五感を捨てて世界を救う。~色彩も、味も、温もりも。全部キミの明日を綴る火種にした~   作:ねむ。

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( 'ヮ')<フライング投稿してしまっていたのは秘密。明日から一話投稿です。


第五話(2)

 ガサガサ、ガサガサと。

 葉っぱの音の中に、いくつもの話す声が聞こえる。

 

 ヴェインが先を行ってくれるから、森に来たときよりも歩きやすくて。

 「夜なのによく転ばないね」、って聞いてみたら。

 「慣れだ慣れ」、なんて。

 

 すごく、ヴェインらしかった。

 

 でも、松明のあかりと。

 

 人の、話し声が近づいてくると。

 

 足が、すくみそうになって。

 

 村の人たちは、敵じゃないはずなのに。

 ヴェインの鋭い目を思い出すたび。

 

 この先に、進みたくなくなる。

 

 ハティは、ピタッとくっついてくれていて。

 なにも言葉としては感じないけど。

 傍で、僕を支えてくれているのが、すごく嬉しい。

 

 森を抜けて、白い不変石の境界と。

 いくつもの橙色の光。

 

 さっきまで聞こえていた話し声は。

 水を打ったようになくなって。

 

 パチパチとした松明の音と。

 時々聞こえてくる布や鉄が擦れる音だけが残っている。

 

「……ほれ、行くぞレイド」

 

「っ!……うん」

 

 僕が動けなくなっていたのを見たヴェインが。

 背中を押してくれて。

 

 村の入口から、僕らを囲む壁のように居る人たちの真ん中。

 

 グウィン様が居る場所に、手を引かれて進む。

 

 周りを見る勇気が、なくて。

 ぎゅっと目を瞑りながら。

 

 心の中に広がる、ハティの見てるもの。

 それも、見たくなくて。

 

「そこで止まるがいい」

 

「っ」

 

 グウィン様の声がして。

 誰かが息を呑んだのも、聞こえた。

 

「ヴェイン・ヴェラ・コル。ご苦労だったな。よくぞ、我らが未来を連れ戻した」

 

「……当然のことをしたまで」

 

「ふむ。……ならば」

 

 かつん、と。

 土の地面があるはずなのに。

 硬い杖を突く音が、響いて。

 

「そこなる獣も、当然のことか?」

 

 ひゅっと。

 喉が、鳴って。

 

 思わず、前を見た。

 

 グウィン様の目。

 

 ヴェインとも。

 母さんのとも。

 

 全然、違う。

 

 生きてるって感じがしない。

 

 どこまでも空っぽな、その瞳。

 

「あ……っあ……っ……このこ、は……っ」

 

「レイド・ヴェラ・コル。我らがか弱き未来よ。可哀想に、身体が震えておる。よほど、恐ろしいことがあったのだな」

 

 ひゅぅ、ひゅぅ、と。

 

「――その震えを抑え、息を整えてからでも、遅くはない。今は、儂に譲るが良い」

 

 息が、うまく、出来なくて。

 

「して、ヴェイン・ヴェラ・コルよ。狩猟隊の長としての言を聞こう」

 

「……私の目からは、危険ではないと――」

 

 グルルゥ、と。

 少し前から、すごく低い唸り声と。

 

 僕を傷つけようとするなっていう、想いが、流れてきて。

 

 うまく動いてくれない目で、見ると。

 ハティが、僕より前に、出てて。

 

「はっはっはっはっ!危険と捉えなかったとっ!」

 

 今にも、グウィン様に飛びかかりそうに。

 

 低い姿勢を、していた。

 

 隣から、ヴェインのバカヤロウって言葉と。

 

 舌打ちの、音。

 

「――儂の目からは、どう見ても危険に見えるぞ?」

 

「は……てぃ……っ!」

 

 言うことを聞いてくれない手で、銀色の毛を握って。

 

 今は、ダメだ。

 

 グウィン様は、大きく笑ってたけど。

 

 松明のあかりと、月の光で見える、目は。

 

 全然、笑っても、いないんだ。

 

「……グウィン様、誤解があるようです」

 

「ほう、誤解と来たか。ふぅむ、まぁよい。ヴェインよ――」

 

 また、かつん、と。

 

 嫌な音が、鳴って。

 

「そなたの優秀な遣いから、危険な獣と聞いておってな」

 

「――なっ!?」

 

 ヴェインと、一緒にいた狩猟隊の、人。

 どこか固い顔を、していて。

 

「のう。勇敢なる狩人である、モリーナ・ヴェラ・コルよ」

 

「……わた、しは……っ」

 

「なに。先ほどのことを、そのまま言とすれば良いのだ。さあ、胸を張るが良い」

 

 聞こえてくる声も、震えていて。

 

「……っ、は、い……村長、様……っ!わ、わたし、と……ヴェイン、隊長は……っ!」

 

 橙色の、松明が揺れて。

 

 火の粉が、舞っていた。

 

「そこなる、けもの、にっ!襲われている……レイド、くんを……たすけ、ようと……っ!」

 

「うむうむ、もうよいぞ。よく勇気を振り絞って言を発してくれた。さすがは、勇猛なる狩猟隊の一員である」

 

 隣から、ミシッと音が、聞こえて。

 

「さて、我らが村の誇らしい狩猟隊の長よ。モリーナ・ヴェラ・コルの言に、異はあるかね?」

 

 心臓が、どくどくと、うるさい。

 

 見える景色が、どんどん滲んできて。

 

「……くっ!」

 

「そら、どうした。黙っていてもなにも始まらぬぞ」

 

 杖の音が、近づいてくる。

 

 グウィン様が、『迷いの森』の暗さよりも。

 

 どこまでも、昏くて。

 

 ヴェインよりも、背は高くない、はずなのに。

 

 木よりも、大きく見える。

 

「ふぅむ。沈黙は是とみなす他あるまいな」

 

「……くそっ!」

 

 ヴェインが、槍を地面に突き立てながら前に出て。

 

 僕を、背中で隠した。

 

「なにをしているのかね」

 

「……ご覧の、通りです……っ!」

 

「ふむ。そなたはモリーナ・ヴェラ・コルの言が、否と申すのだな?」

 

「そうでは、ありません……っ!この獣は、伝承の獣……であると、思いますっ!」

 

「ほう?」

 

 ざりっと、土を踏む音と。

 ひそひそと、声が、重なって。

 

「そなたは、そこの獣がそうであると?」

 

「……はいっ!……村の危機にあら――」

 

「――名は、血脈の誇り」

 

 どこまでも静かな声が。

 

 僕の耳に、嫌に、届いて。

 

「我らがヴェラ・コルの名に、恥じぬ言を期待したのだがな」

 

「……っ!」

 

「そなたの言は、よくわかった。しかし、儂の一存で決めるわけにもいくまい。幸い、ここには我らが未来を心から憂う、皆が集まっておる」

 

 ひときわ大きく、杖の音が、響いて。

 

「皆の衆。この獣は危険か、危険ではないか。どちらかな?」

 

 ざわざわ、ざわざわと。

 音が、おおきくなる。

 

 みみを、とじて、しまいたくて。

 

 こんなところに、いるくらい、なら。

 

 ぎゅっと、ぎんいろを、だきしめて。

 

 にげだ――。

 

「――レイドっ!!!」

 

 あ。

 

 ああ。

 

 かあさんだ。

 

 母さんの、こえ、だ。

 

「どいてっ!!通してっ!!!どきなさいっ!!!!」

 

「エララさん、落ち着いてっ!」

 

「私の息子があそこで泣いてるのよ!?邪魔をしないで通しなさいっ!!」

 

 声が、近づいてきて。

 

 銀色から、顔を、上げると。

 

 母さんが、すぐそばに、いて。

 

「レイド……っ!ああ、わたしの可愛い子……っ!」

 

 思いっきり、抱きしめてくれた。

 

「こんなに、怪我をしてっ!ごめんね、私がもっとしっかりしていたらっ!」

 

「かあ……さん……っ」

 

 ぽろぽろ、ぽろぽろと。

 

 すごく、熱くて。

 

 寒かったのが、嘘みたいで。

 

「かあさんは……ぼくのこと、しんじてくれ、る?」

 

「そんなの当たり前じゃないっ!」

 

「エララ・ヴェラ・コル。なにを――」

 

「――だまってなさいっ!」

 

 母さんが、大きくて。

 

 あたたかくて。

 

「ぼく、たすけたかったんだ……」

 

「そう。レイドは、良い子ね」

 

「このこも、ぼくを……たすけて、くれたんだ……」

 

「そうなのね。もう、大丈夫よ。あとはお母さんと、ヴェインくんにまかせなさい」

 

「……ぅ、ぁぁっ」

 

 抱きしめてくれてた手が。

 藍色の手が、離れていって。

 

 代わりに、ハティが。

 

「あなたも、うちのレイドをありがとうね」

 

 クゥ、って柔らかく鳴いて。

 

 僕を、覆ってくれた。

 

「エララさん……」

 

「ヴェインくん、少し付き合ってもらうわよ」

 

「ぬぁーっ!……たく、レイドは愛されてんなぁ」

 

「当然よ、大切な家族なんですもの」

 

「ははっ、まぁ俺も似たようなもんか」

 

 ふたりが、前に居てくれて。

 

「貴様ら……自分たちがなにをやっているのか――」

 

「『冷藍の手』を辞めます」

 

「なぁっ!?」

 

「はぁっ!?」

 

 ざわめきが、大きくなったと思ったら。

 

 一気に、静かになって。

 

「エララ……貴様ぁ……っ!」

 

「レイドと、新しい家族を連れて、村を出ていきます」

 

「え、エララさん……っ!?」

 

 母さんが、なにを言ってるのか、わからないけど。

 

 ハティが、ぺろりと、頬を舐めてくれて。

 

「それがダメと言うなら、この場で認めなさい」

 

「そんなこと、出来るわけがなかろうが!」

 

「では、私たちはこの村を出ていくだけです」

 

 だんだん、だんだん。

 

「……我が村を出たところで、行き先なぞ――っ!」

 

「私の行き先は、家族が笑顔でいられる場所だけよ」

 

 うとうと、してきて。

 

「あー、村長様」

 

「……なんだ、ヴェイン・ヴェラ・コル」

 

「こいつ、ハティって言うんですがね。こいつがなにかやったら、私――いや、俺が責任を持って狩猟します」

 

 ぎちっと、音が、した。

 

「ふむ……」

 

 すごく、あたたか、くて。

 

「……今代の『冷藍の手』と狩猟隊の長が、そこまで……言うので、あれば……っ」

 

 母さんの手が、また、僕に触れて。

 

「……仕方、なかろう……」

 

 ふわふわ、ふわふわと。

 

 あたたかい、なかで。

 

 ぼくは――。




( 'ヮ')<やはり愛じゃよ。評価、お気に入りなど痛み入ります。
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