『ベレリア水運』
『ブルーム陸運』
『シルヴァン川森林鉄道』
『ベレリア製紙』
『ベレリア林業』
『スノッリ警備会社』
『アールヴ工務業』
『北ベレリア缶詰会社』
『ホテル・ベレリア』
今のステン・グループが傘下に収めている主な企業である。子会社や経営を握った牧場なども含めるともっと数は増えていく。
コボルト族放逐により勃興し、黒エルフ族放逐により拡大をし、戦後のどさくさで膨張したステン商会。
すでに商会としての業務を遥かに超えた業種を抱え、部門の分割・統合によって最初の頃に行っていた馬車による貨物輸送は、ブルーム陸運の一部門に変わってしまっていた。
今の所、鉄道・船舶・自動車。すべての輸送業者を保有しており、鉄道に関しては路線まで自社持ちの唯一の私有鉄道である。
今では白エルフ族資本企業として、戦後に旧エルフィンド産業をオルクセンの外資系から救ったとも一部で言われるが、そんな善意で彼女たちが動くはずがないとオルクセン軍はその表情を引き攣らせていた。
「お送りいたします」
「うん」
ここで三日ほど宿泊し、開業記念パーティーが盛大に終わったことで彼女はため息を吐いていた。
「お疲れ様です」
「ええ、でもホテルの最初は大成功よ」
「それは喜ばしいことです。サーヴィス業が成功するのはいいことですからね」
そこで彼女はこの他にも五つのホテルを建設する構想を立てているキアステンに言う。今時、まだ珍しいガソリン車を購入している時点で色々と彼女が規格外の富豪であることは容易に想像ができた。
船舶事業は順調に石油運搬船を使った石油事業で利益を上げ始めており、合衆国からオルクセンに採掘されて精製された石油が運ばれてくる。日に日にタンカーのトン数は増えていき、まもなく一万トンを越えようとしている。
「で、他の事業はどう?」
「順調です。今の所、議題に上がりそうな問題も確認されていません」
ひたすらに現場主義で、自ら工場に見学に行って抜き打ちで視察などを行うキアステン。彼女の稼ぎ方は錬金術師のようであった。
合衆国という分裂した国ですら収めることができなかった国、という印象であったその場所に投資を行なった。初めこそ『お前は狂っているんじゃないのか?』というほどであった。
戦前からちまちまと投資を行い、ベレリアント戦争後に本格的に始めた対外投資事業。
その資産の大半を合衆国に投資を開始した彼女は一〇年以上の歳月を経て何十倍もの資産として、
ーー彼女はオルクセンラングよりも合衆国モルガンの方が持っている。
オルクセンの経済関係者はそんな事を言って彼女を評価していた。こと合衆国の電気事業と石油事業に関しては彼女は影から支配していたと言っても過言では無かった。実際ラーテナウ総合電気社などのオルクセン国内の電気事業者は彼女の手によって合衆国で発明された新しい発電機などを入手していた。多数の株を保有し、個人の筆頭株主である合衆国の会社は数多い。しかし彼女が直接役職についているのはステン・グループのお目付役だけ。所詮お飾りの役職である。
肥大化したステン・グループは現在、世界に存在しているすべての輸送形態を会社として保有しており、輸送分野に関しては『すべての要望に応える』を社訓に掲げていた。
「また合衆国ね…」
「はい。カンパニア号のスイートルームをご指定なされたときは驚きましたが」
そこで秘書は普段はあまり着飾ることを好まず、二等船室で移動をすることの多かった彼女が一番等級の高い部屋を選んだ。しかもキャメロットでも有数の客船の部屋を選んだことに驚く。彼女であるから真っ先に合衆国に到着できる自社所有のタンカーにでも乗りそうな勢いであったのにこれであったので、少し彼女は驚いていた。
「ええ、ちょっとね」
キアステンはそんな秘書に少し含みがある様子で外の景色を見つけていた。
「この後、一番良い被服屋に案内してくれる?」
「…畏まりました」
その受け答えに秘書は少し驚いた様子でハンドルを回して駅に彼女を送り届ける。
ーー次男が恋をした。
これを聞いて振り返らない者はロスチルドを含め、ログレスの社交界に参加する面々はいないだろう。そして次に彼らは耳を疑うはずだ。
ーーあの美術品蒐集家が?あり得ない。
誰もからそう言われるほど、彼は恋よりも芸術品を愛でていたからだ。彼から粗相の類はまるで聞かず、例えるならご成婚前のグスタフ王のようであった。
「…よし、これで良いだろう」
そんな彼が気合の入った仕度を行い、普段は国王陛下などの前でしか付けないようなブローチまで装飾品の鞄の中に入れていた。
それだけで彼がどのようなことを考えているのか、執事を始め兄弟ですら分かってしまう。あっという間に公然の秘密の扱いだ。
「アイツもついに恋か」
「兄さんも男だったんだな。相手はしかも白エルフと来たもんだ」
彼は隠しているようだが、兄弟や女中たちですら裏では微笑ましくその様子を見ていた。
これから合衆国に向かう途中で態々一時的に帰国をした彼であるが、直前にオルクセンで開業を迎えたばかりの会員制ホテルで彼はその創業者から直接招待を受けていた。無論兄弟達も招待状を受け取っていたが、彼女から直接受け取ったのは彼だけであった。それが意味するところを彼らは分かっていた。
しかしそのことを言うと、途端に彼は奥手になってしまうため誰もそのことを指摘しない。ようやく芽生えた男としての自覚を潰すような無粋なことはしなかった。
先にホテルを後にし、帰国をした後は自分の持つログレスの邸宅で最初に燕尾服とタキシードを新調し、今後流行を見せると言われる最新の技術や布の切り口、襟、ボタンなどを備えた最高級の礼服を整える。彼は最速で作って送ってくれと注文をし、職人は頷いて工房総出で寝ずに制作し、四日という速度で仕上げてくれた。
「お気をつけて。御坊ちゃま」
「ああ、行ってくる」
ログレスのシーモア・プレイスに構えた彼の邸宅。そこで彼は古くから馴染みの女中にそう言われて見送られる。
いつもの見送りであるが、彼はいつもの見送りにまだバレていなさそうだと安堵して家を出る。
無論、長年の付き合いで彼女も彼の性格を知っていたためにあえてその事を隠して通常通り見送ったのだ。ここで奥手に出られても困ってしまう。
「無事に出ていかれました。我々は御当主様が帰ってきた際に歓迎を致す準備を致しましょう」
そして最も熱の入っていた老女中は、その年齢に合わぬ鋭く熱の入った眼光で他の従者達に言うと、他の者達も強く『はい!』と答えて各々がこの家の家主が帰ってくるまでに準備を始めた。
そしてログレスからリヴァプールに汽車で飛び、客船に乗り込んだ彼はオルクセンに到着することを楽しみにしながら今では一大港湾都市となったノグロストに到着をすると、そこで荷物を持って乗船してくる客を甲板から見ていた。
「…」
接岸して乗り込んでくる面々を見下ろすと、彼はその中で
女性の荷物の中では量が少ないなと思いながらもアルフレッドはキャメロットの王室招待の晩餐会よりも楽しみな船旅を前に甲板を後にする。
「お待たせしてしまいましたわね」
「いえいえ、そんなことは…」
そこで彼女は少々申し訳なさそうにしていたが、アルフレッドは気にしていない様子で首を軽く横に振ってから彼女の顔を見つめる。
「キャメロットの船には昔も乗ったのですが、今は良いですね。とても質が高そうです」
「そうなんですか?」
「ええ」
彼女は頷くと持ってきた荷物を部屋まで運んでもらうようについて来ていた秘書に言ってから二人で出航前の船内を散策する。
「前に乗ったのはセンチュリースター内戦前でしたが…まあ当時は外輪式の貨客船でしたから、あちらこちらで甲板で火を焚いたりする人で大変でしたの」
「…何と」
そこで彼女から聞いた話を前にアルフレッドは驚愕をした。そして『ああ、やはり彼女は魔種族なんだな』と彼女の口から出てきた歴史に目を丸くさせる。耳が無いので人間族かとついつい思ってしまうが、彼女は列記としたエルフ族なのだ。永遠の時さえ生きると言われる魔種族という事をまざまざと見せつけられたような気がした。
「(やはり彼女と僕とでは…)」
魔種族と人間族という見えない境目を見た気がして、一瞬彼は億劫してしまう。彼女はセンチュリースター内戦前に彼の国に赴いていたというのは、歴史学者が喜びそうな話だと思った。
「(…いや、決めたんだ。やり通さないと)」
彼は億劫をしたが、直後に彼女の笑顔を前にその恐怖を吹き飛ばす。
「しかし、国を出られていたのですね」
「ええ、これでも旅行好きでありますのよ?」
「ふふふ、なるほど。お気持ちはよく理解できます」
アルフレッドは彼女の足の軽さはまるで気球のようだと思っていた。どんな場所でも彼女は恐れを知らないように赴いている。
「この船で提供される船は絶品だそうで、オルクセンに引けを取らないそうですよ?」
「あら、じゃあグロワール料理ですの?」
「ええ、ご明察の通りです」
彼はとてもじゃないが他国に自慢できる料理が少ない自国の料理に苦笑をしながら彼女をホテルの時と同様にエスコートをして船内のホールに案内した。