五感を捨てて世界を救う。~色彩も、味も、温もりも。全部キミの明日を綴る火種にした~ 作:ねむ。
風が、吹き抜ける。
空で、大きな光が、暖めてるけど。
「あ……っ、その……っ!」
「……」
僕ら、は。
深い水底に、沈んでしまったようで。
「……あー、モリーナ。これから、狩りか?」
「……あっ、は、はい……備蓄の、肉が少なくなってきた、ようで……」
ふたりは、ずっと。
近いような、遠い距離で。
僕はハティの後ろに隠れながら、それを見ていて。
「た、たいちょう、は……っ、レイドくん、と……っ!」
「お、おう。『月節の宴』前の見回りに、な?」
「な、なるほ、ど……っ」
ヴェインは、背中だけだけど。
頬を掻いてるのは、見えて。
「……っ」
「……あー……」
少し遠いけど。
モリーナさん、は。
扉に、手をかけたまま。
下を、見ていて。
はぁ、と息を吐く音。
「……まぁ、なんだ」
ガシガシと、ヴェインが頭を掻いて。
「いつまでもこのままってのもあれだ。……とりあえず、座って話するか」
「……っ、で、でも……っ」
僕と、ハティを、見て。
「あー、大丈夫だ。レイドもハティも、それでいいよな?」
「う、うんっ」
くぁっと、ハティは欠伸をしてて。
もっと真剣になって、ほしかったけど。
彼から、温かい気持ちが流れてきたから。
「まぁ、そういうわけだ。本部の中でもいいが……こっち、座るか?」
「は、い……っ」
彼女は、静かに扉を閉めて。
下を見ながら、近づいてきた。
ちらりと、見えた瞳は。
黒の強い、藍色の瞳。
それは、どこか迷子になってるようで。
ずきりと。
胸の奥に、棘が刺さった。
ヴェインとモリーナさんは、階段から続く塀の上に座って。
「いーい天気だなぁ」
「……そう、です……ね……っ」
空を見上げてるヴェインと。
ずっと下を向いてる、モリーナさん。
「……あれから、大丈夫だったか?」
「……は、いっ」
「本当かー?狩猟隊のやつらとか、村のやつらに変なこと言われてねぇか?」
「わ、わた、しは……だい、じょうぶ……です……っ」
「そうかぁ。そりゃよかったよ」
ヴェインは、モリーナさんのほうを見て。
「レイドの家に来てたルルから話は聞いてたんだが、お前の口からそれが聞けて安心したよ」
びくっと、モリーナさんの肩が震えてて。
「でもお前、最近帰りが遅いらしいじゃないか。おまけに帰ってもなにも食べてないって。ルルもそうだが、あんまり家族に心配かけるなよ?」
すぐ近くから、寝息も、聞こえてきた。
「……あー、まぁ……あれだ。お互い、いろいろあるわけで、だ」
「……っ」
ハティをゆすってみるけど。
気持ちがいいっていうのしか、流れてこない。
「あんま、気にすんなよ。こっちはこっちでなんとか――」
「……っ、どう、して……っ」
「あん?」
はぁ、と息を吐いて。
ハティに体を預けながら、ふたりのほうを見れば。
「どう、して……っ!わたし、を……っ!」
「お前……」
緑がかった黒が、揺れて。
石畳の地面が、雨が降った日みたいに。
濡れて、いて。
「わた、しはっ!あのとき……っ!たいちょ、うをっ!レイド、くんをっ!」
「……」
空は、すごく晴れてるのに。
ここだけ。
嵐が来た日、みたいで。
ぎゅっと、銀色を、握りしめた。
「せめて……くだ、さい……っ!なん、で……あんなこと、した……んだ、って……っ!」
「……」
モリーナさんは、すごく、小さくなってて。
「おねが、い……しま、すっ!わた、し、を……っ!」
「……モリーナ」
それを見ていると。
本当に、モリーナさんが迷子になってるように。
見えて。
「……俺が責めると、思うか?レイドだって、頭良いやつだからわかってくれてる。なぁ、レイド」
ちらりと、ヴェインの黒の混じった藍色が。
僕のほうを、見て。
「う、うんっ!僕も、泣いちゃった……けど、モリーナさんのせいじゃない、よ?」
「……ほらな?」
「う、うぅっ……やめて、くださ、いっ!わたし、に……やさしく、しな……いでっ!」
お願いしますっていう言葉が。
何度も、何度も。
「……なあ、モリーナ」
ヴェインは、手を伸ばそうとしたけど。
その手は、居場所が見つからなかったみたいに。
ぎゅっと、握りしめられて。
「そんなに、自分を責めるな。あれは、仕方のない――」
「やめてっ!やめて、くださいっ!」
ハティのあたたかい、気持ちと。
陽の光が、あたたかい、から。
「……っ」
「わたしっ!わたしの、せい……なのにっ!たい、ちょうもっ!エラ、ラさん、もっ!レイドくん、もっ!」
モリーナの長い、緑がかった黒は。
一本一本、絡み合う糸が、勢いよくほつれるときみたいに。
「みんな……っ!わる、く、ない……のにっ!わ、わたし……が、わるい、のにっ!」
「……あんまり、自分を責めすぎるな」
僕は、銀から離れて。
「モリーナ、聞いてくれ。頼む」
「やだ……っ!もういや……っ!やだぁ……っ!」
ヴェインの手は、届かなかった、けど。
届かなかった、から。
僕が、手を。
伸ばして、あげたくて。
「おねがい……っ!わた、わたし……を――っ!」
「モリ――レイドっ!?」
だって、迷子なんだ。
モリーナさんは。
「レイド、くん……っ」
「モリーナさん。もう、大丈夫だよ」
誰かが。
「やめ……てっ、おねが――」
「僕たちが、いるからね」
抱きしめて、あげないと。
「わた……わた、し……っ!」
「レイド……」
ひとりは、嫌だから。
「うぅ……ううううあああぁぁぁぁぁっ!」
僕が泣いた日に。
母さんが、やってくれた、みたいに。
「ごめ、んな、さいいいぃぃぃぃっ!ご、ごめっ!ああぁぁぁっ!ああああぁぁぁぁぁっ!」
ぽんぽんって、背中を。
寂しいって言ってる、背中を。
抱きしめる。
「レイド……お前ってやつは……」
ヴェインの声が、聞こえて。
頭に、ごつごつした手。
「……ありがとうな。正直、助かった」
そのまま、優しく。
撫でてくれて。
「……はーぁ、空が青いねぇ」
手が、離れて。
ちらりと、ヴェインを見れば。
また、空を見上げてて。
なんだか、寂しそうに見えたけど。
耳元の、泣き声のほうが、大事だから。
「……いい子、いい子」
母さんが、僕にしてくれたことを。
僕のあたたかさを。
届けたくて。
安心、してもらいたくて。
「……もうちょっと休んだら、仕事だな」
だんだんと。
泣き声が、落ち着いて。
「……まぁなんだ。レイド、もうちょっとそうしておいてやってくれ」
「……うん」
すぅ、すぅ、と。
ハティの寝息と、重なって。
少し、体が重く感じたけど。
胸の奥の棘は、なくて。
また。
あたたかい陽だまりと。
風が。
僕たちを、包んでくれて。
草の匂いが、広がった。
( 'ヮ')<モリーナさんって当初名前のないモブキャラだったんですよ。