この章は、お手数ですが、『人間合格の章』(ダイナミックダイジェスト短編)を読んでからおすすめします。
この章は、『人間合格の章』でオリ主と椎名ひよりがもし、中学時代に出会わず、高度育成高等学校で出会っていたらというIfルートです。
オリ主が椎名ひよりに中学時代に出会わなかった結果、怪物になりかけていた可能性の話。(まだ怪物になってない)地獄を味わっています。取り敢えず、死にかけてます。
この章は基本シリアス。ヤンデレ風味。でも、最後には純愛に生かせる予定です。。
最後にこの章は何でも許せる人向けです。この章では、不可思議現象が起きます。後、大体椎名ひより視点で物語が進みます。
時系列的には一年生編の体育祭が始まるまでの数週間の出来事になります。この章は。
○本来なら綾小路清隆と接触して読書仲間になるのは体育祭終了後の更に先からだが、この世界では少しだけ、早く出会い、浅く深くない関係。(友達感覚ではなく、他クラスの読書家さんみたいな感じ。言っててよくわからん)
綾小路×椎名ファンごめんなさい。
地の文の変化はわざとです。あと書きで理由を記します。
【椎名ひより 視点】
午後の光が図書室の窓を通り抜け、床の上に柔らかな斜線を描き出していました。
うだるような残暑の季節。けれど、空調の効いたこの図書室は、少し気だるげで、それでいてひどく心地よい静寂に支配されています。
私は、いつもの指定席でページを捲る手を止めました。壁掛け時計の秒針の音が、普段よりも大きく聞こえます。私の神経は今、活字の羅列ではなく、隣の席に座る少年の気配に過敏なほど研ぎ澄まされていました。
天道真希くん。
今日の昼食時、食堂の厨房で手際よく料理を振る舞っていた、あの不思議な雰囲気を持った美しい少年。
昼休みに私から声をかけ、約束を取り付けた放課後の図書室。彼が本当に来てくれるのか、不安で胸が張り裂けそうでした。彼が静かに扉を開けてこの空間に現れたとき、私は安堵と歓喜で、思わず小さく息を呑んでしまったほどです。
「ごめんね、待たせてしまったかな」
彼はそう言って、私の対面ではなく、すぐ隣の席に腰を下ろしました。
柔らかな物腰、誰に対しても自然に敬意を払うその所作は、洗練されています。けれど、他人と関わることを徹底して避けてきたはずの彼が、自分から距離を詰める行為をしたことに、彼自身がどこか驚いているようにも見えました。
「いいえ。……天道くんが本当に来てくださるなんて。とても嬉しいです、読書好きのお仲間がいてくれて」
「……改めて、同じCクラスの人間として、そして読書仲間として、これからよろしく」
彼はそう言って、少しだけはにかむように微笑みました。
その笑顔は、夢の中で私に向けてくれたものと全く同じ、眩しくて大らかなもの。彼が手元の本を開く。その滑らかな横顔を見つめながら、私は自分の鼓動が早まるのを必死に抑え込んでいました。
(……本当は、読書仲間ではなく、あなたのたった一人の『読書友達』になりたいのですけれどね)
それは、私の中だけの甘い秘密です。
彼は静かに、夢世界で私が勧めたのと同じエラリー・クイーンの『ギリシャ棺の謎』のページを捲っています。彼が本の世界に入り込む集中力は凄まじく、まるでこの窓際の空間だけが、外界から切り離されているかのようでした。
しばらくすると、彼はふっと息を吐き、本を閉じました。
その瞬間、彼の端正な眉間に、ごく僅かな皺が寄っていることに私は気がつきました。何か、不快な痛みを堪えているような、そんな張り詰めた表情。
「……どうかしましたか?」
「ああ、ごめん。ちょっとだけ、頭が痛くてね」
彼はそう言って、自分のこめかみを軽く指先で押さえました。
私は少しだけ心配になりながらも、心の中で納得していました。
この学校は、何百人もの生徒が常に様々な思惑や競争心を渦巻かせています。彼のように他人の感情の機微に聡く、料理一つで人々の視線を集めてしまうような繊細な感性を持つ人間にとって、あの大勢の喧騒は、きっと精神的にひどく疲労するものなのでしょう。彼が抱える痛みは、この箱庭で生きる代償に過ぎないのだと、私は認識していました。
「無理をなさらないでくださいね。……ここは、とても静かですから」
「うん。君といると、不思議と落ち着くんだ」
彼はそう言って、私を見て優しく微笑みました。
その言葉の裏に、特別な意味などないことは分かっています。彼は社交辞令として、あるいはただの親愛の情として言っただけなのでしょう。けれど、その一言が、私の胸の奥で甘い音を立てて反響しました。
「落ち着く……ですか」
「ああ。君の周りには、なんていうか……余計な雑音がなくて、すごく空気が澄んでいる気がするんだ」
彼はそう言って、窓の外の青空を仰ぎました。
彼の漆黒の瞳は、何を見ているのでしょう。この空間の先にある、静寂という名の救いを求めているような、そんな澄んだ瞳でした。
痛みを抱える彼が、私の隣を『澄んでいる』と言ってくれた。それは私にとって、何よりの褒め言葉でした。
痛みが引いたのか、彼は再び私に向き直り、そして、互いの読書観について語り始めました。
彼は、私の言葉に静かに耳を傾けました。
「最近、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を読み返していたんです」
私は、手元にあった文庫本を撫でながら口を開きました。
「絶海に孤立した島で、十人の人間が童謡になぞらえて次々と姿を消していく。あの絶対的なクローズド・サークルと、逃げ場のない綿密な論理の構築力……。何度読んでも、その構造の美しさにはため息が出ます。ミステリーという虚構の檻として、これ以上なく完成された芸術品だと思います」
私が物語の骨組みとトリックの精緻さを語ると、真希くんは深く頷き、漆黒の瞳に静かな熱を灯しました。
「確かに、あの論理の檻は完璧だ。でも……俺が惹かれるのは、その檻を作った作者の、人間への眼差しなんだ」
「眼差し、ですか?」
「ああ。あの島に集められたのは、『法では裁けない罪』を犯した人間たちだよね。クリスティはただのパズルを作ったんじゃない。法という限界を超えた先にある、人間の『罪悪感』そのものを処刑台に上げたんだと思う。見えない殺人鬼に怯えているようで、彼らが本当に恐れていたのは、自分の心の奥底に隠蔽した罪が暴かれることだった」
真希くんの言葉が、空気を震わせます。
「童謡の通りに人が死んでいくあの不気味さは、そのまま彼らの良心の呵責が具現化したものだ。……『あなたは、自分自身の罪から本当に逃げ切れるのか?』って。あの完璧な檻の底から、クリスティ自身のそんな痛切な問いかけや、人間という生き物への祈りのようなものが聞こえてくる気がするんだよ」
「――――っ」
私は、小さく息を呑みました。
背筋を、ゾクッとするような甘い痺れが駆け上がっていきます。
私が解体したミステリーという『虚構の檻』。その無機質で冷たい論理の骨組みに、真希くんの言葉が、熱い血肉を注ぎ込んでいく。
彼を通すことで、ただの活字の羅列が、脈打つ命を持ち、作者の魂の叫びとなって私の内側に流れ込んでくるのです。
私の知性の最も深い部分、誰にも触れさせたことのない柔らかい場所を、彼の指先で直接、優しく撫で回されているかのような感覚。
それはもはや、単なる知的な会話などではなく――圧倒的な精神の交わりであり、ひどく官能的ですらある『共鳴』でした。
(ああ、本当に……あなたは、私の夢の中のあなたと同じなんですね)
私は、彼が語る言葉をすべて、一滴も零さずに掬い上げました。
彼が話し終わるのを待ち、私は自分の知見を伝えます。私の語る言葉に、彼は心底興味深そうに耳を傾けてくれます。
私の言葉が彼の中で消化され、新しい思考となって彼から返ってくる。その完璧な循環が、私の喉の奥を熱く、狂おしくさせました。
「ねえ、椎名さん。ひより、って呼んでもいいかな」
会話の途中で、彼は唐突にそう切り出しました。
「……どうしてですか?」
「なんとなくさ。読書仲間なら、下の名前で呼ぶ方が親しみやすいと思って。……俺のことも、真希って呼んでほしい」
彼は少し戸惑うように視線を泳がせながら、悪戯っぽく笑います。他人と関わることを徹底して避けてきたはずの彼が、自分からそんな提案をしたことに、彼自身が驚いているようにも見えました。
けれど、彼の細胞のすべてが、痛みを和らげてくれる私のそばにいることを本能的に求めているのでしょう。
「……ええ。真希くん」
私は、彼の名前を呼び返しました。
その響きが、空中で微かに震えるのを感じながら。
私たちはそのまま、夕暮れが図書室をセピア色に包み込むまで、静かに言葉を交わし続けました。
彼といる時間は、本当に心地よい。
彼が時折見せる頭痛の兆候は、私が彼に近づき、言葉を交わすことで、少しずつ和らいでいくのが分かりました。完全に消え去るわけではないようですが、それでも彼の強張った肩から、ふっと力が抜けるのです。
私が、彼を癒やしてあげられている。その事実が、私の心をひどく満たします。
「ねえ、真希くん。また、明日もここで会いましょう」
帰りのチャイムが鳴った時。そう告げた私の声は、自分でも驚くほど甘く、震えていました。
彼は少しだけ目を瞬かせた後、すぐに優しく微笑みました。
「ああ、もちろん。俺も、それが楽しみだよ」
「――ありがとうございます。……あの、最後に、差し支えなければ、真希くんの出身中学校を教えていただけませんか?」
私は、どうしても確かめておきたかったのです。あの夢の記憶の、答え合わせを。
「別にいいけど。南中学校だけど……」
「そうだったんですね……。私は、第一中学校の出身です。隣町の、生徒さん……だったんですね」
ほんの少しの距離。ほんの僅かな偶然があれば、私たちは出会えていたかもしれない距離。
「あはは、中学校は違ったけど。こうして同じ高校に入れて、俺は嬉しいよ。中学じゃ、読書仲間なんて一人もいなかったしさ」
「…………私、も、です。遅くなりましたが、改めてよろしくお願いします。また明日も、教室で会えるのを楽しみにしていますね」
その言葉を胸に抱いて、私は彼に見送られながら図書室を出ました。
寮へと続く薄暗い廊下を歩きながら、私は自分の胸の奥に芽生えた、この重く、けれど甘美な感情を噛み締めていました。
彼はまだ、私を特別に愛しているわけではありません。
けれど、いつか必ず、この手で彼を囲い込み、私だけのものにして差し上げます。
この世界では、中学校が違うという些細な理由で、出会うのがこんなにも遅くなってしまったけれど。空白の三年間に、彼がどれほどの孤独を味わったのかは分からないけれど。
これからは違います。
私だけが、彼の世界を完璧な静寂で満たせるのです。
私が、彼の繊細な心を理解し、この騒がしい学校の雑意から彼を救い出してあげる。
そう思うと、背筋がぞくりとするほど心地よい震えが走りました。
私は、明日という日が待ち遠しくてたまらない。
図書室という閉ざされた空間で、彼と待ち合わせる時間が、これからの私の人生をすべて支配していく予感がしました。
もう、誰にも渡さない。
どんな理不尽な試験があろうとも、他のクラスの誰が暗躍しようとも。真希くんだけは、私の隣から一歩も動かさせない。
そう心に深く刻み、私は寮へと続く道を歩き出します。
私の足取りはいつになく軽やかで、そして確信に満ちていました。
もう、迷いはありません。彼がいる。それだけで、私の世界は完璧なのです。
……去り際。
図書室の扉を閉める瞬間、彼が本を閉じて、私の消えた扉の向こうを愛おしそうに見つめているような気がしました。
気のせいかもしれません。けれど、その余韻だけで、私は今夜も眠れそうにありません。
私は一人、闇に溶けゆく校舎の中で、小さく、そしてひどく甘い微笑みを浮かべました。
これから始まる、私と彼の物語。
たとえ彼が、私の夢の中の記憶を知らなくても。この手で、現実のキャンバスに一から書き換えていけばいいだけのこと。
彼が、私という存在からもう二度と逃げられないように。
私のいる「図書室」が、彼にとって唯一の安息の地(檻)となるように。
そう考えると、胸の奥が激しく疼きます。
私は独り、夜の静寂の中に溶けていきます。
明日が来るのが、待ち遠しい。
心の底からそんな風に思ったのは、私の15年の人生で、初めてのことでした。
椎名ひよりの地の文の変化は、簡単に言えば、好意を寄せてる人に少しでも、良い人物像を抱いてもらいたい為。椎名ひよりにとっては、理想の文学少女を現実の真希に見せたかった。
結果、本人が無意識で心の中の語りまで変化させてしまってます。
(狂)愛って、すごいね。
ちなみに、読書談義の内容と中身を考えるのメッチャ大変だった。椎名ひよりの読書観って、これで合ってるか凄く悩んだ。
次回はとんでも展開の予定です。あらかじめ、作者自身、特に明確な理屈や設定など考えてないので。何でも許せる人向けのタグ付けた理由はその為です。