「チッ……あっちいな。まだなのか?」
「先に呼んで置いて待たせるとか何様のつもりなんだよ。もう10分ぐらい経ってんじゃねぇのか……」
審議から一日明け、特別棟へと呼び出された俺達。……少し語弊があるか。
Dクラスの櫛田という奴から、俺以外の3人に向けてメールが届いた。女子生徒からの呼び出しに加えて、容姿も良いとのこと。
最初に来たときは、皆興奮しきった顔だった。もしかしたら告白、そんなことを妄想していたのかも。……まずありえないだろうが。
金田が呼ばれないのは分かる。だが、当事者である俺は呼ばれなかった。わざわざ外したってことは、何か理由があるはず。
そして、心当たりは一つしかない。俺が考えている通りなら、一ノ瀬はここに来る。
仮に来なかったとしても問題はない。どちらであろうが、傍観するだけ。
俺が天井にある物を見上げていると、足音が聞こえてくる。
「やっと来たと思ったらよぉ……何しにきた?」
Dクラスであるならそりゃ来るか。……完全に失念していた。
「櫛田は来ない。オレが無理やり頼んで送らせた。今一度、話し合いをしたいと思っていてな」
「チッ。お前と話すことなんて一つもねぇ。帰ろうぜ」
お目当ての櫛田がいない。それにわざわざ待って来たのが男だということで、興味は無くなったといったところか。
普通、3人いたら一人ぐらいはこの時点で不審がりそうなものだと思うんだが……あのカメラは、どう使うのやら。
長いこと待たされたと言うこともあり、石崎は即座に戻ろうとする。
それを待っていたといわんばかりに、少女が姿を顕にする。……どうやら、俺の予想は当たっていたようだ。
この場に似つかわしくない声が響き渡る。
「悪党は、ここまでだーー!」
俺達を上から見下ろす体勢で、悪党。
そうハッキリと告げる一ノ瀬
「一ノ瀬?な、なんでここに……」
「今回の件は私達Bクラスも見過ごせなかったからね。少しだけど、協力した……ってことだよ」
居ないであろう俺に視線を向けるが、特に気にした素振りを見せることはない。単純に忘れていた線を一瞬だけ浮かんだが、どうやら違うらしい。
「ま、まぁいい。それで、Bクラスが何のようだ」
「君達が嘘をついたってことを見え見えだよ。訴えを取り下げた方がいいと思うけどな?」
「急に来たかと思えば、訴えを取り下げる?笑わせんじゃねぇよ。俺達は被害者なんだぜ。関係のねぇBクラスは引っ込んでろよ」
3人とも一ノ瀬が現れたことに動揺こそしたものの、自分達は被害者だと、決して曲げはしない。
今度こそ抜け出そうとするが、またもや止められる。
「私の話を聞いておかないと後悔することになると思うけど……仕方ないかぁ」
わざとらしく声に出す一ノ瀬。
やむを得ず、歩みを止めるCクラス。
俺からすれば聞く意味もないので、話半分になってしまう。特にやることもないので、相手が企んでいるであろうことを考える。
あの監視カメラに、露骨な時間稼ぎ。そして不自然に閉め出されている窓。どうにかして、本物だと認識させたいってとこか。
この場所にカメラなんてものはない。何かの間違いでカメラがあったとしても、違和感を持っているのが何よりの証拠だ。
その間にも一ノ瀬は問い詰めてくるが、どれもありきたりなものばかり。
「何が言いたいのかハッキリしろよ!お前らが嘘をついて俺達をハメようたって、無駄なんだよ!」
「そっか。じゃあ、アレ。見えるかな?」
自然と視線が、天井に集まっていく。
「ーーは?」
ないはずの物が備え付けられていて、明らかに戸惑っている様子の石崎達。
「な、なんでカメラが!?おかしいだろ!俺達は確かに見た。間違いねぇぞ!」
監視カメラは何台か設置されていて、分かりやすくしているのもあれば、見えづらい場所に置かれているものもあった。
「お前らが設置したんだろ!?俺達は確かに見た。監視カメラは無かった……はずだ」
石崎の言うことに頷く近藤と小宮。実際カメラは無かったが、確信を持つことはできていない。
「私達が取り付けたんだとしたら、何台も置くかな。それに一生徒が、監視カメラを簡単に設置していいと思う?私は、そう思わないけどね」
「本当に全部を見たって言えるの?1階から4階まで、どこにも監視カメラはなかった。……そう断言、できるんだね?」
一ノ瀬は考える隙を与えることなく、さらに追い込む。監視カメラは本物。そう思うように、Cクラス側は印象付けられていく。
目に見えて焦っている石崎。
助けを求めているのか、視線が俺へと向けられる。
……残念ながら、その期待に応えることはできないが。
今ここで俺があの監視カメラは取り付けられたもの。そう言えば、まだ間に合うかもしれない。
BクラスかDクラス。どちらがカメラを仕掛けたかは分からないが、立場は一気に悪くなってしまうだろう。Cクラスの訴えが成功するまで、そう難しくはなくなる。
龍園が真っ当なやり方で仕掛けたのであれば、こちらが主導権を握り返すことも視野に入れていた。
好奇心でやったこと、それは間違いない。
ただ、俺は自分のエゴでクラスが不利になることを望みはしない。……結果的にそうなっていようと、な。
「石崎!どうすんだよ。アレが本物なら俺達は……」
「いっそのこと打ち明けた方が、軽くなるんじゃねぇか。このままだと……」
時間が経つにつれて、監視カメラの存在を認めざるを得なくなっていく。
「須藤が俺達は殴った事実は変わらねぇ。停学だか、退学だか知らねぇけどよ!今更引き下がるなんてできっこないんだったら、このままやってやるよ!」
近藤と小宮は学校側に報告しようという雰囲気になるが、石崎は頑なに認めようとはしない。
そこで、訴えを取り下げれば穏便にするという提案がなされるが、それでも石崎は、足掻うとする。
そろそろ潮時か。
「石崎、もうどうしようもない。俺達にできることは条件を受け入れることだけ。違うか?」
「なっ、お前まで……わ、わかった。訴えを、取り下げる」
石崎が簡単に認めなかったのは、恐らく龍園の存在だろう。その龍園から判断を任せられている俺が認めたんだったら、受け入れることしかできない。
なんとか奮い立たそうとしていた石崎は、やがて崩れ落ちる。
俺達Cクラスの目論見は全て看破された。後は身を委ねるしかないだろう。
昨日と同じように審議に臨むが、数分で終わる。
Dクラスから訴えを取り下げれば、丸く収まる。それが、相手の言い分だった。断ることなどできず、Cクラスは飲むことにした。
須藤が殴ったという事実は一応あるため、最後まで足掻く選択肢がないわけでもなかったが……時間の問題か。
訴えを下げるにはポイントがいるみたいだが、Dクラスも払ってくれるとのこと。
俺があそこで何もしなかったのは良かったのかもしれないな。結果的に損害は被っていない。むしろ、2ヶ月間0ポイントのDクラスの方が、損をしているんじゃないのか。
生徒会室を出て、坂上先生に追及される。
「何かあったのですか。昨日はあれほど優位だったというのに。訴えを取り下げるなどと……」
石崎達は応えない。いや、応えることができない。
俺以外の3人は、足早に生徒会室から抜け出す。
残ったのは、俺と坂上先生だけ。
「ハメられたんですよ、Dクラスに。嘘をつき、同じように返ってきた。それだけのことです」
「嘘?どういう……いえ、ここでするような話ではありませんでしたね。3人とも先に行かれたようですし、話は後にしましょう」
言いたいことはあるだろうが、無駄だと判断したのか階段を降りていく。
それと同時に、生徒会長と書記が廊下に出る。
一瞥して帰ろうとするが、止められてしまう。
「滝谷と言ったか。少し聞きたいことがある」
「……どうしました?」
「Dクラスから訴えを取り下げた方法を聞いた。監視カメラを仕掛けたと。そしてその現場にお前が居合わせたこともだ」
初対面なのに名前を知られていることは気になるが、生徒会長なら知っていてもおかしくはない。そう割り切って追及することは避けたものの、どうにも気がかりだ。
「入学初日に、監視カメラを眺めながら留まっていた生徒がいたらしいな。それも何台もだ」
……入学したときか。あの時は人の気配は感じなかったはず。監視カメラを見たって言うなら別かもしれないが。
「不思議だと思わないか?」
値踏みするような、そんな視線が貫いてくる。
「不思議ですね」
相槌を適当に打って、相手の出方を様子見する。
変に目をつけられている手前、下手なことは言えない。……黙っておくのが得策か。
しばらくして、生徒会長は書記と共に戻っていった。
(学年が違うというのに……もしかしてそれが狙いか?)
話しかけてきた意図はまったく分からないが、時間が経てばいずれ関心はなくなっているだろう。
生徒会室を去って、教室に戻ることにする。
「龍園さんが許してくれると思うか?」
扉を開く前に声が聞こえたため、聞き耳を立てる。
「許すわけねぇだろうが……あぁクソッ。なんでこんな目に遭わなきゃならないんだよ」
「どうしようもねぇって。ちゃんと確認しなかったのがいけなかったんだ」
「もう考えるのはよそうぜ。待つことしかできねぇんだよ、俺達は」
会話は途切れ、完全に聞こえなくなる。
入るタイミングを見失っていたが……丁度用もあるし、今しかないか。
扉を開け、3人と目が合う。
「……滝谷。お前も、呼ばれたのか?」
「何の話だ?それより、石崎。少しいいか」
人気が少ない場所に移り、向かい合う。
「なんの用なんだよ。……わかってるぜ、どうせ審議の話だろ?どうにかならなかったのかよ。お前ならあの状況でもなんとか……できたんじゃねぇのかよ」
溜まったものを、ぶつける石崎。
ただの当てつけにしか過ぎない。それは分かっているはずだ。
石崎を呼んだのはただの確認。
誰が悪いか。そんな話をしに来たわけではない。
もっと根本的で、初歩的なことが気になった。
「お前は龍園をどう思う」
「……は?」
そんなことを聞かれると思っていなかったのか、素っ頓狂な声を上げる石崎。
「もう一度言ったほうが良かったか?」
石崎自身は気付いていないかもしれないが、俺は石崎が近藤や小宮のように、恐怖で従っているわけではないように感じた。
「なんで俺なんだ?つーかよ、お前だって龍園さんに従ってるんじゃねぇか。それはどうだってんだよ」
質問に質問で返してくる石崎。
心なしか、鼓動が速まっていくような気もする。
「先に言えってか?別に理由なんてねぇよ。……俺は負けた。なら従うのが道理ってもんだろ」
「……そうか、悪かった」
「次はお前の番だぜ滝谷。聞かせてくれよ」
「俺の答えなんて聞いたところで無駄だ。……決まってるんだからな」
一方的に告げて、教室を離れる。
「何だったんだ?アイツ。……まぁいいか。それより龍園さんって……あ。りゅ、龍園さん」
「よう石崎。滝谷も呼んでおけ。テメェらには折り合いをつけて貰わないと困る。だろ?」
校舎裏。龍園にひれ伏す石崎達。
「しくじったな?お前ら」
相変わらず気に食わない。龍園も、こいつらも。
「ち、違うんです龍園さん。ハメられたんです、俺達は」
いずれ終わりが来る暴君。
それに文句だけを言って従う奴ら。
「アルベルト。やれ」
ーーそれだけのはずなんだがな。
石崎は震え、動くことすらままならない。
近藤と小宮も同じ有り様だ。
これから起きることを受け入れ、何もかもを諦める。
自分が中途半端な人間だということ。
それは理解している。
アルベルトが石崎の前へと歩み、手を振りかざす。
――しかし、寸前のところで止められる。
だからこそ、不快でしかない。
「……え?」
「何のつもりだ?テメェ」
石崎に向かって放たれた拳を、俺が受け止めた。
「くだらない茶番劇は終わったらどうだ?」
迫ってきた巨大を抑え、強引に弾き飛ばそうとした。
けれどアルベルトも理解したのか、圧倒的な力ですぐに返される。
急所を狙っても良かったが、拳にとんでもない重圧が押しかかる。……力比べがお望みってか。
拳と拳のぶつかり合い。どちらも一歩たりとも動くことはなく、両者の力が均衡している。
……そう見えるだろう。
体感で一分ほど経った頃。アルベルトと俺の状況が変化しないことを感じ取ったのか、龍園がようやく動き出す。
「アルベルト。下がれ」
アルベルトを制し、鋭い眼差しが俺を貫く。
「まさかアルベルトと互角だとはな。それより、どういう心境の変化なんだ?教えてくれよ」
「聞かなくても分かっていることだろ。俺はお前のやり口を好いていない。……分かるだろ?」
「そういうことじゃねぇよ。正義ぶる人間でもないだろ、テメェは。俺が知る限り……自分に利があると行動する。そういう人間だろ?」
「……ただの気まぐれだ。理由なんてものはない」
この場に留まる意味もないんだが、まだ続きそうか。……わざわざ行く必要もなかったな。
龍園の呼び出しに毎回行く義理があるわけでもない。石崎にどうしてもと言われて来てみれば案の上、だったが。
「まぁ待てよ。偽のカメラでハメられたって話みてぇだが……どうにもおかしいなぁ?お前は入学初日に気付いていたんだろ。そんな奴が気付かねぇとは思えねぇぜ」
「クラスを裏切って別のクラスに移籍する。そう捉えられてもおかしくないぜ?少なくとも俺にはな」
こうなった以上は素直に言っておくべきか。別に隠しておきたいわけでもない。
「……そうだな。監視カメラを放置したのは事実だ。それ以外は当たってないけどな」
「ならその意図を教えてくれよ。お前の話からするに、それを言うだけで終わるようにしか見えねぇが?」
「確かポイントの変動、だったか。お前の狙いは。仮に審議を勝ち取ったしても、正々停学だ。指摘する必要性がない。俺はそう考えた」
「それだけだと理由になんねぇよ。停学でいいじゃねぇか。こっちに損がないんだからな」
「そこで、だ。俺は後に活かせばいいと考えた」
「ほう?具体的に言ってみろよ」
「Bクラスの教室に行ったときに、Bクラスが今回の審議に関係していることが分かった。相手も分かっているだろう。俺がわざと動かなかったことをな。ここで恩を売っておけば、Bクラスは俺達に対して敵対することができなくなる。その確信があったから、俺は何もしなかった。これでいいか?」
「一貫してはいるようだな。だが、確信できるほどの何かがあったとは思えねぇなぁ?」
「そこまで話す義理はない。結局のところ、後になれば分かるんだから」
「……いいぜ。今はそれで良しとしといてやるよ」
やけに素直だな。てっきり、始めるものかと思っていたんだが。一部は省略して、真実と嘘を織り交ぜた。龍園が納得できたようにはとても思えない。ただの気分か、それとも……
「もうお前は去って構わないぜ?後はこいつらに確認するだけ……って、もういねぇか。変な野郎だ」
Dクラスのネズミを探そうとしたことは間違ってなかったぜ。そのおかげで色々知れたんだからよ。
とはいえ……顔にこそ出してねぇが、アルベルトを抑えつけたのは想定外だ。あそこで止めていなかったら……ククッ。
そろそろ一学期が終わる。今んところポイントの変動は微々たるもんだ。なら、このまま夏に入っても何もねぇとは考えにくい。大幅にクラスポイントが増えてもおかしくはねぇ。
好きにするのは勝手だが、無視するわけにもいかねぇ。何考えてるかも読めてねぇ以上、アイツとは近い内に白黒ハッキリつけておかねぇとな。
自身の思考が、たった一人の存在にラグが生じる。
ーー焦っているのか、俺は。
いつもなら、やり甲斐がある奴としてとっておきにするつもりだった。
アイツを知ったつもりでいたが、まるで分からなくなってきた。
底知れねぇ野郎だ。
ーーだから、興味が湧くんだがな。
__________
カラオケルームから少し離れ、近くにあったベンチに座り出す。
「……」
後ろからついて来るのはいいんだが、分かりやすすぎるのもどうなんだろうか。
そこで俺は、街灯に隠れている少女に聞こえるように呟く。
「正義気取りか。身体が勝手に動いただけなんだがな。無意識に……野暮な話だな」
「何の話?急に独り言とか、キモいんだけど」
「独り言じゃなくなった。だろ?」
尾行に気付いていたことを暗に告げると、しかめっ面をする伊吹。相変わらず感情を隠そうともしない奴だ。
「分かってるなら待ち伏せでもすれば?時間の無駄じゃん。あんたがやってることって」
そしてこの一方的なところも特徴的だろう。俺はやりやすくて助かるが。
「もし石崎が後ろからついてきていたとしたら?」
例え話だが、すぐに後ろを振り向く伊吹。
「決まってるだろ。蹴る」
「そんな物騒な奴がついてきてるなら、何もしない方が正解ってことだ」
「あっそ。で、聞きたいことが山ほどあるんだけど」
すぐについて来ていたから分かってはいたが……何を聞かれるのか。いきなり殴りかかってこられるのは勘弁したいところだ。
「私は龍園のように、深くは踏み込まない。まぁ、あんたの行動なんて別にどうでもいいってわけ。考えてもどうせキリがないってのもあるけど」
「とにかく、聞きたいことは一つだけ。さっきアルベルトとやり合ってただろ?あんたから見て、どっちの方が強いと思う」
「そりゃあ……アルベルト、じゃないのか」
伊吹の言っている強さの基準というものが分からないが、客観的に見たらアルベルトと、全員が全員そう答えるだろう。それほどまでに、体格差が生じているからだ。
「あーもう周りにくどいのはやめ。…………ス、スッキリしたってだけ。それじゃ」
それだけ告げて走って行く伊吹。
(……なんだったんだ?)
姿が消えるまでありもしないことを考えてみたものの、無駄だと判断してさっきの出来事を思い返す。
それにしても……何故、あんなことをしたのだろうか。
自分でも理解不能だ。
ーー自分に利がある、か。
言い得て妙かもしれないな。
それが本当ならーー
馬鹿げた話だ。
_________
審議が終わり、堀北と別れたオレは、暗い廊下を歩いていた。
窓の外は、大量の雨が振り続いている。生徒の人影は、一切見受けられない。
スマホを開いて、時刻を確認する。
開いた画面には、7時と表示されていた。
Dクラスの面々は既に帰っている頃合いか。……今日はコンビニに、行ってみることにしよう。
目的地についたが……しまった。気分転換に来てはみたものの、買う物を決めていなかったのだ。
入る前なら帰ることもできたかもしれない。
しかし、もう踏み入れてしまった。
このままだと、変な奴だと思われかねない。
オレは、人生最大の難局に直面していた。
かれこれ3分。
自身の脳細胞を、フルに使って考えた。
だが、結局何も思いつかない。
ここまでーー「そんなところで何してるんだ?お前」
隣を見ると、変な物を見るかのような視線だった。
「えっと、買い物だ。そう、買い物……」
この状況を変えるチャンスだったのに、出てきた言葉は買い物だけ。
絶対に引き留めなければ。
「この時間帯に来たってことは……買いに来たのは弁当とかか?コンビニに来るってなったら、それぐらいだと思うが」
自分の口で説明しようとする前に、何故だか知らないが、都合のいい方へと進んでいく。
疑問点がいくつも浮かんできたが、今は利用するのが賢明だろう。
「……そうなんだ。何を買おうか迷っているんだ。そこで、オススメの商品とかあったりしないか?」
「それで長いこといたってわけか。……商品か。インスタントラーメンとかはどうだ?」
ラーメンか。そう言えば、入学式に須藤が食っていたよな。
まだ食べたこともないし、インスタントラーメンにすることにした。
「助かった。この借りはいつか返すさ」
レジで会計を終わらせ、窮地を救ってくれた恩人に感謝の意を述べた。
「別に必要ないが……そうだな。今使うことにしよう」
借りとは言ったけれど、できないこともある。現実的に可能な範囲であれば問題はないが、できる限りはするつもりだ。
何を言うのか考えていたが……借りと呼ぶのには値しないものだった。
「名前、教えてくれよ。ずっと分からないのもアレだろ?これも何かの縁だ。お互いに把握しておくのも、悪くないだろ」
そんなものでいいのか。
そう言葉が出そうだったが、本人がいいのならとやかく言うべきでもないか。
知っている人物が増えることは何も悪いことでもない。……それに、少し気になっていたしな。
「綾小路 清隆。お前が言った通り変な出会いではあるが、仲良くしてくれると助かる」
「俺は滝谷 廉だ。……綾小路、清隆か。意外と、変な奴なんだな」
こうして俺は始めて、滝谷という男と言葉を交わしたのだった。
2巻が終わりです。
日常パートを書いて3巻かもしれません。
いろいろ足しておきます