TS転生した元おじさん一般村娘。将来結婚相手になるだろうからと優しく接していた幼馴染が村を出た。そして十年後、立派になりすぎて帰ってきた。 作:パンデュ郞
「すげぇえええええ! これがギャーリドラか」
「騒ぐな」
「うす!」
「あはは……」
無事に都市の中に入ることができた。
男の子二人はダド君と、ヒナ君というらしい。
元気な方がダド君。内気な方がヒナ君。
「しかし、まさかダイナ様の方が拾い物をするとは」
「私の方が拾いそうに見えます?」
「ええ」
素直に肯定された。
ううん、否定はできない。
でも、本当に意外なのは、ダイナ君自身が面倒をきちんと見るつもりがあるのか、彼らと積極的にコミュニケーションを取ろうとしていることだ。
ダド君なんかは完全にダイナ君の舎弟のようになってしまっている。
ヒナ君は……ダド君にべったりだ。
「どうします? このままご当主様のところまで報告へ向かう手はずでしたが……」
「ふむ。エンビローグ伯本人であれば俺も面識がある。話が分からない御仁ではないはずだ」
「連れて行くと?」
「ああ。勝手に行動させるのもまずいし、今後にも関わる」
ダイナ君がしっかり考えて行動を決めていることに感動している。
いや、むしろこれまでが考えなしに見え過ぎただけで、これが普通なのかな?
魔境っていう自分の慣れたステージだからここまで考えが回ってるとすれば、それはそれで素晴らしいことだ。
だって、訓練すれば他の事でも同じようにできるってことなんだから!
いやあ、先は明るいね。
「ふむ、ダイナ様がそちらのお二人をどのようにするのかはそちらの場でお聞きした方が?」
「そうだな。エンビローグ伯にも顔見せさせる」
「っ!?」
うーんダド君が期待に顔を輝かせているけれど、多分そういうのではなさそうんだよねぇ。
異変には関わらせる気がないようだし。
なら、一体どういう風に二人を使うのだろう。
「ならば、馬車はこのまま先に行かせてしまいましょう。先ぶれをお願いしますね」
「では、ごゆっくり」
ダド君たちも加わったから、おじさんたちはのんびり歩いていくこととなる。
ダイナ君だけはバロ君に乗っているけれど。
因みに、おじさんはおりました。ダイナ君とバロ君が残念そうにしている気がしたけれど、やっぱりお尻が痛くって……。
いつか乗馬の練習するときが来れば、その時にもう一回ね!
「領都と街並みは変わらないのに、雰囲気はすごい違うね」
「ここは冒険者と商人の町だからな」
領都は民間人、生活に基づく職人さんも多く住んでいるけれど、この町だと少ないらしい。
その分を冒険者と商人が多く滞在している、のだとか。
冒険者は分かるけれど、商人さんはなんで?
「カメリア様は魔物についてどれ程ご存じですか?」
「えーと、本で読みました。魔法生物、略して魔物。で、多種多様な生態をしている。ぐらいですかね?」
個別に言えと言われたら少しは言えるけれども。
全体的にはこの程度だ。
「その通り。もっと平たく言うならば、魔法を使う生物が魔物です。必然、それらから取れる素材は魔力や魔法を帯びたものとなります」
なるほど、素材需要があるのか。
それは商人たちも拠点を構える理由には十分だ。
魔物を狩る冒険者。狩った素材を買い取る商人。なるほど、これは冒険者と商人の町になるわけだ。
商人のお抱え職人が常駐していて、職人関係のサービスはそっちがメインらしい。
ほえー。
「そっちの姉ちゃんは冒険者じゃねぇんだな?」
「……詳しくは後で話すが、今後お前らはこの人、カメリアを守ってもらう。よく覚えておけ」
ほえ?
おじさんの護衛としてこの子たちを連れてきたの?
それは、何というか意外だ。
「あら、私がいるのにですか?」
「お前は別行動をとることが多いだろう。冒険者連中も異変で手いっぱいのはずだ。ならば、異変に関わらずそれなりに腕が立つ人間に護衛させた方がいい」
そうか。異変で手一杯、ダイナ君も今回は魔境へ行ってしまうから、おじさんとルピガナさんはこの町に取り残されることになるのか。
そこで、ダイナ君は異変に関わらないこの二人をおじさんの護衛にしようと。
うーん、大事に思ってもらってるなぁ。
ただ、そうなると面白くないのがダド君というもので。
「ええっ! 俺らは実績を作りに来たんだぜ! 魔境探査以外の事なんかやってられるかよ」
「お前らが異変に関わるにはそもそもの実力が足らん」
「じゃあ、何も変わらねぇじゃん!」
ダイナ君が深くため息を吐いた。
呆れているように見えるが、おじさんにはわかる。
あのダイナ君の表情は、なんて言えばいいのかわからなくて困っている時の表情だ。
「……そもそも、冒険者の最初は商人の護衛や害獣駆除などから始まるのが普通だ。いきなり魔境に関われる人間は少ない」
「でも、ダイナさんは早々に魔境探査に加わってただろ!」
「ニギルの手配があったからな。それでも、一年間は下積みをしてからだ」
俺でさえ一年の間は騎士の元で基礎を学んだ。とダイナ君は続ける。
そう言われてしまえば、ダド君が返す言葉はない。
おじさんは冒険者という職の事について詳しいわけではないのだけれど。
結構しっかりと段階を踏む職業なんだなぁって。
勝手なイメージだけど、生きようが死のうが勝手にしてくださいみたいな感じなのかなって思ってた。前世でのイメージです。
「貴重な戦力、人的資源ですからね。素行が悪い人間の有効活用という面はありますが、それでも緊急時には必要になることには変わりありません」
「使い捨てはなるべくしたくない、と」
「ええ。もっとも、芽が出る前に消え失せる命の方が多いのも事実です」
自らの実力を知ったころには、既に手遅れなことが多いですから、と。
ダイナ君も頷く。何でも、ダイナ君もまずは自分の身の丈を思い知らされたらしい。
ニギルさんにぼっこぼこにされるだけで半年。その後、基礎を学ぶのに半年。
ニギルさんの元で直接勉強していた一年はそういう風に使われてたようだ。
この話を聞いて、ダド君はすっかり意気消沈してしまっている。
ダイナ君の英雄譚を聞いたって言ってたから、現実を知って少しだけ葛藤しているのだろう。
「安心しろ。今のお前らに護衛が務まるとは思わん」
「なら――」
「俺が直々に鍛えてやる」
カメリアを任せるのだから、生中な実力では許さん。と、恐ろし気なことを言い切った。
ダイナ君直々に訓練してくれるってので、ダド君は一転嬉しそうだ。
「本当か!」
「ああ。お前には足りてないところが多々あるからな。そこを潰すだけでも随分とマシになるだろう」
これは高評価、なのかな?
ダド君は喜んでいるから、きっと高評価なのだろう。
「そこで異変に相対するときに何が足らないのかも教えてやる」
「……わかった!」
そこは丸く収まったのかな?
ただ、ちらりとヒナ君の方を見る。
彼は一言も発していない。ただ、ダド君の方を不安そうに見ているだけだ。
ううん、冒険者っていう風に見えないんだよなぁ。
この子は一体何だろう。
服装とかも、おじさんたちみたいに田舎の村から出てきたって感じではない。
どちらかというと、貧しいながらも町暮らしをしていた側の服装だ。
どこかの孤児? スラム街出身で冒険者を目指している?
なら、ヒナ君はどうしてこんな乗り気ではないんだろう。
わからないことが多すぎる。
けれども、一旦はダイナ君に任せてしまおう。
「ふふ、カメリア様はまるでダイナ様の保護者ですね」
「え、そんな風に見えます?」
ダド君とダイナ君をじっと見過ぎたのかな。
ルピガナさんに絡まれてしまった。
「心配しなくても大丈夫ですよ」
「……ですかね?」
「ええ。彼らからは愛を感じますから」
なんだそりゃ。
ルピガナさんは二言目には愛を語るんだから。
すっかり気が抜けてしまった。
「なるようになりますかね?」
「ええ。なりますよ。――ほら、お屋敷が見えてきましたよ」
随分と歩いた気がするけれど。
エンビローグ伯がいらっしゃるところは、領都のような城ではなく、一つの邸宅だった。
大きくはあるんだけれど、なんていうか……。
「思ったより、地味ですね」
「ふふっ。ご当主様は華美な装飾を好まれないので」
ああ、庭園の話を思い出した。
そういうのが苦手な人って話だったなぁ。
……軟弱者に人権はない! みたいな人だったらどうしよう。
「そんな心配なさらないでも、アルカナ様が話を通してくださってますから。ほら、行きましょう」
「は、はい」
今さらになって緊張してきた。
……これから伯爵様に会うっていうのに、ダイナ君たちはよく緊張してないなぁ。
特にダド君。
なんて思いつつ。
おじさんたちは、邸宅の門を叩いたのでした。