五感を捨てて世界を救う。~色彩も、味も、温もりも。全部キミの明日を綴る火種にした~   作:ねむ。

13 / 17
第六話(2)

 ふわふわと。

 

 あたたかい、においの、なか。

 

 だれかの、ゆびが。

 

 ぼくのかみを、さわって。

 

「……んぅっ?」

 

「……ふふ、起きた?」

 

 かあさんの、こえ。

 

 目を、すこしだけ、あけて。

 

「かあ……さん……?」

 

「ええ、おはよう。レイド、よく眠れた?」

 

 手を、にぎって。

 

 ほっぺたに、当てて。

 

 つめたさが、きもちいい。

 

「あらあら、レイドは甘えん坊ね」

 

「……んっ」

 

 グゥ、となき声が、きこえて。

 

 横を、みると。

 

 どこまでも、やさしい金色が、いて。

 

「……はてぃ?」

 

「ハティも、この子のことありがとうね」

 

 急に。

 

 顔が、熱くなってきて。

 

 僕は、なにを、してしまっていたんだろう。

 

「……母さん?」

 

「ええ、お母さんよ」

 

 「本当に、レイドは可愛いわね」、なんて。

 ハティの下にいた手を引き抜いて。

 そのまま、体を起こす。

 

 どきどきと、胸が鳴って。

 

「……ぇあ……っ」

 

「おはよう、レイド」

 

「……う、うん……おは、ようっ」

 

 母さんの手が、撫でてくれたけど。

 

 ――子供らしいな。

 

 なんて、ハティが言ってきて。

 

「……こどもじゃ、ない」

 

 ハティにだけ、聞こえるように。

 じとっとした目も、向ける。

 

 くつくつと、笑っていて。

 少し、銀色の毛を、引っ張った。

 

「ほら、ふたりとも喧嘩しないの」

 

「……うん」

 

 母さんの藍色が、僕を見て。

 

「身体は大丈夫?ご飯、食べられそう?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「レイドは本当に良い子ね。……はい、あーん」

 

「……えっ」

 

 目の前に。

 あたたかいスープを掬った、木匙が、あって。

 そこから、藍色が伸びてて。

 

 綺麗な花みたいに笑った、母さんが。

 

「じ、自分で、食べれる、よ?」

 

「もう、いいじゃないの。たまにはこういうこと、お母さんにさせて?」

 

 「ほら」って言いながら。

 母さんは、木匙をもっと、近づけてきて。

 顔が、ゆでられたみたいに、熱かったけど。

 

 ぱくっと、食べて。

 

 部屋の入口にいた、ヴェインと。

 

 目が――。

 

「――っ!!!」

 

「あらあら、レイド、危ないわよ?」

 

 その、目は。

 顔、は。

 

 すごく、すごく、にっこりと、していて。

 

「――おっ、よう、レイド。邪魔してるよ」

 

 ご飯なんて食べずに。

 そのまま、毛布に、顔を埋めたくて。

 

「ごほっ、ごほっ……ヴェインさんっ!?」

 

「おう――元気そうでよかったよ、レイドくん」

 

 すごく。

 

 藁の詰まった、枕を。

 

 投げつけたくて。

 

「……ヴェインさん、お仕事、は?」

 

「……んぁー、そろそろ『月節の宴』だろ?普段働きすぎだって、そこまで休めっていわれてよ」

 

 にっこりしてた顔が、どこかに行って。

 頭を、掻きながら。

 どこか困ったように、していた。

 

 ずきりと、胸が、痛んで。

 

「それでまぁ、ちょうどいいからよ。エララさんに逢うついでに、お前らの顔を見に来たってわけよ」

 

「そう、なんだ……」

 

 ちらりと、母さんを見れば。

 

 にっこり、わらっていた、けれど。

 

 消えかけた蝋燭の火、みたいに。

 

「おう。昨日の夜のことも、あったからな」

 

「……ヴェインくんは、心配して様子を見に来てくれたのよ」

 

 また、ずきりと。

 

 胸の奥に、棘があるように。

 

「……あっ、そう、だよね。ヴェインさん、昨日は、その……僕とハティのために――」

 

「あー、いいっていいって。大人として、当然のことをしただけだ」

 

 ヴェインは、顔の前で手を振って。

 

「お前とハティが元気ってだけで、おつりがくるってもんだ」

 

 そのまま、太陽みたいに笑った。

 

 でも。

 

「……うん」

 

 眠る、前に。

 

 聞いた、ことは。

 

 考えるたび、棘が刺さってきて。

 

 ハティが、寄り添ってくれるけど。

 

「あらあら、ふたりは本当に仲良しね」

 

 ハティの耳が、ぴくっと動いて。

 

 ぱたぱたと、音が、聞こえてきた。

 

「ほんと、昨日会ったばかりとは思えねえなぁ」

 

「ふふふ。……あら?」

 

 ふと。

 

 母さんが、窓のほうを見て。

 

 その先を、見ると。

 赤茶色の髪と、緑の混じった黒が、揺れていて。

 

 コンコンと、窓を叩いていた。

 

「おや、かわいらしいお客さんだ」

 

 窓を、開けて。

 

「こんちわっ!レイドに会いに来ました!」

 

「ましたっ!」

 

 ニコと、ルル。

 

 しゃがみながら、楽しそうに、笑っていて。

 

「うおっ!でっけー狼!母ちゃんの言ってたこと本当だったんだっ!」

 

「だーっ!」

 

 母さんが、「あらあら」って。

 頬に手を当てて。

 

「二人とも、レイドに会いに来てくれてありがとうね。ほら、玄関から入っていらっしゃい」

 

「はーいっ!いこうぜルル!」

 

「はーいっ!」

 

 ぱたぱたぱたと、音が離れていって。

 

「あいつらはいつも元気だなぁ。昨日泣いてたってのに」

 

「こら、ヴェインくん」

 

 母さんに怒られたヴェインが、頭を掻いてて。

 くすっと、笑ってしまった。

 

 いつの間にか、棘がなくなっていて。

 

「それじゃ、お母さんとヴェインくんは二人を迎えに行ってくるわね。スープは置いておくから、ちゃんと食べるのよ」

 

「うんっ」

 

 母さんは、ヴェインと一緒に、部屋からいなくなって。

 

 僕とハティの、ふたりきり。

 

「……ハティ」

 

 じっと、金色を見つめて。

 

「耳が良いと、聞きたくないことも、聞こえちゃうんだね」

 

 自分が、笑えているかどうか。

 わからないけど。

 

 そういうと、ぺろりと。

 ハティが、僕を舐めた。

 

「……むずかしいね」

 

 ぐいっと、鼻を押し付けてきて。

 

 母さんがしてくれるみたいに、撫でていると。

 

 ぱたぱたと、走る音が、聞こえてきた。

 

「レイドーっ!元気かーっ!」

 

「かーっ!」

 

 ニコとルルが、飛び込んできて。

 

「……二人とも、走ると危ないよ」

 

「これくらいへっちゃらだい!」

 

「へっちゃらーっ!」

 

 おー、と。

 腕を、突き上げて。

 

 ぷっと、吹き出した。

 

「あはは、二人とも、元気だね」

 

「レイドも元気っぽいな!よかったぜ!」

 

 三人で、笑っていると。

 ルルがはっとして。

 ぷくっと、頬を膨らませた。

 

「レイドお兄ちゃん、ルルのことムシしたからきらいっ!」

 

 どきっと、して。

 

「ご、ごめんねっ!急いでて……」

 

「やっ!ゆるさないんだからっ!」

 

「そうだぞー、レイド!ルルは昨日泣いてたんだからな!」

 

「ニコお兄ちゃんそれヒミツって言ったのにっ!」

 

 むぅと、ルルが見てたけど。

 少ししたら、また笑いだして。

 

 僕もニコも、ハティも、一緒になった。

 

「あははっ、ウソだよぉ。でも、おままごとして遊んでね!」

 

「うん、もちろん」

 

「でよー、レイド。そこのでっけー狼だけどさ」

 

 そわそわと。

 ニコが、していたけど。

 

「ハティっていうんだ。僕の、家族みたいな、友達」

 

「ハティ!撫でてもいいか!?」

 

 ちらりと、銀色を見ると。

 クゥと鳴いたあと、床に降りて。

 そのまま、伏せてくれた。

 

「……いいよ、だって」

 

「やったぜ!ルル、一緒に撫でようぜ!」

 

「うんっ!」

 

 ニコとルルは、一気にハティに飛びついて。

 

「すっげぇ!ふっかふかだ!」

 

「ハティ良い子ぉ!」

 

 ふふっと、僕は笑ってしまって。

 

「へへ、良い匂い……じゃなかった!やいやいレイド!」

 

「えっ、なっ、なに?」

 

 ニコが、僕を指さしてきて。

 

「かけっこの約束……は、エララ母ちゃんのパンでいいとしてっ!」

 

「う、うん」

 

「なんでひとりで森行ったんだよぉ!」

 

 僕に、近づいて。

 

「おーれーもーさーそーえーよーっ!」

 

「あぶあぶあぶ、ごごごごめめめんんん」

 

 がたがたと、ゆすられて。

 

 ふたりで息をついていると。

 

「あはは、ニコお兄ちゃんもレイドお兄ちゃんも変なのー」

 

 「ねー、ハティ」なんて、ルルが笑ってて。

 

 ニコと顔を見合わせて、僕たちも笑ってしまった。

 

「今度はちゃんと誘えよなー!約束だぞっ!」

 

「うん、一緒に行こうね」

 

 「おらー、覚悟しろハティ!」って、すぐ離れていったけど。

 

 すごく、胸の奥が、あたたかくなって。

 

 脇に置かれたスープを、手に取った。

 

 さっきは、あんまり味がしなかったけど。

 

 木匙で、食べると。

 

 少しだけ、しょっぱい味が、広がって。

 

 ハティの、やれやれっていう気持ちが、流れてきて。

 

 二人が楽しそうに、笑っているのを。

 

 いつまでも、見続けた。




( 'ヮ')<子供って無邪気で良いですよね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。