ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 遥か彼方の静寂の夢   作:長夜月

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第四話 再会

「【九魔姫(ナインヘル)】、【剣姫】の帰還を確認!」

 

 リヴェリア達は市壁を潜りオラリオへと帰還する。

 門番のガネーシャファミリアの団員が帰還の知らせをあげる、リヴェリアとアイズは馬車を降り街の方へと歩く。

 すると前から赤髪の少女と茶髪の女性…いや女神がリヴェリアの前に現れる。

 

「あらリヴェリア、例の依頼の帰り?」

 

「?!神アストレア、いえ…一時帰還と言ったほうがいい、あまり長期間オラリオを離れるのをロイマンが許可してくれなくてな」

 

「あらそう、じゃあまたいつか行くの?」

 

「ああ、そうなるな。アイズもあの子に会いたがっているみたいだしな」

 

 リヴェリアはアイズの方を見る、アイズは村を出てからずっと本を…リヴェリアの教材を食い入るように読み続けていた。

 

「あらちびっ子ちゃん!偉いわねお勉強なんて」

 

「んな?!チビじゃ…ない」

 

 アイズは赤髪の少女…アリーゼに小馬鹿にされるとその視線を一気にアリーゼのほうへと向ける。

 それを見たアストレアはアリーゼを咎めるように視線を送る、それを察してアリーゼはアストレアに頭を少し下げて謝罪する。

 

「にしてもチビっ子ちゃん!あんまりママに迷惑かけちゃ駄目よ!あと、あんまり無理しちゃ駄目よ」

 

「う…うん、分かってる。それに約束したもん!」 

 

 普段のアイズなら聞き分けのない子供の様に駄々をこねるところだが今回は違った、その変化にアリーゼは目を少し見開いて驚いた。

 

「あら、あの子にも何かいい変化が?」

 

「ああ、あの子の手を取ってくれる少年が居てな」

 

「あらあらそれは、とてもいい話ね。それはやっぱりあの子?」

 

 アストレアは探るようにリヴェリアの方を見た、リヴェリアはそんなアストレアを横見にベルとの1週間の事を話した。

 

「―――と、こんなところだな」

 

 リヴェリアはおおよそ五分間、ノンストップで話し続けた、それを黙って…いや、口を挟む隙すら与えられなかったアストレアとアリーゼは放心しながら聞いていた。

 その視線はまるで母親が可愛い我が子を褒めるような、そんな親バカを見るような目。

 

「分かったわ…、そのベルっていう子がどれほど良い子なのかがよく分かったわ」

 

「えぇ、そうね。その子はとてもいい子なんでしょう」

 

 アストレアとアリーゼは苦笑しながら言った、それを見たリヴェリアは少し頬を赤らめながら俯いた。

 

「そんなに良い子ならきっと将来は有望ね!」

 

 そんなアリーゼの言葉にリヴェリアは少し考え込んでから言った。

 

「ああ…いや、あの子はきっと冒険者に向かない。あの子は優し過ぎる」

 

 だがリヴェリアの顔は優しい顔をしていた、その表情に何かを察したのかアリーゼは続けて質問をした。

 

「あの子は…、アルフィアの言っていた『英雄』になれると思う?」

 

 アリーゼは少し躊躇いながら言った、その言葉にリヴェリアは少し肩を震わせて言った。

 

「あの子の鳴らす鐘は…、確かに綺麗だった」

 

 それは質問の答えにはなっていなかった、だがそれは確かに最後にアルフィアが言った言葉を肯定するようだった。

 それを見たアリーゼは笑いながらアストレアの方を見た。

 

「そう!なら安心ね。楽しみだわ、そのベルっていう子がオラリオに来るのが!!」

 

「そうだな、本当に楽しみだな」

 

 アリーゼとリヴェリアはお互いに笑い合った、そんな二人の間に入ってアストレアがリヴェリアに伝言を頼んだ。

 

「貴方の団長、【勇者(ブレイバー)】に伝えてちょうだい、また争いが激化すると」

 

 そのアストレアの一言にリヴェリアは一瞬驚いた様な表情を見せるがすぐに表情をもとに戻して言った。

 

「ああ、分かった。伝えておこう」

 

 リヴェリアと、リヴェリアに手を引かれるようにアイズは本拠地、黄昏の館へと向かった。

 そんな二人を見送りながらアリーゼはアストレアに質問をした。

 

「アルフィアは本当にベルっていう子を愛していたのね」

 

 アリーゼは言った、それに対してアストレアは少し意地悪な笑い方をして言った。

 

「当たり前よ、何だってあのアルフィアがその子に対して莫大な遺産を遺していたんだもの」

 

 そんなアストレアの言葉にアリーゼは反応して言った。

 

「いくらくらい何ですか?」

 

「四十億とその他諸々、とにかく人が一生遊んでも使い切れるか怪しいぐらいの大金を」

 

「え?」

 

 アリーゼは硬直した、そのアルフィアの愛に、そしてアストレアがなぜそれを知っているのかという疑問を。

 アリーゼの絶句がオラリオの片隅を覆った。

 

     ※※※※※※※※※※※※

 

「帰ったぞ、フィン」

 

「ああ、お帰り、リヴェリア」

 

 黄昏の館、その執務室の奥の平机の山積みの資料と睨めっこをする小人族(パルゥム)の少年…、いや中年が座っていた。 

 その容姿は確かに少年のあどけなさを残していたが、騙されることなかれ!彼はああ見えてもう中年の域に足をかけていた。 

 そしてその隣で平机に腰を掛けている一人の…いや、一柱の女神、神ロキがニヤリとしながら座っていた。

 その隣の、ソファーに腰を掛けて座っている土の民(ドワーフ)の大男、ガレスが資料と睨めっこをしていた。

 

 現在最強の派閥、【ロキ・ファミリア】の団長、フィン ディムナはリヴェリアの帰還の報告を受け、その依頼の内容とその村での出来事を聞いた。

 そこでもまたリヴェリアの解放された母性が炸裂し、危うくその文面に二人と一柱は圧死させられるところだった。

 リヴェリアは話し続けた、ベルとアイズのあの日の夜のこと以外の全てを話した。

 それを聞いてロキはニヤニヤとしながらリヴェリアを見ていた、フィンやガレスも少し笑いながらリヴェリアを見た。

 そうしてロキが一言、口を開いて言った。

 

「アイズたんの事もやけど、そのベルっていう少年のお母さんまで板に付いてきたんとちゃう?」

 

 ロキのニヤリと笑う顔にリヴェリアは反応するが、否定しきれずにいるリヴェリアを見てフィン達も言った。

 

「アイズに対しても良い影響を与えてくれたみたいだしね、それに将来有望な冒険者が見つかったのもいいことだ」

 

「そうじゃな、聞く限りによるとその坊主はアイズとの鍛錬を3時間もこなしたんじゃろ?神の恩恵(ファルナ)も無いも持たずに、相当な根性の持ち主じゃろうな」

 

「そうやなぁ、でもあのアイズたんが男絡みで変わったっていうのは癪やな」

 

「だが、良い影響を与えてくれたもの事実、もしオラリオに冒険者と成りに来たのであればその時はうちにぜひとも選んでほしいね、だろ?リヴェリア」

 

「そうだな、出来ればあの子は私が面倒を見たい…が、それを決めるのはあの子自身だ、それはあの子が決めることだ」

 

 それを聞いたフィンはクスッと笑いながらリヴェリアを見た、ロキやガレスもニヤリと笑いながらリヴェリアを見つめた。

 そこでフィンがアイズの事を聞いた。

 

「アイズはもうダンジョンへ?それとも休んでいるのかな?」

 

 フィンはアイズの事を心配する様に聞いた、その問いにリヴェリアは少し眉間にシワを寄せ手で顔を覆いながら言った。

 

「あの子は今も勉強中だ、食い入るようにあの教材を見ている、あの子との約束が…、あの子を変えたのだろうな」

 

 そんなリヴェリアの発言に3人は驚いた様な反応を見せた、普段ならもうダンジョンに潜っているはずだったが、それをせずに勉強をしていると聞いてフィン達は更に笑った。

 

 その後、食堂で必死に教材と睨めっこするアイズを見た団員たちは「何があった?!」と言わんばかりにアイズを見た。

 

    ※※※※※※※※※※※※※※

 

「ねぇリヴェリア、あの子の…ベルに武器をあげたい」

 

 そんな一言で始まったベルの武器探し、リヴェリアとアイズがオラリオに帰還してから既に数カ月、そろそろかと思っていたリヴェリアはその言葉に驚いたが、すぐに準備を始めアイズと共に黄昏の館を出た。

 

(あの子の武器か…、確かにあの子も強くなりたいと言っていた、武器は確かに必要だ、だがあの子が使える武器は…)

 

 初心者の…、それも少年が使う武器。普通の武器ですらベルにはあまる、そんな懸念を持ちながらリヴェリアとアイズは一つの鍛冶場に向かった。

 

「すまない、神ゴブニュよ、急に押し入ってしまい」

 

「心配は要らん、じゃが珍しいな、この前武器の手入れは下はずだが?」

 

 建築の神 ゴブニュ、【ゴブニュ・ファミリア】の主神。

 ゴブニュはアイズの愛剣【デスペレート】を見ながら言った、それに対してリヴェリアがアイズに促すように言った。

 

「それはこの子自身に話して貰いたい。ほらアイズ、自分の口で言いなさい」

 

「うん、そのね…、ベルに…武器をプレゼントしたいの、だからその…、武器を打って欲しいの…、駄目?」

 

 そのアイズの言葉にゴブニュとその周りにいた鍛冶師達は驚いていた。

 

「お前がそんな事を言うなんてな…、良いだろう、どんな武器がいい?」

 

 ゴブニュは鎚を握りながら言った、それに対してリヴェリアは幾つかの条件を出した。

 

「そうだな…、身長はアイズと同じくらい、武器の性能は初心者でも扱える頑丈な武器、それでいて強すぎない武器だ」

 

「それは随分と…、面倒な依頼だな、分かった受けよう」

 

 ゴブニュの言葉にアイズは目を輝かせた、リヴェリアもアイズの頭を撫でながら礼を言った。

 

「3日後ぐらいにまた来い、それまでには作る」

 

「じゃあなアイズちゃん!」

 

「絶対にいい武器に仕上げるからな!!」

 

「期待してて待ってろよ!!」

 

 ゴブニュの後ろから現れたのは3人の鍛冶師、3人がアイズに向かって手を振り、アイズも恥ずかしがりながらリヴェリアに諭されるように手を振り替えした。

 リヴェリアとアイズはゴブニュの鍛冶場を後にしたあと、黄昏の館へと行った。

 

「どうするアイズ、ダンジョンへ行くか?」

 

「……うん、最近は行ってなかったから今日は行く!!」

 

 リヴェリアとアイズは再び黄昏の館をあとにしてダンジョンへバベルへと向かった。

 

       ※※※※※※※※※※※

 

「これが注文の品物だ」

 

 ゴブニュはアイズに剣を渡した、その形は中剣(パゼラード)、少年のベルでも扱える武器。

 早速アイズがその刀身を引き抜くとそれはとても純白の、白い刀身を纏った剣だった、持ち手は漆黒であり、鞘も同じく漆黒を纏っていた。

 

「ベルみたい、綺麗な色をしている」

 

 白い刀身を見ながらアイズは言った、リヴェリアはそんなアイズの頭を優しく撫でた。

 それを見ていたゴブニュはアイズに一言言った。

 

「本当に変わったんだな」

 

 ゴブニュは一言そう言い残した。

 

       ※※※※※※※※※※※

 

「リヴェリア、いつになったらあの子のところに行けるの?」

 

「そうだな、頃合いか。オラリオの治安も落ち着いてきたしな、私からフィンに言っておこう」

 

「うん、楽しみにしてる」

 

 アイズは日課となりつつある勉強をしながらリヴェリアの方を見て言った。

 

 リヴェリアはフィンの居る執務室のドアをノックした、中からフィンの声が聞こえ、リヴェリアは中へと入った。

 

「来ると思っていたよ、依頼(クエスト)の事だろ、向かうのかい?」

 

「ああ、お前にはいつも説明の手間が省けて助かるよ」

 

「あ…!リヴェリア〜、あの茶葉の土産も忘れんといてぇな」

 

 フィンとリヴェリアが苦笑しているとロキもリヴェリアにお使いを頼んだ。その茶葉はリヴェリアがベルの叔父、神ゼウスから頂いた茶葉だった。

 それを気に入ったロキはリヴェリアに"今回は多めに貰ってきてぇな"と言った。

 

「了解した、ではアイズに言っておこう。支度を済ませ次第向かう」

 

「分かったよ、じゃあ馬車を手配しておこう、出来るだけ足の速い(・・)馬をね」

 

「感謝する」

 

「なぁに、君の山積みな手作りの本を運ぶには生半可な馬車じゃ困るだろ?」

 

「ああ、これがもし他のエルフにでも知られればどうなる事やら」

 

「少なくとも厄介な事にはなるだろうね」

 

「全く、厄介な立場だよ。せいぜい利用してやるさ」

 

「ああ、どうぞロイマンを脅してやってくれ」

 

 フィンはリヴェリアの方を一瞥、すぐに目の前の資料に目を向けた。

 リヴェリアは執務室を出てアイズのところに向かった、用件を伝えるとアイズは小走りで自分の部屋へと向かい、支度をし始めた、リヴェリアもそれを見てすぐに自分の部屋へ行き、山積みの本を見ながら一言。

 

「書きすぎたか…、いくらあの子のためとはいへ流石に多すぎたな」

 

 そのどれもがリヴェリアの手書き、中身は教材、リヴェリアが今までに学んだ世界のこと、オラリオの事、そしてダンジョンの事について山ほど書かれていた。

 どうしたものかとリヴェリアは顔に手をついたが、なんでいても仕方のないことなので大人しく本を整理した。

 

      ※※※※※※※※※※※※

 

 ここに来て数十分、リヴェリアは目の前の豚…ロイマンと話をしていた、その内容は他のエルフが聞いていたら"不敬"と言って切り捨てていたであろう。

 

 なんとか外出の許可をいただいた、その期間は一ヶ月、ロイマンは青ざめた顔をしていたが、"もし拒否すればギルドにエルフをけしかける"と言われるとロイマンは苦痛…胃痛に喘ぎながらも渋々許可を出した。

 

 リヴェリア達が村を出て早数カ月、リヴェリアとアイズは今も勉強中だった、アイズはベルとの約束以降、毎日の様に勉強をしていた。

 

「リヴェリア、まだ着かないの?」

 

「もうすぐだ、ほら、見えてきただろ」

 

 そこには村の家々が並んでいた、それを見たアイズは目を輝かせながらリヴェリアを見た。

 

「あと少し、リヴェリア!楽しみだね」

 

「そうだな」

 

 リヴェリアとアイズの乗る馬車が村の眼の前まで来た、するとそこには白髪の好々爺と純白の少年…ベルが居た。

 ベルを見るなりアイズは馬車を飛び出して走り出した、そんなアイズを見てリヴェリアは"ここで良い、すまないな"と馬車の運転手に言い残し、その大荷物を片手で背負い込みアイズの後を追った。

 

「あ…アイズちゃん?!」

 

「ベル、久しぶり!!」

 

 アイズはベルに飛び付いた、それをベルは慌てて受け止める。

 

(アイズちゃん…、少し背が伸びたかな?)

 

「ベル…、背が伸びたね」

 

 その一言にベルは顔を綻ばせながら頷いた。

 

「アイズちゃんも…、背が伸びたね」

 

「そう…?」

 

 アイズは頭にハテナを浮かべていた、すると後ろからリヴェリアが現れ、ベルとゼウスに挨拶をした。

 

「久しぶりだなベル、大きくなったな」

 

「お義母さんも久しぶり!」

 

 リヴェリアの言葉にベルは笑顔を浮かべながら答えた、そうしているとリヴェリアがゼウスを見ながら一言。

 

「案内してもらえるか?」

 

「そうじゃな、ここにおると人目を引きつけてしまうからな」

 

「アイズちゃんこっち」

 

「んな?!ベル…足速くなってる」

 

 お祖父ちゃんの声にベルは足早に家へと向かった、その速度はまさに脱兎の如き速度だった、慌ててアイズもベルの後を追いかける。

 

「あの子も…強くなっているんだな」

 

「ああ、あの子はお主達と別れてから毎日村を駆け回り、儂の作った木刀を振るっておる…、それはそうと、オラリオの方はどうなっておる?」

 

 ゼウスは一言、先程の安らかな空気が一変、ゼウスの一言にリヴェリアは目の色を変えながら言った。

 

「平穏…とはほど遠い状況だな」

 

「そうか…、分かった、ベルの旅立ちは儂のほうでなんとかしよう。安心せい、上手くやってやるわい」

 

「そうか…、そちらは貴方に任せよう」

 

 そうしているとゼウスが更に顔色を変えた、それはどこか深刻そうな趣きで言った。

 

「これは儂の憶測じゃ…、これから先、戦いが恐らく激化する、今の内にあの子に伝えておきたいことは伝えておけ」

 

「分かった…、そうしておこう」

 

 ゼウスとリヴェリアもベルとアイズの後を追い家へと向かった。そうして再びベルの家に笑いが飛び交った。

 いや…、ゼウスの豪快な笑い声を咎めるようにリヴェリアの叱責が飛び交い、そしてそれに怯えるベルとアイズが居た。




今回はここまでです。
今回のお話で折り返し時点、残り僅かで本編へと行きます。
それでは次回までお楽しみください。
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