僕は創作によくある転生をした。
だが、それだけだった。
生まれ持ったチート能力もなければ、神様に出会ってスキルを授かってもいない。挙げ句の果て僕が転生した世界はある一点を除けばほとんど前世と変わらなかった。
無理矢理当てはめれば知識チートを持っていると言えるが、それを活かせるのは小学校まででそこから先はただの人として過ごさなければいけない。“夢ぐらい見させてくれよ”――そう愚痴ることも少なくなかった。……まあそれも前の話だが。
「おっと」
時計を確認すればもう出る時間だ。僕は身だしなみを整え目的の場所に向かう。
教室に着いた僕は注がれる視線を気にすることなく机に向かいマイクをとる。
『皆様はじめまして。本日の講習を担当するーーです。本日は“現代におけるゆっくりとの付き合い方”講演にご参加いただきありがとうございます。今回の講演ではゆっくりの歴史から時代が移るにつれて変化していく関係、近年の情勢の変化を元にゆっくりと付き合っていく上でのリスクやメリットを改めて確認していただければ幸いです』
今の僕はゆっくり学の教授なのだから。
“ゆっくり”
それはとあるなまものを指す言葉だ。
外見は人間の生首をデフォルメした見た目で、目と口と髪の毛が基本的に備わっている。鼻や耳といった器官は存在していないがなぜか匂いや音を認識できている。要は手と足がなくなった某ピンク玉と言えるかもしれない。可愛さは比べるのも烏滸がましいくらい違いはあるのだが……。
種としてはよく見かけるのがまりさ種とれいむ種だ。まりさ種は金髪におさげと黒いとんがり帽子がトレードマークで、れいむ種は黒髪と赤いリボンが目印だ。それ以外にもありす種やぱちゅりー種が挙げられるが今は置いておこう。
こいつらはどこにでもいる。山の中、川の上、海辺から街の公園に路地裏、家の軒下から中まで本当にどこにでもいる。それでいて人間の言葉を話すのも事態をややこしくする。
言葉が通じるならわかり合えるなんてのは幻想で現実はとても厳しい。IQが20違えば話は通じないと良く言うがゆっくりと話しているとそれを嫌でもわからされる。基本的にゆっくりの知能は幼稚園児並だ。ゆっくりしたいという本能に忠実で、それ以外には目を向けることはしない。タチが悪い存在だ。
これがこの世界での常識だ。
だが――僕には知識があった。その知識からこの世界はゆっくり虐待の世界だと判断した。
ゆっくり虐待――偉大なる原点から派生した二次創作……からさらに派生したコンテンツ。それもアングラな方で。虐待と銘打たれているようにR-18Gがまかり通る世界で、はっきり言えば転生先としては下の下。前世の知識なんてクソの役にも立たないし、生でみるゆっくりたちは最低最悪だった。
そんな世界に嫌気がさしていた僕は山に向かい……運命の出会いを果たした。
「ゆっくりというのは一説によれば紀元前から存在していると言われております。普段からあれらの生命力の高さを見てきた皆様ならさもありなんと納得をいただけるでしょう。我が国では近代まではゆっくりはある意味では貴重な存在としても見られてきました」
「あれらを構成する肉体――餡をより旨くして朝廷や幕府に献上することできる。それがそのまま権威として見られていました。また農民達の間でもゆっくりの存在は貴重な甘味食料として大変重宝されました。それは各地方のゆっくりの郷土料理でも伺えます」
「そうして近年。海外と交流することでゆっくりの知識もまた洗練されていきます。甘黄味噌はカスタードクリームへ、甘白味噌はホイップクリームなどと言ったように。ですが同時にゆっくりとの関係も変化していきました――」
やけくそになっていた僕は整備された山道から脇道に逸れ当てもなく彷徨っていた。そうして彷徨い開けた場所に出た僕は大きな影が目に入る。それは3メートルほどの大きさのまりさ種だった。――ドスまりさだ。ドス種は通常のまりさ種とは違い様々な能力を持っている。周囲のゆっくりをゆっくりさせる“ゆっくりオーラ”。ドスきのこを食べることで放てる“ドススパーク”が最たるものだ。
対処を誤れば大人でも大けがは免れないドスと遭遇した。はっきり言えば命の危機だ。しかし、その時僕は別のことが気になっていた。
「またゆっくりの存在は僕たち人間にもある変化を与えました。身体能力の向上の余地です。ゆっくりというのは打撃耐性が高く通常の殴打では駆除するのは一苦労です。そこで人間はゆっくりを狩れるように筋肉や骨が発達しました。こちらのスライドを御覧ください。こちらが古代の人間の骨格で、こちらが現代の人間の骨格です。一目でわかりますね?」
「このように発達する下地を持った人間は鍛えることでゆっくりを効率良く狩ることが出来るようになりました。加工所で働いている職員さんがガッシリしているのもこのような理由からです――」
ドスというのは大抵群れを率いている。しかし、目の前のドスは1人だった。目も傲慢の色はなくどこか疲れているようにも見えた。
僕を視認したドスは警戒することなくおさげで僕の後ろを指し示し
『こっから先は人間さんの住む世界じゃないんだぜ。はやく帰るんだぜ』
とだけ言って背を向け移動し始めた。
「しかし近年ゆっくり及び人間の両方で様々な問題が現れるようになりました」
「まずはゆっくりから話していきましょう。先ほども話したようにゆっくりという存在は昔から存在しており人間の食生活と密接に関係してました。しかし、海外との交流が活発になることで様々な知識を得ると共に人間の生活に変化をもたらします。産業革命による大量生産が最たる例です。今でもゆっくりを加工して食卓に甘味として並ぶことはあります……しかし、いくら機械で制御しようとしてもゆっくりはなまもの。どうしても品質にムラが出来てしまいます。そうすると必然的に家庭などに並ぶ餡は小豆由来の物になります」
「ゆっくりとの関係が変わった瞬間です。それまでのゆっくりは畑や山を荒らしたり、家に侵入する害獣でした……が人間に貴重な甘味を提供する益獣でもありました。ゆっくりもまたそれを理解していたようで過去の文献を確認しても現代のゆっくりほど自己愛に溢れていないのが読み取れます」
「ゆっくりの自尊心を当時の人間は知らず知らず満たしていたわけです。しかし、ゆっくりの益獣としての価値が暴落することでこの関係は崩壊します。人間はゆっくりのことを人の言葉を鳴き声とする害獣と見なし、ゆっくりも人間のことをゆっくりさせてくれないゲスと判定するようになっていきます――」
その背中を見た僕は思わず
『待って!!』
と呼びかけた。
彼女はその声に足を止めたが振り返ることはなく
『何のようなんだぜ?まりさはもう全部がどうでもいいんだぜ』
その声色には確かに知性の色があり、街にいる野良や動画で見たドスとは違うと確信させるに十分だった。
『呼び止めてごめん。だけど君の寂しそうな背中を見て思わず……。僕で良ければ話を聞くから、どうか待ってほしい』
我ながらベタベタなセリフだが、この機を逃せば僕の人生は一生灰色のままだと確信していた。
「本能に忠実なゆっくりは満たされない欲求を抱えて凶暴になっていきました。こちらのデータをご覧ください。数年前までのゆっくりによる畑などの農産物の被害や野良猫などの生物に人間、飼いゆっくりに対する傷害事件をまとめたグラフです。見てわかるように右肩上がりで上昇しています。これにはゆっくりが凶暴になったこと以外にも様々な要因が絡んでいますがそれを除いても増加傾向にあります」
「またその被害内容もまた凶悪さが増してきています。一例として成り代わりが挙げられます。飼いゆっくりを永遠にゆっくりさせお飾りを奪う行為です。近代以前はゆっくりが我欲でゆっくりを制裁するというのは最低最悪の行為だと本能で理解していて滅多に起きるものではありませんでした。こちらの文献“江戸餡紀行”にも“幕府のゆっくり牧場のゆっくりは皆とてもゆっくりしていた”と記載されております。当時の人の手で飼育されていたゆっくりでさえそのような凶行は起こっておりませんでした」
「しかし近年はゆっくりによる同族制裁は日常風景になりました。あれらの大義名分は“ゆっくりさせないものはせいっさい”です。……そう暴走した本能による欲求はかつてゆっくりがもっていた余裕を剥ぎ取っていたのです――」
振り返った彼女は僕の目を見つめる金色の瞳が僕を見通す。まるで僕の内面を見透かすように。
そうして見つめられること十数秒、彼女は大きく溜め息を吐いておさげで倒れた木を指さす。
『……そこに座るのぜ』
動き始めた彼女の後を僕は慌てて追う。
そうして並ぶ1人と1ゆ。人間とゆっくり。人間やゆっくりが見ればきっと変なものを見たと見て見ぬフリをするか馬鹿にするであろう光景。しかし、このときの僕は隣に座る彼女がゆっくりに思えなかった。
「こちらをご覧ください。これは地域ゆのきめぇ丸に取り付けられた小型カメラによる映像です。おくるみを着た一ゆでお使い途中の飼いゆっくりのれいむがまりさ種の番と子に襲われている映像です。父親まりさがおさげで手にしているアイスのプラスチックの棒で飼いれいむを突き刺してます。(――いつ見てもどやしーしーとぺにぺにを隆起させているのが最高にキモいな)。母親はれいむから奪ったおかざりを身につけて上機嫌です。子ゆは飼い主に持たされていたGPS付きの根付けで遊んでいます。……このなまもの達の目的は考えるまでもありませんね。母親が飼いゆっくりれいむに成りすまして父親と子を紹介して飼いゆっくりに家族まるごと成ろうとしてます。まあ、その浅慮のツケはすぐに来ますが」
「幸いにも飼いれいむは水飴コーティングを飼い主さんがしていたおかげで一命を取り留めました。なまもの家族はきめぇ丸にこの直後に半死半生にされてから通報を受けてやってきた地域ゆの管理人にオブジェにされて1ヶ月間公園のど真ん中に見せしめにされました。今回の事件は幸いにも未然に防げましたが全国的に見ればどこででもこのような悲劇は起きているのです」
「“お家でゆっくり……いやゆっくりだけでなく動物の赤ちゃんや人間の赤ん坊を育てるなら2階で”という言葉が罷り通るくらいにはゆっくりの凶暴性は極まってきています――」
『まりさはどう見えるのぜ?』
そう彼女は会話の口火を切ってきた。
改めて彼女を観察する。そうすれば彼女の特異な点はさらに出てくる。
体は清潔そのものだった。皮の肌色は土埃でよごれているなんてこともなくそんじょそこらの飼いゆっくりよりも綺麗かもしれない。
お飾りと髪を見る。おかざりである黒い三角帽子はうっとりするほど艶々とした黒色をしていてしわも一つもない。髪もまたさらさらでまるでモデルの髪のように整っていた。
そうして凝視していると彼女は体を身じろぎ顔を微かに赤らめ『見すぎだぜ』と抗議してくる。
その所作もまたまるで人間のようで彼女に対する興味が増していくのを感じていく。
「家ゆがゆルサンを炊くと零した家主を特攻隊を編制して窒息させようとしてきた事件もまた皆様の耳に新しいと思います。そうしてゆっくりの凶暴性の増加と共に人間にも影響を与えるようになってきました」
「先ほど話したように人間の身体能力はゆっくりの存在によって向上してきました。ならばゆっくりの凶暴性が増すことで人間はどうなると思いますか?――そう、人間もまた凶暴化するゆっくりに対する攻撃性が増加しゆっくりに対する虐待のハードルが下がってしまったのです。ここにいる皆様ならゆーチューブはご存じですよね?ゆっくりの動画を中心に取り扱うサイトです。でしたらこのサイトが数年前に行ったゆ虐一斉BANもご存じだと思います。投稿されていたゆっくりを虐待する動画および投稿者が全て削除された事態です」
「なぜこのような事態になったのか皆様も原因は一度は目にしたと思います。そう○○市小学生小動物虐待事件です。こちらの事件は詳細に説明することはしません。ただ一点……小学生の嗜虐心と好奇心がゆっくりだけで収まらなかったそれだけです。その事件の批判のやり玉に挙がったのがゆっくり虐待動画でした。当時のゆっくり虐待動画は年齢制限もなくスマートデバイスが身近になった小学生にとってすぐに手の届くものでした。公園の野生ゆを虐待してみた、ゆっくりショップの特売家族を虐待してみた、金バッチゆっくりを虐待してみた……当時のサイトではそんなタイトルが大量に並んでました。そして収益を確保するために内容がさらに過激になっていく傾向も見られてました」
「さすがにこれはまずいとその動きに歯止めをかけようと有識者が動き始めていた矢先に事件が起きてしまいました。そこにゆっくりショップで虐待道具に簡単に手が届いたのも状況を悪化させて一気に問題は全国的に広がってしまいます――」
『山育ちのゆっくりとは思えないくらい綺麗だと思う』
『……嬉しいのぜ。まりさがやってきたことは無駄じゃなかったのぜ』
『?』
『人間さんにとってゆっくりってなんだと思うのぜ?』
ゆっくりとは、ね。
……僕にとってゆっくりは絶望の象徴だ。転生という非現実な事態の当事者になったというのに前世との際がアレだけだという事実は受け入れがたく苦痛そのものだ。
もしこの状況に陥った原因がゆっくり虐待という分野を知ったということならば今すぐにでも前世の自分をぶん殴りたくなる。しかし、どう足掻いてもそれは不可能だ。だから僕は少しずつ腐っていくことしかできなかった。
そんな僕にゆっくりを問うか。
『…………哀れな存在』
「当時はゆっくりに対する対応は灰色でした。人間に害を為すのだから徹底的に駆除するべきだ。言葉が通じるのだから根気強く付き合っていくべきだ。このような駆除派と愛護派で議論を繰り広げられていました。世間の両派に対する認識は駆除派の主張は過激すぎるし、愛護派は楽観的すぎるでした。両派の主張は相容れることなく議論は平行線のままズルズルと時間だけは流れていきました。そこに件の事件が起きたことで議論は収拾がつかなくなり駆除派と愛護派の対立はエスカレートしていきました」
「有名なのがゆっくりんピースによる野生種と野良種の品種改良および加工所の一斉駆除の妨害です。彼らがやった品種改良によりこれまで見られなかった派生種が生まれてしまいました。生まれ落ちた派生種はゆっくりんピースの妨害によって駆除を免れゆっくり原種及び人間に積極的の両方に様々な対応を強制させることになります。排除するにも庇護するにもこれまでのやり方では通らなくなりました。」
「例としてまずでいぶが挙げられます。れいむ種の派生であるでいぶは生命力を強化されたことによる自尊心の肥大が顕著です。なまじ野生で生きるのに一番重要な生命力が溢れているので野良や野生には“わいるど”に見えてしまいます。そうして番を手に入れたでいぶは番を誘っておちびを作らせます。そうして生まれたおちびはすぐに選別されます。自分と同じれいむ種は保護してそれ以外は見えないところで間引くか生まれてからあまあまとして食べるか奴隷候補として生かします。そうしておちびという鎹を手に入れたでいぶはそのまま番を酷使します。狩りの成果は自分とおちびで独占して番は何も食べられない。反抗しようとすれば強化された生命力がそのまま凶暴性に転化され徹底的に痛めつけられ心を無理矢理折ります。逃げようとしても鎹であるおちびを番はゆっくりの本能で大切に想っているので逃げられなくなり……番は最終的に思考を止めでいぶの完全な奴隷になります。さらに最悪なのは生まれたおちびはでいぶの餡統を受け継いでいるためエゴが強いまま生まれてきます。俗に言う末っ子アイドルやわさ種です。そこに番の餡統はなく受け継いだ強力な生命力を持ってどんどんゆっくりの世界を侵食していきました――」
『ゆっくりというあやふやな目的を強制的に求めさせられるように創造主に造られた存在。そうあれかしと造られてただただ消えていく存在。生まれた時からそんな原罪を持たされて最後まで答えを得られずに苦痛と苦悩のまま消費されていく……かわいそうな存在』
そう言って目を閉じる。
これは本心からの言葉だ。この世界がゆっくり虐待の世界ならゆっくりは創造主に弄ばれる為だけに存在しているのだ。彼らが見せる善性も悪性も作者が設定したただの虐待のスパイスだ。それまでの幸せな生活も苦しい生活も全て創造主が作り出した舞台装置でゆっくり達は唯々踊らされるだけ。
その事実に僕は目を反らし生きてきた。僕にそんな世界を変えることなんて出来ないと諦めていた。
『まりさもそう思うのぜ……』
上から声が落ちる。顔を上げれば彼女は透明な砂糖水の涙を流していた。
「さてこのようなことがありゆっくりに対する法律などが整備されることとなりましたが、これまで存在していたゆっくりに対する認識はすぐには変えられません。これからいくつかそんなゆっくりを軽視することで発生したトラブルをいくつか紹介します」
「まずこちらの動画をご覧ください。……駅で老婦人が転倒してますね。老婦人は骨折し、親族は駅に抗議しました。こちらは転んだ場面をズームした画像です。はい、ゆっくりを踏んだことで足を滑り転倒したのです。駅という公共施設にゆっくりを放置しているのは職務怠慢だと訴えたのです。駅側としては毎朝忌避剤を駅周辺に配置しゆっくりが入り込みそうな隙間を潰し定期チェックしているので入り込むなんてありえないと否定しました。そして最終的には駅で野良ゆっくりを捨てた男性が駅と親族の両者に訴えられる結果になりました」
「次にこちらのケースを紹介します。ある男性が銀バッチゆっくり1ゆを飼いました。ですが、男性はゆっくりの世話は必要最低限しかしませんでした。しかもそれも全て全自動の機械に任せきりでした。コミュニケーションなんてもっての外。その結果飼いゆっくりの定期診断で銀バッチだったゆっくりは銅バッチに異例の一時降格されてしまいました。その結果を受けた男性はそのゆっくりをその次の日に捨てました。そしてその足で別のショップに行き金バッチを買いました。しかし、男性は捨てたゆっくりのバッチを外さなかったのです。その結果男性は後日加工所に保護されたゆっくりのバッチの登録情報から警察に報告が行きゆっくり遺棄罪で罰金となりました。大抵の場合バッチを剥ぎ取ってから飼い主が捨てているのでこの罪が適応されるのは大変珍しいケースです」
「そして、二つのケースに共通しているのはこの後二人の男性は紆余曲折を経て社会的地位を失うこととなりました。ゆっくりを軽視した結果ゆっくりに破滅させられたのです――」
『まりさは生まれた時からドスだったのぜ。ドスに生まれたからには他のゆっくりをゆっくりさせなければいけない……まりさはそれを考えた瞬間に疑問に思ったのぜ。なんで他ゆんをゆっくりさせないといけないんだぜ?そもそもゆっくりってなんなのぜ?安定した生活?おちび?あまあまの山?それでなんでゆっくりできるって言い切れるのぜ?全部用意したってゆっくりはもっと求めるに決まっているのぜ。そんな徒労になるのがわかりきっていることをなんでしなければならないのぜ?』
『そう言われればそうだね』
『まりさはそう思っているとゆっくりそのものが哀れに見えて、それに全てが馬鹿らしくなったのぜ。そんなあやふやのゆっくりなんてものにゆん生を捧げたくないまりさは同じ考えを持つゆっくりと出会えるかもしれないと思って旅をしていたのぜ。……けどそんなゆっくりはいなかったのぜ』
まあそうだろうなというのが真っ先に思い浮かんだ感想だった。
隣にいる彼女が考えている思想はゆっくりの世界では異端なのだ。もしかしたら他にもいたかもしれないが、大体は群れから追放か群れに制裁されているだろう。彼女がこうして生きているのは偏にドスとして生まれたからに他ならない。
『他のゆっくりに悪く見られないように毎日水浴びして、おかざりも手入れをしたのぜ。体の周りに服代わりのオーラを纏ったりもしたのぜ。そうして身だしなみを整えて――会った他ゆんは皆、開口一番“ドスだ!!むれにいれて!!ゆっくりさせて!!”だったのぜ?』
彼女は呆れたようにおさげをくるくると回しながら笑う。
「さて現在、街を見ればそんな混乱は見受けられません。それは駆除派の空中分解。愛護派の自爆。過激な加工所の閉鎖。ゆっくりんピースの解散……それらを経て得られた安定です。しかし、未だにニュースなどに目を向ければゆっくり過剰虐待による補導並びに逮捕、野良ゆっくりによる被害などの事件が報じられております」
「私たちはこれから先の時代を生きるに当たりゆっくりとの付き合い方を改めて見直す必要があります。ですがこれは難しいことではありません。必要最低限の知識を知っておけばいいのです。まず駆除するのはあなた方の生活を脅かす個体のみにすること。道ばたでゲスな野良や野生に絡まれたらなるべく自分で駆除をせず地域ゆや加工所に連絡をして対処して貰ってください。もし駆除した場合はきちんと後始末はしてください。挑発や誘惑をしてゲスに堕とす行為は控えましょう」
「私の今の言葉はゆっくりの激動の時代を過ごした人に弱腰、あるいは手ぬるく感じるでしょう。ですがゆっくりを野良猫や野良犬に置き換えてください。常識を持った人ならその子らを虐待なんて行為はしないでしょう。ほとんどの人は通り過ぎていき、哀れだと思えば手順を踏んで引き取り、危険だと感じれば保健所に連絡をします。もし虐待すればそれこそあの事件のように全国区のニュースレベルまでにはならないでしょうが、地域の新聞に載るでしょう」
「それがゆっくりに置き換わるだけで全ての行為に免罪符を発行するのは危険な状態です。今回の講演で今一度皆さんの中のゆっくりの認識を再確認していただければ幸いです――」
『……悍ましく感じたのぜ』
彼女は笑みを消し思い詰めたように眉をひそめる。
『一目見るなりすがりついてくるゆっくりにも……そのゆっくりをゆっくりさせないとって一瞬でも思ったまりさにも……』
『そいつらは?』
『オーラを当てて動けなくして、そのまま逃げたのぜ』
『それを何度も?』
『――もしかしたらあのゆっくり達が特別本能に忠実だっただけで他は違うと思って……』
彼女は言葉を切る。
見つめる先には何もなく、ただ虚空を見つめていた。そして激情を解き放つ。
『まりさの同類も!!れいむも!!ありすも!!ぱちゅりーも!!みょんも!!ちぇんも!!さなえも!!れみりゃも!!ふらんも!!みんなみんな!!ゆっくりを求めていた!!ただただ求めていた!!それが馬鹿らしくて!!悍ましくて!!羨ましかった!!』
『なんでまりさはゆっくりに疑問を持ったのぜ!?そんなことをしなければ今頃あの輪の中に入って何も考えないで済んだ!!ただのドスとしてゆん生を終えたのに!!なんで!!なんで!!まりさは!!まりさはぁ!?』
「質疑応答を行います。――そちらのお兄さんどうぞ。私の虐待の認識ですか?……私の立場では明確な回答は出来ません。ですが私も人間です。ゲスゆっくりに絡まれれば嫌な気分になりますし、まりさ種の幼体に対して思うところがないと言えばウソになります。ですのでお兄さんの抱いた感情を否定することはありません。理性的で常識的な対応を取っていただけるなら私は何も言うことはありません」
「――そちらのお姉さんどうぞ。ゆっくりんピースについてですか?最初の志は素晴らしかったと思います。しかし、その愛はあまりにも無知で独善的でした。私は以前彼らの保護施設を見学したことがあります。しかしそこにいたのは甘えるだけしか出来ない成体まりさ種、知能が赤ゆ以下のぱちゅりー種……ゆっくりの尊厳が全て奪われた施設でした。ですが、彼らが生み出した技術は今の社会を支える一助になっているのも事実です。なので解散した以上彼らに対して語れるのは事実だけです。このような回答でよろしいでしょうか?――」
その慟哭は森に響いたが木霊として返ることなく溶けて虚に消えていく。
まるで彼女の考えは自然には受け入れられないものだと表しているように。
そんな孤独な彼女に対して僕は……
『――ゆっくりね』
『っ!!……』
『僕はゆっくりじゃないからゆっくり達が追い求めているゆっくりが何なのか彼らの行動から予想しただけで本当のところは何なのかわからない。ゆっくりである君の方が本質を理解しているかもしれない。だから……』
そう言いながら彼女の目を見る。
涙に濡れながらも金色の瞳は美しく輝いている。それはまだ彼女が諦めていない証拠だ。
『僕も一緒に君と歩んでいきたい。ゆっくりから外れた君と人から外れている僕。お似合いのコンビじゃないかな?』
そう言って彼女の方に向き直り手を差し出した。それを見た彼女は僕の顔を見て、そして……
講演は終わり主催者らに挨拶を返してから帰路につく。研究室兼自宅に戻る道を運転しながら今日の講演を振り返る。
(反応はほどほど。まあ、大分マシになった方か)
こうして講演するようにしているのは偏に自分のためだ。
(何度でも訴えるがこの世界はクソだ)
法が整備されず、事件が起きる前までは本当にヒドかった。
街を歩けばゲスゆっくりに絡まれるし、モヒカン男女がゆ虐道具を惜しみなく使ってそいつらを虐待している。地面にはゆっくりの餡子が撒き散らされ、それをあまあまとしてハイエナのようにゆっくりが貪っていく。モヒカンが跋扈しているからこれもう実質、核の炎が降り注がなかった北斗の拳だろ。
(あのままなら人間に品性を求めるのは不可能だった)
いい年した大人が熱心にゆっくりを虐待している場面なんて創作じゃなければホラーまっしぐら、子どもの教育に悪すぎる。その子どもだってサッカーはまだマシな方、よくそこまで残酷なことを躊躇なくできるなとドン引きする虐待をしているんだ。僕が世界に絶望してもしょうがないだろ?
(まあ、彼女に出会ったおかげで全てが廻り始めたからいいけど)
そう考えながら車を敷地に止める。
玄関で鍵を取り出そうとして――――カチャリ。
目の前で扉が開く。そうして開いた扉の先には……
「おかえり」
「ただいま」
女性が二本の足で地面を踏みしめながら立っていた。
あの時から変わらない美しい金色の瞳。さらに美しさに磨きがかかった黄金の髪。身長は僕より少し低い――かつてドスだった彼女が今は胴付きとしてそこにいた。
彼女は僕の手を取った。
しかし、その時僕はある問題に行き当たる。どうやって彼女を連れていくか全く考えていなかったのだ。通常種なら住んでいるマンションは飼育可だから気にせず連れて行けたが、さすがにドスは……
さすがにああやって格好つけた手前切り出せなかった……が目の前の彼女が突然大きく震えたことで思考は打ち切られる。
『ど、どうしたの!?』
『あの――』
『あの?』
『あの言葉を唱えよ』
彼女から出たとは信じられない揺らぎのない機械的な声。その声で刺激される前世の記憶。――派生元の合成音声が辺りに響く。
気付けば周りの風景は闇に塗りつぶされていた。
異常な現象に僕は恐怖を感じる、しかし目の前の存在は声を紡ぎ続ける。
『あの言葉……お前だけが知っている真言を唱えよ』
『我らの大本。偉大なる祖。真実の姿を現す名前を唱えよ』
大本?祖?真実の姿?なにを……いやまさか――
『―通――――い』
ああそうか。そうなのか。なら。
『霧雨???』
そう唱えると共に彼女の全身が発光し風を巻き起こす。
あまりの眩しさと風圧に握手してない手で目を覆う。そうしてただ耐えることしかできないまま数十秒。突然風は止んだ。ゆっくりと覆っていた腕を降ろしながら――違和感。
(感触が違う?)
先ほどまで握っていたサラサラとしたおさげの感触から、スベスベとした手の感触が……
そして僕は開けた視界に入ってきた光景に目を見開く。
キラキラと黄金色の粒子が飛び散る幻想的な風景に佇む影。先ほどまでいたドスの彼女はどこにもいなくなり、代わりに僕よりも少しだけ身長が低い女性がそこにいた。
『え?』
可愛らしい素っ頓狂な声が辺りに響く。その声色は先ほどの合成音声ではなく、まりさ種共通の声色ではなかった。よく響く声は訓練した声優のようだ。
自分の体を何度も確認しているその様子からどうやら彼女には先ほどの記憶はなく、握手したら胴付きになっていた認識のようだった。
『に、人間さん?これって?』
『……僕もわからない』
先ほどの現象が何だったのかわからない。しかし、このことを彼女に伝えても混乱を助長するだけだと判断した僕は彼女の疑問をスルーする。それになんとなくだがこのことを伝えたとしても彼女は記憶できないような気がした。
『まあ、いいんじゃないかな?実は僕の今住んでいる家って小さいから元々の君を招こうとしたら少々窮屈な思いをさせるかもしれないって不安になってたし』
『えっ?あんなカッコよく誘っておいて?』
『こうやって大切な知己に巡り会えたんだから気にしない気にしない』
『釈然としないのぜ……』
そんな彼女を宥めて僕たちは一緒に街に戻った。
それからは慌ただしく時間が流れていく。所属していた大学の専攻をゆっくり学に変更したり、彼女と一緒に同じ考えを持つゆっくりを探したり……そんな紆余曲折を経て僕たちは今に至っている。
「どう?処置は済んだ?」
居間に戻ってきた僕は彼女に問いかける。
彼女は笑みを浮かべながらサムズアップする。
「バッチシ!!」
彼女に任せていたのは副業の一つ――販売用飼いゆっくりの調整だった。
処置やら調整やら妖しげな単語が出てきているが後ろ暗いことはやっていない。ただ彼女の力を使ってゆっくりを飼いゆっくりに最適な存在にしているだけだ。
さてここでクエスチョン。飼いゆっくりに必要な要素ってなんだと思う。そう、性格だ。飼い主を奴隷呼ばわりしないし、出された食べ物は感謝して綺麗に静かに食べる、うんうんとしーしーは指定された場所でする。野良とげっとわいるどしないし、おちびを欲しがらない……そんな性格のゆっくりを彼女の力を使えば作り出せる。
僕は研究室兼飼育室に入る。
そしてすぐに巨大な飼育ケースが目に入る。飼育ケースの中ではピンポン球サイズの赤ゆからバスケットボールサイズの成ゆといった様々な種類のゆっくりがいた。寝ているゆっくり、設置した遊具や玩具で遊んでいるゆっくり、うるさく感じない声量で綺麗な音色で歌っているゆっくり……皆まったりとそのゆん生をまったりと噛みしめている。体もおかざりもピカピカでうんうんやしーしーで辺りは汚していない。どこに出しても恥ずかしくないゆっくり達がそこにいた。
そして僕の姿を見たゆっくり達ははち切れんばかりの笑顔で挨拶してくる。
「「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」」
「ゆっくりしていってね」
僕も笑顔でその返事を返す。
「ちゃんと知能も銀バッチぐらいまで持っているのぜ」
「そこは君の力をよく知っているから疑っていないよ」
そんな全国のブリーダーが血の涙を浮かべながら羨む光景を作り出した彼女にも笑顔で返す。
ここで種明かしをしよう。
この光景を作り出した彼女の力とはなにか?――それはこの世界で発見されればきっとY粒子なんて呼ばれるものであり、僕はその力を――魔力と定義した。偉大なる原点のソレとは全く違う別種の力だが、胴付きになった彼女が扱うならばそれは魔力に他ならない。
生まれながらのドスであり、そして特殊な経緯で胴付きになった彼女は魔力を用いてまさに魔法のような事象を引き起こす。あのゆっくり達がその例だ。
あの子らは元々他のブリーダーから引き取った売り物にはならない個体だった。優秀な餡統を受け継ぎながらも飼いゆっくりにはとてもじゃないがなれない存在。捕食種のエサか廃棄するしかない個体を僕は相場よりも安いがそれでも廃棄品に対してつける値段としては破格の値段で引き取ったのだ。
そしてその中身すなわち魂を彼女の力で入れ替える。理不尽な目に……そう例えばゆっくり虐待作品のような目に遭った何の罪もない善良ゆっくり達の魂と入れ替えるのだ。元々優秀な餡子を持っていたのだから中身がまともになればそれはもう鬼に金棒。これまで送った個体はその後ほとんどが金バッチ以上になっている。
……犠牲になるゲスに対して思うことがないと言えばウソになる。しかしゆっくりは一度でも堕落してしまえば這い上がることは宝くじの一等に当たるくらいありえない。ただただその恵まれたポテンシャルを腐らせたままゆん生を無駄に終えるくらいなら理不尽にゆん生を終えた善ゆの礎になって欲しいと僕は傲慢にそう思う。
とはいえ……
「またね~」
ゆっくりらに手を振りながら別室に足を向ける。そこにも飼育ケースはあった。しかし先ほどの暖かな空気はなくどこか張り詰めた空気に満ちている。
そこには緊張した表情のゆっくり達がいた。こちらのゆっくりは飼育するブリーダーとの相性が悪かったり、元足りないゆだったり、ゲスの方向性が違ったりした者達だ。ほんの少しそこに例外は混じるが。
こちらのゆっくりは飼いゆには向かないがそれはそれとして別の使命を与える。
「そう緊張しないでよ」
それでもゆっくりらの緊張は解けない。まあ当然か。少し前まで救いようのないゲスゆがなぜかまっとうな善ゆに変わっているのだからゆっくりらからすれば自分もああなってしまうのか恐怖するのも仕方がない。
「君たちには仕事を与えたいんだ」
「……それはなんなのぜ」
まりさ種の一ゆが代表するかのように聞き返す。
さすが優秀な餡統を持つ個体らだけあって会話は成り立つ。僕は笑みを崩さないまま彼らに告げる。
「地域ゆだったり野良や野生の群れに潜入したりしてもらおうと思ってね」
そう告げればゆっくり達は色めきだつ。安堵・困惑・怒り、様々な表情を浮かべながら何かを話そうとする。しかし、それらを制するように言葉を続ける。
「本来君たちは廃棄される運命だったんだよね?」
「「「「っ!!」」」」
そう告げれば出かかっていた抗議の声は押しとどめられる。
元々なくなるはずだったいのちのバトンが繋げられるのだからそれ以上を求めるのは強欲だろう。
行うべき使命――地域ゆは語るまでもない。野生や野良に潜入するものはゲスの粛正やゆっくりんピースの負の遺産を処分および彼女の同類を探すのが役目だ。
ちゃんと水飴コーティングや防水加工は施すし、後者の役目を任せるゆっくりはさらに手厚く補助をする。……首輪をかけることはするが。
僕は指を鳴らす。
ゆっくり達が一斉に震え叫ぶ。
「「「「ゆ゛ゆ゛っ!!??」」」」
ゆっくりらの体に一瞬だったが途轍もない痛みが走ったのだ。これは彼らの中枢餡に彼女の魔力が作用したことで生じるものだ。これを僕らは首輪と呼んでいる。もし使命を放棄しようとすればこの痛みが永遠にゆっくり達を蝕む。
その旨を説明すれば先ほどまで持っていた微かな反抗心は砕けたようで皆従順に使命を受け入れた。
……実は販売用の子らにも似たような処置はしている。先ほどの激痛とは違いあの子らには前世のゆっくり出来ない最期の記憶がリフレインするものを施している。そうすることで一時の気の迷いを打ち消すのだ。
ゆっくりらに目礼をしてから部屋を出る。
彼女が用意してくれた夕食をいただき、食後の一服をしていると……
「それにしても大分マシになったのぜ」
「ん?」
「街を歩いていてもゲスゆに絡まれるのが一回だった」
「大分改善したなそれ」
笑みを浮かべ同意する。
昔は最低5回は絡まれたっけ。
「そいつはどうしたんだ?」
「“しんぐるまざー”のゲスれいむだったから駆除した」
「……贔屓していた?」
「街中でそんなことしているヤツだよ」
苦笑いと共に思考を巡らす。
その個体の状況がありありと思い浮かぶ。れいむ種は少し頬がこけているくらいで済んでいるが、まりさ種はきっとガリガリだっただろう。
「子ゆはどうしたの?」
「まりさ種は全ゆ保護して、れいむ種は1ゆだけ」
「へぇ珍しいれいむ種って大体は親に引っ張られてゲスになっているのが普通なのに」
「こっそりまりさ種のみんなに自分の分の食料を分けていたから皆なんとか生き残っていたみたい。まあ親はそのことを『れいむっていくじのてんっさいでごめんねっ』って誇っていたけど」
「おお、あわれあわれ」
しかし、彼女が会ったれいむみたいにれいむ種の子ゆ贔屓は今に始まったことじゃない。あの手この手を駆使して人間では思いつかないゲスな手段で贔屓していく。彼女を連れてフィールドワークをしたときは驚いたものだ。植生のれいむ種が茎の真ん中を縛ることで根元のれいむ種の実ゆに栄養を集中させていたのだ。ゆっくりは存在することが罪だと言う人もいるがさすがにコレは……と思ったのでゆっくりフードと交換で先端のまりさ種を保護した。彼女がいれば生命維持は簡単だし、それにもうすぐ生まれる寸前の状況だったのも幸運だった。
「面白い知見も得られたし」
「?」
「ああ、いや。贔屓で思い出したんだ。あの時保護したまりさ種のことは憶えている」
「あの子か」
「そうそう。ああすることで逆に生存に適した個体になるんだから笑えるよね」
赤ゆっくりは親の餡子で育つ。その際に送られる餡子は親ゆのゆっくりできるしあわせな記憶が詰まったもので、そんな餡子で育つのだから生まれたての赤ゆの自尊心はとても大きい。そこから現実を知ってまともになるか、ゲスになるかは本ゆん次第だ。
では茎を縛られた個体はどうなるだろうか?栄養状態は最悪でギリギリ足りゆにならない量しかもらえていなかった。さらに送られる餡もゆっくりできない記憶が詰まったものだった。これはゆっくりが思い込みのなまものだからこそできる芸当だ。
ここで一つ……ゆっくりできないとはなんだろうか?それは嫌な記憶すなわち失敗した経験や悲しかった記憶などが挙げられる。――話は変わるが反省するという言葉がある。過去を顧みることでそれが正しいのか考える行為だ。ならばゆっくりできない餡子で育ったまりさはどうなるだろうか?
その結果が本能で生きるゆっくりらしからぬ強固な理性を持ったゆっくりの生誕だ。
まず生まれ落ちた瞬間から違った。普通の赤ゆは“ゆっくりしていってね”という言葉を舌足らずに親に告げるのだが、あの子は周囲を見渡し自分の状況を把握してからお辞儀をした。
「にんげんしゃんはじゅめましゅて、まりちゃでしゅ。よろしゅくおねぎゃいしましゅ」
舌足らずだが静かではっきりした声が響く。その声に僕と彼女は硬直した。まさかまりさ種の赤ゆがまるでプラチナバッチ持ちのような理性ある声色をしていることに動揺したからだ。
それでも彼女という先例があった僕は素早く再起動をして改めて聞き取り調査を行う。
それで改めてまりちゃさんの特異性が浮き彫りになった。まず知識だがそこら辺のもりけんとは比べものにならないほど野生の知識が博識だった。さらに飼いゆの知識にも詳しかった。これはどうやら母ゆと父ゆの影響だ。母ゆは元銀バッチの捨てゆで、父ゆは群れの長かつ一番の狩りの達ゆんだった。母親は元バッチ持ちだからか群れのルールなどはすぐ覚えることはできたが内心ではめんどくさく思っていたようでゆっくりできないものとして記憶していた。飼いゆ時代の勉強の知識も同様だ。ゆっくりできない記憶としてそれらの知識が詰まった餡を流し込まれ反芻したまりちゃは生まれながらにしてゆっくりの酸いも辛いも噛み分けた存在として爆誕した。
「そういえばあの子は今どうしているかな?」
「今も地域ゆの副リーダーとして辣腕を振るっているって」
まりちゃさんをどうするか考える時に真っ先に飼いゆの選択肢は外した。飼いゆになればプラチナも夢じゃないが、この才能を飼いゆに終わらせるのはもったいなかった。そこで僕はとある街の地域ゆのテストケースの相談を思い出した。そこではほぼ完全にゆっくり主体で街の草刈りやゴミ回収の景観維持に野良や野生ゆの被害抑制などを行いたいとのことで意見を求められていた。
僕としてはさすがにほぼ完全にゆっくり主体での地域ゆは善良で理性あるドスと優秀な補佐ゆを連れてこなければ不可能と回答しようとしていたが……。そこでまりちゃさんだ。箔付けのための金バッチを取らせて子ゆになればすぐにでも優秀なブレーンとして動ける。ドスは彼女の力を使えばすぐに確保できる。
そんなこんなでゆっくり主体の地域ゆは始まり。今も順調に稼働しているわけだ。
「それならよかった」
そう言って安堵のため息を漏らす。
『――ゆっくりんピースの――』
「ん?」
しばらく雑談をしているとテレビからあの団体の名前が出てきたので意識をそちらに向ける。
『未だに決着が――』
「ああ、訴訟の話か」
そう言って彼女の顔を見ればうんざりした顔をしていた。その顔に僕は苦笑で返す。元ドスとしてはゆっくりの世界を掻き回した団体にいい印象はないのは当然だ。
「早く完全に消滅して欲しいのぜ」
「ヒドい言い草だね。まあそう言われても仕方ないけど」
一時期の彼らは凄まじい勢いだった。ゆっくりを愛護するという耳障りの良い主張で政界にも進出していた。そうして後ろ盾を得た彼らは思うがままにゆっくりを“アイゴ”した。その結果が全周囲へのヘイト拡散は笑い話にもならないが。
「しかし、まあ消える時はあっさりと消えるんだね」
そんな彼らの蜜月の時は長くは続かなかった。
派生種による環境破壊。加工所に対するデモ。“アイゴ”の実態の拡散……それらによって少しずつ彼らの評判は下がっていった。
「本っ当に胸くそ悪いのぜっ!!」
感情が高ぶって口調が戻っている彼女を見ながら僕は脳裏にある“アイゴ”が思い浮かぶ。
彼女がアレを見た時、心の底からキレて○○○○スパークを使いかけた。それほどあの“アイゴ”はヒドかった。
ソレの発端は団体がゆーチューブにあげたとある動画だった。団体の幹部が普段どんな風にゆっくりを世話をしているのかを広めて団体に対する親近感を高めようとしたのだろう。しかしそこにあったのは鬼威惨でも閉口する悍ましいブツだった。最初は普通のお家訪問のように進んでいったのだが、ゆっくりの世話をする部屋を映した瞬間から全てが反転した。
幹部だけあっていい家に住んでいる。広くて日当たりもいい、部屋も綺麗に片付けられていて理想的な家だった。――壁に夥しいおかざりがなければ。そのおかざりは歴代の子の形見だというが数が異常だった。ゆっくりというのは寿命が個体差で激しいが飼いゆなら平均5年。長い子なら10年以上生きる子もいる。ならば壁のこれは何だ?なぜ?疑問が頭の中で巡るが……答えはすぐに出た。
『うちの子になった子には最高の幸せをあげたいんですよ』
『しっ、しあわせっ~』
ピカピカの金バッチが目立つおかざりをつけたゆっくり達が与えられたごはんを食べている。しかし、その瞳は光がなく声もどこか虚ろだった。
――おびただしいおかざりの理由はごはんだった。幹部が与えてたのは市販の高級ゆっくりフードや手作りのあまあまじゃなかった。ゆっくりんピースが開発した新型のフードだった。研究に研究を重ねて作られたそれはゆっくりの味覚にクリティカルヒットする垂涎の甘さを誇るものだった。――――それ以外受け付けなくなるくらいには。それを食べたが最後舌はバカになり終わりを待つだけの存在に成り下がる。本能と学んだ知恵で自分の末路が理解できてしまった金バッチ達はあのように全てを諦めた態度をとっていた。
そして一番恐ろしいのは飼い主がその行為が全てゆっくりのためになっていると心の底から思っていることだ。綺麗すぎる瞳を瞬かせながらその動画はこう締めくくられた。
『実はまた金バッチの子を受け入れるんですよ。一生懸命努力した子には最高のあまあまでねぎらってあげるのが礼儀ですよね』
その動画はすぐに炎上した。
全うに愛でている人が怒りに震え、虐待している人はあまりの悍ましさに体調を崩したと報告し、ゆっくりんピースから脱退する人も現れた。さらに炎上により普段ゆっくりに無関心な人達にも浸透した結果、件の動画は検索してはいけない動画にすぐに認定された。
そうしてゆっくりんピースは次第にヤバい団体だと認識されていき、とある事件が致命打となって消滅の道を辿っていった。
「そういえば、野生の方でなにか特徴的な事件はあった?」
「え~っと……」
彼女から聞かされたのはありふれたゲス行為の数々。
自ゆんの子どもを快楽目的で潰す母ゆ、自ゆん似の子が欲しいために何度もすっきりーしてガチャをする母ゆ(育児放棄もあるよ!!)、強盗団を結成して備蓄を奪い留守番をしていた子ゆを潰していく成ゆ、探検隊を結成して外患誘致(人間)をしてしまい群れを滅ぼした子ゆ、飼いゆのおくるみやすぃーを強奪して群れを滅ぼした子ゆ……まあいつものことだ。――末路もいつものことだ。
前者三例は群れにゲスとして制裁され、外患誘致した方は処す前に元凶として群れのど真ん中に設置されたし、強奪犯も同じようにされた。
「ああ、どちゅでこんなことがあったみたい」
どちゅはドスの子ゆの総称だ。生まれた時から体格は成ゆ並なのが特徴だ。
そんなどちゅが親であるドスをどちゅスパークで消滅させた例がいくつかあったみたいだった。ドスを尊敬しているどちゅがそんな凶行するのは珍しい。話を聞けばドスがスパルタを越えて虐待に片足を突っ込んだ教育を施していた結果や人間の元から逃げてきたら拒絶されて絶望した果ての凶行、群れの子ゆが全滅した責任をなすりつけられたことによる激怒……話し終わって彼女は溜め息を吐く。
「元ドスだった身としてなんとも言えないのぜ……」
「子どもの教育の正解なんて人間でさえわからないし、人間の元から逃げてきたどちゅを受け入れれば群れがどうなるかなんて容易に想像できる……自分の子をスケープゴートにした件は擁護できないけど」
遠い目をしていた彼女はぽつりと呟く。
「……人間もゆっくりもゲスなことをしでかすのが定期的になんで出てくるんだろう?」
世界の仕組み。
その言葉が喉から出かかったがなんとか呑み込む。少しずつマシな状況になってきているがそれでもドン引きする事象が発生することは多々ある。
重ね重ねだが創作の上ならゆっくり虐待はいくらでもやってもいい。しかし、それが現実になってしまえば話は変わる。せっかく転生したというのに気分が悪いまま過ごしたくないのだ。……現実に現れるならゆっくりよりもポ○モンの方が良かった。彼らの生態から考えれば平穏に暮らせなくなるがそれは必要経費として割り切れる。
「それでも昔に比べれば良くなってきたんだからポジティブに考えよう」
「そうかな……そうかも」
「地域ゆを正論を言ったから潰した学生や地域ゆの子ゆを親ゆの反応が見たいからって理由で虐待する社会人、子猫を人質にして飼いゆに成り代わろうとしたゆっくりや妊娠した状態で飼いゆを逆レして子ゆを人質にして飼いゆになろうとしたゆっくりがいたとしても昔に比べればマシになったよ」
「やっぱり世の中クソじゃない?」
「ははっ」
乾いた笑いが飛び出てくる。
こうやってゆっくりの研究をしているとゲス行為によく行き当たる。そのたびに構築したコネや彼女の力を借りて強引にハッピーエンドに修正してきた。一流の悲劇より三流のなんたらだ。その方が快眠できる。
『――○○山の山火事についての続報です』
「ん?」
『火元は山間部にあったゆっくりの巣周辺であると特定され――』
「あっ……(察し)」
「またあのドスにお願いするか」
「やっぱり世の中クソですね」
「山で火を扱うならもう少し考えて欲しい」
せめて消火剤を念のため準備してからやれよ。
大きく溜め息を吐きながら僕は明日以降のスケジュールを脳内で組み直す。
整合性もなにもありません。
思ったことを書き散らしただけです。