ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 遥か彼方の静寂の夢   作:長夜月

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第五話 絶望の修行、母の魔法

「ベル…、渡したいものがあるの」

 

 アイズはそう言ってベルに横長の黒箱を渡した。

 ベルはそれを受け取るとキョトンとした顔で言った。

 

「これは?」

 

「開けてみて!」

 

 アイズの言葉にベルは渡された箱の中身を開く。

 そこには漆黒の鞘に収まった中剣(パゼラード)が収まっていた。

 ベルはそれを手に取ると不思議そうに見ていた。

 

「それはベルにあげる!これで修行もできるよ!!」

 

 アイズの言葉にベルはハッとした顔をするとすぐにその顔を綻ばせて喜んだ。

 

「ありがとう、アイズちゃん!!」

 

 ベルは渡された中剣を鞘から引き抜く、すると中にはベルの髪の毛と同じ色の純白の刀身が現れる。

 アイズはそれを見ながら笑みを浮かべ、リヴェリアも"よく似合っている"とベルを見ながら言った。

 

 貰った中剣を早速振ってみたいと言い、ベルは早速外に出た、アイズもその後に続き、リヴェリアが二人を見守る様にその後に続く。

 

「お前は来ないのか?」

 

 リヴェリアはゼウスにそんな問いをかける、ゼウスはベルとアイズの方を見ながら顔をニヤつかせた。

 

「儂らが行ってもな…、今はあの子達だけの方が良いじゃろ」

 

 その一言にリヴェリアも静かに頷き、そこの腰を改めてソファーに降ろした。

 リヴェリアは少年と少女の修行を見ながら微笑み、ゼウスは"流石儂の孫じゃ!"などとのたまっていた。

 

         ※※※※※※※※※※※

 

 アイズから貰った中剣を振り続けること数日、既にアイズとリヴェリアがベルの村に来てから数日が経った。

 

 ベルは毎日の様に中剣の素振りをし、アイズも隣でアドバイスをしながら素振りをしていた。

 

 そんなある日、"リヴェリアが修行を付けてやる"と言って始まった地獄。

 既にアイズは何かを察したのか様な顔をしており、それを見たベルはまたしても何も知らぬ兎のような顔をしていた。

 

 リヴェリアの修行は恐ろしかった、ベルとアイズが2人がかりで飛び掛っても一太刀もいれる事が出来なかった。

 

「アイズ、お前は勢いに任せすぎた!逆にベル!お前はビビり過ぎだ、もっと勢いを持て!」

 

「ハハハァァァアアア!!!!」

 

「ハァハァ…、ハァハァ……」

 

 リヴェリアの叱咤、アイズの雄叫び、ベルの息を切らす声、それらが平原の中に響く。

 毎日の様にその訓練は行われた、既にベルの身体はボロボロであり、アイズも例外ではないが、やはり神の恩恵(ファルナ)の有無は大きい。

 アイズは次の日にはケロッとしているがベルはそうはいかない、少年の回復力をもってしても疲れはそう簡単には取れず、身体中は筋肉痛。

 苦痛に喘ぐ身体に鞭を打って訓練に参加する、それほどまでにリヴェリアに食らいつくのはひとえにあの日の約束の為、それを知っているからこそ、リヴェリアもベルの無理を許容した。

 

「ハァハァ…、もう…駄目」

 

 バタンと音を立てて倒れた、兎の干物になってしまったベルを見てアイズは心配そうに見守る。

 

「どうしようリヴェリア。ベル、倒れちゃった」

 

「ふむ、流石にこれ以上は無理だな。なに、お前が心配するほどでもないさ、ベルならすぐに起きる」

 

 リヴェリアはベルの横に腰を下ろして座る、疲労困憊で倒れたベルの頭を膝の上に乗せてベルの頭を撫でた。

 

「リヴェリアだけズルい!私も触る」

 

 リヴェリアの膝枕にアイズは声を荒げて抗議する。

 アイズもすぐさまベルの頭を撫でる、するとさっきまでの緊迫が嘘のように取れ、心に平穏が訪れる。

 

「やっぱり柔らかいね、リヴェリア」

 

「そうだな、だが少し髪が伸びたか、もうそろそろ切る頃だな」

 

「リヴェリア…、そう言えば勝負はどうするの?」

 

「そうだな…、ベルも疲れただろう、明後日にでもやるとするか」

 

 リヴェリアはベルの方を見て優しく言った、するとリヴェリアの手から優しい魔力が流れ出す、それはベルを癒すようにベルの身体を包んだ。

 

        ※※※※※※※※※

 

「負けた…、嘘」

 

 ベルの声が静寂の部屋に響いた、ゼウスは慰めるようにベルの頭を撫でる、アイズは喜びで飛び跳ね、リヴェリアは苦笑しながら二人を見守る。

 

 前回アイズとの別れ際で約束した勝負、その決着をつけるべくテストを行うと、その結果はアイズの1点差で勝利、ベルは負けたことを悔しがり、アイズは勝ったことを心底喜んだ。

 

「じゃあベル!私のお願いはね、―――」

 

「ふぇ?!」

 

 その言葉にベルは驚いた、飛び跳ねるように驚くが、アイズの目を見て、"本気だ"ということを察するとしぶじふその要望を受け入れた。

 

         ※※※※※※※※※※※

 

(なんでこうなった?!)

 

 僕は心のなかでそんな事を考えていた、僕は確かにアイズちゃんに負けた、だからこれは仕方のないこと、それに僕も嫌じゃない…嫌じゃないけど!!これは男としてどうなんだ?

 

 ベルはアイズに負けその要望を受け入れた、その要望というのは"膝枕"である。

 ベルはソファーに横たわり、その頭をアイズの太ももの上に乗せた、アイズは心底喜んびながらベルの頭を撫でた。

 

「ベルの髪、柔らかいね」

 

「う…うん、ありがとう、アイズちゃん!」

 

 ベルは少し苦笑いをしながら応える、アイズはそんなことは気にも留めずにベルの頭を撫で続ける。

 

 そんなこんなで外はもう夕暮れ、アイズは名残惜しそうにベルを膝枕から解放した。

 

「じゃあベル、お風呂入ろ」

 

「え?」

 

 ベルは再び混乱の最中に引きずり込まれる、そんなベルを見てアイズはまたしてもキョトンとした顔をしていた。

 

 ベルは目を限界まで瞑り、暗闇すら視認できないほどに、いや…目に意識すら向けずにお風呂に浸かった。

 そんなベルを見てアイズは心配そうな声を上げるが、ベルは大丈夫と言い張り続けた。

 

       ※※※※※※※※※※※※

 

「私はあの子にしっかりと伝えることが出来ただろうか」

 

 リヴェリアはそんな言葉を口にした、いつもであれば夜になるとアイズとベルが二人で特訓の為に外で剣を振るっている時間だが、今日に限ってはそれはなく、リヴェリアは静かな平原を見渡す。

 すると一人の老父が…ゼウスがリヴェリアに言った。

 

「おぬしはあの子に色んな事をしてあげておるじゃろ!もっと自分を褒めてやれ」

 

 ゼウスはそんな事をリヴェリアに言った。

 

 午前中は勉強、魔法やオラリオの歴史、文化などを教え、午後は剣術の特訓をしていた。

 そんな過酷な日々にベルは一切音を上げずに、それどころかリヴェリアにベルさらなる教えをこい、リヴェリアもそれにつられるようにベルに様々な知識を叩き込んだ。

 

「そろそろ…、頃合いだな」

 

 リヴェリアは何かを決めたように言った、それをみたゼウスはニヤニヤしながらそれを見ていた。

 

        ※※※※※※※※※

 

「今日は平行詠唱について教える」

 

 そんな一言にアイズは戦慄し、ベルも警戒心を最大にまで高める。

 

「それじゃあ行くぞ、―――【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け】」

 

 そうリヴェリアが言うと足元から翡翠色の魔法陣(マジックサークル)が出現し、ベルとアイズはすぐに斬りかかる…が、その全てを回避して、さらなる歌を紡ぐ。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

 アイズの緊迫がさらに高まり、それをみたベルも更に攻撃の速度を高める、アイズの長剣が、ベルの中剣がリヴェリアを捕らえるが、その全てを回避し、リヴェリアは更に魔力を高めて歌を続けた。

 

「【吹雪け三度の厳冬--我が名はアールヴ】」

 

 魔法が放たれる、そう思ったアイズは一瞬で魔法を発動させた。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】―――【エアリエル】!!!」

 

 そうアイズが唱えると、アイズの体中から風が現れ、それが一気にその小さな身体に収束した。

 その風を持ってリヴェリアに斬りかかるも躱される…が、風を纏ったアイズの攻撃にリヴェリアは少し対応が遅れた素振りを見せると、その隙を逃すまいとベルは中剣を振るった。

 が、それら全てを躱し、いなしていった、魔法は一向に放たれず、代わりに新たな歌が紡がれる。

 

「【間もなく、()は放たれる。忍び寄る戦火、(まぬが)れえぬ破滅】」

 

 それはリヴェリアがもつ詠唱連結による魔法効果変化、それを知るアイズは風を解放して全力で斬りかかる。

 更にアイズの剣速が速まる、ベルもその魔力の起こりを肌で感じ、アイズとベルは阿吽の連携を持ってリヴェリアに挑む。

 

「ベル!そこ」

 

「うん…!」

 

 リヴェリアの背後をとったベルはそのまま斬りかかる…が、それすらも躱され杖で頭を突かれる、それを見たアイズはすぐにその隙を突こうとするも、アイズの頭を杖で突いた。

 

「【開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む。至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火。汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

 リヴェリアが最大まで魔力を高める、ベルとアイズはもう立ち上がれないが、それでもベルはリヴェリアに斬りかかろうと、中剣を杖代わりに立ち上がる。

 それを見たアイズも長剣を杖にして立ち上がった…が、既に完成した魔法、残す所最後の一節へと移った。

 

「【焼き尽くせ、スルトの剣--我が―――】と、ここまでにしておこうか」

 

 限界まで高まった魔力が翡翠色の光と共に霧散していき、その効果を失う、次第に魔法陣(マジックサークル)が消えていき、リヴェリアの表情も和らいでいった。

 

「今回はここまでだ、私の魔法は詠唱を連結させる事で威力が更に高まり、その効果も変化する、今の魔法は私の第二階位魔法 《レア・ラーヴァテイン》だ」

 

 自身の魔法を説明しながらベルとアイズを立ち上がらせる。

 アイズはその『風』を解いてリヴェリアの方を見つめた。

 

「ベル、お前の長所は筋肉の柔軟性と、バネだ。それを重点的に鍛えろ、アイズは剣筋が乱れすぎだ、いつも言っているだろ!『大木の心』をもてと!」

 

「はい…ごめんリヴェリア」

 

「う…うん、分かったよお義母さん!」

 

 アイズはシュンとしながら答えた、それと対照的にベルは元気よく答えた。

 リヴェリアの手を取り、アイズと共に家へと戻る。

 

      ※※※※※※※※※※※※※

 

「お義母さんの魔法って僕は使えないの?」

 

 ベルの問いにリヴェリアは難しい顔をした。

 

「それは無理…だろうな、100%無理と言うわけではないが、そういうスキルがない限り同じ魔法が備わることはない」

 

 リヴェリアは少し悩みながらも断言した。

 

 スキルや魔法はその人の心象風景とも言っていい為、それらが同一な人間など、双子でもない限りあり得ないのである。

 

「そっか…、じゃあ僕も、僕だけの魔法があるのかな?」

 

「さぁな、魔法を持たない者も多くいる、それは全てお前次第だろうな」

 

 リヴェリアは苦笑しながら言う、ベルは少しシュンとした顔で自分の手を見る、そんなベルを横で見ていたアイズはおもむろにベルの頭を撫で始める。

 

「ア…アイズちゃん?!」

 

「大丈夫…、いつも一緒だよ」

 

 ベルは飛び上がった様な声を上げた、それでもアイズはベルの頭を撫でるのをやめず、ベルは顔を真っ赤にしながらもそれを受け入れた。

 これは既に2人の仲では当たり前なのである、ベルがどんなに抵抗しようが、ステイタスの有無でベルがアイズに勝てるわけもなく、毎度抵抗しては組み解かれるのら、せめて自分からいったほうがまだ精神的に安らぐからである。

 

「ありがとう…、アイズちゃん!」

 

「うん」

 

        ※※※※※※※※※※※

 

「やはりと言うべきか…、あの子の才能はやはりあの女を彷彿とさせるな」

 

 リヴェリアは紅茶を飲みながら言った。

 2人が寝静まった夜、いつもであればアイズが剣を振るっている時間だが、最近はベルと一緒に寝る為に訓練の時間を昼に集中させている。

 その代わりにベルはいつも赤面させているが、アイズにねだられると断れないのがベルである、いつもなんやかんや言って結局折れるのはベル、アイズとの添い寝はベルも嬉しいのだが流石に羞恥が勝るため、ベルは気が気じゃなかった。

 

 そんなベルをよそ目にアイズはいつもキョトンとしながら、まるでこれが当たり前見たいな態度をして、ベルに断られるとガーンと言う反応をするため、ベルはもう断ることは出来ず、半ば諦めながらもその申し出を喜んで受けていた。

 

 そんな2人が寝静まるのをリビングから聞いていたリヴェリアはアイズの変化に喜ぶも、代わりにベルが犠牲になっている事には流石に苦笑していた、ベル自身が嬉しいと思っているのはリヴェリアも知る所、ただそれ以上に恥ずかしいのも見ていて分かる。

 リヴェリアは止められないがそれとなく助け舟を毎度出すが、ベルがそれに乗ろうとするとアイズが悲しい顔をするためベルもその助け舟に乗ることが出来ない。

 そんな仲睦まじい娘と息子を見守りながら、リヴェリアはリビングでくつろいでいた。

 そんな所に台所から一人の老父が現れる。

 

「何じゃリヴェリア、妖精王族(ハイエルフ)も気を抜く所はあるのじゃな」

 

「阿呆、でなければ疲れがたまって倒れてしまう」

 

 ゼウスはニヤニヤしながら言う、それ聞いていたリヴェリアは少し苦い顔でゼウスを見つめていた。

 そんななんとも言えない空気が漂う中先に口を開いたのはゼウスだった。

 

「あの子は…どうだ?強くなれるか?」

 

 その問いは神ではなく、一人の親代わりとして、あの子の夢を応援する一人として聞いていた。

 

「あの子は…凄まじいよ。柔軟でバネのある筋肉、そして何よりあの女を彷彿とさせる才能…、言われたことは次には完璧に熟し、一度見せた技を瞬時に自分の技術に落し込む程の技量にして才能、これはまさしく天才だろうな」

 

 リヴェリアは嬉しそうに語った、1か月にも渡る修行の果てにリヴェリアが出した結論。

 それを聞いたゼウスは豪快に笑いながらリヴェリアを見ていた。

 そんななかリヴェリアは再び口を開く。

 

「だか…、あの子には…あの子達には平和に暮らしていてほしいとも思うのが親心だ、アイズを救ってくれたのは嬉しい、私をあの子の義母(はは)にしてくれたのも嬉しい、だかあの子を死地に引きずり込んだのも私なんだ」

 

 それはどこか哀愁漂う…自虐的な笑みを見せた。だが、それを見たゼウスは言う、いつものおちゃらけた顔ではなく、真面目で、それはどこか風格すらも感じるほどに。

 

「それらは全てあの子が決めた事じゃ、確かに儂らが導いた所は多々ある、でも最後に決めたのはあの子だ。そしてその選択を誰かのせいにするような奴に儂は育ててはいない」

 

 ゼウスの声にリヴェリアは目を見開く、手に持っていた紅茶を一気に飲み干し、リヴェリアは2人の…(アイズ)息子(ベル)が寝ている部屋へと向かった。

 

(私は…何を考えていたんだろうな、そうだ…、あの子が全て決めたこと、私はそれを全力でサポートする為にここに来た、あの子の義母として、あの子を見守る親として)

 

 リヴェリアはアイズとベルが寝静まる部屋で二人を見据えた。

 仲睦まじく寝る二人、アイズはベルの胸に頭を埋め、ベルはそんなアイズを優しく抱き締めながら寝ていた。

 それは外から見たらどう見てもベルが兄でアイズが妹だった。

 そんな事を言えばきっとアイズは怒るだろうがな。

 

        ※※※※※※※※※※※

 

 リヴェリアとアイズがベルの村に訪れてもう一ヶ月、約束の刻限は迫っていた。

 

 それはリヴェリアさん達への帰還命令、何でもオラリオの方でゴタゴタがあったらしくすぐにでも戻らなければならないんだと…。

 突然の別れに僕は整理がつかなかったが、そもそも約束の時はすぐそこだった為、それが1日を2日早まっただけのこと、前回ほどの悲しみはなかった。

 

「ベル…、またね!」

 

「うん、アイズちゃんも元気でね、怪我しないでね」

 

 アイズはベルを抱き締めながら名残惜しそうに言う、それをベルは優しく解きながらアイズに言った。

 

「ベル、元気でな、また時期を見て来るよ」

 

「うん!お義母さんも元気でね!」

 

「ああ、ゼノン殿も、長い間世話になった」

 

「なぁに、心配するな、また来れば良い、儂も…無論この子もそれを待っている」

 

「ああ、そうだな、また来るよ」

 

 リヴェリアは少し暗い顔をしながら言った、ゼウスも何だか何かを察したような顔を浮かべていた。

 

 2人が馬車に揺られながらこの村を離れて行くのを僕は最後まで見ていた。

 あの人同じく、鐘は高らかに鳴り響き、2人も僕の方を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 これが少年 ベル クラネルがアイズちゃんとリヴェリアお義母さんと最後に交わした言葉だった。

 

 次会うときはきっと冒険者になった時。

 そんな事を夢想しながらベルとゼウスは家に…まだ2人の笑顔が残る家に行った。




 今回はここまでです。
 次回をお楽しみに!それではご愛読ありがとうございました!
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