一枚のメモ用紙を手渡す。それは現代アーブル語とキャメロット語で記された言葉であった。

 

「ステン商会?」

「私がいる会社の名前です。通訳が欲しいでしょうから、こちらに寄ればある程度融通できるかと」

「分かりました」

 

彼女の持っている荷物には向こうで使えるティアーラ通貨がすでに両替されており、長く向こうに滞在する予定らしい。

 

「ここまでお世話になりました」

「いえいえ。むしろ到着をしてから色々とお気をつけください。我々は排他的な民族ですから」

 

私はイベリアにそう言うと、彼女はふと疑問に思っていたことを質問した。

 

「あの、キアステンさん。失礼を承知でお聞きしますが…何故貴女はこちらに?」

 

彼女はそこで事前に収集していたエルフに関する情報を思い返しながらキアステンに聞いた。

普通、多くのエルフというのは生まれ故郷の白銀樹からあまり離れたがらないため、多くのエルフはエルフィンドにいると

 

「いえ…」

 

彼女はそこで少し怨嗟の籠った目を見せて言った。

 

「私は昔に白銀樹を捨てた女ですので」

「…」

 

その底知れない恨みと軽蔑の混ざった眼差しを見たイベリアは、彼女がなぜエルフィンドから逃げてきたのかを察した。

そしてイベリアは手伝ってもらったキアステンの見送りを受けながらエルフィンドに旅立ち、その後にキャメロットにてエルフィンドに関する旅行記を出版し、これが大反響を呼び、エルフィンドのファンタズミックな印象を多くの人々に与えるきっかけとなった。

 

「…」

 

機帆船を見送ったキアステンは、その後に大きくため息を吐いて手元に持ったキャメロットの旅券を見る。

 

「後でグロワールにでも行こうかな…」

 

かのアルベール・デュートネの甥とか言う人が帝位についたグロワール。かの御仁に軍才があるかと問われるといささか疑問が残る。

しかしグロワールのワインは素晴らしい。工芸品と自ら評するだけはあり、安定した味わいはないが、当たった時は最高に美味い。

 

そして最後に、私はまだ星欧に於いて訪れたことのない国が存在する。

 

 

オルクセン(プロイセン)王国。

 

 

今から一〇〇年以上前。あのロザリンド渓谷で大将の首が討ち取られ、散々な敗北を行ったオークが率いる国。

その国は星欧第三位の経済規模を誇る星欧七大国(セブンスターズ)に数えられる列強国である。

未だ入国を果たしたことはないが、彼の国の噂は世界の中心でもあるログレスにいれば自ずと耳にする。なんでも先王、アルブレヒトⅡ世の次の王であるグスタフ・ファルケンハインなる国王が国を列強三位の経済規模まで反映をさせたという。

 

「優秀な王様もいるものね…」

 

私はそう零して売られていた新聞に記されていたニュースを読んだ。

 

現在、星暦八六五年。

私が国を出て早くも九〇年以上が経過していた。

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