五感を捨てて世界を救う。~色彩も、味も、温もりも。全部キミの明日を綴る火種にした~   作:ねむ。

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( 'ヮ')<こちら本日2話目です。ご注意ください。


第四話(2)

 ふたりで、歩く。

 

 ハティの感覚が流れてくるのもあって。

 ここに来た時とは、本当に違う景色。

 

 どこか暗くて、でも明るかったように見えた森は。

 今は、蒼と白の、光の粒がたくさんあるみたいで。

 ずっとずっと、遠くまで見える。

 

 木の葉っぱも、枝も、幹も、全部が綺麗に見える。

 

 だから、広場に近いこの場所は。

 

 余計、灰色に近づいているのが、よくわかって。

 

 綺麗だなと思うけど。

 どこか、寂しいようにも思う。

 

 だって、やっぱり。

 周りの木とか、土とかから、熱を感じないんだ。

 

 生きてるっていう感じが、しない。

 

 すごく、寂しくて。

 心に、穴が開いたような。

 なにかが足りない感じが、する。

 

 僕の気持ちが伝わってしまったのか、ハティがすぐ近くに来てくれる。

 その首筋を撫でながら。

 

「なんで、みんな灰色になっちゃうんだろうね」

 

 そう、言ってみる。

 答えが欲しいわけじゃなくて。

 ただ、吐き出したかった。

 

 ハティのわからないっていう気持ちと。

 こんなものなくなってしまえば、という気持ちが。

 僕と、重なって。

 

「……こんなところ、はやく出ていこう」

 

 ハティの体に手を置いて。

 灰色の中を、森に向かって歩く。

 いや、森の中にはずっといるんだけど。

 この、生きているって思えない場所を、そうだとは思いたくない。

 

 ざりざりと、音がする。

 その中で、遠くのほうから。

 ほーっ、ほーっ、という音も聞こえてきて。

 

 ハティのおかげで、ふたりぼっちじゃないんだって。

 この灰色に染まっていきそうな森の中にも。

 

 ちゃんと、生きているものがいることを、知れる。

 

 泥は、怖いけど。

 それでも、僕たちは、歩いて行けるって。

 歩いていかないと、いけないって。

 

 なんだか、そんな気になってくる。

 

 でも、まずは。

 

 それも、とても大切なことだとは、思うけれど。

 

「――ねぇ、ハティ」

 

 一番、大事なこと。

 

「母さんに……」

 

 絶対に、逃げられない、こと。

 

「……ぜったい……おこられる……よね……」

 

 ハティは、よくわかってないようだけど。

 僕にはわかる。

 

 ハティのところに行くまでのことを、思い出せば。

 

 怒られることしか、やってないんだ。

 

 あのときは、急いでたから。

 見ないふりを、したけど。

 

 母さんの作業場で、絶対、見られた。

 

 あの、書庫から続いてる『隙間』から出たところも。

 急いで、作業場を、出たところも。

 

 そのとき、母さんには、呼ばれてないはずだけど。

 

 村の階段を走ってたときは、また別、だと思う。

 

 よく、思い出せない、けど。

 

 作業場を出た後、もしも母さんが僕を追ってたら。

 『迷いの森』に入るところも、見られたかも。

 

 母さんは、ずっと、優しいけど。

 

 怒ると、すごく、本当にすごく、怖い。

 

 それと、目が。

 

 僕と同じ、藍色が、とても悲しそうで。

 

 それを見ると、お腹の下が。

 

 氷を入れたときよりも、冷たくなる。

 

 村の決まりを破って、こんなところにいる。

 ハティも、一緒に。

 

 あと、ずっと、気が付かなかったけど。

 体のあちこちが、痛くて。

 ちらりと見れば、服がところどころ、破れていて。

 

 『隙間』を通ったときにできた、石の角で引っかかれたような傷や。

 地面に転んだ時に、擦りむいたような傷とか。

 

 それが、たくさん、ある。

 

 気が付いてしまえば。

 全部が全部、熱くなってるように、思えて。

 じんじんと、する。

 

「……いたたっ」

 

 少し、転びそうになって。

 ハティが、そっと寄り添ってくれる。

 心の中で、少し休むかって、聞かれたけど。

 

「ありがとう、大丈夫だよ。それよりもほら、もうすぐでちゃんとした森だね」

 

 先を、指でさせば。

 灰色に近い白と、青く輝いてるように見える、緑の境界。

 

 今いるところも、森だけど。

 ここは泥に変わりかけてるところ、だから。

 

 すぐ、境界を越えて。

 体の奥が、すごく軽くなったような。

 へたり込みそうになって。

 

 ハティのほうに、寄りかかってしまって。

 なにも言わないで、近くに寄ってきてくれて。

 

 ふと。

 

 僕たちは、たしかにひとつになったけど。

 どうして、ハティは。

 

 こんなに、僕に優しいんだろうって。

 

 金色の瞳が、僕と合って。

 

 ――キミはオレを助けてくれたから。

 

 心の中に、ハティの声が、想いが。

 まっすぐな金色と一緒に。

 一番大きく、はじけて。

 

 胸の奥がぎゅーっと、締め付けられて。

 

 それと一緒に、ぽかぽかと、温かくなって。

 

 笑顔に、なる。

 

 やっぱり、見られるのは、恥ずかしくて。

 歩きづらくなるけど、ハティに抱き着いて。

 

 走った後みたいに、どくどくとうるさい心と。

 元に戻らない顔を、頑張って落ち着かせる。

 

 ハティが、笑っているのも伝わってきて。

 

「……なんだよぉ」

 

 ここから、逃げたくなった。

 でも、この匂いを感じていると。

 

 だんだんと、落ち着いてきて。

 

 太陽の匂いの中に、深い草の匂い。

 さっきまでいた、灰色の場所でずっとしてた甘い香りは全部なくなって。

 ちゃんとした森の、空気がする。

 

 耳をすませると。

 ずっとずっと、たくさんの音が聞こえてくる。

 

 きちきちっていう小さな音や。

 かさかさと揺れてる、葉っぱの音。

 なにかの獣の鳴き声。

 それと。

 

 僕を探している、たくさんの、人の声。

 

 やっぱり、村のみんなには。

 僕が、ここにいることは、知られている。

 

 母さんか、僕に声をかけてくれた子か。

 

 たぶん、どっちかが、伝えたんだと思う。

 それか、走ってる僕を見た誰か。

 

 ハティから離れて。

 目を、よく開いて。

 先を見る。

 

 ハティのおかげで、よく見える森の先には。

 赤と、黄色の光。

 それも一つじゃなくて、指で数えられないくらいの、数。

 

 うっすら、僕の名前のようなものも、ちゃんと聞こえて。

 

「ハティ」

 

 その場に、止まる。

 探されてるのは、想像してたけど。

 こんなに多いとは、思ってなくて。

 

「……みんな、僕を探してるみたい、だね」

 

 ハティの目を見る。

 彼は首をかしげて、あれは仲間か、なんて。

 それに、頷いて。

 

「僕だけなら、僕が怒られるだけ、だったんだけどね……」

 

 ハティのことを、どう言えば、いいんだろう。

 

 僕を助けてくれた子。

 仲良くなった子。

 なついてくれた子。

 

 いろいろ、思いつくけど。

 たぶん、僕のことを探してるのは、狩猟隊の、みんな。

 

 どうにかして、ハティを。

 守らないと、いけなくて。

 

 僕が、怪我をしていなければ。

 ボロボロに、なっていなければ。

 

 まだ、よかったのかも、なんて。

 

 ――オレがいたら、よくないのか。

 

「そんなことないっ!」

 

 考えてることが通じてしまったのか。

 低い唸りが、響いた。

 

「ハティと僕はもう、一緒に歩いていくって決めたんだ」

 

 まっすぐ、金色の目を見て。

 

「僕が、絶対に……なんとかするっ!」

 

 方法は、わからないけど。

 なんとか、認めてもらわないと、いけない。

 

「行こう、ハティ。大丈夫だから」

 

 襲われていた僕を、ハティが助けてくれたって言えば。

 なんとか、出来るんじゃないか。

 そう、思う。

 

 でも、もしもグウィン様が、いたら。

 僕は、しっかり話すことが出来るのか、わからない。

 母さんと、ヴェインなら、きっと。

 

 話を、聞いてくれると、思う。

 

 母さんは、きっといる。

 

 だって、うっすらだけど。

 

 流れて来る声の中に、いるような気がするんだ。

 

 僕が、母さんの声を、間違えるはずがない。

 

 頭の中で、ぐるぐる考えながら。

 僕とハティが、離れないように、しないといけない。

 

 でも、話を聞いて、もらえなかったら。

 

 認めて、もらえなかったら。

 

 最悪。

 

 村を、出ることに、なっても。

 

 僕が、必ずハティを、守るんだ

 

 でも。

 

 できれば。

 

 できる、ことなら。

 

 ニコのいる村から。

 

 みんなのいる、村から。

 

 なにより、母さんから。

 

 離れたく、ない。

 

 だから、僕が、なんとかしないと。

 

 ――レイド。

 

 ハティが、低く唸って。

 

 ――キミのことを、信じる。

 

 金色の瞳は、揺れてなくて。

 それに、僕は。

 頑張れるような。

 

 元気を、もらえて。

 

「――うん。まかせて」

 

 頭の中が、気持ちよく寝れたときのように。

 重りが、なくなる。

 

 ハティと一緒に、赤い色の点に向かって。

 

 きっと、ふたりでいれると。

 

 そう、願って。

 

 風が、葉っぱを揺らして。

 

 その隙間から、月の光が見えた。




( 'ヮ')<お母さんって怒ると怖いですよね。
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