五感を捨てて世界を救う。~色彩も、味も、温もりも。全部キミの明日を綴る火種にした~   作:ねむ。

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( 'ヮ')<本日まで2話投稿です。


第五話(1)

「――いっ!レ――どこに――っ!」

 

 声が、聞こえる。

 

「――奥に――ないっ!」

 

 ざわざわとした、葉っぱの音の中に。

 たくさんの、人の声。

 

 それに向かって、大声を出そうとして。

 僕の隣で一緒に歩いてるハティが目に入って。

 ぐっと、口を閉じた。

 

 あの、たくさんの人の声は。

 みんな狩猟隊の人たちだ。

 

 たぶん、松明と一緒に、狩猟用の武器を持ってる。

 

 だって、ハティのおかげで広がった僕の世界に。

 松明の音と、少しだけ焦げたような匂い。

 

 それと、鉄と鉄が擦れあうチャキチャキとした音が、聞こえる。

 

 逃げようとは、思ってないけど。

 なんだか、僕たちの逃げ場をなくしていこうと、しているみたいで。

 お腹の奥が、すぅっと冷たくなる。

 

 僕のことを心配してくれているはずだけど。

 ハティを見たら、すぐに攻撃をしそうで。

 

 僕に、止められるのか。

 いや、止めるって、ハティを守るって、決めたんだ。

 

 僕と一緒に歩いてくれるって。

 僕を信じるって、ハティが言ってくれたんだから。

 

 必ず、それに応えたい。

 

「ハティ……もうすぐ、狩猟隊の人が僕たちに気が付くと思う」

 

 銀色の前に出て、彼の瞳を真っすぐ見る。

 

「たぶん、キミに武器を向けると思うんだ。……ほら、僕って今ケガとかしてるでしょ?」

 

 木の枝で見えなかった、蒼と白の月の光が。

 いつの間にか、僕たちを照らしていて。

 

「でも、ハティはなにもしないで。僕が絶対に、キミを傷つけさせないから」

 

 小さな唸りと共に、頷いてくれて。

 そのまま、振り返って。

 声に向かって歩いていく。

 

 僕の足音と、ハティが後ろをついてきてくれてる気配が重なって。

 

 目を閉じて、大きく息を吸った。

 

 草の匂いが、いっぱい広がって。

 

「くそ、レイドのやつどこに――」

 

 瞬間。

 

 草をかき分けてきた狩猟隊の人――ヴェインと、目が合った。

 

「ヴェインさんっ!?」

 

「レイドおまっ!」

 

 まさか、こんなに近くまで来ていたなんて、思ってなかった。

 ヴェインも、ひどく驚いているようで。

 草をかき分けるために使っていた槍を、僕に向けていた。

 

 でも、最初に会えたのがヴェインで、よかった。

 

「獣っ!?レイド待ってろ!今たすけ――」

 

「――待って!!!」

 

 ヴェインならきっと。

 僕の話を、聞いてくれる。

 

「なに言ってんだ!いいからこっちにっ!」

 

「お願いだからっ!!」

 

 ヴェインは、今にも槍を突きだそうとして。

 僕はそれと、ハティとの間で両手を広げる。

 

「……お前、自分がどういう状況かわかってんのか?」

 

「わかってるよっ!僕のことを心配してくれてるのも、わかってる!」

 

「怪我もしてるじゃねぇかっ!」

 

「ハティのせいじゃないっ!」

 

「はぁ……わかった。とりあえず、聞くだけ聞いてやる」

 

 必死に、考える。

 ここに来るまで、なんて言えばいいのか、ずっと悩んでいたけど。

 どうすれば、わかってもらえるんだろう。

 

 ヴェインは、槍を下げてはくれなかったけれど。

 月の光で照らされた目は、怒ったりはしていなくて。

 

 とにかく、なにか。

 

 なにか、話を。

 

「ぼ、僕が森で……襲われてる、ところを……助けてくれたんだ……!」

 

「……その後ろの、獣がか?」

 

「獣、じゃなくて。ハティっていう……名前なんだ」

 

「今はそんなことどうでもいい。おい――」

 

 ヴェインが、後ろを向いて。

 気が付かなかったけど、松明を片手に持った別の人が、そこにはいた。

 

「村長様たちんとこ戻って、見つけたって報告してくれ。本人はあとから連れていくってのも一緒にな」

 

「で、ですがヴェイン隊長っ!後ろの獣もいますし、おひとりではっ!」

 

「いいから行け。ついでに森で探してる連中も、予定通り呼び戻してくれ」

 

「ですが――っ!」

 

「はぁ……あの獣がやばいやつなら、今頃俺たちもレイドも生きてねえだろ。大人しくしてくれてんのも、見ればわかるだろ?わかったらとっとと行け」

 

 松明の明かりが、だんだん遠ざかっていく。

 何度か僕たちのほうを振り向いていたけど、ヴェインが手を振って。

 

 草と土を踏む足音が完全に遠ざかった頃に、ヴェインは大きくため息をついた。

 

「たくっ……お前なぁ」

 

 僕たちのほうに向けていた槍を、肩に担いで。

 

「俺が見つけたからまだいいものを、他のやつだったらどうするつもりだったんだよ」

 

「……同じことを、してたと思う」

 

「お前なぁ……」

 

 ヴェインは頭を掻いて。

 僕と目線を合わせてくれるように、膝に手をついた。

 

「まあいいさ。んで?本当のとこはどうなんだよ」

 

「……ハティが、襲われてた僕を……」

 

「あー、違う違う」

 

 目の前で、手を振って。

 

 今まで見たことないくらいの、冷たい目を僕に向けた。

 

「そんなウソはいいんだよ。正直に全部言ってみな」

 

 その言葉を聞いて。

 

 目を、見て。

 

 背中に、氷を直接押し付けられたみたいに。

 

 足元から、震えた。

 

「仮にだ」

 

 ヴェインが、指を一本立てて。

 

「そこの獣が、本当にお前を助けたとしてだ」

 

 僕と同じだけど、少し黒が混じった藍色の瞳が。

 光っているように、見える。

 

「じゃあなんでお前は、この森に、一人で来たんだ?」

 

 どうしよう。

 どうすれば、いいんだろう。

 

 考えても考えても、答えがわからなくて。

 

 ヴェインを見つめ返すことしか、できなくて。

 

「なぁレイド。この『迷いの森』は危ない場所だって、散々言ってきてるよな」

 

 どこまでも静かな、声。

 怒っているような、棘は持ってなくて。

 

 僕のことを、考えてくれてるっていうのが。

 伝わってくる、その声。

 

「そんなに怪我もして、服だってボロボロだ。エララさんが見たらなんて思うか。お前ならわかんだろ?」

 

 でもやっぱり。

 僕を真っすぐ見つめてる、目だけは。

 

 凍えるような冬の日よりも、鋭く感じて。

 

「なんで村の規則を破った。真面目なお前がなんでやったのか、俺にはわからん」

 

「それ……は……っ」

 

 村の規則。

 十五になってから初めて、『迷いの森』に入れるようになること。

 

 覚えてる。

 母さんからも、ヴェインからも、他の大人の人たちからも。

 

 何度も何度も、聞いたこと。

 

 僕だって、こんなことになるなんて、思ってなかった。

 でも、だけど。

 見捨てることなんて、僕には出来なくて。

 

 だって。

 

 だっ、て。

 

「……よばれ、たんだ」

 

「は?」

 

「呼ばれたんだよ……っ!ハティに……っ!」

 

「お前……まさかあの遠吠えか……?」

 

 頭と喉の奥が、熱くなって。

 自分でも、わけがわからないけど。

 

「たすけたかったのっ!」

 

「……」

 

 わからない。

 ポロポロと、熱いものが零れ落ちて。

 僕は、なにを言ってるんだろう。

 

 息を吸うたび、喉がひゅっと鳴って。

 まばたきをすれば、見えるものが歪む。

  

 ヴェインの顔も、滲んでいて。

 それでも、じっと見つめていると。

 

 ハティが、いつの間にか、僕に身を寄せてくれていて。

 

 その温かさが、僕に伝わってきた。

 

「……はぁ……お前のそういうとこ、エララさんに似たんだかねぇ」

 

 ヴェインが、頭を掻き毟って。

 

「わかったわかった、俺の負けだ。だからそんなに泣くな」

 

 硬い手が、僕の顔を拭ってくれる。

 ちょっと痛いけど、温かい手。

 

「まぁ、なんだ。少なくとも、俺の目から見たお前らは問題ないが、俺の一存で決めるわけにもいかねぇ」

 

 僕の頭を撫でながら、ヴェインはハティを見ていて。

 

「とりあえず、お前らを村長様んとこに連れてくのが先だわな。えーと……」

 

「……ハティ、だよ」

 

「そうそう、ハティな。お前も大人しくしてるしな」

 

 ハティを見る目は、鋭くて。

 いつ襲われても良いように、準備してるみたいだったけど。

 僕の頭を撫でてくれた手は、不器用で、優しかったから。

 

 嫌なことは、考えてないと、思う。

 

「……その、あれだ。ハティが、レイドを助けてくれたんだろ?……世話、かけたな。本当にありがとう」

 

 そう、優しい声で言って。

 ヴェインは、頭を下げた。

 

 じっと、見つめていたハティが、小さく鳴いた。

 

「こちらこそ、だって」

 

「……あん?こいつがそう言ったのか?」

 

「……うん」

 

 一瞬、ヴェインが固まって。

 

「はっはっはっ!そうかそうか!よくわからんが、まあいい!」

 

 大きく、笑って。

 今度は、僕の肩に手を置く。

 

「なにはともあれ、だ。無事でよかったよ、レイド」

 

「……うん、ごめんなさい」

 

「いいんだよ、もう。お前が無事ならそれでいいんだよ」

 

 風が、またざわざわと吹いて。

 

「おら、帰るぞ。エララさんも、ルルちゃんも、泣くほど心配してたんだ。しっかり、顔を見せてやらないとな」

 

「えっ、ルルも?」

 

「おう。レイドお兄ちゃんが走って森に行っちゃったって騒いでたんだ」

 

 胸の奥が、どくんと響いて。

 

 階段を走ってたときの、声が。

 

「……あれ、ルルだったんだ……」

 

「お前なぁ……気づいてなかったのかよ……」

 

「……うん……ごめんなさい……」

 

 ヴェインは、俺に謝んなよ、なんて。

 顎を触りながら言って。

 

「まぁ、それはいいさ。村長様も来てるから、すっげー怒られる覚悟だけしとけよ」

 

「うっ……ヴェインさん……」

 

「はっはっ!しっかり怒られろよ、レイドくん」

 

 バシバシと、僕の背中を叩いて。

 そのまま、草をかき分けて先に進んでくれる。

 

 僕は、ハティと目を合わせて。

 

 お互いに頷くと、それに続いた。

 

 グウィン様に怒られるのは、嫌だけど。

 

 ヴェインに、わかってもらえたのが、嬉しくて。

 

 少しだけ、足が軽い、気がする。




( 'ヮ')<ヴェインの兄貴……!
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