五感を捨てて世界を救う。~色彩も、味も、温もりも。全部キミの明日を綴る火種にした~   作:ねむ。

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第七話(1)

 石段から繋がる階段を上がる。

 空が、すごく近くて。

 広がる白にも、すぐに手が届きそう。

 

「レイドすまねぇなぁ。怪我明けだってのに付き合ってもらっちまってよ」

 

「ううん。僕もハティも、ちょうど散歩したかったから」

 

 少し上で、ヴェインの声。

 

 何度か、太陽と二つの月が入れ替わっても。

 ずっと、家に来てくれていた。

 

 前に、ハティの耳で聞いた、お目付け役。

 

 宝箱の部屋で、本を読んでたら。

 近くの椅子で寝ていたり。

 

 自分の部屋で、ハティと過ごしていたら。

 部屋に、ご飯を持ってきてくれたり。

 

 暖炉の部屋で、母さんと、みんなで過ごしていたら。

 なんだか、母さんの近くに、居て。

 むっと、した、けど。

 

 ふとした時に、近くにいて。

 

 嫌な気持ちは、ないけど。

 僕のせいって、わかってるから。

 

 居心地が、悪くなければな、なんて。

 

「でも、お休みって言ってたのに、今日は仕事なんだね」

 

「……あー、あれだ」

 

 立ち止まって。

 僕と、少し下にいる、ハティを見ながら。

 頭を、掻いてて。

 

 少し、胸の奥が、じくっと。

 

 痛んだ。

 

「休んでばっかだと、体がなまるからな。散歩ついでに体動かすには、ちょうどいいってもんだ」

 

「……それで、村の上まで?」

 

「おう。狩猟隊の本部に地図があってな。それ取って、お散歩だ」

 

 分かれた階段を、左に。

 もうすこしだけ、登る。

 

「にしても、大丈夫か?怪我が治ったって言っても、まだそんな時間は経ってないだろ?」

 

「……大丈夫だよ。ヴェインさんも、診てくれてたでしょ?」

 

「そりゃそうなんだが、俺は心配でなぁ」

 

 あちこちにあった怪我は、すっかりなくなっていて。

 

「まぁ、こんなに早く治ったんだ。なによりではあるわな」

 

「……そう、だね」

 

 少し後ろをついてきていたハティが、すぐ隣にいて。

 その金色と、目が合った。

 

 たぶん、これも。

 

 ハティの、おかげ、かも。

 

 ――……そうなのか?

 

 ハティの声が、聞こえて。

 

「……そうだったら、いいよね」

 

 ヴェインに聞こえないように。

 少しだけ笑って。

 

「まぁ、そんなことよりだ。レイドくん」

 

「……っ?」

 

 ヴェインが、振り返っていて。

 少し、黒の混じった藍色が、光ってる。

 ハティと話していたのに、気づかれたのかと、思って。

 

「いつまでも、さんなんて付けないでいいって言っただろう?呼び捨てで構わん」

 

「……あ、はは……っ」

 

 ヴェインが胸を張りながら、そう言って。

 

「まだちょっと……恥ずかしい、かな?」

 

「お前なぁ……まあ、いいさ。俺は待ってるからなっ!」

 

 にかっと笑って、また先を登ってくれる。

 

 胸が、少しだけ。

 

 どきどき、していて。

 

 くつくつと、笑い声。

 隣の銀色の毛を、引っ張って。

 じとっとした目を、向けられるけど。

 

 べーっと、舌を出した。

 

 ハティが頭で突いてきて。

 一瞬、転びそうになったけど。

 

 大きな手に、支えられて。

 

「うおっとっ!……お前らなぁ……仲良いのはいいけど、場所は気をつけろよ?」

 

「あ、ありがとう……ヴェイン……」

 

「――っ!レイドっ!今――っ!」

 

「ち、違うよ!?さんってつけた!」

 

 ぎゅっと、抱き着かれて。

 体が、熱くて。

 顔も、太陽のせいだと、思うけど。

 

 すごく、すごく、熱いから。

 

 両手で、頑張って。

 ヴェインを押しのけようと、するけど。

 

 崖の壁を、押してるみたいで。

 全然、動いてくれない。

 

「うぐぐぐ……っ!はーなーしーてーっ!」

 

「おおっと、すまん、つい!痛くなかったか!?」

 

「はぁ……はぁ……ヴェインさん、力強すぎ……っ」

 

 「本当にすまん!」って謝ってくれてるけど。

 

「……次抱き着いてきたら、許さないから」

 

「っ!わ、わかったっ!」

 

 頭を、撫でてくれるけど。

 

 ハティの、笑い声も、聞こえてきて。

 

「もうっ!先行っちゃうからね!」

 

「――すまーんっ!レイド、ゆるしてくれー!」

 

 今の顔を、見られたくなくて。

 

 階段を、駆けあがる。

 

 終点まで、まだ先があるけど。

 

 なんだか、疲れなくて。

 

 空が近くて。

 

 飛んでるみたいで。

 

 ちょっと、楽しい。

 

 でも、ハティが、横を風みたいに通って行って。

 

 僕より先に、一番上、終点に。

 

 ――ふ、オレの勝ちだな。

 

 なんて、心の中に響いてきて。

 

「――ずるいっ!」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ、お前ら……はやくねぇ……?」

 

 ヴェインも、追いついてきてくれて。

 そのまま、少し離れた場所に、座った。

 

 ハティよりも、遅かったけど。

 ヴェインよりは、速かったから。

 

 隣――ちょっと、近くに、座って。

 

「へへ、僕の勝ち、だね」

 

「……ああ、レイドの勝ちだ」

 

 頭を、撫でてくれて。

 ハティも、近くに来てくれた。

 

 風が、僕たちを包んでくれる。

 

「はぁーあ……なんで俺がこんなに疲れてて、怪我明けのお前が疲れてないんだ」

 

「……なんか、治ってからすごく元気、なんだよね」

 

「あー……なんかわかる気がするなぁ。俺も怪我明けは動きたくてうずうずするからなぁ」

 

 ヴェインは、空を見上げてて。

 僕も、上を見れば。

 

 白が、たくさん。

 

 風に流されて、いろんな形になって。

 

「……ちょっと休んだら、そこの本部いくぞ。今はみんな出てるだろうから、気楽にな」

 

「……うん」

 

 ハティの眠いっていう気持ち。

 たしかに、眠いような、気がする。

 久しぶりに走ったから、なんて。

 

「……今日のお仕事って、なにするの?」

 

「あー、そうだよな。付き合ってくれるレイドには、教えとかないとだよな」

 

 ヴェインは、どっこいしょって、僕を見て。

 

「本部にな、地図があるんだが。そこに、村の全貌が書かれてるんだ」

 

 顎を触りながら、まっすぐな瞳で。

 

「まぁ、その地図だれが書いて置いていったのかは、わからんのだが」

 

「……わかんないのに、それを見るんだ?」

 

「おう。かなりそのまんまなんだよ。まぁ、それを持って、下まで降りて境界を確認するんだよ」

 

 ハティが、くあっと欠伸をしていて。

 

「境界って、不変石の……?」

 

「お、さすがレイドだな。そこもあるんだが、不変石と、村の距離みたいなやつだな」

 

 顎を触ってたヴェインが、頬を掻いて。

 

「あー、まぁいいか。本当は十五になって狩猟隊になってから教えるんだが」

 

「うん」

 

「ほら、銘剥ってあるだろ?」

 

 一瞬。

 

 どきっとしたけど。

 

「う、うん。泥になっちゃう、あれでしょ?前に、狩猟隊の人も……」

 

「あれ見てたのか……すまんな。嫌なこと思い出させた」

 

「ううん、大丈夫、だよ」

 

 また、頭を撫でてくれて。

 

「要は、あれが村に起きてないかってのを、直接見て調べるって仕事よ」

 

「……そんなことやってたんだ」

 

「おう。地図を持ち出せるのが隊長だけでな。俺は前のやつから――」

 

 ヴェインが、急に。

 

 頭を、押えて。

 

 「ヴェ、ヴェイン……?だ、だいじょう、ぶ?」

 

「……ああ、すまん。たまに頭痛が……って!おまっ!」

 

「っ!つけたから!抱き着いたら嫌だよ!」

 

 大きな手が、掴む先を求めて動いていて。

 僕は急いで、ハティの後ろに隠れた。

 

「す、すまん……っ!」

 

 じとっと、見つめていると。

 

 少し遠くから。

 

 ガチャっと、扉が開く音が、して。

 

「あっ……!」

 

 そちらを、見ると。

 

「モリーナっ!?お前、まだ残って――!?」

 

「ヴェイン……たい、ちょう……っ!」

 

 狩猟隊の、深い緑の服を着て。

 

 背中に、弓を背負った。

 

 あの、モリーナさんが。

 

 扉を開けたまま、固まっていた。




( 'ヮ')<き、気まずい!非常に気まずいぞぉう!
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