超浮かれポンチAIライバー月見ヤチヨは匂わせ配信を辞められない 作:Radrabbit
「食欲の秋・・・スイーツビュッフェ・・・でも体重が・・・」
「ついに真実が体重を気にするように・・・!?」
「お〜?私一応彼氏いる乙女なんですけど〜?」
「ふっ」
「あー!彩葉が笑ったー!ひどー!」
いつもと比べてお弁当の量が少ないことを突っついてみれば、年頃の少女らしい悩みが飛び出してきた。
『美食と体重は等価交換なのだよ』と宣言していた夏前の真実は一体どこへ行ってしまったのやら。
これでも彼氏の目を気にしている状態だと言うのだから、もし恋人が居なかったと考えると中々恐ろしい食欲だ。
「彩葉〜今週の休み空いてる?」
「土日?・・・日曜なら空いてるけど、何処か行くの?」
「チッチッチ、それは当日のお楽しみなのだよ」
「また変なこと企んでないよね?」
前は何をされたっけ。
・・・確かロシアンタコパルーレットと激辛麻婆豆腐チャレンジだ。
私と芦花はめちゃくちゃ悶え苦しんだのに、真実だけは平然と平らげていたからよく覚えている。
「今回はちゃんとしたやつだから大丈夫。あ、ちゃんとヤチヨちゃんも来てね」
『もちのロンディニウムだよ〜、彩葉いるところヤチヨあり、だからね!』
「相変わらずラブラブだね〜」
『真実も彼氏君とらぶらぶでしょー?お互い様なのです』
そりゃ拒否なんてしないけど、何故かあれよあれよという間に私の週末は何処かへ出掛けることが決まってしまった。
今はバイトかなり減らしてるから余裕あるけどさ。次は私何をやらされるんだろう。それだけが少々心配だ。
◇◇◇◇◇
「お待た〜」
「真実遅刻ー」
「ごめんごめん。ちょっと前髪が反抗期でー」
久方ぶりの都市部遠征。バイト以外での遠出なんて、ヤチヨに会うためにFUSHIを追いかけた時以来だろうか。
「ふんふん、彩葉は今日も合格と不合格の狭間を彷徨ってるねぇ」
「何の話?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみなさいな」
「またそれぇ?」
真実がわざとらしく大仰に腕を広げ、探偵の如く眼を鋭く光らせて私を指差す。
・・・真実は割と突飛な言動をする方だが、合格って何を基準とした話なんだ。今日の私に何か至らぬ点があるとでも?
「その服、この前もその前も同じの着てたでしょ」
「別にヘビロテはして無いし。外出することもバイト以外殆どないからね。ほら、ミニマリスト的な?」
「いや〜ダメでしょ」
「なんで!?」
最低限ワンシーズン着回せる分の服はちゃんと準備しているのに。
それもちゃんとナメられないよう、普段から服の手入れにも気を遣っているこの私が??
「あのね、可愛い女の子がお洒落するのは義務なの」
「今まではずっと遠慮してたけど、これからはちゃんとしてもらおうかな〜って」
「えぇー・・・?」
何故か二人の押しがいつもより強い。
かつて栄養失調目前の私に何か食べさせてくれていた時は、ノートのお礼や委員会の手伝い報酬なんて色々と名目を付けて物凄く気を遣っていただいていたのに。
今の二人からはその距離感というか、私への遠慮とでも呼ぶべきものが消失していた。
「この前さぁ〜、ヤチヨちゃんの配信で新衣装貰ったんだって?」
「え!?あぁ・・・いや、あれは殆ど制服というか、なんと言いますか」
「彩葉もさ、可愛い服着れて嬉しいって少しは思わなかった?しかもヤチヨちゃんのプレゼントでしょ?」
「うっ・・・それは、そのぉ・・・」
『彩葉す〜っごく可愛いかったよ?喜んでくれて私も嬉しかったなぁ』
・・・正直に言ってしまうなら、めちゃくちゃ嬉しかった。
服可愛かったし、ヤチヨも褒めてくれたし、みんなも可愛いって言ってくれてさ。
何よりヤチヨからの贈り物だ。人生で一番と言っていいほど心が躍ったかもしれない。
「ヤチヨちゃんも可愛い彩葉の姿、もっと見たいよね?」
『見たーい!!!!』
「ですってよ、奥様」
「ぬぐぐぐぐぐ・・・」
これは不味い流れだ。それは何故か?
・・・でも、だって、せっかくアルバイト減らせたのも勉強に集中する為だし、仕送りとのバランスも考えたらあんまり散財するわけにもいかないし。
私も・・・もっと
『いーろーは、今お金のこと考えてるでしょ』
「・・・う゛、それは・・・」
『大丈夫だよ。忘れたの?私たちの配信でいろP宛のふじゅ〜も届いてるんだよ』
「え?」
液晶に映るヤチヨがひらひらと手を振って、私の口座へ知らぬ間に入金されていた『ふじゅ〜』をポップアップする。
それは数ヶ月前の私が見れば卒倒しそうな程の金額で、自分に対してそんなお金が振り込まれていた事実に思わずくらりときてしまった。
「な、なん、なんですかこれは・・・??」
『いろPのファンの人たちが、『いろPに美味しいもの食べて欲しい』『可愛い服着て欲しい』って言って送ってくれてるんだよ』
「彩葉すげぇ〜、最早アイドルじゃん」
「まぁ、これだけ送られてると金銭感覚壊れそうで怖いけどね」
二人の言葉を聞き、ヤチヨと二人暮らしをしているマンションの家賃を思い出して一瞬肝が冷えた。
家賃についてはヤチヨが出すと言って聞かず半ばなし崩し的な形になってしまっているが、あれも出費としては学生の身分には合わないレベルだ。
かぐやとの大切な思い出が残っている場所故に引き払うことはしたくないが、かぐやが残してくれたクレジットを
「でも、やっぱりやめた方が・・・」
「んー・・・彩葉。もし彩葉がヤチヨちゃんに『これで楽しい映画でも見て気分転換してほしいな』って思ってふじゅ〜投げたらさ、『せっかく頂いたふじゅ〜なのに娯楽に使ったら申し訳ないよ』って言われたらどう思う?」
「・・・悲しい、かも」
なる、ほど?
確かに、推しに使って欲しくて送ったのに、それを使われずに終わるとちょっと悲しい気持ちになる。
・・・私にそれが向けられてる、のか?
かぐやにはたくさん送られていたし、なんなら求婚も兼ねてそれはもう金銀財宝の如くふじゅ〜が送られていた。
あのとき私は調子づいたかぐやが好きに散財している──実際は私と一緒に使うものや食材ばかり買っていたけれど──と思っていたが、今思えばかぐやなりに視聴者達の願いに応えようとしていたのかもしれない。
「・・・じゃあ、取り敢えず見るとこからで」
「おっけー、まずはウィンドウショッピングからねー」
「彩葉が自分から欲しい〜って思うくらいベストな服探したげるから、覚悟しといて」
「ぐ・・・!こんなの断れないじゃん・・・!」
「ふはは、諦めたまえ彩葉くぅん」
私から許諾を得た二人は全身からオーラでも出ているのかと言わんばかりに気合を入れた。
少し早まったかと思ったが、今日待ち合わせでここに来た時点で手遅れなのだ。
私は大人しくこの運命を受け入れて進むしか、ない・・・。
『よ〜し、ヤッチョも張り切っちゃうよー!』
「あ、あんまり派手なのは勘弁してね・・・?」
「でもヤチヨちゃんには甘いね」
「やっぱりチョロ葉じゃん」
「チョロ葉行くよ〜」
うるさい、そこ。
私をチョロいとか言うな。
「彩葉かわよ〜!!めちゃ似合ってる!」
「み、見るだけって言ったのに」
「試着しなきゃ彩葉に合ってるかわかんないでしょ〜?ほらポーズ取ってポーズ!!」
「えぇ・・・もー・・・こ、こう?」
「きゃー♡見てみて芦花!彩葉が流行に乗り遅れたインフルエンサーみたいなポーズしてる!!」
「おいコラ貴様」
別に嬉しいとか思って・・・。
「なんで着物があんのよここ・・・」
「かぐやちゃんが流行りの元だよ?」
「おのれかぐ・・・うぅ」
「ほーら泣かない泣かない。ちゃんとヤチヨちゃんここにいるでしょ」
『綺麗だよ、彩葉』
「着物彩葉も中々乙だねぇ」
思ってなんて・・・。
「本当に似合ってるコレ!?背伸びしすぎじゃない!?」
「肩出しくらいで大袈裟な。ヘソだしミニスカは勘弁してあげたでしょ?」
「私の羞恥心が死ぬ!!」
『でも可愛いよ?』
「ぐ」
『彩葉、私とお揃いはイヤ?』
「イヤじゃない!です・・・」
「チョロ」
私はチョロくない!!!!
時刻は昼を過ぎ、燦々と照り付ける日差しから逃れるため私たちは真実が最近お気に入りにしているカフェへ来ていた。
日によっては小寒いこともあるが、こうしてまだ残暑が響く暑苦しい日がやってくることもある。
というか此処のショッピングモール暫く来ないうちに店舗変わり過ぎじゃない?どんだけ競争激しいのよ。
「あつい・・・つかれた、しぬ・・・」
「あはー、彩葉もうぐでぐでじゃん。スライムみたい」
「天気良いって見たけど、まさかここまで気温上がるとはねー」
昼前まではむしろ涼しいくらいだったのに、あの太陽も少しくらい加減を覚えてもらいたいものだと内心愚痴を溢した。
節電のためのなのかはわからないが、ところどころエアコンが効いていないエリアがあるのは勘弁してほしい。
そうした気温の変化と連続する試着疲れから私は机に深々と突っ伏し、鼻唄混じりに私の髪型を弄る芦花を放置して脱力を続ける。
「私は今まで流行と正反対の領域にいた・・・?もはや時代遅れの化石・・・?」
「そーでもないよ。身近に芦花居たし、彩葉はちゃんと知ってる方」
「うそだぁ、私全然わからんかったよ・・・」
「私も専門は美容系だから、そこまで詳しいわけじゃないけどね」
「それでも私たちの中じゃ一番だからね~。頼りにさせていただいております」
正直割と最初の方から芦花達が何言ってるのかよくわからなかった。
服屋なんて庶民の味方のお店しか知らない私には、世間様の流行は高尚過ぎて頭の中が疑問符でいっぱいである。
「トレンドとセンスは別物だし、彩葉の感覚はむしろ冴えてると思うよ?・・・あ、かぐやちゃんの服選んでたりとかしてた?」
「え?あー・・・かぐやが服見たり買う時に『彩葉はどれが好き?』みたいなのはよく聞かれてた覚えが」
『実はヤッチョのファッションセンスは彩葉の好みで構成されているのです・・・よよよ、私彩葉色に染められちゃった♡』
「そ、そうだったの?・・・おぉぁぁ、恥ず」
ヤチヨの衣装ってもしかして私の好みが反映されてた感じ・・・?道理で一目見た瞬間から心が奪われたワケだ。
『彩葉に少しでも可愛いって思って欲しくて、すっごくす〜っごく悩んであの衣装決めたんだよ?』
「そ、そっか・・・うん、めちゃくちゃ嬉しい。最高に可愛いよ」
『えへ、えへへ・・・♡』
画面の中でくるりとヤチヨが一回転し、その天女のような衣装を私へ見せつけてくれる。
本当に可愛いな、ヤチヨは。
・・・でもこの衣装が私の趣味だと言われると、実は私、結構はしたない女だと思われてたりする?
本当なら小躍りしたいくらい喜ばしい事実だと言うのに、欠片でも
『だいじょーぶ♡どんな彩葉でも大好きだよ!それに、私も彩葉のことちゃんとそういう目で見てるし』
「ちょ!そ、そういうのは二人の時に・・・」
『ちゃんと伝えないと、絶対彩葉変に勘違いしちゃうでしょ?』
「う゛っ・・・」
今日のヤチヨは私を羞恥心で焼き尽くしたい気分なの?後で悶えても知らないよ?
それとも私が今芦花に髪弄られてるせいで隠れられないのわかってて、わざと羞恥心煽ろうとしてますかヤチヨさん?
「お二人とも見せつけてくれるね〜」
「そうだね・・・よし、これで完成」
「ほいお疲れ、これ美味しいよ。芦花も食べな〜」
「真実がデザート半分も分けてくれるなんて、明日槍でも降る?」
「しつれー!じゃあもうあげませ〜ん。この子はうちの子です。あむ」
おっと、私たちが気を取られている間に何か歴史的な瞬間を見逃した気がする。
そう思い身を起こして芦花達を見ても、二人は曖昧に微笑んで生暖かい視線を向けてくるだけだった。
こんちくしょうめ、人がヤチヨに集中してる時に一体何の話してたんだこの二人は。
「お待たせしました。ご注文の『ペアクリームソーダ』になります」
「どもー」
「・・・ん??」
「ほい、これ彩葉のだよ」
「んん??」
店員さんが持ち運んできたのは、水色と紫色で彩られている小洒落たソフトドリンク。
だが可笑しな点はその中心に鎮座するストローにあった。
本来まっすぐに線を描くはずの筒はクルクルと円を描き、その両端は一つの入口から二つの出口に繋がっている。
・・・これ、所謂『バカップル専用ジュース』だよね?なんで注文してんの?
「あ、その前にヤチヨちゃんこっち・・・彩葉、スマホ借りるよ」
「え、うん」
「40秒で支度するから待っててな〜」
『およよ?ヤッチョこれから何されちゃうのかにゃ?』
言われるがままにスマホを芦花に手渡し、にこにこと悪戯っぽく笑う真実に付き合って時間を潰す。
「いつも彩葉のこと守ってくれてありがとう。これ、そのお礼ってわけじゃないけどさ」
『えっ!?ほんとに、私のために?・・・ごめんね芦花、ありがとね・・・・・・あのね!私』
「大丈夫、私のことは気にしないで。でもヤチヨちゃん・・・その代わり、彩葉のこと不幸にしたら許さないから・・・頼んだよ」
『・・・任せて!私、絶対彩葉のこと幸せにするから!』
1分にも満たない短い時間。
液晶越しにヤチヨと芦花が小声でやり取りをしているのはわかるが、その詳細までは聞き取れなかった。
・・・別に盗み聞きするつもりはないけどね?
私は理解ある女なので、二人が私に聞かせないようにしているなら黙って真実の指遊びに付き合えるのです。
少しして私のスマホで何かしらの設定を終えた芦花が、カメラを起動したのかそのレンズを私へと向けた。
「ちゃんと写ってる?・・・OK。彩葉ー、もう少し左寄って?そうそう、そのままジュース飲んで」
「なに?これカメラで撮りたかったの?私一人でペアドリンク吸うの虚しくない?」
「まぁまぁ」
「別にいいけど・・・何の辱めよこれ」
芦花達が悪意でこんなことをしているとは微塵も思っていないが、それでもこれは一体何の罰ゲームなのだろうかと考えてしまう。
おひとり様でカップル用のジュースを飲む私に何か需要でもあるのか・・・?
「撮るよー・・・はいOK、綺麗にできたね」
「ほんとに撮ったの・・・?」
「そう言う前に写真みてみ~」
満足気な芦花が笑ってスマホを返してくれた。
ヤだなぁ、私写真写りあんまりよくな───。
「・・・これ」
「ふふ、どう?これならヤチヨちゃんも一緒でしょ?」
「いつもヤチヨちゃんだけご飯食べられないの気になってて。せめて彩葉と一緒に思い出作れたらなーって芦花と考えたの」
写真の中では怪訝そうにストローを吸う私の右隣で、満面の笑みを浮かべたヤチヨがもう一つのストローに口を付けていた。
私の容器に添えた手に、彼女はご機嫌な様子で掌をぎゅっと重ねている。ヤチヨがきっと何億回も夢に見ただろう望みの断片がそこにあった。
まるで本当に
「ARカメラアプリってやつ?自作の3Dモデルとかも使えるってやつでさー、これならヤチヨちゃんも写真撮れるっしょ」
「彩葉が目標にしてるロボ?ができるまでの間も、ヤチヨちゃんがこっちで楽しめることが一つでも増やせればと思って」
「二人とも・・・」
『いや〜お気遣いさせちゃってごめんね〜。まさかヤッチョにこんなに嬉しいサプライズがあったなんて!』
心の奥深いところが熱く打たれるような心地。
ヤチヨのことをこんなにも想ってくれる人がここにもちゃんといるのだという実感が、暖かな奔流と共に私の胸を満たしていく。
「ふ、さっきのヤチヨちゃんちょっと泣いてたの見えてたよ~?」
『あれはちょっと、め・・・眼にウイルスが入っただけというか?』
「ヤチヨちゃんのこと揶揄わないの。彩葉の前で強がってるだけなんだから」
『それを言われたら台無しなのです・・・』
「ヤチヨちゃんも彩葉もすーぐ虚勢はろうとするんだから。そういうの良くないよ?」
「う・・・」
『はい・・・』
ジト目で私たちを見る芦花に、滲んでいた涙が引っ込んで思わず肩身が狭く感じてしまう。
いや、最近はね?少しは改善している・・・と思いたい。
「ま、こうしてプレゼントも渡せたことだし、ヤチヨちゃんもそろそろトレンドのリサーチ終わったっしょ?そろそろ本腰を入れていきましょうや・・・」
「な、何に・・・?」
チェシャ猫の如くにやりと口角を釣り上げた真実が、悪戯っ子のような笑顔を浮かべて言い放つ。
せめて最後の抵抗とばかりにすっとぼけてみても、二人はただ私をにんまりと見つめるだけで効果は無いらしかった。
「わかってるくせにぃ、午後からはヤチヨちゃんとの双子コーデも解禁だぜぃ?」
『はいはいはいはい!!すぐ行けるとこに良いお店見つけたよ!!彩葉彩葉、お揃いの着よ!!』
「う、うん」
複雑な気分ではあるが、はしゃいでるヤチヨはめちゃくちゃに可愛い・・・。
いや可愛すぎる。これ現実?
夢なら覚めないで欲しい。あぁでも、現実の
「ぼーっとしてないで、ほら行くよ」
「
「声を失ってる!?」
「ヤチヨちゃんがちょっと可愛すぎたかー」
『えへへ、何着てもらおうかな~♪』
あ、ちょっと引き摺らないで。
もどるもどる、頑張って正気にもどるから。あとそこの真実は私の醜態を動画で撮るんじゃないよ。見せ物じゃないんだけど?
これでもかと言わんばかりにフリルで彩られたオフショルダーのクラシカルワンピース。
ヤチヨや芦花達が着ていれば素直に可愛いと称賛できたのに、自分が身に纏っているものだから何とも言えない。
てかスカート丈短かくない?アバターならまだしもリアルはちょっとハードルが高いと言いますか・・・。
「こ、これ私にはあざと過ぎない?せめて白はヤチヨの方が・・・」
「全然、むしろ照れるほどあざと可愛くなってる」
「やーいあざといろはー、ヤチヨちゃんのキメ顔を見習いなよ」
「おい」
羞恥心で縮こまっている私と違って、ヤチヨは堂々とワンピースを着こなしあ゛ぁ゛ーー可愛い!!かわ、え゛!?天使!?
あでも生地が黒だと大人っぽくて艶やか・・・堕天使?私のこと堕天させに来たの?もうとっくに堕ちてるのに・・・。
『彩葉可愛い〜♡可愛い可愛い!!もっとヤチヨと写真撮ろ♡』
「撮る〜♡」
『いぇーい!』
「彩葉くんさぁ」
「これでもギリ可愛いが勝るの、ちょっとズルくない?」
外野がちょっと喧しかったけれど、ヤチヨが可愛かったので問題無し。
私一人だったらこんなの絶対着れないけど、ヤチヨとお揃いなら全然許せる。許した。
『い・ろ・は♡これ買っちゃお?』
「いや可愛いけど流石に、恥ずかしいって・・・」
『え〜?』
「嫌よ嫌よも好きのうちってね。ほれ!そのままやっちまいなヤチヨちゃん!」
『いろは〜?可愛い可愛い彩葉さーん?ヤチヨ、お揃いの可愛い服着たいなぁ?』
「買います」
やっぱり許せなかったかもしれない。
いや嘘。めちゃくちゃ許せる。でも真美はあとで覚えとけよ。
「ま、まぁこのくらいなら、スカート長いし」
(露出多めの間に挟めば多分ゴリ押せるなこれ・・・こっそりヤチヨちゃんに頼むか)
「芦花?無言でこっち見ないで?というか真美は何を頷いてんの?」
「やはりチョロ葉だったか・・・」
「違うけど??」
でも丈が長いと安心する。
似合う似合うと言われても、露出が多いのはやっぱり精神に悪い。
今の服もノースリーブだけど、その分下は布が多くて良い。
『じゃじゃーん。ボーイッシュヤッチョのお味はいかがかな?自信作でしてよ?』
「し、心臓がなんかバクバクしてきた」
白のフリルブラウスに黒のハイウエストスラックス。ヤチヨの脚の長さを存分に活かしたシルエットが彼女のクールな魅力を引き立てている。
ライブの時よりも低いローポニーからサラサラと流れる後ろ髪がとても綺麗で、左耳だけに付けられた深水色のピアスがどこか蠱惑的な魔力を放っていた。
「よきー・・・いやぁ美人さんはこういうのも合うねぇ」
「いいね、彩葉も見惚れてるよ」
『褒めてもふじゅ〜しか出ませんことよ〜?おほほほほ』
写真を撮り終えた後も、即席で作り上げたアバターのまま液晶の中をくるくると舞い踊るヤチヨ。
彼女は電子の海を気ままに泳いでいるように見えて、その愛しい瞳は常に私を見据えている。
「か、かっこいいよヤチヨ・・・」
『彩葉も可愛いよ。よく似合ってる』
「っ・・・!」
ヤチヨを見てドキドキするのはいつものことだけれど、今回のは何か違うというか、ふわふわと浮き足立つような気持ちは初めてだ。
今までどんなにカッコいい人を見てもこんな気持ちになったことなんて無かったのに、やっぱり
「ぷっ、もうすっかり二人の世界じゃん」
「うん・・・ヤチヨちゃん、彩葉と幸せにね・・・」
「こっちもこっちで重傷かよ。ほれほれ、今だけ特別に真美ちゃんのおやつをあげよう」
「美味しいね・・・彩葉のこと、頼むね・・・」
「駄目だこりゃ」
・・・こんな幸せな気持ちになってもいいのか?
幸せすぎて段々怖くなってきた。当たり前に続くこの幸福な日々が、私の見る都合の良い幻か何かかと疑ってしまいたくなる。
「いたっ」
「え?彩葉何してんの?」
「わかるよその気持ち・・・今が夢なんじゃないかって思ったんだよね」
「わかんの!?」
夢・・・じゃないか。ごめんごめん、もう疑わないから頬抓ったの怒らないで。
『後で神々のみんなにお礼言わないとね』
「うん・・・あ、でも、こういうのって何て言えばいいの?また炎上しない?」
『彩葉は変なこと言わずに、ただありがとうって伝えればいいよ。他はヤッチョがテコ入れしとくから心配しなくていいよ〜』
「その辺はヤチヨに任せる・・・あれ、芦花?ぼーっとしてどうしたの?」
ふと背後を振り返れば半ば放心したように虚空を見つめている芦花と、それを呆れた顔でぺちぺちと彼女の頬をたたく真実の姿が見えた。
芦花は私と目が合うとふっと表情を戻して、すぐに穏やかな微笑みを浮かべて私を見つめる。
「何でもないよ。二人がすごく可愛くてびっくりしてただけ」
「そっか。体調悪いならすぐ言ってよ?・・・私が言えたことじゃないけど」
「おうおう、次未読無視したらヤチヨちゃんにお願いして、今度こそ家まで乗り込むからね〜?」
「そ、それは勘弁してください・・・」
あそこまで絶望して部屋に引き籠ることは多分もうない・・・筈なので、二人に迷惑をかけないためにも、これからは心を強く保たねばなるまい。
・・・じゃないか、今の私にはちゃんと
『彩葉のことは私におまかせあれ!・・・なんてね、二人とも頼りにしてるよ~』
「ふっふっふ、でも彩葉に激辛料理を喰べさせる役目は譲らないよぉ?」
「それはやめて!?というか普通そこは美味しいものでは・・・」
「真実最近SNS伸び悩んでるらしいからねー。彩葉達も付き合ってあげたら?」
『いいねいいね~、ここはいっそゲテモノにもチャレンジしちゃう?新ジャンル開拓はインフルエンサーの常だよー?』
真実のとんでもない提案にも何故かノリノリの芦花とヤチヨ。というか私の気のせいでなければ、心なしか三人の距離感が縮まっているような気がする。
すると思い出したように芦花がぽんと手のひらを叩いて、真実の目的に沿いそうな店を口に出した。
「あ、そういえば駅近に深海魚レストランオープンしてたね。帰り寄る?」
『おやおや、それは良いことを聞きましたな~?』
「これはもういくっきゃないでしょ~」
「私の意見は!?」
「彩葉は拒否権なーし」
「強いて言うならこの前のお詫びってことで~」
『彩葉、時には諦めも肝心なんだよ?』
・・・え?マジで?冗談抜きに私ゲテモノに付き合わされるの?
「・・・・・・せ、せめて珍味とかそういう系統でお願いします・・・」
「ま、その前にあと7、8着は欲しいよね~」
「どうせ冬服も去年と同じのしか持ってないでしょ?この際揃えよ」
『はいはい!冬物の品揃えがいいお店3階に見つけたよ!』
「ウソでしょ・・・」
私、今日生きて帰れるのかなぁ・・・。
「疲れた・・・というか意外と深海魚美味しかったの腹立つな・・・あれ、ヤチヨ何してるの?」
『今日彩葉と写真撮った服ツクヨミにも実装しようかなって、今企業さんに連絡送ってるの』
「へぇ〜・・・そ、そっか」
『似たデザインにするのも考えたけど〜、やっぱり?ちゃんとおんなじのにして彩葉と一緒に着たいっていうか〜?えへ』
「あ、ありがとう。私も嬉しいよ」
(凄く嬉しいけど、話が大規模過ぎて何も言えん・・・)