五感を捨てて世界を救う。~色彩も、味も、温もりも。全部キミの明日を綴る火種にした~   作:ねむ。

15 / 16
( 'ヮ')<予約投稿ミスはやめよう。


第七話(2)

 風が、吹き抜ける。

 

 空で、大きな光が、暖めてるけど。

 

「あ……っ、その……っ!」

 

「……」

 

 僕ら、は。

 

 深い水底に、沈んでしまったようで。

 

「……あー、モリーナ。これから、狩りか?」

 

「……あっ、は、はい……備蓄の、肉が少なくなってきた、ようで……」

 

 ふたりは、ずっと。

 近いような、遠い距離で。

 

 僕はハティの後ろに隠れながら、それを見ていて。

 

「た、たいちょう、は……っ、レイドくん、と……っ!」

 

「お、おう。『月節の宴』前の見回りに、な?」

 

「な、なるほ、ど……っ」

 

 ヴェインは、背中だけだけど。

 頬を掻いてるのは、見えて。

 

「……っ」

 

「……あー……」

 

 少し遠いけど。

 

 モリーナさん、は。

 扉に、手をかけたまま。

 

 下を、見ていて。

 

 はぁ、と息を吐く音。

 

「……まぁ、なんだ」

 

 ガシガシと、ヴェインが頭を掻いて。

 

「いつまでもこのままってのもあれだ。……とりあえず、座って話するか」

 

「……っ、で、でも……っ」

 

 僕と、ハティを、見て。

 

「あー、大丈夫だ。レイドもハティも、それでいいよな?」

 

「う、うんっ」

 

 くぁっと、ハティは欠伸をしてて。

 もっと真剣になって、ほしかったけど。

 

 彼から、温かい気持ちが流れてきたから。

 

「まぁ、そういうわけだ。本部の中でもいいが……こっち、座るか?」

 

「は、い……っ」

 

 彼女は、静かに扉を閉めて。

 下を見ながら、近づいてきた。

 

 ちらりと、見えた瞳は。

 黒の強い、藍色の瞳。

 それは、どこか迷子になってるようで。

 

 ずきりと。

 胸の奥に、棘が刺さった。

 

 ヴェインとモリーナさんは、階段から続く塀の上に座って。

 

「いーい天気だなぁ」

 

「……そう、です……ね……っ」

 

 空を見上げてるヴェインと。

 ずっと下を向いてる、モリーナさん。

 

「……あれから、大丈夫だったか?」

 

「……は、いっ」

 

「本当かー?狩猟隊のやつらとか、村のやつらに変なこと言われてねぇか?」

 

「わ、わた、しは……だい、じょうぶ……です……っ」

 

「そうかぁ。そりゃよかったよ」

 

 ヴェインは、モリーナさんのほうを見て。

 

「レイドの家に来てたルルから話は聞いてたんだが、お前の口からそれが聞けて安心したよ」 

 

 びくっと、モリーナさんの肩が震えてて。

 

「でもお前、最近帰りが遅いらしいじゃないか。おまけに帰ってもなにも食べてないって。ルルもそうだが、あんまり家族に心配かけるなよ?」

 

 すぐ近くから、寝息も、聞こえてきた。

 

「……あー、まぁ……あれだ。お互い、いろいろあるわけで、だ」

 

「……っ」

 

 ハティをゆすってみるけど。

 

 気持ちがいいっていうのしか、流れてこない。

 

「あんま、気にすんなよ。こっちはこっちでなんとか――」

 

「……っ、どう、して……っ」

 

「あん?」

 

 はぁ、と息を吐いて。

 ハティに体を預けながら、ふたりのほうを見れば。

 

「どう、して……っ!わたし、を……っ!」

 

「お前……」

 

 緑がかった黒が、揺れて。

 石畳の地面が、雨が降った日みたいに。

 

 濡れて、いて。

 

「わた、しはっ!あのとき……っ!たいちょ、うをっ!レイド、くんをっ!」

 

「……」

 

 空は、すごく晴れてるのに。

 

 ここだけ。

 

 嵐が来た日、みたいで。

 

 ぎゅっと、銀色を、握りしめた。

 

「せめて……くだ、さい……っ!なん、で……あんなこと、した……んだ、って……っ!」

 

「……」

 

 モリーナさんは、すごく、小さくなってて。

 

「おねが、い……しま、すっ!わた、し、を……っ!」

 

「……モリーナ」

 

 それを見ていると。

 本当に、モリーナさんが迷子になってるように。

 見えて。

 

「……俺が責めると、思うか?レイドだって、頭良いやつだからわかってくれてる。なぁ、レイド」

 

 ちらりと、ヴェインの黒の混じった藍色が。

 

 僕のほうを、見て。

 

「う、うんっ!僕も、泣いちゃった……けど、モリーナさんのせいじゃない、よ?」

 

「……ほらな?」 

 

「う、うぅっ……やめて、くださ、いっ!わたし、に……やさしく、しな……いでっ!」

 

 お願いしますっていう言葉が。

 

 何度も、何度も。

 

「……なあ、モリーナ」

 

 ヴェインは、手を伸ばそうとしたけど。

 その手は、居場所が見つからなかったみたいに。

 ぎゅっと、握りしめられて。

 

「そんなに、自分を責めるな。あれは、仕方のない――」

 

「やめてっ!やめて、くださいっ!」

 

 ハティのあたたかい、気持ちと。

 

 陽の光が、あたたかい、から。

 

「……っ」

 

「わたしっ!わたしの、せい……なのにっ!たい、ちょうもっ!エラ、ラさん、もっ!レイドくん、もっ!」

 

 モリーナの長い、緑がかった黒は。

 

 一本一本、絡み合う糸が、勢いよくほつれるときみたいに。

 

「みんな……っ!わる、く、ない……のにっ!わ、わたし……が、わるい、のにっ!」

 

「……あんまり、自分を責めすぎるな」

 

 僕は、銀から離れて。

 

「モリーナ、聞いてくれ。頼む」

 

「やだ……っ!もういや……っ!やだぁ……っ!」

 

 ヴェインの手は、届かなかった、けど。

 

 届かなかった、から。

 

 僕が、手を。

 

 伸ばして、あげたくて。

 

「おねがい……っ!わた、わたし……を――っ!」

 

「モリ――レイドっ!?」

 

 だって、迷子なんだ。

 

 モリーナさんは。

 

「レイド、くん……っ」

 

「モリーナさん。もう、大丈夫だよ」

 

 誰かが。

 

「やめ……てっ、おねが――」

 

「僕たちが、いるからね」

 

 抱きしめて、あげないと。

 

「わた……わた、し……っ!」

 

「レイド……」

 

 ひとりは、嫌だから。

 

「うぅ……ううううあああぁぁぁぁぁっ!」

 

 僕が泣いた日に。

 

 母さんが、やってくれた、みたいに。

 

「ごめ、んな、さいいいぃぃぃぃっ!ご、ごめっ!ああぁぁぁっ!ああああぁぁぁぁぁっ!」

 

 ぽんぽんって、背中を。

 

 寂しいって言ってる、背中を。

 

 抱きしめる。

 

「レイド……お前ってやつは……」

 

 ヴェインの声が、聞こえて。

 

 頭に、ごつごつした手。

 

「……ありがとうな。正直、助かった」

 

 そのまま、優しく。

 

 撫でてくれて。

 

「……はーぁ、空が青いねぇ」

 

 手が、離れて。

 ちらりと、ヴェインを見れば。

 また、空を見上げてて。

 

 なんだか、寂しそうに見えたけど。

 耳元の、泣き声のほうが、大事だから。

 

「……いい子、いい子」

 

 母さんが、僕にしてくれたことを。

 

 僕のあたたかさを。

 

 届けたくて。

 

 安心、してもらいたくて。

 

「……もうちょっと休んだら、仕事だな」

 

 だんだんと。

 

 泣き声が、落ち着いて。

 

「……まぁなんだ。レイド、もうちょっとそうしておいてやってくれ」

 

「……うん」

 

 すぅ、すぅ、と。

 

 ハティの寝息と、重なって。

 

 少し、体が重く感じたけど。

 

 胸の奥の棘は、なくて。

 

 また。

 

 あたたかい陽だまりと。

 

 風が。

 

 僕たちを、包んでくれて。

 

 草の匂いが、広がった。




( 'ヮ')<モリーナさんって当初名前のないモブキャラだったんですよ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。