五感を捨てて世界を救う。~色彩も、味も、温もりも。全部キミの明日を綴る火種にした~ 作:ねむ。
石段から繋がる階段を上がる。
空が、すごく近くて。
広がる白にも、すぐに手が届きそう。
「レイドすまねぇなぁ。怪我明けだってのに付き合ってもらっちまってよ」
「ううん。僕もハティも、ちょうど散歩したかったから」
少し上で、ヴェインの声。
何度か、太陽と二つの月が入れ替わっても。
ずっと、家に来てくれていた。
前に、ハティの耳で聞いた、お目付け役。
宝箱の部屋で、本を読んでたら。
近くの椅子で寝ていたり。
自分の部屋で、ハティと過ごしていたら。
部屋に、ご飯を持ってきてくれたり。
暖炉の部屋で、母さんと、みんなで過ごしていたら。
なんだか、母さんの近くに、居て。
むっと、した、けど。
ふとした時に、近くにいて。
嫌な気持ちは、ないけど。
僕のせいって、わかってるから。
居心地が、悪くなければな、なんて。
「でも、お休みって言ってたのに、今日は仕事なんだね」
「……あー、あれだ」
立ち止まって。
僕と、少し下にいる、ハティを見ながら。
頭を、掻いてて。
少し、胸の奥が、じくっと。
痛んだ。
「休んでばっかだと、体がなまるからな。散歩ついでに体動かすには、ちょうどいいってもんだ」
「……それで、村の上まで?」
「おう。狩猟隊の本部に地図があってな。それ取って、お散歩だ」
分かれた階段を、左に。
もうすこしだけ、登る。
「にしても、大丈夫か?怪我が治ったって言っても、まだそんな時間は経ってないだろ?」
「……大丈夫だよ。ヴェインさんも、診てくれてたでしょ?」
「そりゃそうなんだが、俺は心配でなぁ」
あちこちにあった怪我は、すっかりなくなっていて。
「まぁ、こんなに早く治ったんだ。なによりではあるわな」
「……そう、だね」
少し後ろをついてきていたハティが、すぐ隣にいて。
その金色と、目が合った。
たぶん、これも。
ハティの、おかげ、かも。
――……そうなのか?
ハティの声が、聞こえて。
「……そうだったら、いいよね」
ヴェインに聞こえないように。
少しだけ笑って。
「まぁ、そんなことよりだ。レイドくん」
「……っ?」
ヴェインが、振り返っていて。
少し、黒の混じった藍色が、光ってる。
ハティと話していたのに、気づかれたのかと、思って。
「いつまでも、さんなんて付けないでいいって言っただろう?呼び捨てで構わん」
「……あ、はは……っ」
ヴェインが胸を張りながら、そう言って。
「まだちょっと……恥ずかしい、かな?」
「お前なぁ……まあ、いいさ。俺は待ってるからなっ!」
にかっと笑って、また先を登ってくれる。
胸が、少しだけ。
どきどき、していて。
くつくつと、笑い声。
隣の銀色の毛を、引っ張って。
じとっとした目を、向けられるけど。
べーっと、舌を出した。
ハティが頭で突いてきて。
一瞬、転びそうになったけど。
大きな手に、支えられて。
「うおっとっ!……お前らなぁ……仲良いのはいいけど、場所は気をつけろよ?」
「あ、ありがとう……ヴェイン……」
「――っ!レイドっ!今――っ!」
「ち、違うよ!?さんってつけた!」
ぎゅっと、抱き着かれて。
体が、熱くて。
顔も、太陽のせいだと、思うけど。
すごく、すごく、熱いから。
両手で、頑張って。
ヴェインを押しのけようと、するけど。
崖の壁を、押してるみたいで。
全然、動いてくれない。
「うぐぐぐ……っ!はーなーしーてーっ!」
「おおっと、すまん、つい!痛くなかったか!?」
「はぁ……はぁ……ヴェインさん、力強すぎ……っ」
「本当にすまん!」って謝ってくれてるけど。
「……次抱き着いてきたら、許さないから」
「っ!わ、わかったっ!」
頭を、撫でてくれるけど。
ハティの、笑い声も、聞こえてきて。
「もうっ!先行っちゃうからね!」
「――すまーんっ!レイド、ゆるしてくれー!」
今の顔を、見られたくなくて。
階段を、駆けあがる。
終点まで、まだ先があるけど。
なんだか、疲れなくて。
空が近くて。
飛んでるみたいで。
ちょっと、楽しい。
でも、ハティが、横を風みたいに通って行って。
僕より先に、一番上、終点に。
――ふ、オレの勝ちだな。
なんて、心の中に響いてきて。
「――ずるいっ!」
「はぁ……はぁ……はぁ……っ、お前ら……はやくねぇ……?」
ヴェインも、追いついてきてくれて。
そのまま、少し離れた場所に、座った。
ハティよりも、遅かったけど。
ヴェインよりは、速かったから。
隣――ちょっと、近くに、座って。
「へへ、僕の勝ち、だね」
「……ああ、レイドの勝ちだ」
頭を、撫でてくれて。
ハティも、近くに来てくれた。
風が、僕たちを包んでくれる。
「はぁーあ……なんで俺がこんなに疲れてて、怪我明けのお前が疲れてないんだ」
「……なんか、治ってからすごく元気、なんだよね」
「あー……なんかわかる気がするなぁ。俺も怪我明けは動きたくてうずうずするからなぁ」
ヴェインは、空を見上げてて。
僕も、上を見れば。
白が、たくさん。
風に流されて、いろんな形になって。
「……ちょっと休んだら、そこの本部いくぞ。今はみんな出てるだろうから、気楽にな」
「……うん」
ハティの眠いっていう気持ち。
たしかに、眠いような、気がする。
久しぶりに走ったから、なんて。
「……今日のお仕事って、なにするの?」
「あー、そうだよな。付き合ってくれるレイドには、教えとかないとだよな」
ヴェインは、どっこいしょって、僕を見て。
「本部にな、地図があるんだが。そこに、村の全貌が書かれてるんだ」
顎を触りながら、まっすぐな瞳で。
「まぁ、その地図だれが書いて置いていったのかは、わからんのだが」
「……わかんないのに、それを見るんだ?」
「おう。かなりそのまんまなんだよ。まぁ、それを持って、下まで降りて境界を確認するんだよ」
ハティが、くあっと欠伸をしていて。
「境界って、不変石の……?」
「お、さすがレイドだな。そこもあるんだが、不変石と、村の距離みたいなやつだな」
顎を触ってたヴェインが、頬を掻いて。
「あー、まぁいいか。本当は十五になって狩猟隊になってから教えるんだが」
「うん」
「ほら、銘剥ってあるだろ?」
一瞬。
どきっとしたけど。
「う、うん。泥になっちゃう、あれでしょ?前に、狩猟隊の人も……」
「あれ見てたのか……すまんな。嫌なこと思い出させた」
「ううん、大丈夫、だよ」
また、頭を撫でてくれて。
「要は、あれが村に起きてないかってのを、直接見て調べるって仕事よ」
「……そんなことやってたんだ」
「おう。地図を持ち出せるのが隊長だけでな。俺は前のやつから――」
ヴェインが、急に。
頭を、押えて。
「ヴェ、ヴェイン……?だ、だいじょう、ぶ?」
「……ああ、すまん。たまに頭痛が……って!おまっ!」
「っ!つけたから!抱き着いたら嫌だよ!」
大きな手が、掴む先を求めて動いていて。
僕は急いで、ハティの後ろに隠れた。
「す、すまん……っ!」
じとっと、見つめていると。
少し遠くから。
ガチャっと、扉が開く音が、して。
「あっ……!」
そちらを、見ると。
「モリーナっ!?お前、まだ残って――!?」
「ヴェイン……たい、ちょう……っ!」
狩猟隊の、深い緑の服を着て。
背中に、弓を背負った。
あの、モリーナさんが。
扉を開けたまま、固まっていた。
( 'ヮ')<き、気まずい!非常に気まずいぞぉう!