ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 遥か彼方の静寂の夢 作:長夜月
ベルとアイズが話していた、遠目でも聞こえる…アイズの激怒する声が、だが次第にその声は消えていき…最後は泣きながらベルに手を握られるアイズを見てリヴェリアは言った。
「あの子は…、アイズを救ってくれたようだな」
リヴェリアは少し嬉しそうに、その瞳に涙を浮かべながら言った。
その声に一人の好々爺が声を発した。
「さっすが儂の孫じゃ、これは一生物じな」
「茶化すなゼウス、言っておくが今回の事は――
「分かっておる、秘密…じゃろ?そんな事ぐらいは分かっておるわい!あの子たちの絆に泥を塗るようなことはすまい」
ゼウスは二人を見ながらそういった、それは子を見守る親として、大神ゼウスとして、その風格はどこか神々しさを感じさせた。
「分かっているなら良い、私はもう寝る」
「そうか、儂も寝るとするかのぉ」
二人は別々の部屋へと入った、その後しばらくして玄関のドアが開く音がした。
その足音はそのまま風呂場のドアへと向かい、そこで少し口論する声がするが…、少ししたあとにベルの…いや、白兎の悲鳴が聞こえた。
リヴェリアは布団に入りながら頭を抱えた。
その後、お風呂から出てきたベルは魂が抜けたような顔をしており、アイズは満足!といった顔をしていた。
※※※※※※※※※※※※※
ここにリヴェリアさんとアイズちゃんが来て数日、色んな事があった、勉強中にアイズちゃんが居眠りをしてリヴェリアさんに怒鳴られたり、アイズちゃんが勉強中にリヴェリアさんに怒られたり………アイズちゃんはとにかく怒られてた。
色んな事があったけど、今までとは違う事があるとすれば、僕とアイズちゃんはあの日、あの夜から距離が縮まった気がする。
僕があの子の『英雄』になると誓った日から、なにかが変わった、そんな気がした。
ただ…、少しだけ近すぎる気が……する。
「ほらベル、食べて」
「ア…アイズちゃん!?自分で食べられるから、ッて言うかもう僕食べられないよ!」
「食べなきゃ…、大きくなれないよ?」
「僕はチビじゃない!」
アイズのア〜ンを罪深くともなんとか抵抗するベルだが、アイズの一言にだけは強気に反応する。
7歳で116C、アイズよりやや低いと言った身長だが、普通の男の子よりかは確かに小さい。
「ぼ…僕は大丈夫だから、ほら!アイズちゃんも食べて」
「うん…、分かった」
僕の声にアイズちゃんは少し名残惜しそうに言う、そんな僕らを見てリヴェリアさんは一言。
「明日には私達はオラリオに帰る、今日はベルの好きな事をしよう」
リヴェリアはベルとアイズを交互に見て言った、クエストと言うよりも期限、オラリオを長期間離れる事を許可しなかった
(不思議だな、あの女の
ベルとアイズに勉強を教える日々、自分の作ったご飯を美味しいと声に出して褒めてくれるベルを、リヴェリアはとても大切に思っていた。
「さぁ、ご飯を食べたらベルの好きな事をしよう。そうとなればアイズもさっさとご飯を食べないと駄目だぞ、残したらどうなるかは分かっているよな?」
リヴェリアのそんな問いに二人は、主にアイズが首が取れるんじゃないかと思う程に振っていた。そうしてアイズは目の前のご飯を全てを食べ終え、その食器を片付けた。
ベルも遅れまいとご飯を食べ食器を片付けた。
※※※※※※※※※※※※※
「僕も剣が振ってみたい!」
そんな一言から始まった鬼の訓練、ベルはアイズの愛剣『デスペレート』を借りて素振りをした、その回数はゆうに三百を越えていた、経過時間にして2時間が経とうとしていた。
それを見ていたリヴェリアはやめるように言うが、ベルは頑としてやめなかった。なぜなら隣で涼し気な顔をしてアイズは素振りをしていたからだ。
確かにアイズが持つのは真剣ではなく鞘、重さというものでは雲泥の差があるが、それでもアイズの振る鞘から放たれる空を斬る音はベルの素振りの音とは全く違った。
(あの子の『英雄』になるんだ!その為には少なくともあの子より強くならないと…!!でもきつ過ぎる、もう僕の腕取れちゃう!!!)
―――あ…、駄目だ。
刹那、僕の手から剣が落ちそうになった、アイズちゃんの愛剣を落とすまいと最後の力を使いなんとか手に引っ掛けた。落とす前に早くアイズちゃんに返そうとアイズちゃんに剣を渡す。
「あり……がと…う」
身体からは滝の様な汗を流しており、それを見たアイズは一言…言った。
「一緒にお風呂…入る?」
ベルは飛び上がった、その顔は今にも爆発しそうな程に赤くなっていた。
アイズはベルの手を引いて家へと向かう、そのアイズの拘束をなんとか逃れまいと頑張るがそもそもの力、
そんな満身創痍の兎をアイズは引っ張りお風呂へと直行、今回も兎は剣姫の供物となられた…、おいたわしや。
※※※※※※※※※※※※
「ベル、あんまり動かないで、うまく洗えないから」
「僕は一人で大丈夫だよ、だからアイズちゃんも自分の髪の毛を洗ってよ」
お互いに身体にタオルを巻いただけの空間、ベルは必死に目を閉じた、背後にいるアイズを見てしまえば、漢として終わる!そんな事を考えながら必死にベルは洗剤が目にはいらないように目を閉じた。
「駄目、こっちの方が早い…、それともベルは…いや?」
その一言は悲しそうだった、そんな声をされたら…、断れないよ。
ズルい、その一言はでなかった、だから言った。
―――お願い、アイズちゃん。
アイズちゃんは嬉しそうに笑った、見えはしないけど、それでも音が、あの子が鳴らす音が…、それを感じさせてくれた。
お返しに僕もアイズちゃんの髪を洗った、初日に比べればだいぶ上手くなったと思う、何度も洗う内に洗い方のコツなんかもマスターしてきた。
「ベル…、上手になったね」
その一言は嬉しかった、心のそこからそう思った、僕はありがとう!とそうアイズちゃんに言った。
※※※※※※※※※※※
何でベルは目を閉じるの?
その疑問はほかの人にとっては物凄くおかしなことだった、だがアイズは今までリヴェリアとしか入ってこなかったためこれが当たり前だと思っていた。
だが、目の前の少年はいつも目を瞑っている、何でなのか聞いても答えてくれない、でもアイズは心の中でこうも思っていた。
――可愛い!――
兎の手入れをする様に優しく、その柔らかい白髪の髪を洗った。
ベルの髪はほかの人よりもとても柔らかく、そして綺麗だった、ベルと居るときだけは心が洗われるような、そんな気がした。
(ありがとうベル、私の『英雄』になってくれて)
お互いの髪を洗い終わり、ベルがお風呂場を出ようとした時、その手は何よりも早くベルの肩を掴んだ、そのまま湯船にベルを押し込み、アイズも一緒にはいる。
ベルはいつも通り目を閉じ、その姿をアイズはマジマジと見ていた。
※※※※※※※※※※※
昼食を済ませるとベルは午前中の特訓のせいか寝てしまった、リヴェリアはそんなベルの頭を膝の上に置き膝枕ををし、その白髪を撫でていた。
それを羨ましそうに見ていたアイズもリヴェリアと一緒にベルの髪を撫でた。
それを見ていたゼウスはニヤニヤしながら言った。
「これでは本当にお母さんだな!ハッハッハ」
「やめろ!私は…、そんな事を言われる筋合いは……」
「そうか、じゃがベルは嬉しそうだぞ」
ベルの顔は確かに笑っていた、天使の様な純白の髪とその笑顔が相まってリヴェリアの心は危うく撃ち抜かれるところだった。
(いかんいかん、私はあいつを殺したんだ。そうだ、この子に恨まれることはあれど…、この子に母親などと呼ばれる筋合いは………、ない)
リヴェリアはどこか淋しそうにベルの髪を撫でた。そんなリヴェリアの心情を感じ取ったのかベルは少し眉間にシワを寄せた。
(いかんな、この子にも悟られてしまっている)
「何か夢でも見てるのかな…?」
アイスが言う、どこか哀愁漂うその顔は確かに何か悲しい夢でも見ているみたいだった。
「お母………さん……、どこ?」
ベルは寝言を言った、それは恐らく母親との夢。
顔も見たことのない人を夢に見る、それほどまでに母親を思っていた。
リヴェリアは少しうつむきながら目を瞑った。
※※※※※※※※※※※※
――夢を見た、誰かも知らない人達が僕を見てた。
何か言いかけて立ち止まった銀髪の女性、こちらを見ながら俯く臙脂色の大柄な人、その二人に寄り添いながら、二人を連れて行った黒髪の青年。
――僕は一人なのかな?
銀髪の女性がこちらに駆けてきた、そっと僕の事を抱き締めてくれた、初めて感じた母の温もりを…そんな物を感じていた。
何度も謝りながら僕を抱き締める女性に僕は言った。
―アルフィアお母さん!
これは遥か彼方静寂の夢。
決して叶うことのない夢の物語。
※※※※※※※※※※※※
「ベル、夜ご飯は何が良い?」
リヴェリアの問いにベルは食い入るように言った。
「シチューが良い!」
「?!」
ベルのその一言にアイズは肩を震わせた、アイズはベルの方を見ながら助けを乞うような目で見る。
そんなアイズの表情を見てリヴェリアは一喝した。
「アイズ、嫌いな食べ物としっかり食べるんだぞ!」
「は……、はい」
アイズは笑った、だがその眼には光はなく、ただただ絶望の眼差しをリヴェリアに向けていた。
そんなアイズを見ながらベルは苦笑した。
リヴェリアはシチューを作る為にキッチンへと立ち、ベルはリヴェリアのお手伝いをした、それを見てアイズも続いてリヴェリアのお手伝いをし、三人で夜ご飯の支度をした。
その頃ゼウスはと言うと―――
「儂は見ているぞい♪」
その一言にリヴェリアはイラッと眉間にシワを寄せると近くにいたベルとアイズが肩をガタガタと震わせていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そんなこんなで外も夕暮れ、日が落ちかけている頃。
ベル達は食卓を囲みご飯を食べていた、自分達で畑から採った野菜を使って作った料理はいつもより美味しく感じるものがある。
そんな事をベルは考えていると隣でご飯を食べる…いや、シチューの中身…人参と睨めっこをするアイズの姿が目に入る。
かれこれ数分、ベルはいたたまれない気持ちでそれを見ていたが、流石に可哀想なのでベルはアイズに静かに聞いた。
「人参が嫌いなの?」
「ッ?!ち…違う、大丈夫!食べられるから」
ベルが優しく聞くとアイズは驚きながら言った、そしてそれを証明するが如くスプーンでひと掬い、アイズの瞳にはやや涙が浮かんでいた。
ベルが"代わりに食べようか?"と聞くと向かいの席から…リヴェリアからとても恐ろしい視線が二人に送られる。
"分かっているな?"そんな事を眼力だけで2人に伝えるとベルとアイズはウンウンと頷いた。
「アイズちゃんごめん、頑張れ!」
「うん…、頑張る…」
アイズは震える手を叱咤しながら人参を食べた、ベルはその隣で苦笑しながら見守っていた。
そうしてアイズの目の前のシチューが空になった頃にはアイズの目は死んでいた。
ベルはアイズの分のお皿を片付けていると隣からリヴェリアが来た。
「ベル、お前は私達が来て嬉しかったか?」
リヴェリアの問いにベルは少し考えながら言った。
「リヴェリアさんやアイズさんが来てくれたおかげで僕は変われることが出来ました!強くなろうと…、心からそう思えるようになりました!それに……」
ベルは少し頬を赤らめながら俯いた、リヴェリアはそんなベルを見ながら笑いかけた。
「ベル、言ってくれ。怒ったりは決してしない」
「う…うん、リヴェリアさんは…その…、お母さん見たいな、そんな感じがしました。僕はお母さんの事は分からないけど、もしお母さんがいたらこんな感じだったのかなって」
リヴェリアは目を見開いて驚いた、そんな事を思ってくれていたなんて考えてもいなかったからだ。
「そう…か、そんな事を思ってくれていたんだな」
リヴェリアはベルの頭を優しく撫でた、少し照れながらベルはリヴェリアの方を見た。
そのベルの笑顔を見たリヴェリアの心は一瞬揺らいだ。
(お母さん…か、私にそんな事を言われる価値は…)
「リヴェリアさん…、その…リヴェリアさんのこと"お義母さん"って呼んでも良いですか?」
その一言にリヴェリアの心は撃ち抜かれた。
目の前の少年がこちらを伺うような目で私を見る、その目は心配なのか少し潤んでいた。そんな目をされたら断れないじゃないか、私は決意した、目の前の少年の母親になることを。
「ああ、ベルさえよければ…、私の事を…"お義母さん"と呼んでくれ」
「はい!ありがとう…ございます」
リヴェリアは少し頬を赤らめながらベルに言った。
「その…だな、ベル…私を母と慕ってくれるのならだな…、その敬語はやめてくれないか?」
その言葉にベルは目を見開いた、そしてゆっくりと口を開いてリヴェリアに言った。
「分かったよ、リヴェリアお義母さん!」
その一言にリヴェリアの心は溶かされた、リヴェリアの中に眠っていた母性を一気に解放させた。
リヴェリアは思わずベルを抱きしめた、ベルも頬を赤らめながらリヴェリアを抱き締めた。
※※※※※※※※※※※※※
朝方、朝日が昇る少し前にリヴェリアとアイズは家を出た、ベルとゼウスも外へでて二人の見送りをしていた。
「じゃあね、ベル!!」
「うん、また来てねアイズちゃん!」
アイズとリヴェリアが来てから1週間、とうとう来てしまったお別れの日、前までのベルであればきっと涙を流していただろう、だがこの1週間は確かにベルを成長させていた。
寂しさはある、だけどそれ以上に次の再会が楽しみだった。
「じゃあなベル、次に来る時には沢山のお土産を持ってくるからな、楽しみにしていろ!」
「うん!リヴェリアお義母さんも期待しててね!僕、今よりもずっと勉強して凄くなるから!!!」
「ああ、期待しているよ」
ベルはリヴェリアに渡された一冊の本を両手で抱えながら言った。
その本の題名は"
ベルはそれを大事そうに抱えて二人を見送った。
「ベル、頑張ろうね!お互いに」
「うん、じゃあ勝負ね、次あった時にお義母さんのテストでいい点を取ったほうが勝ち!」
ベルはアイズに挑戦的笑みを浮かべながら言った、それを見たアイズも笑みを浮かべながらベルを見た。
アイズはベルに向かって笑顔で言った。
「じゃあ"負けた方は勝った方の言う事を何でも聞く!"っていうルール追加ね!!!」
「うん、良いよ!絶対に負けないから!!」
アイズの条件にベルも喜んで受けた、このときは知らなかった、あんな惨敗をするなどとは。
「また来るよゼノン殿、その時は一度こちらに文を出す」
「分かったわい、何か手土産をと思っとったんじゃかな、すまないのぉ、この茶葉で良ければやるぞ」
ゼノンもといゼウスがリヴェリアに一つの紙袋を渡した、その中身はリヴェリアがここに来てから好んで飲んでいた紅茶の茶葉だった。
リヴェリアはそれを受け取りゼウスに謝辞を述べながら迎えの馬車に乗った、アイズもその小柄な身体をヒョイッと浮かせて馬車に乗った。
そんな二人を見ながらベルは一言言った。
「アイズちゃん、もう無理しちゃ駄目だよ!身体を大切にしてね!リヴェリアお義母さんもありがとう、また来てね!」
ベルの笑顔につられるように二人も笑った。
「うん、約束ね、絶対に無理はしないよ」
「ああ、また来るよ、ベル」
馬車が走り出した、二人の乗る馬車が見えなくなるまでベルは手を振っていた、そうすると村の鐘がなった、朝を告げる村の鐘が高らかに鳴り響いた。
「お祖父ちゃん、僕、強くなるよ、どの英雄をも超えて」
「ああ、頑張れ!ベル」
お祖父ちゃんの優しい声を聞きながら僕は家に帰った、リヴェリアお義母さんから貰った本を開いて、お祖父ちゃんと一緒に勉強をした、アイズちゃんに負けないために!
※※※※※※※※※※※
――あの子の鳴らす鐘は自然と雑音には聞こえなかった――
リヴェリアはアルフィアの言葉を思い出す、今もなおこちらに手を振り続ける少年を見ながら。
なぜ今これを思い出すのかは分からなかった、だがその意味はすぐに分かった。
カーン、カーン、カーン
村の朝を伝える鐘の音が鳴り響いた、あの子が鳴らす鐘の音が、朝日に照らされる白髪の少年、それはどこか幻想的で、その光はどこまでも透き通っていた。
「アルフィア、お前が言っていた事が分かったよ」
リヴェリアは空を見上げながら言った、今は亡き戦友を見上げるように。
すると隣からアイズが真剣な眼差しで言った。
「リヴェリア、勉強を教えて」
輪をかけた勉強嫌いのアイズがリヴェリアに勉強を教えるように頼んだ、よほどベルとの影に勝ちたいのだと思った。
元々アイズは負けず嫌いだったが、今回は自分の嫌いな事を率先して学ぼうとしていた、そんなアイズにリヴェリアは興味本位で聞いた。
「アイズ、あの子に勝ったら何をお願いするんだ?」
「うんとね…、秘密!!」
アイズは満面の笑みで笑いながら言った、リヴェリアは驚いていた、今までに見たことのない満面の笑みでリヴェリアを見つめていた。
(あの子は…、ベルは確かに『英雄』になんのかもな)
たった一人の英雄になる、その誓いを果たす為に努力を惜しまないあの子にアイズも感化されたのだろう。
初めはアイズの息抜きのつもりだったが…、存外私もあの子に救われたみたいだな。
リヴェリアは心のなかでそんな事を考えながら本を開いた、アイズも真剣な眼差しで本と睨めっこしていた。
だんだんゆらが見えなくなっていき、すると次第に大きな市壁に囲まれた都市 オラリオが見えた。
【
【剣姫】アイズ ヴァレンシュタイン
帰還
オラリオ外滞在期間、1週間。
本編まであと少し、長いかもしれませんがどうぞ長い目でご愛読下さい。
それでは次回もどうぞよろしくお願いします。