五感を捨てて世界を救う。~色彩も、味も、温もりも。全部キミの明日を綴る火種にした~ 作:ねむ。
ぼーっと、空を見上げる。
たくさんの、しろが。
真っ青な布の上に、にじんでいくように。
「……あ……あぅぅ……っ」
「……あー……」
ハティの寝息と。
母さんの作業場の、ふいごみたいに。
ふくらんだり、しぼんだりしてる、おなか。
なんだか、僕もねむく、なってきて。
「……そ、その……あの……っ」
「……まぁ、なんだ……」
ぷかぷかと、ういていれば。
「……落ち着いたようで、よかったよ」
「……す、すいません……でし、た……」
ヴェインと、モリーナさんのこえが、遠くにあるようで。
「謝るな謝るな、お前は悪くないって言ってるだろ?」
「……で、ですが……っ」
ハティにくっついて、もぞもぞとして。
「ですがもなにもない。レイドもお前のせいじゃないって言ってたろ?」
「……あっ……」
太陽のにおいが、広がって。
すごく、おちつく。
「それとも、今度は俺の胸で泣くか?」
「そ……っ!?そんなこと、しませんっ!?」
びくっと、震えて。
どきどきと、ふたりのほうを、見れば。
真っ赤な木の実みたいになってる、モリーナさんと。
どこまでも優しそうな顔をしてる、ヴェイン。
ヴェインの瞳と、目が合って。
「おう、レイド。おはようさん」
「ね、ねてないっ!?」
「はっはっはっ」、なんて。
ヴェインは笑ってるけど。
「ほんとにっ!ねてないからっ!」
「わかったわかったっ!レイドくんは寝てないもんなっ!」
顔を押さえて、笑ってる顔に。
すごく、なにかを、ぶつけてやりたい。
「そんな目で見るなよレイドくん」
「……ヴェイン、『さん』、のこと。僕、嫌い」
「――っ!?」
ヴェインが、大きく口を開けたかと思ったら。
すぐ、ごほんって咳をして。
腰に手を当ててから。
「ま、まぁ、あれだな!丸く収まったってことで、なっ!」
「……」
モリーナさんは、それを見てて。
大丈夫かなって、思ったけど。
黒の強い、藍色の瞳は。
もう、迷子みたいな感じは、しなかった。
それが、少し下を向きながら、だったけど。
僕のほうを、見て。
「れ……っ、レイド、くんっ」
「う、うんっ」
胸の前で、手を握っていて。
「あのときは、本当にっ!本当に、ごめんな――」
「あやまら、ないで、いいよ?」
僕は、謝ってほしいわけじゃ、なくて。
「え……っ」
「モリーナさんも、大変だったと、思うし……その……えーっと……っ」
なんて言えば、伝わるか。
「あのとき、は……すごく怖かった、し……よく、覚えてない、けど……っ」
一瞬、グウィン様の目を、思い出して。
ちくりと、したけど。
頭を振ってから。
「……僕も、ハティも、母さんも……あと、ヴェインさんも……」
頑張って、考えながら。
黒い藍色を、真っすぐ。
「みんな、元気だから……モリーナさんが謝ること、ない、よ?」
「……っ」
「……はぁ、レイド」
ヴェインの、黒い藍色は。
すごく、すごく、あたたかくて。
「お前……すげぇなぁ……」
なんて。
よく、わかんなかったけど。
「うぅ……っ」
モリーナさんが、泣いちゃって。
でも、さっきみたいな、嵐が来たときみたいじゃ、なくて。
「……ありがとう……ありがとうね……っ」
「……はーぁ、ほんと。すげぇやつだよ、お前は」
晴れてる日に、少しだけ雨が降るような。
そんな、感じ。
「……?」
「はは、まあいいさ」
ヴェインが立ち上がって、そのまま背中を向けた。
「俺はちょっくら地図取ってくる。お前らはここでゆっくりしときな」
「……はいっ、ヴェイン隊長」
「レイドを頼んだ」って言って。
ヴェインはそのまま、少し奥の小屋に向かって。
僕と、モリーナさんと、ハティ。
ハティは寝てるし。
モリーナさんは、まだ少し泣いてて。
なにか、話を。
しないと、いけないような。
そうして、寝てるハティを撫でていると。
薄ら、目が開いて。
その隙間の金色。
くぁっと欠伸をひとつと。
大きな体を、これでもかと伸ばして。
また、気持ちよさそうに。
「……もう、大変だったんだから」
ハティのお腹を、突っついて。
くすぐったいのか、もぞもぞ動いた。
そのまま続けていると。
くすって、笑い声が、聞こえて。
「……ふたり……ふたり?……は、仲良しなんだ、ね?」
モリーナさんは、僕たちのほうを見ていて。
「……うん。ハティは、家族、だから」
「あっ……。かぞ、く……」
「うん」
ちらりと見れば。
ハティの金色も、モリーナさんのほうを向いてて。
「……そっか……そう、だよね……かぞくは、大事……だもんね……」
ハティは立ち上がって。
モリーナさんのほうに、歩いていく。
「あっ……」
くんくんって、匂いを嗅いで。
僕にも、草の匂いの混じった。
あたたかい匂いが、流れてきて。
「……っ!」
ぺろりと、モリーナさんの指先を舐めたあと。
頭を、膝の上に置いた。
「……ハティは、モリーナさんも家族だ、って」
「――――っ」
また、雨が降ってきたけど。
気にしない。
だって、空は晴れてるから。
僕も立ち上がって、モリーナさんの隣に座る。
「……うぅ……ぅぅ……っ」
モリーナさんの手は、握られてて。
その上に、水が落ちてたけど。
「ハティが、撫でていいよって」
「……ぅん……っ、うんっ」
震える手が、ハティを撫でて。
そこからまた、あたたかい気持ちが。
「……あたた、かいね……」
「うん、ハティはあったかいんだ」
なんて。
僕も一緒に、撫でる。
「……ルルも、心配してたよ」
「……隊長も、言ってたね……」
ハティの銀色は、気持ちいいけど。
少し、濡れていて。
「泣いては、いなかったけど、お姉ちゃんが遊んでくれないって」
「……うん」
「ほっぺをぷくってさせてた」
「ふふっ……帰ったら、たくさん遊ばないと……ね」
ハティがまたくぁっと、欠伸をして。
「あっ、眠い……のかな。撫でるのやめたほうが、いい?」
「ううん。気持ちいいから続けろって」
「ふふふっ、そっか」
「ふたりは本当に仲良しなんだね」、なんて。
少しだけ、顔があつくなった。
陽だまりの中に、影が差して。
振り返ると、ヴェイン。
「……待たせたな」
そう言って、僕の頭を撫でてくれた。
やっぱり、硬いけど、あたたかい手。
「さってと、地図も取ってきたことだし。俺らはそろそろ行くか」
「う、うん。でも、いいの?」
ちらりと、モリーナさんを見て。
「いいんだよ。モリーナにも仕事があるし、俺らは俺らの仕事だ。モリーナも、それでいいだろ?」
「あっ、はいっ!」
手は、震えてなくて。
「で、でも、最後にいいですかっ!?」
「――おう」
ハティは、モリーナさんから離れて。
階段の方に向かって歩いていた。
「レイドくんも、ハティも、本当にありがとう――これからも、よろしくね」
「うん、もちろん」
雨に濡れて、陽射しでキラキラしてるけど。
モリーナさんは、花が咲いたように、笑って。
僕も、一緒になって。
「よし、そんじゃ行くか」
「『落とし羽』で行かないの?」
「お前なぁ……レイド一人ならいいけど、ハティはさすがに無理だ。散歩ついでに歩きだ」
すこし、落ち込む。
もしかしたら、空を飛べるんじゃないか、なんて。
思ってた、から。
「ふふ、レイドくんは可愛いね」
「……そんなんじゃ、ないよっ」
ハティが階段の前で、待ってるから。
足を、動かして。
「あー、そんじゃなモリーナ。今日は早く帰ってちゃんと飯食えよ」
「はい。隊長――」
空が、どこまでも、晴れていて。
「――あん?なんか言ったか?」
「――いいえ。お仕事、頑張ってくださいね」
「おう、そっちもな」
僕と、ヴェインの、足音。
銀色は、座ってて。
階段の下に。
緑が、広がっていた。
( 'ヮ')<レイドくん、『落とし羽』は次の機会だね。