五感を捨てて世界を救う。~色彩も、味も、温もりも。全部キミの明日を綴る火種にした~ 作:ねむ。
ふわふわと。
あたたかい、においの、なか。
だれかの、ゆびが。
ぼくのかみを、さわって。
「……んぅっ?」
「……ふふ、起きた?」
かあさんの、こえ。
目を、すこしだけ、あけて。
「かあ……さん……?」
「ええ、おはよう。レイド、よく眠れた?」
手を、にぎって。
ほっぺたに、当てて。
つめたさが、きもちいい。
「あらあら、レイドは甘えん坊ね」
「……んっ」
グゥ、となき声が、きこえて。
横を、みると。
どこまでも、やさしい金色が、いて。
「……はてぃ?」
「ハティも、この子のことありがとうね」
急に。
顔が、熱くなってきて。
僕は、なにを、してしまっていたんだろう。
「……母さん?」
「ええ、お母さんよ」
「本当に、レイドは可愛いわね」、なんて。
ハティの下にいた手を引き抜いて。
そのまま、体を起こす。
どきどきと、胸が鳴って。
「……ぇあ……っ」
「おはよう、レイド」
「……う、うん……おは、ようっ」
母さんの手が、撫でてくれたけど。
――子供らしいな。
なんて、ハティが言ってきて。
「……こどもじゃ、ない」
ハティにだけ、聞こえるように。
じとっとした目も、向ける。
くつくつと、笑っていて。
少し、銀色の毛を、引っ張った。
「ほら、ふたりとも喧嘩しないの」
「……うん」
母さんの藍色が、僕を見て。
「身体は大丈夫?ご飯、食べられそう?」
「うん、大丈夫だよ」
「レイドは本当に良い子ね。……はい、あーん」
「……えっ」
目の前に。
あたたかいスープを掬った、木匙が、あって。
そこから、藍色が伸びてて。
綺麗な花みたいに笑った、母さんが。
「じ、自分で、食べれる、よ?」
「もう、いいじゃないの。たまにはこういうこと、お母さんにさせて?」
「ほら」って言いながら。
母さんは、木匙をもっと、近づけてきて。
顔が、ゆでられたみたいに、熱かったけど。
ぱくっと、食べて。
部屋の入口にいた、ヴェインと。
目が――。
「――っ!!!」
「あらあら、レイド、危ないわよ?」
その、目は。
顔、は。
すごく、すごく、にっこりと、していて。
「――おっ、よう、レイド。邪魔してるよ」
ご飯なんて食べずに。
そのまま、毛布に、顔を埋めたくて。
「ごほっ、ごほっ……ヴェインさんっ!?」
「おう――元気そうでよかったよ、レイドくん」
すごく。
藁の詰まった、枕を。
投げつけたくて。
「……ヴェインさん、お仕事、は?」
「……んぁー、そろそろ『月節の宴』だろ?普段働きすぎだって、そこまで休めっていわれてよ」
にっこりしてた顔が、どこかに行って。
頭を、掻きながら。
どこか困ったように、していた。
ずきりと、胸が、痛んで。
「それでまぁ、ちょうどいいからよ。エララさんに逢うついでに、お前らの顔を見に来たってわけよ」
「そう、なんだ……」
ちらりと、母さんを見れば。
にっこり、わらっていた、けれど。
消えかけた蝋燭の火、みたいに。
「おう。昨日の夜のことも、あったからな」
「……ヴェインくんは、心配して様子を見に来てくれたのよ」
また、ずきりと。
胸の奥に、棘があるように。
「……あっ、そう、だよね。ヴェインさん、昨日は、その……僕とハティのために――」
「あー、いいっていいって。大人として、当然のことをしただけだ」
ヴェインは、顔の前で手を振って。
「お前とハティが元気ってだけで、おつりがくるってもんだ」
そのまま、太陽みたいに笑った。
でも。
「……うん」
眠る、前に。
聞いた、ことは。
考えるたび、棘が刺さってきて。
ハティが、寄り添ってくれるけど。
「あらあら、ふたりは本当に仲良しね」
ハティの耳が、ぴくっと動いて。
ぱたぱたと、音が、聞こえてきた。
「ほんと、昨日会ったばかりとは思えねえなぁ」
「ふふふ。……あら?」
ふと。
母さんが、窓のほうを見て。
その先を、見ると。
赤茶色の髪と、緑の混じった黒が、揺れていて。
コンコンと、窓を叩いていた。
「おや、かわいらしいお客さんだ」
窓を、開けて。
「こんちわっ!レイドに会いに来ました!」
「ましたっ!」
ニコと、ルル。
しゃがみながら、楽しそうに、笑っていて。
「うおっ!でっけー狼!母ちゃんの言ってたこと本当だったんだっ!」
「だーっ!」
母さんが、「あらあら」って。
頬に手を当てて。
「二人とも、レイドに会いに来てくれてありがとうね。ほら、玄関から入っていらっしゃい」
「はーいっ!いこうぜルル!」
「はーいっ!」
ぱたぱたぱたと、音が離れていって。
「あいつらはいつも元気だなぁ。昨日泣いてたってのに」
「こら、ヴェインくん」
母さんに怒られたヴェインが、頭を掻いてて。
くすっと、笑ってしまった。
いつの間にか、棘がなくなっていて。
「それじゃ、お母さんとヴェインくんは二人を迎えに行ってくるわね。スープは置いておくから、ちゃんと食べるのよ」
「うんっ」
母さんは、ヴェインと一緒に、部屋からいなくなって。
僕とハティの、ふたりきり。
「……ハティ」
じっと、金色を見つめて。
「耳が良いと、聞きたくないことも、聞こえちゃうんだね」
自分が、笑えているかどうか。
わからないけど。
そういうと、ぺろりと。
ハティが、僕を舐めた。
「……むずかしいね」
ぐいっと、鼻を押し付けてきて。
母さんがしてくれるみたいに、撫でていると。
ぱたぱたと、走る音が、聞こえてきた。
「レイドーっ!元気かーっ!」
「かーっ!」
ニコとルルが、飛び込んできて。
「……二人とも、走ると危ないよ」
「これくらいへっちゃらだい!」
「へっちゃらーっ!」
おー、と。
腕を、突き上げて。
ぷっと、吹き出した。
「あはは、二人とも、元気だね」
「レイドも元気っぽいな!よかったぜ!」
三人で、笑っていると。
ルルがはっとして。
ぷくっと、頬を膨らませた。
「レイドお兄ちゃん、ルルのことムシしたからきらいっ!」
どきっと、して。
「ご、ごめんねっ!急いでて……」
「やっ!ゆるさないんだからっ!」
「そうだぞー、レイド!ルルは昨日泣いてたんだからな!」
「ニコお兄ちゃんそれヒミツって言ったのにっ!」
むぅと、ルルが見てたけど。
少ししたら、また笑いだして。
僕もニコも、ハティも、一緒になった。
「あははっ、ウソだよぉ。でも、おままごとして遊んでね!」
「うん、もちろん」
「でよー、レイド。そこのでっけー狼だけどさ」
そわそわと。
ニコが、していたけど。
「ハティっていうんだ。僕の、家族みたいな、友達」
「ハティ!撫でてもいいか!?」
ちらりと、銀色を見ると。
クゥと鳴いたあと、床に降りて。
そのまま、伏せてくれた。
「……いいよ、だって」
「やったぜ!ルル、一緒に撫でようぜ!」
「うんっ!」
ニコとルルは、一気にハティに飛びついて。
「すっげぇ!ふっかふかだ!」
「ハティ良い子ぉ!」
ふふっと、僕は笑ってしまって。
「へへ、良い匂い……じゃなかった!やいやいレイド!」
「えっ、なっ、なに?」
ニコが、僕を指さしてきて。
「かけっこの約束……は、エララ母ちゃんのパンでいいとしてっ!」
「う、うん」
「なんでひとりで森行ったんだよぉ!」
僕に、近づいて。
「おーれーもーさーそーえーよーっ!」
「あぶあぶあぶ、ごごごごめめめんんん」
がたがたと、ゆすられて。
ふたりで息をついていると。
「あはは、ニコお兄ちゃんもレイドお兄ちゃんも変なのー」
「ねー、ハティ」なんて、ルルが笑ってて。
ニコと顔を見合わせて、僕たちも笑ってしまった。
「今度はちゃんと誘えよなー!約束だぞっ!」
「うん、一緒に行こうね」
「おらー、覚悟しろハティ!」って、すぐ離れていったけど。
すごく、胸の奥が、あたたかくなって。
脇に置かれたスープを、手に取った。
さっきは、あんまり味がしなかったけど。
木匙で、食べると。
少しだけ、しょっぱい味が、広がって。
ハティの、やれやれっていう気持ちが、流れてきて。
二人が楽しそうに、笑っているのを。
いつまでも、見続けた。
( 'ヮ')<子供って無邪気で良いですよね。