五感を捨てて世界を救う。~色彩も、味も、温もりも。全部キミの明日を綴る火種にした~   作:ねむ。

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( 'ヮ')<本日も2話投稿です。


第四話(1)

 ――キラキラ、キラキラと。

 

 星が、今にも落ちてきそうで。

 

「……ねぇ、ハティ」

 

 横にいる銀の狼に、話しかける。

 

「空ってさ。……こんなに、綺麗だったんだね」

 

 その気持ちの良い毛に、手を置いて。

 彼の熱と、僕の熱を、繋ぐ。

 

 もう片方の手で、自分の首筋を撫でる。

 

 何重にも、糸が巻き付いたような。

 

 そんな手触りが、して。

 ふふっと、笑ってしまう。

 

 一度、目を閉じて。

 空気を、吸い込んだ。

 

 泥の甘い匂いの中に、青臭い草の匂いが混ざって。

 

 この場所に来た時の気持ち悪さは。

 

 いつの間にか、なくなっていた。

 

 ブツ、ブツと、泥がはじける音は聞こえるけど。

 それも、今は遠くて。

 

 目を開いて、ハティを見る。

 銀色の毛は、月の光をそのまま吸収しているようで。

 どこまでも輝いていて、透き通って見えた。

 

 ゆっくりと、毛並みを楽しみながら。

 首筋、僕と同じ場所を、撫でる。

 

 僕のと、同じ。

 

 何重にも糸が巻き付いたような。

 

 ハティ自身の熱なのか、跡の熱なのかは、わからないけど。

 ほんのりと、温かい。

 

 僕と、彼が、ひとつになったっていう証。

 

 ぐぅっと、小さな唸り声が聞こえて。

 

「ごめん、くすぐったかった?」

 

 目を合わせながら、聞いてみたけど。

 ずいっと、近づいて来た。

 もっと撫でてもいいみたいだ。

 

 それなら、と思って。

 重い体を起こして。

 ハティに思いっきり抱きついた。

 

 すごく、ふわふわで。

 すごく、暖かい。

 

 息を吸えば、さっきまでの気持ち悪い匂いはなくなっていて。

 

 ハティの、匂いが広がった。

 

 銀色で、二つの月の光みたいなのに。

 毛布を干したあとみたいな、太陽の香り。

 それがどこまでも、落ち着く。

 

 そのままハティにくっついていると。

 すっと立ち上がって、歩き始めた。

 

 ぼーっとそれを感じながら、視線だけ送る。

 歩く先には、小さな狼がいて。

 ハティとは違って、全然大きくはないけど。

 たぶん、彼が助けた子。

 

 ふたりが、鳴き声で話をしているようで。

 僕には、よくわからないけど。

 

 ハティの、気持ちが――。

 

 『無事でよかった』

 

 『今度からこんなところに来るんじゃないぞ』

 

 ――直接、伝わってきて。

 

 胸の奥が、ぽかぽかと、温かくなる。

 頬が、勝手に緩んで。

 ぎゅっと抱き着きながら、ついつい撫でまわしてしまう。

 

 小さな子は、大きく鳴くと、森の奥に行ってしまって。

 また僕とハティの二人になった。

 

 ハティは、照れてしまったようで。

 僕と目を合わせてくれないけど。

 

 なんだか、嬉しくて。

 

「……やっぱり僕ら、似た者同士だ」

 

 体の重さは、いつの間にかなくなっていて。

 でも全部がなくなったというよりは。

 眠いときの体が重い感じじゃなくて。

 水を吸った服を着てるようなときの、重さ。

 

 ハティの背中から降りて。

 広場の中央、銘剥の泥を見る。

 

 僕が来たときよりも、少し広がっているように見えて。

 このまま止まらなかったら、村まで――。

 

 すぐに、頭を振って。

 村の周りには、不変石の境界線もあるから。

 この泥は、村には来れない。

 

 そう、信じる。

 

「……ハティ……」

 

 泥から目を離して。

 

「そろそろ、帰ろっか」

 

 金色と目を合わせて、聞いてみれば。

 

 低い鳴き声とともに、頷きを返してくれた。

 

 月が照らしていた広場に背を向けて、暗い森を歩く。

 どこから来たか、正直わからなくなってたけど。

 ひび割れた地面に残ってた足跡をたどって。

 真っすぐ、二人で歩く。

 

 甘い匂いが、どんどん遠ざかって。

 青臭い匂いが戻ってくるかなと、思っていたけど。

 森そのものが、生き物になって吐き出したかのような。

 洗い立ての布の香りがした。

 

 それに、少し驚いて。

 足を止めていたら、ハティと目が合った。

 その表情は、どこか得意げに見えて。

 

「もしかして……」

 

 さっき、ハティの気持ちが直接伝わってきたように。

 

「……この匂いも、教えてくれてるの?」

 

 ハティが、前を向いて。

 すぐ、頭の中に。

 

 全然暗くない、森の、景色が。

 

 ところどころ、淡い光が漂っていて。

 

 どこまでも、蒼くて。

 

 どこまでも、輝いていて。

 

 とても、綺麗。

 

「これ……は……」

 

 それと一緒に。

 

 遠くのほうで、草を食べる音と。

 

 なにかは、わからないけど。

 

 獣の鳴き声と。

 

 誰かが、叫んでる音。

 

 僕の世界が、一気に広がって。

 今まで見えていた、感じていたものよりも多くの。

 数えきれない、わからないくらいの。

 

 これが、ひとつになるっていう、ことなんだ。

 

 ハティの――。

 

 見えているもの。

 吸い込んでいるもの。

 食べているもの。

 感じているもの。

 

 ――全部が、僕の中に、流れ込んできて。

 

「……すごい」

 

 なんだか、よくわからないけど。

 

「これが、ハティ……」

 

 すごく、すごく、胸がいっぱいで。

 

「……キミの、見えているもの、なんだね……っ!」

 

 ハティの体に置いてる手を、ぎゅっと握る。

 僕たちが繋がってるっていうことが、感じられて。

 心から、嬉しい。

 

 僕の見えているもの、感じているものも。

 

 全部全部、届けたくて。

 

 必死に、心の中で。

 伝われと、願う。

 

 すると、ハティが、慌てたように。

 僕と目があったけど。

 その目は、どこかじとっとしている。

 

 どうやら、僕の思っていたことは。

 無事、届いたようだ。

 

 ふふっと、一つ笑って。

 

 ハティの、表情とは違う。

 

 嬉しいという想いを受け取って。

 

 グルゥ、と唸る。

 

 ハティの声を、聞いた。




( 'ヮ')<五感が広がって嬉しいね。
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