五感を捨てて世界を救う。~色彩も、味も、温もりも。全部キミの明日を綴る火種にした~   作:ねむ。

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第一章第八話(1)

 風が吹き抜けて。

 

 草と、木の枝が、ざわざわと。

 

 空にある、いくつもの白は。

 

 足元の、不変石の境界のようにも見える。

 

「おーいレイドー、置いてくぞー」

 

 空を見ていれば。

 ヴェインの声が、聞こえてきて。

 

「あ、今行くーっ!」

 

 ハティは、僕とヴェインの間で。

 時折、くぁっと欠伸をしながら。

 一緒に散歩みたいな、ヴェインのお仕事をしている。

 

 『月節の宴』の前にやる大事なことだって、言ってたけど。

 

 ヴェインは、地図を見ながら。

 

 時々、立ち止まったり。

 不変石の地面を触ったり。

 境界から、村の崖の壁まで歩いたりしてるだけで。

 

 たぶん、銘剥が起きてないかを、見てるんだと思うけど。

 なにをしているのか、よく、わからない。

 

「……ねぇ、ヴェ……ヴェイン……っ」

 

「ん-?なんだー?なにかあったかー?」

 

 呼び捨てにしてみても、効果はなくて。

 ずっと、地図を見ながら。

 時々、別の羊皮紙に。

 なにかを、書いたりしていて。

 

 途中で、ポケットの中の。

 コンパスが、熱くなったりしたけど。

 取り出して確認しても、くるくる回ってるだけで。

 

 そのときは、頭を振って、仕舞い直した。

 

 ハティに、「つまんないね」って言えば。

 欠伸で、応えてくれる。

 

 くるりと、一周。

 境界の上を、ゆっくり回って。

 村の入口に戻ってきた、頃。

 

「……ふぅむ」

 

 あんまり喋らなかったヴェインが。

 

「……もう少し……見た……いいか……」

 

 本当に小さく、呟いて。

 

 たぶん、ハティがいなかったら。

 

 聞けてなかった、音。

 

「レイドすまん、途中で落とし物したみたいでよ。もう少し付き合ってくれ」

 

「……うんっ」

 

 気づかなかった、ことにして。

 ハティの銀に、手を置く。

 

 ヴェインが、また歩き出して。

 今度は、白い境界と、ふつうの地面の、間。

 そのあたりを、ゆっくり、本当にゆっくり歩いてる。

 

 ちらりと見える黒い藍色の瞳は。

 地図と、境界と、地面を。

 行ったり来たりしていて。

 

 ハティがまた、くぁっと欠伸をして。

 僕も、つられてしまう。

 

 ぷかぷかと、うきそうになるけど。

 お仕事の、とちゅう、だから。

 なんとか、耐えないと、いけなくて。

 

「…………ここか」

 

 ヴェインの足が止まって。

 そのまま、崖のほうに歩いていく。

 

 途中、地面を触っては、また歩いて。

 それを何度か繰り返していた。

 

 ぼーっと、見ていれば。

 チリっとポケットがあつくなって。

 

 取り出してみれば。

 針は、やっぱりくるくる回っていたけど。

 

 何度か、ヴェインの背中を。

 その向こう側を、指していて。

 

「……ハティ」

 

 コンパスを戻して。

 声をかければ、すぐ側に。

 

 さっきまで眠そうに、していたのに。

 今は、全然。

 

 そんな感じが、しない、僕の友達。

 

 ふたりで、頷いて。

 こっそり、ヴェインの後ろについていく。

 

 境界から動くな、とか。

 言われてないから、たぶん、大丈夫。

 

 濃い茶色に、ところどころ緑がある地面。

 草の匂いも土の匂いも、ちゃんとして。

 

「……なにも……ない?」

 

 ヴェインは、もう崖の近くにいて。

 大丈夫かな、と思っていれば。

 

「……?」

 

 なんだか、少し。

 変な、感じ。

 

 ハティも、僕と同じことを思ったのか。

 前足で、何度も同じところを踏んでて。

 

 たしかに、地面なはず、なんだけど。

 

 どこか色が、薄いような。

 

 また、ポケットがあつくなって。

 コンパスを取り出せば。

 

 今度は、僕とハティのいる地面を、指してて。

 

 震えも。

 

 チリっていう感じじゃなくて。

 

 すこし、重いような、感じがする。

 

 やっぱり僕に、なにかを伝えようとしているような。

 

「んお、レイドにハティ。お前らいつの間に」

 

 なんだろうって、考えながら。

 

 コンパスの針が指す先が、変わって。

 その先に、ハティと歩いていると。

 

 いつの間にか、ヴェインの近く。

 

 村の崖の、すぐそばに、いて。

 

「随分と年季入ったコンパスだなぁ」

 

「……見せたこと、なかったっけ?」

 

「おう、初めて見た――いや、でもどこかで――っ」

 

 ヴェインが、顎に手を当てたかと思ったら。

 すぐ、頭を押さえた。

 

「えっ、だ、大丈夫っ!?」

 

「――あー、大丈夫、大丈夫だ。本部の前でもなった頭痛だよ」

 

 「たまにあるんだよなぁ」、なんて。

 ポケットに、コンパスをしまったけど。

 

 ちらりと、崖を見ると。

 

 ハティと会った日の朝に。

 ニコの近くで見た、一部分が白くなった岩、みたいに。

 

 崖の、ほんの少しだけの、岩壁が。

 

 しろく、なっていて。

 

 足元が、一気に。

 

 つめたく、なって。

 

 これって、もしかして。

 

 銘――。

 

「おーい、レイド―。元のとこまで戻るぞー」

 

 はっと、息を吐いて。

 耳の奥で、ドクドクと。

 

 隣にいるハティに、手を置きながら。

 

 地図を見ながら境界に戻るヴェインに、またついていった。

 

「……落とし物、あった?」

 

「……いや、見つからなかったな。すまんがもう少しだけ、な?」

 

 こくり、と頷いたけど。

 見えたヴェインの顔は。

 

 怒ってるような。

 なにかに追われてるような。

 

 そんな、感じがして。

 

 僕と話すときは、笑ってくれてたけど。

 それも、無理をしているように、見えた。

 

「……僕も一緒に、探そ……っか?」

 

 そう、聞いてみれば。

 

「いや、大丈夫だ。レイドはハティと一緒に、日向ぼっこでもしててくれ。あでも、俺の見えるとこでなっ!」

 

 なんて。

 太陽みたいな、笑顔だったけど。

 

 手元の地図と、羊皮紙を見ればすぐ。

 

 真剣な、顔。

 

 ヴェインがなにをしているのは、やっぱりわからないけど。

 さっきの、崖で見た、しろ。

 あれと、ニコの近くの岩。

 

 それと。

 

 ハティと、出会った、あの場所。

 

 あの、全部が、白くて。

 

 真ん中の泥を、囲むように広がっていた。

 

 円形の、広場。

 

 そこと、繋がっているような、気がして。

 泥が、村に。

 

 近づいて、いるような。

 

 ぎゅっと、ハティの銀を掴めば。

 そっと、近くで寄り添ってくれて。

 そのあたたかさが、すごく、嬉しくて。

 

 不変石の、白い境界の上を。

 ヴェインの後ろを離れないように、進む。

 

 ヴェインは、それからも何度か、同じことを繰り返して。

 

 「落とし物見つかったよ」、なんて笑って。

 すぐ、村の入口まで、戻ってきた。

 

 そのまま、羊皮紙になにかを書いていたかと思えば。

 

「あー、レイド。すまんが先に家に帰っていてくれないか?」

 

「……いいけど……なにか、あった?」

 

 ヴェインは、頭を掻いて。

 

「……いや、なんにもない、大丈夫だ。ただ、地図を本部に戻さないといかないからよ」

 

 そのまま、僕の目を見ながら。

 

「ちょっと、お前の家に行くのが遅くなりそうだからよ。すまんが、エララさんにもよろしく言っておいてくれないか?」

 

「……でもっ」

 

 ぽんっと、頭に手を置かれて。

 

「だーいじょうぶだって!お前は先に帰って、エララさんに極上のスープを作ってもらっておいてくれ。俺も、すぐ行くからよ」

 

「……うん」

 

「よし、良い子だ」

 

 頭を撫でられたけど。

 ずきっと、胸の奥が、痛んで。

 

「また、あとでねっ」

 

「おう!」

 

 手を振って、家に続く石段を上がる。

 

 ハティは、僕の横で。

 後ろを振り返れば、ヴェインはまた、羊皮紙になにかを書いていた。

 

 ヴェインは、お目付け役っていうお仕事も、あったはずなのに。

 

 僕とハティを、先に帰さないといけないくらいの。

 

 なにかが、あって。

 

 たぶん、それは――。

 

「……ハティ。走って、帰ろっか」

 

 今は、とにかく早く。

 

 母さんの顔が、見たくて。

 

 たくさん、抱きしめて、ほしくて。

 

 石段を、ハティと風になりながら。

 

 急いで、駆け上った。




( 'ヮ')<なんか空気が重くなってきたな。
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