五感を捨てて世界を救う。~色彩も、味も、温もりも。全部キミの明日を綴る火種にした~   作:ねむ。

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第七話(3)

 ぼーっと、空を見上げる。

 

 たくさんの、しろが。

 

 真っ青な布の上に、にじんでいくように。

 

「……あ……あぅぅ……っ」

 

「……あー……」

 

 ハティの寝息と。

 母さんの作業場の、ふいごみたいに。

 ふくらんだり、しぼんだりしてる、おなか。

 

 なんだか、僕もねむく、なってきて。

 

「……そ、その……あの……っ」

 

「……まぁ、なんだ……」

 

 ぷかぷかと、ういていれば。

 

「……落ち着いたようで、よかったよ」

 

「……す、すいません……でし、た……」

 

 ヴェインと、モリーナさんのこえが、遠くにあるようで。

 

「謝るな謝るな、お前は悪くないって言ってるだろ?」

 

「……で、ですが……っ」

 

 ハティにくっついて、もぞもぞとして。

 

「ですがもなにもない。レイドもお前のせいじゃないって言ってたろ?」

 

「……あっ……」

 

 太陽のにおいが、広がって。

 

 すごく、おちつく。

 

「それとも、今度は俺の胸で泣くか?」

 

「そ……っ!?そんなこと、しませんっ!?」

 

 びくっと、震えて。

 どきどきと、ふたりのほうを、見れば。

 

 真っ赤な木の実みたいになってる、モリーナさんと。

 どこまでも優しそうな顔をしてる、ヴェイン。

 

 ヴェインの瞳と、目が合って。

 

「おう、レイド。おはようさん」

 

「ね、ねてないっ!?」

 

 「はっはっはっ」、なんて。

 ヴェインは笑ってるけど。

 

「ほんとにっ!ねてないからっ!」

 

「わかったわかったっ!レイドくんは寝てないもんなっ!」

 

 顔を押さえて、笑ってる顔に。

 すごく、なにかを、ぶつけてやりたい。

 

「そんな目で見るなよレイドくん」

 

「……ヴェイン、『さん』、のこと。僕、嫌い」

 

「――っ!?」

 

 ヴェインが、大きく口を開けたかと思ったら。

 すぐ、ごほんって咳をして。

 腰に手を当ててから。

 

「ま、まぁ、あれだな!丸く収まったってことで、なっ!」

 

「……」

 

 モリーナさんは、それを見てて。

 大丈夫かなって、思ったけど。

 

 黒の強い、藍色の瞳は。

 

 もう、迷子みたいな感じは、しなかった。

 

 それが、少し下を向きながら、だったけど。

 僕のほうを、見て。

 

「れ……っ、レイド、くんっ」

 

「う、うんっ」

 

 胸の前で、手を握っていて。

 

「あのときは、本当にっ!本当に、ごめんな――」

 

「あやまら、ないで、いいよ?」

 

 僕は、謝ってほしいわけじゃ、なくて。

 

「え……っ」

 

「モリーナさんも、大変だったと、思うし……その……えーっと……っ」

 

 なんて言えば、伝わるか。

 

「あのとき、は……すごく怖かった、し……よく、覚えてない、けど……っ」

 

 一瞬、グウィン様の目を、思い出して。

 

 ちくりと、したけど。

 

 頭を振ってから。

 

「……僕も、ハティも、母さんも……あと、ヴェインさんも……」

 

 頑張って、考えながら。

 

 黒い藍色を、真っすぐ。

 

「みんな、元気だから……モリーナさんが謝ること、ない、よ?」

 

「……っ」

 

「……はぁ、レイド」

 

 ヴェインの、黒い藍色は。

 すごく、すごく、あたたかくて。

 

「お前……すげぇなぁ……」

 

 なんて。

 

 よく、わかんなかったけど。

 

「うぅ……っ」

 

 モリーナさんが、泣いちゃって。

 でも、さっきみたいな、嵐が来たときみたいじゃ、なくて。

 

「……ありがとう……ありがとうね……っ」

 

「……はーぁ、ほんと。すげぇやつだよ、お前は」

 

 晴れてる日に、少しだけ雨が降るような。

 

 そんな、感じ。

 

「……?」

 

「はは、まあいいさ」

 

 ヴェインが立ち上がって、そのまま背中を向けた。

 

「俺はちょっくら地図取ってくる。お前らはここでゆっくりしときな」

 

「……はいっ、ヴェイン隊長」

 

「レイドを頼んだ」って言って。

 ヴェインはそのまま、少し奥の小屋に向かって。

 

 僕と、モリーナさんと、ハティ。

 

 ハティは寝てるし。

 モリーナさんは、まだ少し泣いてて。

 

 なにか、話を。

 しないと、いけないような。

 

 そうして、寝てるハティを撫でていると。

 薄ら、目が開いて。

 その隙間の金色。

 

 くぁっと欠伸をひとつと。

 大きな体を、これでもかと伸ばして。

 

 また、気持ちよさそうに。

 

「……もう、大変だったんだから」

 

 ハティのお腹を、突っついて。

 くすぐったいのか、もぞもぞ動いた。

 

 そのまま続けていると。

 くすって、笑い声が、聞こえて。

 

「……ふたり……ふたり?……は、仲良しなんだ、ね?」

 

 モリーナさんは、僕たちのほうを見ていて。

 

「……うん。ハティは、家族、だから」

 

「あっ……。かぞ、く……」

 

「うん」

 

 ちらりと見れば。

 ハティの金色も、モリーナさんのほうを向いてて。

 

「……そっか……そう、だよね……かぞくは、大事……だもんね……」

 

 ハティは立ち上がって。

 モリーナさんのほうに、歩いていく。

 

「あっ……」

 

 くんくんって、匂いを嗅いで。

 僕にも、草の匂いの混じった。

 あたたかい匂いが、流れてきて。

 

「……っ!」

 

 ぺろりと、モリーナさんの指先を舐めたあと。

 頭を、膝の上に置いた。

 

「……ハティは、モリーナさんも家族だ、って」

 

「――――っ」

 

 また、雨が降ってきたけど。

 

 気にしない。

 

 だって、空は晴れてるから。

 

 僕も立ち上がって、モリーナさんの隣に座る。

 

「……うぅ……ぅぅ……っ」

 

 モリーナさんの手は、握られてて。

 

 その上に、水が落ちてたけど。

 

「ハティが、撫でていいよって」

 

「……ぅん……っ、うんっ」

 

 震える手が、ハティを撫でて。

 そこからまた、あたたかい気持ちが。

 

「……あたた、かいね……」

 

「うん、ハティはあったかいんだ」

 

 なんて。

 僕も一緒に、撫でる。

 

「……ルルも、心配してたよ」

 

「……隊長も、言ってたね……」

 

 ハティの銀色は、気持ちいいけど。

 

 少し、濡れていて。

 

「泣いては、いなかったけど、お姉ちゃんが遊んでくれないって」

 

「……うん」

 

「ほっぺをぷくってさせてた」

 

「ふふっ……帰ったら、たくさん遊ばないと……ね」

 

 ハティがまたくぁっと、欠伸をして。

 

「あっ、眠い……のかな。撫でるのやめたほうが、いい?」

 

「ううん。気持ちいいから続けろって」

 

「ふふふっ、そっか」

 

 「ふたりは本当に仲良しなんだね」、なんて。

 少しだけ、顔があつくなった。

 

 陽だまりの中に、影が差して。

 振り返ると、ヴェイン。

 

「……待たせたな」

 

 そう言って、僕の頭を撫でてくれた。

 やっぱり、硬いけど、あたたかい手。

 

「さってと、地図も取ってきたことだし。俺らはそろそろ行くか」

 

「う、うん。でも、いいの?」

 

 ちらりと、モリーナさんを見て。

 

「いいんだよ。モリーナにも仕事があるし、俺らは俺らの仕事だ。モリーナも、それでいいだろ?」

 

「あっ、はいっ!」

 

 手は、震えてなくて。

 

「で、でも、最後にいいですかっ!?」

 

「――おう」

 

 ハティは、モリーナさんから離れて。

 階段の方に向かって歩いていた。

 

「レイドくんも、ハティも、本当にありがとう――これからも、よろしくね」

 

「うん、もちろん」

 

 雨に濡れて、陽射しでキラキラしてるけど。

 モリーナさんは、花が咲いたように、笑って。

 僕も、一緒になって。

 

「よし、そんじゃ行くか」

 

「『落とし羽』で行かないの?」

 

「お前なぁ……レイド一人ならいいけど、ハティはさすがに無理だ。散歩ついでに歩きだ」

 

 すこし、落ち込む。

 もしかしたら、空を飛べるんじゃないか、なんて。

 思ってた、から。

 

「ふふ、レイドくんは可愛いね」

 

「……そんなんじゃ、ないよっ」

 

 ハティが階段の前で、待ってるから。

 

 足を、動かして。

 

「あー、そんじゃなモリーナ。今日は早く帰ってちゃんと飯食えよ」

 

「はい。隊長――」

 

 空が、どこまでも、晴れていて。

 

「――あん?なんか言ったか?」

 

「――いいえ。お仕事、頑張ってくださいね」

 

「おう、そっちもな」

 

 僕と、ヴェインの、足音。

 

 銀色は、座ってて。

 

 階段の下に。

 

 緑が、広がっていた。




( 'ヮ')<レイドくん、『落とし羽』は次の機会だね。
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