放送事故ではありません。   作:宇宙きのこ(ヴァーチャル)

13 / 13
彼女に落ち度はありません。
そういうモノに運悪く目をつけられただけです。
水瀬編はこれで終りです。


後でちょいちょい微修正するかも?


幕間、番外としてお楽しみください。
次回から本編時間軸に戻していきます。


⬬⬭ ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳◖ ̿̈᚛ᚌᚏ᚜̷̲! 水瀬 ̴̿⦿  ユ゙イ゙繧?>縺ァ繝シ縺! 

 

 

よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ 

よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ 

よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ よこせ 

 

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 

 

 

 

 

 

水瀬結衣は、自分がいつ眠り、いつ起きているかさえ判らなくなっていた。

朝になれば窓から白い光が差し込み、夜になれば向かいの建物の窓明かりが薄く浮かぶ。

 

 

それによって時間が動いていることだけはわかったが、彼女自身の中では、昨日と今日の区分は既に曖昧となっていた。

既に彼女はカレンダーアプリを見なければ今が何日であるかも判らなくなっていた。

 

 

布団へ入って目を閉じても眠れず、いつの間にか意識が途切れたと思えば、数十分後には喉の奥を掴まれるような感覚に恐れと共に飛び起きた。

夢を見た記憶もなく、ただ、眠っているあいだにも自分の知らないところで何かが己の声で喋っていたのではないかという恐怖だけが彼女の睡眠を妨げていた。

 

 

 

カチ、カチ、カチ、カチ、カチ。

時計の音がずっと無機質に秒針を刻んでいる。

 

 

 

彼女の部屋の中には配信機材たちが薄暗い帳の中で凍り付くように放置されている。

 

 

奮発して買った高性能のパソコン。

画質を気にして買った有名な会社のモニター。

ずっと使うことになると考え、かなり無理して取り寄せたマイク。

音に拘るためと言い訳しながら震える指でポチッたヘッドホンとオーディオインターフェース。

 

 

録音の際に使う譜面台に喉を守るための加湿器。

飲みかけの水と書き込みだらけの歌詞カード。

これらは彼女の水瀬ユイとしての歴史であり足跡だった。

 

 

どれも彼女が歌うために揃え、少しずつ買い足し、大切に使ってきたものだった。

最初はマイク以外はこれらよりも安い機材から始め、動画が少し伸びるたびに良いものへ替えた。

 

 

 

初めてまとまった金が入った時には迷った末に高額なPCを買い、箱を開ける前に何枚も写真を撮った。

自分にはまだ早いのではないかと思いながら、それでもこれに見合う歌い手になろうと決めた。

 

 

 

今では、それらすべてが水瀬を監視する道具に見えた。

あんなに輝いていた思い出の象徴だったのに、見るだけで動悸が激しくなる枷にいまや成り果てている。

 

 

 

ずっとずっとずっと「音」を意識してしまい寝ても覚めてもそれだけを彼女は考えていた。

もはや幻聴なのか現実なのかも判らない。

 

 

怖くて怖くて仕方がなかった。

PCの電源を落としていても、ケーブルを抜いても、マイクへ布をかけても、ヘッドホンを引き出しの奥へ押し込んでも安心できない。

 

 

 

声を記録するために集めたものが、彼女から奪った声を保存し、増やし、外へ配るための病原菌に思えてしまう。

理屈では、そんなことはないとわかっていた。

機材はただの機材で、パソコンもマイクも自分から動くことなんてありえない。

これらは人間が操作しなければ動かないただの道具だ。

 

 

 

水瀬ユイの動画は彼女が何もしなくても拡散され続けていた。

動画とはそういうものだ。

一度配信サイトに公表してしまったものは決して消えない。

 

 

 

誰かが再生ボタンを押し、誰かが最後まで彼女の歌を聞いてこの人は上手いなと頷く。

誰かが「凄い」などのコメントを残し、誰かが別の場所に「水瀬ユイ」についてという記事を執筆した。

誰かが気に入った部分を切り出し、強くソレを認知して何度も聞き返した。

 

 

 

それらが重なっていく。

一人ではなく何万という単位でだ。

かつては口伝で何日もかかった認知の拡散はこの時代においては数時間で片付いてしまう。

 

 

昔のアイドルは地道な広報活動をしていた。

しかし今やこのネットが普及した世の中ではその過程は全てがスキップされるのだ。

 

 

 

特にこの動画配信の黎明期ではその感染速度は異常としか言いようがない。

その結果、水瀬結衣の知らないところで「水瀬ユイ」が何度も歌う。

必死に水瀬が積み上げてきた居場所を奪い取り、そこで歌い続ける。

 

 

 

水瀬結衣はもう歌えないのに「水瀬ユイ」の歌を誰もが求めている現実が彼女に返ってきて首を絞めた。

 

 

 

……実のところ、本音を言うと水瀬は誰かと喋りたかった。

幼いころから歌声を褒められたことも多々あったが、それ以上に彼女は社交的な人物だったのだ。

でなければこんな配信者や歌い手なんてやってないし、ここまで積み重ねて一定の人気を得ることなど不可能だろう。

 

 

 

 

彼女は小学生、中学生、高校とずっと友達づきあいは良かった。

常にコミュニティの中心で普通の雑談を面白おかしい談笑に盛り上げる話術も彼女はもっていたのだ。

 

 

 

そんな彼女にとって今の状況は拷問である。

 

 

喉の奥では言葉になろうとする意志/感情が常に押し込められていて、頭の中にも言いたい事は強く渦巻いている。

例えば水が欲しい。眠りたい。怖い。苦しい。助けてほしい。

誰かにこの苦しみをわかってほしい等々だ。

 

 

 

しかし、いざ声にしようとすると、喉から先に続かない。

舌をどう動かせばいいのか、息をどのくらい押し出せばいいのか、声帯をどう震わせれば人の言葉になるのかがわからない。

以前は何も考えずにできていたことが一つ一つ意識しなければならない複雑な作業に変わり、そのどれもが途中で失敗した。

 

 

 

病気。精神病。

 

 

そんな簡単な言葉できっと彼女の今の状況は片付けられてしまうのだろう。

しかし実際は地獄以上の苦しみである。

 

 

 

それでも諦めきれずに口を開き、息を吸って喉を動かす。

 

 

た す け て 

 

 

それでも出てくるのはかすれた空気だけだった。

ひゅぅっ、と乾いた音が漏れる。

あるいは、喉の奥で何かが擦れ、そこへ遅れて、耳元に低い音が重なってくる。

 

 

 

自分の声は形にならないのに、あれだけは確実についてくる。

水瀬は項垂れながら発声することをやめた。

スポーツ選手が足や腕を切断するかの如き絶望と共に。

 

 

失敗すればするほど、自分がもう話せない人間であることを確認するだけだった。

よくニュースで喉の手術をした芸能人の話を聞くが、彼女にとってそれは遠い世界の話だった。

しかし今では当事者だ。

 

 

 

言葉は頭の中にあり文字も読めるし文章も打てるだろう。

それなのに声だけが出ないのだ。どう頑張っても、どれだけ振り絞っても。

 

 

 

それでも彼女は病院には絶対に行かない。

行きたくない。行ってはいけない。行くべきではないとさえ考えていた。

頭の中にある診察の手順は全てが拷問だから。

 

 

 

まず受付で名を名乗り、次に症状を説明する。

医師の質問に答えて、会計で呼ばれる。

おまけに薬局で名前を確認され、受け答えしなくてはいけない。

 

 

そのすべてに会話が必要だった。

 

 

 

──出来ない、そんなことしたくない。

──絶対に嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。

 

 

今の彼女の思考は「嫌だ」で埋まっており、そこから先は考えられない様になりつつあった。

 

 

たとえば筆談をしたりスマートフォンに文字を打って見せればいいと第三者がいれば指摘するだろう。

実際の所、現実には方法はいくらでもあったがそれでも水瀬の頭は、そこまで辿り着かなかった。

彼女にとって、他人へ助けを求めることは、自分の中で起きているものを誰かの前で説明しなくてならないという苦行とセットになっているからだ。

 

 

 

そんなことをしたらどうなる?

きっと同じことをまた言われる。

 

 

 

疲れているんだ、休んだ方がいい。

気にしすぎている。

自分の声は本人には違って聞こえる。

あなたの声は綺麗だ。

 

 

 

もう十分だ。うんざりしている。

どいつもこいつも、知りもしないで好き勝手にいうだけで、何もわかっていない。

優しい言葉で己の苦痛を拒絶されることに、もう水瀬は耐えられなかった。

 

 

 

食事も次第に取らなくなっていく。

空腹を感じなくなったわけではなく、胃は痛み、立ち上がれば眩暈がした。

だが、食べ物を買うためには外へ出なければならず、外へ出れば人間と接触する可能性がある。

 

最初のうちは、深夜のコンビニを選んだ。

客が少なく、店員との会話も最低限で済むからだ。

商品を籠に入れ、レジへ持っていき、袋が必要かと聞かれたら首を横へ振る。温めるかと聞かれれば、また首を振る。それだけで済むのは救いだった。

 

ある夜、店員が水瀬の動きを見落とした。

 

 

「袋、お付けしますか?」

 

 

水瀬は首を振れば店員は商品を読み取りながら、もう一度尋ねた。

曖昧な動きでどっちとも取れたからだろう。

店員の察しが悪いのではなく、水瀬が判りづらすぎたのだ。

 

 

 

「袋は大丈夫ですか?」

 

 

こたえるために声を出さなくてはならない。

 

 

そう考えた瞬間、喉が反射的に硬く閉じた。

それでも水瀬は口を開いて言おうとする。

必要なのは、たった一言だ。誰だって言える。小学生だってこれくらい簡単だ。

 

 

 

 

いりません

 

 

 

以前なら何千回でも言えた言葉だった。

歌と違って音程もいらないし息の長さも関係ない。

感情を込める必要すらないただの日常会話。

 

 

それでも声は出なかった。

水瀬が喉を押さえ、必死に息を押し出そうとした時、耳元で湿った音が鳴った。

 

 

 

ください

 

 

 

低く、潰れた音だった。

言葉には聞こえない何かが口の中に水を含んだまま、舌を動かしているような不気味なリップノイズ染みた音だった。

 

 

店員は「あ、はい」と答えた。

きっと彼には普通の、それこそ綺麗な声に聞こえたことだろう。

水瀬は顔を上げれば店員は何も不思議に思っていない顔で、商品と袋をそのまま差し出した。

 

 

 

「あ……はい。袋ですね、こちらをどうぞ」

 

 

 

何を聞いたのか水瀬は尋ねられなかった。

 

 

自分は声を出せていない。

少なくとも、自分の耳には言葉など聞こえなかった。

それなのに店員は返事を受け取り、水瀬が袋を断ったものとして、会話を先へ進めた。

 

 

 

彼女ではない彼女が会話して、会話を終わらせていた。

歯をカチカチ振るわせて水瀬は金を置き、商品を掴むと逃げるように店を出た。

帰宅してから、買ってきた弁当を開けることはできなかった。

 

 

 

玄関に袋を置き、そのまま床へ座り込めば……彼女は閃いた。

 

 

 

 

 

もしかしておかしいのは自分ではないか?

 

 

 

それに気づいた瞬間、彼女は全てに納得していた

何だ、そんな簡単な事だったんだと。

 

 

今ここにいる「水瀬結衣」というのは全く違う偽物で、皆に称賛されているあっちが本物ではないか?

だって、動画の再生数を瞬く間に何十万も稼いで、SNSでは常に皆が凄いと言っているあっちの方が、ずっと凄いのだから。

 

 

 

それに引き換えここにいる自分はどうだ?

何年も馬鹿みたいな夢を追いかけて、なれるかどうかも判らないプロの歌手なんて夢を抱いている。

このご時世、歌い手からデビューして歌手になっても叩かれるのが山だというのに。

 

 

 

歌手になりたいなんて思いあがった馬鹿な夢を抱いていたのが間違いだったのだ。

 

 

 

消えてしまいたい。

死んでしまいたい。

あっちが本物で私が偽物

あっちが「水瀬ユイ」ならば私は……

 

 

 

 

そこまで思い込んでしまった水瀬は弁当も食べず次の日もほとんど何も口にしなかった。

セルフ・ネグレクトの一種だった。

 

 

次第に冷蔵庫の中の食べ物が減らなくなっていく。

牛乳は賞味期限を過ぎ、野菜は汚い汁をまき散らしながら柔らかくなり、作り置きの料理には薄く黴が生えていく。

ゴミを捨てるために外へ出ることも怖くなり、台所の隅には空のペットボトルと、手をつけなかった食品の容器が溜まっていった。

 

 

 

やがて水瀬は部屋を片づけることをやめた。

もう何もかもが億劫となっていた。

もう私はどうでもいい、何もかも、全てがひたすらに面倒くさいという感情がずっと蓄積されていく。。

 

 

気づけば部屋の中には時折腐敗臭にも似た不愉快な匂いがたまっていく。

 

 

 

配信をしていた頃は几帳面にカメラに映らない場所まで整理していたというのに、その頃の面影はなくなっていく。

顔を出さない配信であっても、生活の乱れが声へ出るような気がしたからといって掃除をしていたのに。

机の上を拭き、マイクの埃を取り、配信前には必ず水を用意したのが今では全てが億劫となっていた。

 

 

 

自分しか見ない場所を整えることも、水瀬ユイとして活動するためのキャラづくりの一環だったのに。

それが今では布団から机までの短い距離を移動することさえも面倒で、とにかく体が重い。

 

 

それでもパソコンだけは未練がましく何度も開いてしまっていた。

震える指で埃に塗れたキーボードを押しカチカチとマウスを動かす。

 

 

怖いから見たくない。

でも忘れられるのが怖いから見るという、その繰り返しだ。

 

 

ここにきて動画の伸びは徐々に落ち着きを見せ始めていた。

 

 

それは当然のことだ。

新しい投稿がなく配信もない上に本人からの反応もない。

どれほど注目された歌い手でも、供給が止まれば話題は減っていく。

世間は新しい歌い手、新しいミーム、新しいネタに食いつき過去のことなど思い出しもしなくなっていく。

 

 

 

水瀬は数字が下がることに安堵したが同時に絶望した。

このまま忘れられれば、この音も消えるかもしれない。

このまま忘れられれば「水瀬ユイ」も消えてくれるかもしれない。

 

 

「水瀬ユイ」が消えれば自分は自由になるのか、それとも自分が生きてきた証まで失うのか。

 

 

答えは出ないし、出すつもりもない。

 

 

彼女の中で水瀬ユイは既に自分ではないものになっていた。

それでも、その名前を消されることには耐えられなかった。

 

 

 

だって、ずっとずっと一緒に築き上げてきたのだ。

必死に歌って、必死に動画を編集して慣れないイラストにさえ手を出したのだ。

そこまで頑張って作ったキャラだったのに今やユイは結衣の手の中にはいない。

 

 

 

 

彼女が作った認知を広げるコミュニティに相乗りするためにナニカが彼女を奪い取っていた。

“コレ”が興味があるのは水瀬の声だけであり彼女の努力やクリエイターとしての積み重ねや努力など何の興味もないのだ。

 

 

 

 

無意識に保存していた過去の動画を再生していく。

自分が良くできたと思った配信の録画だった。

 

 

 

『皆さんこんにちはー! 聞く飲料水こと、水瀬ユイでーす!』

 

 

『えぇ~? CDデビュー何て大げさだよぉ……。

 でも、いつかは出したいなと思ってる』

 

 

『それでもいずれは大きな1万人のホールで歌うのが夢かな? 目指せ武道館!!』 

 

 

 

立ち上げたパソコンの画面には、過去の自分が誇らしげに夢を語っている。

あわよくば賞を取ってCDを出して満員のホールで歌いたいと。

歌手としては誰もが願い、誰もが叶えられない夢を本気で追っていたまばゆい少女がいた。

 

 

その夢は自分より後からデビューした人物に奪われ、涙で枕を濡らした思い出があった。

 

 

 

『今日も見てくれてありがとう! 明日も19時からやるね!』

 

 

明るい声で笑って、歌い終わって息を切らしながら、来てくれてありがとうと言っている。

この時はちょうどコミュニティの登録人数が1万を超えたあたりだった。

ささやかな記念として自分で自分にケーキを贈ったっけ。

 

 

 

『あ、〇〇さんこんにちはー! 今日もコメントありがとうございます!』

 

 

『おっし! 20位まで上った!! 次はトップ10目指したいなー』

 

 

『笑うなぁぁぁぁ!! 下手糞なのはわかってんだああああ!!』

 

 

コメントを読み、常連の名前を呼び、初見を心から歓迎している。

下手な声真似をして、その余りの滑稽さに自分で笑っている。

ランキングへ入ったことを喜び、もっと頑張ると話している。

 

 

 

 

どの水瀬ユイも今の水瀬結衣よりずっと輝いていて、ずっと本気で、何よりもかっこよかった。

 

 

 

 

 

当たり前だが画面の中にいる過去の自分は、決して完璧ではなかった。

歌い出しの音を僅かに外し、慌てて二音目で合わせている。

長いフレーズの後半では息が足りなくなり、最後の一文字を曖昧にして誤魔化していた。

 

 

 

高音へ入る直前には喉へ余計な力が入り声が細くなる。

本人もそれに気づいていたのか、歌い終わった後に小さく咳払いをして誤魔化していた。

配信中の受け答えも、今になって聞けば拙い部分が多かった。

 

 

 

コメントを一行読み飛ばし、少し後になってから「あ」と気づいて謝る。

曲名の漢字を読み間違え、視聴者から一斉に指摘される。

常連の名前を別の人と勘違いし、五分近く慌てる。

 

 

 

面白いことを言おうとして、誰も反応しないまま自分だけが笑っている。

今の水瀬なら、画面の前で耐えられないほど恥ずかしくなっただろう。

活動を続けていた頃も、過去の配信を見返すことは苦手だった。

 

 

 

自分の声や話し方を客観的に聞くと、欠点ばかりが耳についたからだ。

 

 

 

けれど今は、そのすべてが羨ましかった。

音程を外しても、それは自分が外した音だった。

息が切れても、自分の肺が足りなかったのだ。

 

 

つまらない冗談で滑っても、自分が考えて自分の口から言った言葉だった。

失敗のひとつひとつに、水瀬結衣がいた。

下手でも、不格好でも、未熟でも、画面の中にいるのは間違いなく自分だった。

 

 

 

それに引き換え今はどうだ?

自分はもう水瀬ユイでさえなくなりつつある。

 

 

 

再生している動画が活動の後半へ進む。

 

 

再生数が増え始めた頃だ。

歌ってみたランキングの下位に名前が載り、コメントの量が目に見えて増えていた時期だった。

 

 

歌声にはまだ悪い癖が残っている。

音の頭を少し強く出しすぎるところや感情を込めようとして、語尾が僅かに震えるところだ。

他にも高音から下りる時、音程がほんの少しだけ不安定になるところ。

 

 

 

しかし、その横に別の音がいる。

水瀬にしか聞こえない、濁った何か。

以前は聞こえなかったソレが今ではしっかり聞こえる。

 

 

昔からずっと居たのだ。

ずっとずっとずぅぅっと彼女が有名になり、自信をつけてくるのを音の底で潜んで待ち望んでいたのだ。

 

 

次の動画……初めて1万再生を超えた動画だ。

それの中では少し近くなってきていた。

サビの一部分で水瀬の声へ重なり、長い音を支えるように粘った音が伸びている。

 

 

 

さらに次の動画、再生数1万4000ほどの動画だ。

ランキングの本当に下位にいけた動画だった。

最新の話題の動画からやってきた者たちがここでも彼女の帰還を待ち望みコメントしていた。

 

 

 

 

 

            

また歌って     待ってるよ     戻ってきて     声が聞きたい

 

      

最高でした     泣きました     もっと歌ってください     何回も聞いてます

 

   

ユイちゃんの声が一番好きです     新作待ってます     戻ってきてください     ずっと待ってます

 

これが水瀬ユイ、天才だ

 

         

᚛ᚲᛟᛉᚾᚨᚱᛁᛖ Ϣ̴ჶ̸ꙮ͟Ѯ̴ɷ̴ ᚛ᛖᛚᛖᚺᚨᛏ᚜

 

                       

流淀謡-壊A1  Ⱒꙮ̷Ѯ̴ჶ̸⦿̳◉̴Ⱓ̿ ̷

 

待ってる     待ってる   待ってる  待ってる

 

      

覚醒した歌声!

 

         

ユイちゃん     お願い     戻ってきて     歌って

 

もっと歌ってくださいもっと歌ってくださいもっと歌ってください

 

         

流淀謡-壊A2 ⬬⬭ ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳◖ ̿̈

 

  

声が聞きたい     あなたの歌が生きる支えです     戻ってきて

 

     

また歌ってまた歌ってまた歌ってまた歌ってまた歌ってまた歌って

 

    

Ѯ̴Ϣ̷ꙮ͟ჶ̸ɷ̴Ϫ͝꩜̷Ϭ̴Ѱ̸ჸ͟

 

好きです     ずっと好きです     いなくならないで

 

戻ってきて

もっと歌って

待ってる

 

      

流淀謡-壊B1 Ⱓ̿ꙮ̴Ѯ̳ ̸⦿◉̤᚛ᚌᚏ᚜̷̲⬭̳̤ ̴̿

 

もっと歌ってください     ユイちゃんの声が一番好きです     何回も聞いてます

 

       

新作待ってます     戻ってきてください     戻ってきて     戻ってきて

 

 

流淀謡-壊B2 ⦿ ⬬⬭⫘⫘⫘ ̴̳̈ Ѯ̴ꙮ̷ჶ̸ɷ̴Ϭ̴

 

ユイちゃんの声が一番好きですユイちゃんの声が一番好きですユイちゃんの声が一番好きです

 

        

最高でした   貴女は別格です    新作待ってます

 

᚛ᛗᛁᚾᚨᛋᛖ Ϣ̴ჶ̸ꙮ͟ ᚜

 

 

 

 

 

 

 

水瀬は画面の文字を目で追いながら、唇を強く噛んだ。

覚醒だの完成だの別格だのとネットの世界ではよくつかわれる称賛の言葉の数々が視界を滑っていく。

 

 

 

どれも、以前なら泣いて喜んだはずの言葉だった。

どれだけ気にしていないと言っても配信者をやっていて褒められて嬉しくない者はいない。

承認欲求の一声で片づけるには余りにも切実で渇望染みた欲求だ。

 

 

 

ずっと欲しかった。

 

 

誰かに認められたかった。

趣味で歌っているだけの人ではなく、金を払ってでも聞きたいと思われる歌い手になりたかった。

何年も練習し、何度も録り直し、自分の声を嫌いになりながら、それでも少しでも上手くなろうとしてきた。

 

 

 

 

その答えが今ここに並んでいる。

皆が「水瀬ユイ」を褒めてくれて、求めてくれている。

ただし、褒められているものは自分ではなかった。

 

 

少なくとも、水瀬にはそう思えた。

 

 

以前の歌には欠点があり、自分が失敗した跡があった。

苦手な音を慎重に歌っていることも、息を持たせるために言葉を短くしていることも、録音を何度も重ねた痕跡もわかった。

 

 

 

 

水瀬は再生を止めた。

暗くなった画面に、痩せた自分の顔が薄く映った。

頬は落ち、髪は乱れ、唇は乾いている。

 

 

 

過去の夢に満ちた水瀬ユイとは似ても似つかなかった。

画面の中で歌っている女は、これから先にはもっと大きな場所へ行けるように見えた。

CDを出し、ステージへ立ち、多くの人間から名前を呼ばれる未来があるように見えた。

 

 

 

今ここにいる水瀬結衣には、明日の食事さえなかった。

彼女は初めて、過去の自分に嫉妬した。

あの頃の自分は下手だった……だが、自分の声を持っていたし未来を夢見ていた。

 

 

 

彼女は自分で「自分」に嫉妬していた。

水瀬ユイは、あの声は、水瀬が望んだものをすべて持っているからだ。

 

 

 

綺麗で皆に愛され、水瀬ユイという名前を使い、その名前に相応しい声として認められている。

自分が何年もかけて作った場所へ入り込み、そこに最初からいたような顔で歌っているのが彼女だ。

 

 

 

水瀬は自分の名前を使う、自分より優れた何かに負けたのだ。

そう考えると、胸の奥へ冷たいものが沈んでいく。

 

 

 

 

しかし怒るための力はもうあまり残っていない。

ただ、自分が惨めで悔しかっただけだ。

自分の人生が、自分より上手く自分を演じるものへ渡っていくことが悔しかった。

 

 

 

 

管理画面を開けば、動画の一覧が並ぶ。

そのまま一番古い投稿まで遡った。

 

 

 

活動を始めた頃、安い機材で録音した歌だった。

サムネイルも自作で、今見ると文字の配置が悪い。音質も粗く、声には部屋の反響が少し混じっていた。

再生数は現在でも千に届いていない。コメントは十数件しかない。

 

 

 

 

そして問題の動画に画面を戻す。

 

 

一番伸びている動画。

彼女の人気の火付けとなったと同時にこの忌まわしい「音」が明確に入り込んだ動画だった。

いや、気づいてしまった動画というべきか。

 

 

 

今やその動画は再生数130万オーバー。

コメント数30万、マイリスト数15万。

動画サイトで押しも押されもしない上澄みである。

 

 

 

 

タグ

 

 

 

伝説の始まり 水瀬ユイ プロの犯行

歌ってみた100万超えリンク 原点にして頂点。

 

 

 

100万を超えた再生数を誇る動画を消せるか?

投稿者としての葛藤がそこにはあった。

 

 

 

 

水瀬は削除ボタンを押した。

小さな確認画面が開く。

 

 

 

→本当に削除しますか。

 

→削除した動画は元に戻せません。

 

 

はい。

 

いいえ。

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

ただそれだけだった。

水瀬は少しの躊躇いの後にカーソルを「はい」へ移動させた。

指を少し下へ押し込めば終わる。

 

 

 

動画は消えて、コメントも再生数も、ランキングへ入った記録も、すべて見えなくなる。

この音が混ざった歌を聞く者も減る。

 

 

 

100万を超えた再生数の動画が永遠に消えてなくなる。

ソレを思うだけで水瀬は動悸が激しくなり、突っ伏して涙をこぼした。

 

 

 

「嫌だよぉ……やっとここまでこれたのに……いやだぁぁ……」

 

 

 

押せなかった。

その動画は、水瀬が初めて大きな成功を掴んだ記録でもあった。

投稿した日の夜、再生数が一万を超えるまで何度も画面を更新した。

 

 

ランキングへ自分の名前が載った時、声を上げて喜んだ。

交流のなかった有名な歌い手が紹介してくれた。

知らない人間から、次の歌も楽しみにしていると何十件も書かれた。

 

 

 

ずっと欲しかったものだった。

水瀬結衣が何年も努力して、ようやく手に入れた成功だった。

後から混ざったものに奪われたとしても、その場所へ辿り着くまでに歌っていたのは自分だ。

 

 

 

録音をしたのも自分。

伴奏を選んだのも自分。

歌詞を読み、編集をし、動画を投稿したのも自分だった。

 

 

全部が偽物だったわけではない。

全部を取られたわけではない。

 

 

 

そう思いたかったのだ。

削除すれば、あれを追い出すことができるのかもしれない。

しかし同時に、自分の成功まで自分の手で殺すことになる。

 

 

 

奪われた水瀬ユイを取り返すのではない。

水瀬ユイという名前を、自分で消すことになる。

彼女は自分で作り上げたブランドに執着していたのだ。

 

 

 

 

 

水瀬は確認画面を見続け、数分が過ぎた。

時計の秒針が何度も同じ場所を通り過ぎる。

画面の明かりが目に刺さり痛かった。

 

 

3分。彼女はじっと画面を見ていた。

それでも指は動かなかった。

やがてスクリーンセーバーが起動し、画面が暗くなった。

 

 

確認画面は消えていない。

水瀬はマウスを僅かに動かした。

再び「本当に削除しますか」という文字が浮かび上がる。

 

 

 

 

水瀬は「いいえ」を押した。

 

 

 

 

 

確認画面が閉じ、動画はそのまま残った。

再生数がまた千単位で増えている。

誰かが今も、あの歌を聞いているようだ。

 

 

 

「……」

 

 

 

水瀬は机へ額をつけ、気持ちの悪さに悶えた。

あれほど恐れているものを、自分で残した後悔とこれで良かったという安堵がぐちゃぐちゃに混ざっている。

自分を壊した音が入った動画を、自分の成功だからという理由で消せなかった。

 

 

名前と声を奪われたと泣きながら、その偽物が集めた数字に縋っている。

 

 

 

惨めだった。

 

 

 

 

動画を消せない自分も、再生数を見てしまう自分も、水瀬ユイが忘れられることを恐れている自分も、すべてが嫌だった。

私は本当に被害者なのだろうか?

自分はただ、上手く歌えるようになったことを受け入れられず、勝手に壊れているだけではないのか。

 

 

 

そんな考えが、初めてはっきりと頭をよぎった。

 

 

顔を上げれば、動画の一覧が画面に並んでいる。

 

 

 

古い自分と新しい自分。

下手な水瀬結衣と完成された水瀬ユイ。

その間に、明確な境目はなかった。

 

 

 

彼女はある日突然、別人レベルになったわけではない。

 

 

動画を経る度に少しずつ上手くなっていったのだ

当たり前だ、ずっと努力してきたのだから。

具体的には息が長くなり、音程が安定し、高音が綺麗になっている。

 

 

 

外側から見れば、練習を続けてきた歌い手が成長しただけに見えるだろう。

しかし水瀬が異常だと主張できる根拠は、自分の耳に聞こえる音だけだった。

 

 

 

その事実へ思い至った時、水瀬は急に自分の声を確かめたくなった。

もう何度もやっているのに、懲りずに。

もしかしたら、本当は、実は、本当は、そんな救いに彼女は縋り付いていた。

 

 

 

 

もしかしたらやっぱり気の迷いだったかもしれない。

全部夢だったのなら、私にあるのは成功だけだ。

 

 

 

マイクのケーブルは長いこと外したままだった。

更にオーディオインターフェースは箱へ戻していた。

だからまずはそれらを繋ぎ直していく。

 

 

 

指が震え、端子を一度落とした。

金属が机へ当たり、小さな音がして水瀬は肩を跳ねさせた。

 

 

しかし何もない。

時計の音も、冷蔵庫の作動音も、パソコンのファンが回る音も普通だった。

 

 

 

ずっとずっとおかしいのは、自分の声だけだ。

彼女は録音ソフトを起動させていく。

以前は毎日のように見ていた画面が久しぶりに浮かび上がる。

 

 

 

入力機器を選び、音量を調整すれば、マイクへ触れなくても入力表示が僅かに揺れた。

部屋の生活音を拾っているだけだ。

ガサガサという音が響いた。

 

 

 

水瀬は椅子へ座り、マイクの前へ顔を近づけた。

息を吸えばそれだけで喉の奥が硬くなった。

 

 

 

何を言えばいいのか迷う。

長い文章は無理だし、歌うことなど考えられない。

だが、水瀬は勢いのまま録音ボタンを押した。

 

 

 

赤い表示が点灯し波形が右へ伸び始めた。

じっと沈黙した後に彼女は口を開いた。

 

 

 

 

豌エ轢ャ邨占。」縺ァ縺?(「水瀬ユイです」)

 

 

そう言ったつもりだった。

だが、耳へ届いたのは日本語ではなかった。

濡れた布を裂いたような音が喉の奥から飛び出したのだ。

 

 

 

豌エ轢ャ邨占。」縺ァ縺?(「水瀬ユイです」)豌エ轢ャ邨占。」縺ァ縺?(「水瀬ユイです」)

 

miiizuzuzuseユイデエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエスススススススス

 

 

 

 

水瀬は反射的に録音を止めた。

椅子を後ろへ引き、マイクから離れた。

 

 

 

胸が激しく上下し、口の中が乾いていた。

喉には確かに言葉を発した後の僅かな疲れがある。

しかし、自分の名前は聞こえなかった。

 

 

 

水瀬は録音された波形を見た。

二秒にも満たない短い音声の波形は一つだった。

別の音が後から重なったようには見えない。

 

 

 

水瀬は震える手で再生し……金切り声が聞こえた。

 

 

 

 

sineeeeeエエエエエエエエエエ エエエエエエエエ 

 

 

 

意味のない悲鳴が、スピーカーから流れた。

耳元ではなく、今度は明確にパソコンから聞こえている。

 

 

 

水瀬は再生を止めた。

心臓が激しく脈打ち、ずきずきと痛かった。

 

 

 

それでも、逃げるなと自分に言い聞かせてもう一度再生した。

しかし結果は同じだった。

水瀬はガチガチ歯を鳴らしながら音声ファイルを保存した。

 

 

ファイル名をつけて保存。

次に、自動で音声を文章へ変換するソフトを開いた。

以前、歌詞の仮入力や配信の文字起こしに使ったことがあるものだった。

 

 

 

 

精度はハッキリ言って笑ってしまうくらいに高くない。

歌声や小さな声では、全く違う文章になることもある。

何回かこのネタで企画を行ったこともあるくらいにダメダメだ。

 

 

 

 

録音した音声を読み込ませれば、処理はすぐに終わった。

表示された文章は短かった。

 

 

《水瀬ユイです》

 

 

 

 

水瀬は画面を見つめた。

あり得ない、これは偶然だと思った。

ファイル名に水瀬という文字を使っているから、そこから推測した可能性もある。

 

 

今度は別の言葉を録音することにした。

水瀬は再びマイクの前へ座った。

 

 

 

「今日は雨です」

 

 

今日はアァァ あめでぇぇすぅ

 

 

 

 

 

 

意味のない確認用の文章だった。

また悲鳴が聞こえた。

まるで喉を擦るような音と、甲高い女の声が喚いている。

 

 

水瀬はすぐに録音を止め、文字起こしへ読み込ませた。

 

 

 

《今日は雨です》

 

 

 

水瀬はこれらの短い音声ファイルを、以前親しくしていた配信仲間へ送った。

 

 

女性の歌い手だった。

活動を始めた頃から何度か合唱をし、配信でも何度も話したことがある。

水瀬が休止してからも、体調を心配する連絡をくれていた顔の知らない友人だった。

 

 

 

水瀬は文章を打った。

 

 

《急に送ってごめん》

 

 

一度消し、もう一度打つ。

 

 

 

《これ、変に聞こえる?》

 

 

説明はそれだけにした。

何の音なのかも、自分が喋っているのかも書かなかった。

相手からは十分ほどで返信が来た。

 

 

 

《え、ユイちゃん?》

 

 

水瀬の手が止まった。

続いて、もう一通届く。

 

 

 

《全然変じゃないよ》

 

《むしろ声戻ってきてない?》

 

《ちょっと短いけど、前より綺麗な感じする》

 

 

水瀬は画面を見つめた。

何を聞いたのか確認しようとして、文章を打つ。

 

 

《何て言ってるように聞こえた?》

 

 

 

返事はすぐに来た。

 

 

《水瀬ユイです、でしょ?》

 

《久しぶりに声聞けて安心した》

 

《喉、もう大丈夫なの?》

 

 

水瀬は返信できなかった。

本当なら「大丈夫」とか「ありがとう」というべきなのに。

彼女はずっと相手を疑い続けていた。

 

 

 

 

 

だが相手は嘘をつく理由がない。

自分を安心させようとしている可能性はある。

しかし、もしもあの声を聴いていたら何と言っているかまで正確に当てることはできない筈だ。

 

 

音声ファイルの題名は「確認」だけだ。

もちろん送信時の文章にも内容は書いていない。

彼女には、本当に「水瀬ユイです」と聞こえたのだ。

 

 

 

水瀬は同じ音声を再生した。

悲鳴と耳の奥へ細い針を差し込むような金切り声と、その後ろで濡れた喉が動く音が同時に響く。

 

 

 

 

水瀬はそれを何度も再生した。

 

 

 

今日はアァァ あめでぇぇすぅ

みずせぇぇゆいぃぃいいいい

みなななささんこんにちはああああ きくううういんりょおおすぅい

今日はアァァ みずせぇいんりょーぅすいい

みなさんこんにちはぁ きくいんりょうすいことぉ みずせぇゆいぃぃ

 

 

 

 

何回も音量を下げたり上げたりした。

片方のスピーカーだけで聞いたり、イヤホンを使ってみた。

更にはダメ押しとして古いヘッドホンへ替えても‥…結果は変わらなかった。

 

 

どうあっても悲鳴として聞こえる。

すると相手から、さらにメッセージが届いた。

 

 

 

《本当に前より声綺麗だよ》

 

《この感じなら、少しずつ復帰できそうじゃない?》

 

《無理はしてほしくないけど》

 

《また一緒に歌おうよ》

 

 

 

また一緒に歌おう。

以前なら嬉しかっただろうに、今はその言葉が……不快だった。

私はこんなに苦しいのに、何も知らないくせに。

 

 

 

煮えたぎる思いを胸にしながら水瀬は返信欄を開いた。

 

 

ありがとう。

 

 

そう打とうとした指が止まった。

何に感謝すればいいのかわからなかったのだ。

 

 

悲鳴を綺麗だと言われたことか?

自分には聞こえない声を、まだ水瀬ユイのものとして認識してくれたことか?

あるいは、自分がおかしいと証明してくれたことか?

 

 

 

どうせ私の気持ちなんてわからないくせに。

自由に歌って、精々数万再生しか稼げないくせに。

 

 

 

 

水瀬は返信を閉じる。

善意を感じるお上品な慰めの言葉だけが彼女には残ったが、それさえも鬱陶しい。

 

 

 

そんな風に考えてしまう自分に自己嫌悪を抱き、暫く頭を抱えて画面の前で硬直し……閃く。

思い至ってしまえば簡単な事だったのかもしれないと。

 

 

 

 

「なんだ、なんだ、なぁぁんだ」

 

 

 

水瀬は、それまで何度も考えないようにしてきた答えへ、ついに手を伸ばしてしまう。

 

 

 

「あはははははは……そんなことだったんだ」

 

 

 

ゲラゲラ笑う。

耳に入る音は相変わらずおぞましい怪奇音声だった。

しかし、もうどうでもよくなり始めていた。

 

 

 

悪いのは全部自分なんだ。

私だけが現実から目を背けて駄々をこねているんだ。

 

 

 

 

精神的な病気に聴覚の異常に強いストレス。

理由はいくつも考えられるが、事実として他人には普通に聞こえている。

いや、むしろ今までに類がない程に素晴らしい歌だとほめてくれている。

 

 

 

違う。そんなはずがない。

 

 

 

彼女は歌で妥協したことはない。

だからこそ皆が言う「凄い」という言葉にある嘘に気づいてしまう。

少なくとも、自分が知っている水瀬ユイの声は、皆が言うほどに綺麗で完璧なものではなかったからだ。

 

 

 

けれど、そうやって必死に自分へ言い聞かせるほど、その反論は急速に萎んでいく。

昔より上手くなって何が悪いのだろう。

練習を続けてきたのだから、成長していても何一つおかしくはない。

 

 

 

いいじゃないか。売れてるんだから。

人気者になれたんだから、これくらいなんだというのだ。

 

 

 

自分はほとんど毎日のように歌い、喉の使い方を調べ、呼吸法を練習し、自分の録音を何度も聞き直してきた。

それらの努力がようやく成果として表れただけなのではないか。

自分の声がいつまでも不完全でなければならない理由など、どこにもなかった。

 

 

 

結局、水瀬が異常だと主張できる根拠は、自分にはその声が悲鳴として聞こえるという一点しかない。

何万人もの人間には美しく聞こえている。

昔から付き合いのある歌い手にも、コンビニの店員にも正常な言葉として届き、ついには機械まで正しい日本語として認識している。

 

 

 

やがて水瀬は、机の端に置かれていたノートを開いてぱらぱらと目を通す。

これまでも、自分がいつ眠ったのか、何を食べたのかなど今の日々の状態を書き留めていた。

自分で自分の観察レポートを付けていたのだ。

 

 

 

《今日は一度も喋れなかった》

 

 

等と、記録として読める程度の文章が並んでいる。

 

 

 

しかしページを進めるほど、その内容は徐々に冷静で客観的な記録からただの嘆きと胸中を書きなぐったものへと変わっていった。。

 

 

 

《水瀬ユイは私》《私が水瀬ユイ》

《あれは私じゃない》《私の声を返して》《誰かわかって》という文章が何度も書きつけられている。

自分でもどうやって書いたのか判らない程にいびつな文字だった。

 

 

 

水瀬は新しいページを開いてペンを持ったものの、しばらく何を書けばいいのかわからなかった。

何度かペン先を紙へ近づけては止め、やがて最初の一行に《やっぱりみんなには綺麗に聞こえている》と書いた。

続けて《どうして判ってくれないの》と書き、少し間を置いてから、力なく嗤いながら《私の耳がおかしいのだ》と加えた。

 

 

 

 

『私が間違っていた』

 

 

 

その文字を書いた瞬間、胸の奥が痛んだ。

これまで自分が必死に訴え続けてきたことを、自分自身で否定する文章だった。

ジワジワと涙があふれる。

 

 

 

それでも、そう考えた方が説明はつく。

何万人もの人間と機械が同時に間違っていると考えるより、自分一人が病気になり、聞こえ方がおかしくなったと考える方がよほど自然だった。

 

 

《ユイの事を皆が凄いっていってる》

 

 

 

 

 

そこまで書いて、水瀬は再び手を止め……やがて彼女は一つだけノートに書き足した。

 

 

 

 

《助けて》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしいのは私。おかしいのは私。おかしいのは私。

間違っているのは私。

私なんて必要とされていない。

私なんて、歌う資格もない。

おかしいのは私。おかしいのは私。おかしいのは私。

 

 

間違っているのは私。

私なんて、歌う資格もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《私、何も悪い事なんてしてないのに》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分がおかしいだけなら、何もしなくていい。

ただ聞こえる音に耐えていればいい。

「水瀬ユイ」は問題なく歌えているのだから、自分がその邪魔さえしなければいい。

いつからか水瀬はそう考え始めていた。

 

 

 

やがて日記には《水瀬ユイは上手い》《水瀬ユイはみんなに愛されている》《水瀬ユイは私より綺麗》という文章まで並び始めた。

初めてそれを書いた夜、水瀬は長いあいだノートから目を離せなかった。

 

 

「水瀬ユイ」と私。

 

 

文章の中で、その二つの存在はは完全に別のものとして扱われていた。

以前なら、そんな書き方をした自分を恐ろしく思い、すぐに線を引いて消したはずだ。

水瀬ユイは自分であり、水瀬結衣が作った名前だと何度も書き直していただろう。

 

 

 

だが今はもう違う。

 

 

 

「水瀬ユイ」は歌えている。

 

 

私は歌えない。

 

 

「水瀬ユイ」は愛されている。

 

 

私は誰とも話せない。

 

 

「水瀬ユイ」には未来がある。

 

 

それに対して今の私は、布団と台所の間を移動するだけで精一杯だった。

 

 

どう見ても同じ人間には思えなかった。

ならば、どちらが「水瀬ユイ」なのか?

相応しいのはどっちだという話になる。

 

 

そんなのは決まっている。

何万人もの人間から名前を呼ばれ、美しい声で歌っている方だろう。

今ここで、悲鳴しか聞こえないと泣いている自分ではない。

 

 

 

その考えが根を張るにつれて、水瀬は少しずつ声を恐れなくなっていった。

正確には、恐怖そのものが消えたわけではなく、恐怖へ反応する力がなくなっていった。

 

 

無力感を学習した結果だった。

過度なストレスに晒され続けた者が発症する状態だ。

 

 

やがて声を出すたびに泣くこともなくなった。

悲鳴が聞こえても、ただ疲れたように息を吐いた。

耳元で女が叫ぶ音に慣れたわけではないが、もうどうでもよくなってきたのだ。

 

 

壊れているのは自分の耳であって、水瀬ユイの声ではない。

悪いのは水瀬ユイではなく、自分なのだ。

そう考えると、不思議なほど少しだけ楽になった。

 

 

 

もう戦わなくていい。自分の声を取り返そうとしなくていい。

何かが混ざっていると訴えなくてもいいし、誰かに理解してもらおうとする必要もない。

水瀬ユイは正常で、素晴らしい歌い手だった。

 

 

 

水瀬結衣が勝手に壊れただけなら、それはもう仕方がないことだった。

 

 

 

そう思えるようになってから、水瀬は配信機材を見ても以前ほど激しい動悸を起こさなくなった。

マイクは声を奪う道具ではなく、パソコンも奪った声を外へばら撒く病原菌ではない。

水瀬ユイが歌うために必要な、ただの道具だ。

 

 

 

むしろ危険なのは自分の方で、水瀬ユイの活動を邪魔することこそ問題なのだと思うようになった。

だから水瀬は、ときどきマイクの埃を払った。

以前のように丁寧に手入れするわけではなく、濡れた布を用意することもせず、指先で表面へ積もった埃をなぞるだけだった。

 

 

それでも捨てようとは思わなくなった。

「水瀬ユイ」には必要なものだからだ。

 

 

 

ある日、久しぶりに動画サイトの管理画面を開いた水瀬は、投稿用の下書きが一つ保存されていることに気づいた。

題名もサムネイルも説明文も設定されておらず、音声ファイルだけが添付されている。その長さは四分十二秒だった。

 

 

 

水瀬は画面を見つめたまま、しばらく動かなかった。

自分で作った記憶はなかったが、最近は睡眠不足が続き、いつ意識が途切れたのかさえ曖昧になっている。

パソコンを開いたまま眠り、目を覚ますと違う画面が表示されていたこともある。無意識のうちに録音し、そのまま下書きへ保存した可能性は否定できなかった。

 

 

 

ただし、その音声ファイルの長さは四分を超えている。

今の水瀬には、四分間もまともに歌った記憶がなかった。

 

 

 

ファイル名だけは見慣れたものだった。

曲名、録音日、テイク番号、仮ミックスという順番で付けられた、水瀬自身が以前から使っていた命名規則そのものだった。

録音日は三日前になっているが、その日の記憶はほとんどない。

 

 

何を食べたのかも思い出せず、おそらく台所の床で長い時間眠っていた程度の記憶しか残っていなかった。

 

 

以前の水瀬なら、音声を確認することさえせずに削除していただろう。

誰が作ったかわからないもの、水瀬ユイの名前を使って投稿されようとしているもの、自分ではない声が入っている危険なデータなんて恐怖でしかないからだ。

 

 

 

けれど今は、削除ボタンへカーソルを合わせても押そうとは思わなかった。

もう答えはわかっている。これは水瀬ユイの歌なのだ。

自分には悲鳴として聞こえるだろうが、ほかの人には美しく聞こえる。

 

 

 

水瀬は再生ボタンを押した。

静かなピアノから始まる伴奏が流れた。

それは以前、いつか歌いたいと配信で話していた曲だった。

水瀬はその曲をよく知っており、歌詞も覚えていた。

 

 

どこで息を吸い、どこを強く歌うのかも、まだ元気だった頃に何度も考えたことがある。

 

 

 

やがて歌が始まった。

 

 

 

一音目から、水瀬には日本語として聞こえなかった。

女が喉の奥を引き裂かれながら叫んでいるような甲高い絶叫に、硬い金属を擦り合わせるような細い高音が混ざり、そのさらに奥では低く濁った唸りが続いている。

歌詞は一文字も聞き取れず、旋律さえまともに判別できない。

 

 

ただ伴奏の上で、意味のない悲鳴だけが四分間続いているようにしか聞こえなかった。

 

 

それでも水瀬は停止しなかった。

 

 

以前なら数秒で耐えられなくなっていたはずだが、今は画面の波形を見ながら最後まで聞いた。

音声の波形は整っており、伴奏の流れに合わせて規則的に上下している。

声が入らない場所ではきちんと無音になり、息継ぎの位置もおかしくない。

 

 

音程解析を重ねてみれば、表示された線はメロディーに沿って滑らかに動き、最後の高音まで正しい位置で伸びている。

 

水瀬には悲鳴にしか聞こえないがそれでもデータの上では、紛れもなく歌だった。

自動で表示される歌詞も曲の進行と一致し、音声認識は水瀬にとっての絶叫の中から、正確な日本語を拾っている。

 

 

 

再生が終わった後も、水瀬はしばらく画面を見続けていた。

配信仲間へ送り、確認してもらうことも一瞬だけ考えたが、すぐにやめた。

 

 

 

答えはもうわかっているのだ。

綺麗だと言われる。前より上手いと言われる。復帰できると言われる。

こんなこと何度確かめたところで、結果は変わらない。

 

 

 

水瀬はその下書きを削除しなかった。

かといって投稿することもなく、そのまま保存した。水瀬ユイの歌として。

 

 

 

それから数日後、水瀬は活動を休止すると決めた。

もっとも、それ以前から実質的には休止状態だった。

新しい動画は出しておらず、配信も開いていない。

 

 

コミュニティには体調不良を知らせる短い文章だけが残っているが、正式な期限も復帰予定も書いていなかった。

曖昧なまま、ただ少しずつ姿を消していただけだった。

 

 

それを一度、きちんと終わらせようと思った。

 

助けてほしかったからではない。

以前の自分なら、最後に配信を開けば誰か一人くらい異常へ気づいてくれるのではないかと期待したかもしれない。

自分の声が違うこと、みんなが聞いているものは水瀬ユイではないこと、自分には悲鳴としてしか聞こえないことを訴え、誰かに信じてほしいと願っただろう。

 

 

しかし今は、もう理解してほしいとは思わなかった。

理解できていないのは、自分の方なのだから。

 

 

 

「水瀬ユイ」は正常に歌えている。

声は美しく、多くの人間がそれを待っている。

問題なのは、水瀬ユイになれない水瀬結衣がその名前を手放そうとせず、怖がり、歌を止め、活動を邪魔していることだった。

 

 

ならば最後に一度だけ、きちんと水瀬ユイを歌わせればいい。

 

その後、自分が退けばいい。

休止という形なら、誰も不思議には思わない。

喉の不調、体調不良、精神的な疲労など、理由はいくらでも作れる。

 

 

水瀬ユイはしばらく休み、水瀬結衣はその名前の邪魔をしない。

自分がいなくなった後でさえ、動画の中では水瀬ユイが歌い続けることができるし、美しい声として誰かに聞いてもらえる。

 

 

それでいい。

 

 

水瀬は配信ソフトを起動した。

設定は以前のまま残っており、マイク入力も静止画もコメント表示も配信先のアカウントも、何一つ変わらず前と同じだ。

画面には水瀬ユイという活動名が表示され、プロフィール画像の少女が昔と変わらない微笑みを浮かべている。

 

 

配信タイトルの欄を選び、何と書くか考えた。

「活動休止のお知らせ」では堅すぎるし、「ご報告」と書いたところで何を報告するのか自分でもよくわからない。

 

 

 

少し考えた末に、彼女は「少しだけ」と入力した。

 

 

以前の水瀬ユイが使いそうな題名だった。

深刻すぎず、何のための配信なのかも明確にはしない。

通知に気づいた者だけが集まり、久しぶりに少し話して、最後に一曲歌う。それで活動を休むつもりだった。

 

 

 

水瀬は机の上にノートを開き、話す内容を短くまとめた。

体調が戻っていないこと、しばらく活動を休むこと、心配してくれた人への感謝、そして最後に一曲だけ歌うこと、それだけだった。

 

 

声については書かなかった。

悲鳴についても書かなかった。

もう説明する必要はない。おかしいのは自分であって、水瀬ユイではないのだから。

 

 

 

水瀬は配信開始ボタンへカーソルを合わせた。

押せば人が来るだろう。

水瀬ユイという名前を呼ばれ、歌を待っていたと言われる筈だ。

 

 

そして水瀬ユイの声が流れる。

自分には、きっとまた悲鳴にしか聞こえないだろう。

 

 

 

もうそれでも構わなかった。

ほかの人には美しく聞こえる。

それならば、歌は歌なのだ。

 

 

水瀬は自分の喉へ指を当てた。

もう自分のモノではなくなった喉をなぞり、爪を食い込ませる。

微かに血が滲んだ。

 

 

 

これで最期だ。

ふと脳裏をそんな考えがよぎり、それも悪くないと彼女は納得した。

終わらせるべきだ、何もかも。

 

 

 

そう思い、彼女は配信開始ボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

配信開始のボタンを押してから実際に配信ページへ映像が送られるまでには数秒の遅延があった。

以前なら、そのわずかな時間にも水瀬は何度もマイクの入力を確認し

コメント欄が正常に動いているかを見て、音量メーターが赤い領域へ振れていないかを確かめていただろう。

 

 

 

 

開始直後の無音が長くならないように、頭の中で最初の挨拶まで準備していたほどだった。

しかし今日は何も確認しなかった。

どうせもうこれで終りなのだ、今の彼女には有終の美を飾ろうなんていう思いさえもない。

 

 

 

モニターの片隅で数字が動き、待機画面から配信中の表示へ切り替わっていく様子を

どこか他人の作業や配信を見るように眺めているだけだった。

それも大して面白くもない配信を、だ。

 

 

 

彼女が行ったのは深夜配信だった。

事前の告知はしておらず、コミュニティにも何も書いていない。

SNSにも投稿せず、ただ突然「少しだけ」という題名の配信を開始しただけだった。

 

 

それでも通知を設定していた者はいたらしく、来場者数はすぐに一桁から二桁へ変わり、数十秒もしないうちに三桁へ届いた。

コメントもどんどんと流れ始めた。

 

 

『え』

 

『ユイちゃん!?』

 

『久しぶり』

 

『通知見て飛んできた』

 

『大丈夫?』

 

『ほんもの?』

 

『待ってた』

 

『起きててよかった』

 

『無理しないでね』

 

『声聞ける?』

 

 

 

画面の上を文字が次々と横切っていく。

 

ずっと見慣れていた光景だった。

自分が声を出せば反応が返ってきて、少し間を空ければ常連が心配し、初見が状況を尋ねる。

何年もかけて作ってきた場所が、長い休止のあとでも完全には消えていない。

 

 

 

そのことに胸が温かくなるはずだったが、今の水瀬には喜び方がわからなかった。

喜ぶってなんだろうか? 全てがばかばかしかった。

私の苦しみも知らない、名前も顔も知らない赤の他人の癖に。

 

 

 

配信用のマイクは目の前にあり、入力表示も正常だ。

水瀬はノートに書いた最初の文章へ視線を落とし、ゆっくりと息を吸った。

 

 

 

喉がずきんと痛んだ。

ここ数週間、まともに声を使わなかったせいなのか、それとも最初からずっと続いている何かのせいなのかは、もう考えなかった。

彼女は唇を開き、昔なら何も考えずに言えた挨拶を口にした。

 

 

 

「こんばんは。水瀬ユイです」

 

 

 

喉の奥で濡れた何かが破裂し、その上から甲高い女の声が被さった。

喉を裂かれた人間が、肺の空気を無理やり絞り出して叫んでいるような音だった。

最初の一音だけで歯の根が浮き、耳の奥へ細い針を突き刺されたような痛みが走る。

 

 

以前の水瀬なら、その場でマイクから離れていただろう。

けれど彼女は動かなかった……否、もうそんな気力さえもない。

内側に前はあれだけあった熱量というものが全くないのだ。

 

 

淀んだ瞳でコメント欄を見る。

 

 

『こんばんは!』

 

『声聞けた』

 

『よかった』

 

『めっちゃ久しぶり』

 

『ちゃんとユイちゃんだ』

 

『思ったより声出てるじゃん』

 

『無理しないでね』

 

『なんか声綺麗になってない?』

 

 

 

水瀬はしばらく画面を見つめたが、その胸中に驚きはなかった。

恐怖も以前ほどではない。

 

 

 

代わりに、胸の奥に小さな安堵と確信が落ちた。

納得と自己肯定感というべきか。

ただし根底にあるのは自己否定だが。

 

 

やっぱり、と。

そう思った。

 

 

自分には悲鳴に聞こえているがしかし外には普通に届いている。

文字起こしソフトの時と同じで、コンビニの店員の時と同じで、配信仲間へ送った短い音声と同じだった。

 

 

「水瀬ユイ」はちゃんと喋れており、問題があるのは自分だけだ。

もう何度も確認した結論だった。それは何度も証明しているだけだ。

 

 

 

それでも、実際に何百人もの人間が同時に反応している画面を見ると、その答えには今まで以上の重みがあった。

水瀬は再び口を開いた。

 

 

 

「急に始めて、ごめんなさい」

 

 

彼女の耳には、何かが長く擦れる音として聞こえた。

高い悲鳴の途中で喉が潰れ、空気が濁ったまま漏れていくような音だったが、コメント欄にはすぐに返事が流れた。

 

 

 

 

『全然いいよ』

 

『来てくれただけで嬉しい』

 

『謝らんでええ』

 

『体調どう?』

 

『声思ったより元気そう』

 

『ほんと無理だけはしないで』

 

 

 

水瀬はノートへ目を落とし今日何を言うべきかを黙読していく。

 

 

 

体調が戻らないこと。

しばらく活動を休むこと。

心配してくれた人への感謝。

最後に一曲だけ歌うこと。

 

 

 

たったそれだけの内容だった。

それでも彼女はなるべく冗談を混ぜ、湿っぽくならないように配慮する気だった。

配信者としての水瀬ユイは、空気が重くなるのを嫌ったのだ。

 

 

自分の悩みで視聴者へ負担をかけたくないという、彼女なりの意地もあった。

今は、その気遣いをする力すらほとんど残っていなかったが、振り絞る。

 

 

 

「まだ、ちょっと調子が戻らなくて。喉も……たぶん、ちゃんと休ませた方がいいので」

 

 

本人には、長く引き延ばされた金切り声にしか聞こえない。

自分がどこで句切り、どこまで喋ったのかさえ、口や舌の動きで判断するしかなかった。

 

 

 

「しばらく、ちゃんと休もうと思います」

 

 

コメントが一気に増えた。

 

 

 

『そっか』

 

『それがいいよ』

 

『ゆっくり休んで』

 

『喉は本当に大事』

 

『戻ってくるまで待ってる』

 

『無期限?』

 

『今は何も考えなくていいと思う』

 

『ユイちゃんのペースでね』

 

『ちゃんと聞こえてるから安心して』

 

 

『声ほんと綺麗だよ』

 

 

 

最後のコメントへ、水瀬の視線が止まった。

 

 

 

 

声ほんと綺麗だよ。

 

 

 

 

 

その言葉に、以前なら胸を抉られていた。

今は違い「そうなんだ」と、それだけだった。

この人には綺麗に聞こえているらしい、それなら、それが正しい。

 

 

 

自分に何が聞こえているかなど、もうどうでもよかった。

水瀬はほんの少しだけ口元を緩めた。

笑顔と呼べるほどではなかったが、配信を始めてから初めて表情が動いた。

 

 

「ありがとう」

 

 

 

甲高い悲鳴が聞こえた。

コメント欄には、『こちらこそ』『声聞けてよかった』『泣きそう』と流れた。

 

 

 

水瀬はその反応を見て、また少しだけ安心した。

 

 

 

もう大丈夫だ。「水瀬ユイ」にとって何も問題はない。

彼女はそう結論づけることで、どうにか椅子に座り続けることができた。

 

 

 

 

その代わりに、もっと深いところで何かが冷えていった。

 

 

 

この配信が終わったら、自分は何をするのだろう?

今まで何年間も積み重ねてきた全てを投げ捨てて、何が残るんだろうと。

 

 

 

食事をしたり眠ったりするのか?

病院へ行って精密検査に薬を貰う? MRIだって撮るかもしれない。

 

 

 

……もう一度歌うのか?

 

 

 

 

答えは何も浮かばなかった。

未来という言葉は、自分には関係のないものになっていた。

 

 

 

けれど「水瀬ユイ」には未来がある。

 

 

 

伸びた動画は残るし、綺麗で人気の歌はずっと永遠に保存されていく。

何より皆が覚えていてくれるのだから、その方が正しいのだろう。

 

 

 

一度だけ深く息を吸えば、胸が痛んだ。

 

 

 

「今日は……それを言うために来ました」

 

 

 

 

コメント欄の流れが少し落ち着く。

 

 

 

『うん』

 

『聞いてる』

 

『大丈夫だよ』

 

『ゆっくりでいい』

 

 

 

 

水瀬はノートの最後の行を見た。

 

 

最後に一曲だけ歌うこと。

夢を終わらせるラストライブ。

本当ならば大きな会場でやりたかった。

 

 

だけど、今はもう無理だ。

これで、今日で、二度と彼女は歌わない。

 

 

 

喉の奥が強く縮み痛んだ。

彼女は歌が好きだった。

お金の為とか承認されるとか、人気とか、そんなの関係なく歌うのが好きだった。

 

 

 

歌は水瀬ユイという名前と自分を繋いでいたものだった。

こんな電子の世界でちっぽけな存在だった自分が唯一武器に出来たモノだった。

何年も努力して、自分の人生の中心に置いたもので、そして今、自分には悲鳴にしか聞こえない苦痛の種だった。

 

 

 

水瀬はマウスへ手を伸ばし、伴奏を準備した。

音源のフォルダには何百というファイルが残っている。

その中から選んだのは、活動を始めた頃に一度だけ投稿した曲だった。

 

 

まだコミュニティの人数が数百しかいなかった時代。

一つの動画が百再生を超えただけで、何度も管理画面を更新して喜んでいた頃の曲だった。

 

 

機材も悪く、ミックスもほとんど独学で、音圧の調整さえよくわかっていなかった。

歌も今よりずっと下手で、息が足りない場所を誤魔化し、高音で何度も失敗し、結果として何十テイクも録り直した。

 

 

それでも、水瀬はその曲が好きだった。

配信でも何度も思い入れを話したこともある。

 

 

いつかもっと上手くなったら歌い直したい。

いつか大きな会場で歌えるようになったら、最初に歌ってみたい。

 

 

そんなことを言ったこともある。

そんな「いつか」はもう来ないが。

 

 

昔の自分が夢を託した曲を、夢の終わりに歌う。

水瀬はファイルを読み込むと、コメント欄に気づいた者がいた。

 

 

『え、この曲?』

 

『懐かし』

 

『初期のやつじゃん』

 

『うそでしょ』

 

『これ歌うの?』

 

『昔から見てる人泣くだろ』

 

 

 

水瀬は、そこに並ぶ言葉を見ながら口を開いた。

 

 

「最後に、一曲だけ歌います」

 

 

自分の耳には、耳をつんざくような絶叫が響いた。

一瞬、反射的に肩が跳ねたがそれでも止めなかった。

 

 

コメント欄が勢いを増していく。

 

 

 

 

『待ってた』

 

『嬉しい』

 

『無理だけはしないで』

 

『声きつかったら途中でやめていいからね』

 

『絶対泣く』

 

『この曲はやばい』

 

『古参殺しに来てる』

 

『ユイちゃんありがとう』

 

 

水瀬は身じろぎしつつマイクの位置を直した。

以前のように発声を意識し腹に力を込めて綺麗な姿勢を意識することはなかった。

椅子へ深く座り、痩せた肩を落としたまま、目の前の歌詞を確認するだけだ。

 

 

本当は全部歌詞を覚えている。

活動初期に何十回も歌った曲なのだから、今さら歌詞カードなどなくても歌える。

ただ、自分の耳には日本語として聞こえないだろうと思ったのだ。

 

 

ならば目で歌詞を追うしかなかった。

水瀬は伴奏の再生ボタンを押せば静かなイントロが流れた。

 

 

 

 

ピアノの音に小さく重なる弦楽器の音色。

規則正しく刻まれるリズムは何年も聞いてきた曲だった。

 

 

 

その旋律にはまだ何の異常もない。

ここまでは良い。ここまでは。

 

 

 

水瀬は息を吸った。

喉は痛いけれど、声は出せる。

 

 

 

最初の歌詞が始まり、水瀬は口を開いた。

その瞬間、耳の中を鋭い悲鳴が突き抜けていく。

脳に針をゆっくり沈みこまれていくような不快感がする。

 

 

 

 

若い女が喉を裂かれ、肺の底から絶叫しているような甲高い音だった。

その背後には、さらに別の女の声が重なっている。

遠くから叫んでいるようにも、耳のすぐ横で叫んでいるようにも聞こえる。

 

 

その奥では、黒板を鋭い金属片で削るような擦過音が続く。

人間の発声ではあり得ない細い音が、伴奏を無視して耳の奥へ突き刺さってくる。

 

 

歌詞は聞こえないし、今の自分の音程もわからない。

自分が正しい高さの声を出しているのかどうか、何も判断できない。

水瀬は一行目を歌ったつもりだったが現実はどうか判らなかった。

 

 

コメント欄が動いた。

 

 

 

『うわ』

 

『やばい』

 

『声めっちゃ綺麗』

 

『これ本当に喉悪い人?』

 

『最初から鳥肌』

 

『昔と全然違う』

 

『泣きそう』

 

 

 

水瀬は画面を見た。

 

 

 

 

美しいらしい。

少なくとも不快感はないようだ。

ならば大丈夫だと二行目へ進む。

 

 

 

悲鳴が高くなる。

何かが水瀬の喉の内側を爪で引っ掻いているように感じた。

痛みが走り、反射的に声を止めそうになる。

 

 

 

しかしコメント欄は盛り上がっていた。

大文字やら赤文字が画面を所狭しと埋め尽くし流れていく。

公告がどんどん入りランキングはますます上がっていく。

 

 

瞬く間に3300枠もある放送主の中で二桁まで駆け上がっていくのだ。

 

 

 

 

『伸びすご』

 

『透明感えぐい』

 

『昔の動画と聞き比べたい』

 

『こんな上手くなってたんだ』

 

『一位も夢じゃない!』

 

 

 

 

 

称賛が延々と流れ続ける。

こんなもののどこが歌なんだと水瀬は視界が滲んだ。

けれど、皆が歌だと言っているならば歌なのだ。

 

 

Aメロが終わり、伴奏が少し大きくなる。

息を吸うと喉が焼けるように痛み、それ以上に胸の奥も痛い。

視界が滲み、呼吸がどんどん荒くなっていく。

 

 

以前なら、ここで一度止めて水を飲んだかもしれない。

喉を守ることは、歌手として何より大切だったからだ。

しかし今の水瀬には、それもどうでもよくなっていた。

 

 

 

この喉は「水瀬ユイ」のものだ。

「水瀬ユイ」が歌えるなら、それでいいんだと。

 

 

 

次のフレーズへ入ると地獄が始まった。

悲鳴に金切り声に何人いるのかわからない女の絶叫がどんどん重なっていく。

まるで遠くの地下室と、自分の耳元と、喉の奥の三か所から同時に叫ばれているようだった。

 

 

 

水瀬には、歌詞として聞こえる音は何一つないのに、それでも、画面の上には昔からの常連が反応を流している。

 

 

 

 

 

『ここ好きだった』

 

『昔ここ苦しそうだったのに今余裕じゃん』

 

『高音めっちゃ綺麗になった』

 

『成長すごすぎ』

 

『ユイちゃん本当に頑張ったんだな』

 

 

 

 

頑張った。

 

 

 

 

水瀬は歯を食いしばった。

 

 

そうだ。頑張った。

ずっと頑張った。

再生数が二桁でも歌ったんだ。

 

 

コメントがつかなくても歌ったんだ。

夜中に隣室へ気を遣いながら、何度も同じフレーズを録り直したことだってある。

 

 

喉の使い方を調べたし、呼吸を練習した。

声の出し方を変えたこともあった。

自分より上手い人間を見て悔しがり、その歌を何度も聞いて研究した。

 

 

 

自分より後から始めた誰かが先に売れた時も、悔しい気持ちを飲み込んで「おめでとう」と言った。

 

 

いつか自分もそこへ行きたかった。

今、コメント欄にはその努力を認める言葉が流れている。

なのに自分には、自分の歌が悲鳴にしか聞こえない。

 

 

 

 

 

涙が頬を伝ったが、水瀬は歌うことをやめなかった。

伴奏が次第に厚みを増し、やがて昔から苦手だったサビが近づいてくる。

この部分は活動を始めた頃、何十回も録り直した場所だった。

 

 

 

高音が安定せず、途中で息が尽き、何度やっても納得できなくて、とうとう泣きながら録音を止めた夜さえある。

それでも、いつかここを綺麗に歌えるようになりたいと何度も思ってきた。

 

 

 

その場所へ、ようやく辿り着いた。

水瀬は大きく息を吸い、サビへ入った。

その瞬間、耳の中で何かが壊れたような錯覚を覚えるほど鋭い悲鳴が響いた。

 

 

今まで聞いてきたどの音よりも細く、強く、人間が出せる高さとは思えない。

何十人もの女が同時に喉を裂きながら叫び、その声が耳元と遠い場所の両方から押し寄せてくるようだった。

あまりの不快さに水瀬の口が閉じかける。しかし、その瞬間にコメント欄が一気に加速した。

 

 

 

『すごい』

 

『鳥肌立った』

 

『今までで一番好き』

 

『声が透き通ってる』

 

『泣いた』

 

『この曲ずっと待ってた』

 

『昔から見てるけど別人みたい』

 

『水瀬ユイはやっぱり天才』

 

『CD出してほしい』

 

『ライブで聞きたい』

 

『武道館で聞きたい』

 

 

 

 

最後の一行に、水瀬の視線が吸い寄せられた。

 

武道館で聞きたい。

 

 

 

それは昔、自分が何度も口にした夢だった。

配信で「目指せ武道館」と笑い、冗談めかして流しながら、本当は誰よりも真剣に願っていた。

一万人規模のホールで歌い、CDを出し、ライブを開き、いつかはプロとして自分の名前を知ってもらう。

誰かが自分の歌を聴くために金を払い、自分の声を求めて会場へ来てくれる。

 

 

何年も追い続け、それでも一度として届かなかった未来だった。

その夢を肯定する言葉が、今になって次々と流れてくる。

 

けれど、水瀬自身には歌っている感覚などほとんどなかった。

音程はわからず、歌詞さえ耳に入らない。

喉から人間の声とは思えない絶叫を吐き出しているだけなのに、画面の向こうでは誰もが美しいと褒めている。

 

 

 

涙で歌詞カードが滲んだ。喉は焼けるように痛み、息を吸うたびに胸の奥が裂けそうになる。

それでもコメント欄には『ほんとに綺麗』『声全然ぶれてない』『感情の乗り方やばい』といった言葉が流れ続けた。

 

 

 

感情の乗り方。

その言葉を見た時、水瀬は奇妙なほど冷静になった。

感情がもしも乗っているというならば、きっと今の歌にはどす黒いモノしか載っていない筈なのに、何もわかっていない。

 

 

 

 

スンと水瀬の中で全てが冷めていく。

所詮こいつらは何もわかってないのだ。

結局のところただの画面越しの関係でしかないという事実がここにはある。

 

 

 

名前も顔も知らない者同士ならば、それはただの赤の他人だ。

ならば、もう正しく歌おうと頑張る必要すらないのではないか。

どうせ判らないのだから。

 

 

次のフレーズへ入ったところで、水瀬は音程を取ろうとすることをやめた。

それまでは悲鳴しか聞こえなくても、かつて身体へ叩き込んだ感覚を頼りに腹へ力を入れ、喉の位置を調整し、可能な限り正しい音を出そうとしていた。

それをすべて放棄し、ただ口を開いて、喉から出てくるものをそのまま外へ流した。

 

 

 

 

水瀬自身には、伴奏の上に甲高い絶叫が重なっているようにしか聞こえない。

歌詞を正しく発音しようという意識さえ薄れ、口を動かして息を吐くだけになっていく。それでもコメント欄の反応は変わらなかった。

 

 

 

 

『うますぎる』

 

『このアレンジ好き』

 

『今の崩し方天才』

 

『ここ原曲より好きかも』

 

『ほんと声が楽器みたい』

 

 

 

 

水瀬は涙を流したまま、わずかに笑った。

本当に、自分が何をしようと関係ないのだ。

 

 

一生懸命に発音しようが、適当に口を動かそうが、音程を取ろうが諦めようが、自分の耳に何一つ正常な音が届かなくても、水瀬ユイは歌える。

ならば、水瀬結衣が必死に頑張る必要など最初からなかったのかもしれない。

歌っているのは水瀬ユイで、自分はただ口と喉を貸しているだけだ。

 

 

 

 

そう考えた瞬間、長い間胸の上に乗っていた重石がほんの少しだけ軽くなった。

自分の歌でなければ怖がらなくていいし、上手く歌えなくても自分が失敗するわけではない。

 

 

 

 

水瀬は椅子の背へ身体を預け、喉から出る音をそのまま放った。耳には相変わらず絶叫しか聞こえない。

それでも、その苦痛さえ少しずつ自分から遠ざかっていく。

自分の声でも、自分の歌でもないと思ってしまえば、耐えることができた。

 

 

 

 

最後のサビが近づく頃には、水瀬は歌詞カードを見ることさえやめていた。

もう必要ない。ただ口を動かし、喉を開き、そこから出てくる声を流せばいい。

涙で画面は滲んでいたが、コメントだけは次々と色を変えながら流れていった。

 

 

 

『ここだ』

 

『ラストサビ』

 

『ユイちゃん頑張れ』

 

『好き』

 

『ずっと待ってた』

 

 

水瀬は肺いっぱいに息を吸い込み、最後のサビへ入った。

 

そこで耳に飛び込んできたのは、これまで以上に凄まじい悲鳴だった。

人間の声が完全に壊れ、喉が裂け、声帯が千切れ、その奥から甲高い絶叫だけが無理やり絞り出されているように聞こえる。

複数の女が同じ高さで叫び、それが遠くからも、耳元からも、自分の喉の奥からも響いてくる。

 

 

 

 

すでに個々の音を聞き分けることすらできず、すべてが一つの巨大な不協和音となって水瀬の頭を満たしていた。

それでも彼女は画面を見た。

コメント欄は、この日一番の勢いで流れていた。

 

 

 

 

『これが水瀬ユイ』

 

『完全復活じゃん』

 

『やっぱりこの声なんだよ』

 

『ずっと待ってた』

 

『この声好き』

 

『本物だ』

 

『本当に水瀬ユイだ』

 

『帰ってきてくれてありがとう』

 

 

 

 

その中の「本物」という言葉に、水瀬の視線が止まった。

 

かつてなら、必死に否定しただろう。

それは私ではない、私の声を聞いてほしい。

水瀬ユイは私で、あれは私の名前を使っているだけなのだと、誰か一人にでもわかってもらおうとした時期が確かにあった。

 

 

 

けれど今は、もう反論する気力が残っていなかった。

 

 

やっぱりそうなんだ。

あっちが本物なんだ。

 

自分だけが間違っていたのだと、水瀬は受け入れた。

自分の耳がおかしくなり、美しい水瀬ユイの声を悲鳴だと思い込んでいただけなのだ。

そう完全に認めた瞬間、彼女はようやく美しい声が聞こえた気がした。

 

 

 

綺麗だった。美しかった。完ぺきだった。

子供の頃からこう歌いたいと思っていた理想がそこにはあった。

自分の喉からソレが出ていて、もう何も思わなくても勝手に歌声が出ている。

 

 

 

涙が頬を伝った。

しかし水瀬は、ほんのわずかに笑った。

嬉しいわけでも、悔しいわけでも、もう恐怖しているわけでもない。

 

 

 

ただ何もかもを諦めた人間の、力の抜けた笑いだった。

 

 

 

これでいい。

こんなすごい歌手の礎になれたんだから、もう、これでいい。

 

 

 

自分は何年も水瀬ユイになりたいと思ってきた。

本名とほとんど変わらない活動名をつけ、いつかこの名前でプロになりたいと願っていた。

それほど大切だった名前なのに、今はもう手放しても構わないと思えた。

 

 

 

だってもう自分は邪魔だから。

 

 

水瀬ユイは、自分より歌が上手い。

自分より綺麗で、自分より多くの人間から愛されている。ならば、そちらが水瀬ユイでいい。

 

 

私は、いらない。

 

 

最後のサビでは、もう音程も呼吸も発音も感情も意識しなかった。

ただ喉を開き、そこから出てくるものを流し続ける。

 

 

この世でこれほどの歌を聞いたことがないと思うくらいに上手だった。

当たり前の評価として『最高』『今までで一番』『CD欲しい』『ライブ行きたい』『武道館で聞きたい』という

かつて一つでも得られれば一晩中喜んでいた言葉が洪水のように流れていた。

 

 

それでも、もう自分へ向けられているとは思わなかった。

水瀬ユイへの言葉なのだから、自分が受け取る必要もない。

 

 

 

やがて曲が終盤へ入り、伴奏が少しずつ静かになった。

最後のピアノへ重ねるように、水瀬は最後の音を伸ばす。

 

 

 

それでも声は伸び続け、やがて伴奏の最後の音が消えた。

 

 

そこで終わるはずだった。

 

 

 

水瀬も息を止め、口を閉じようとした。

ほんの数秒、喉の奥からまだ声が細く続いた。

肺にはほとんど空気が残っていないはずなのに、ずっと歌が続く。

 

 

 

何もしてないのに口が勝手に動き歌い続けていた。

歌は終わりもう歌詞なんてないのに、ずっとずっと綺麗な声で何かを歌い続けている。

 

 

 

 

前の水瀬なら、椅子を蹴って逃げ、マイクを投げ捨て、電源を切ろうとしただろう。

今はただ、画面を見ていた。

 

 

 

 

『余韻すごい』

 

『最後のロングトーン鳥肌』

 

『アレンジ最高』

 

『息どうなってるの』

 

『めっちゃ綺麗』

 

『最後やばかった』

 

 

 

そこに書かれた言葉を読みながら、水瀬はほんの少しだけ頷いた。

 

やっぱり、私じゃなくても歌えるんだ。

 

その考えには、もう恐怖よりも安堵の方が大きかった。

自分が頑張らなくても、水瀬ユイは歌える。

音程を取らなくても、歌詞を意識しなくても、息を止めているつもりでも、美しい歌として外へ届く。

 

 

 

やっぱり、自分はいらない。

 

 

数秒後、歌声は自然に消えた。

配信ソフトには異常表示ひとつなく、音量メーターも通常通り無音へ戻っている。

マイクもパソコンも正常で、部屋にはファンの回転音と時計の秒針だけが残った。

 

水瀬はしばらく黙っていた。

コメント欄では『本当に良かった』『休止前に聞けてよかった』『戻ってくるまで待ってる』『今日のアーカイブ絶対残して』『ユイちゃん大好き』といった感想が流れ続けている。

 

 

 

そこでようやく、自分がまだ泣いていたことに気づいたように袖で目元を拭った。

配信を終わらせなければならない。

 

 

それだけはわかっていた。

水瀬は少し息を整え、マイクへ向き直った。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

歌が終われば「音」は元のノイズへと戻っていた。

前と同じく喉を擦る悲鳴としか聞こえない。

それでもコメント欄には『こちらこそ』『歌ってくれてありがとう』と返ってきた。

 

 

「少し休みます」

 

 

 

また甲高い擦過音が耳に入るが、画面には『ゆっくり休んで』『待ってる』『喉大事にして』という正常な返事が流れていく。

最後に、水瀬はノートへ書いておいた言葉を見た。

 

 

 

「また歌えるようになったら戻ってきます」

 

 

 

 

彼女の嘘に対してコメント欄には、『絶対戻ってきて』『今日の歌最高だった』『水瀬ユイ大好き』『またね』『おやすみ』と言葉を正しく聞き取った者たちの返事が一斉に流れた。

 

 

 

『ユイちゃん大好き』

 

 

 

かつてなら、その一言を自分の胸へ抱え込んだだろう。

今はもう、自分以外の誰かへ向けられた言葉にしか見えなかった。

それでも不快ではない。奪われたのではなく、自分から手を離したのだと思えばよかった。

 

 

水瀬は配信終了ボタンへカーソルを合わせた。

ほんの一瞬だけ指が止まったものの、それは何年もの活動で何百回と押してきたボタンにすぎない。

配信を始め、喋り、歌い、最後に挨拶をして終了する。今日も外から見ればそれと何も変わらなかった。

 

 

 

配信ソフトは正常で、パソコンにも異常はなく、マイクも壊れていない。

コメント欄も最後まで普通に動き、誰かが勝手に配信を延長することもなければ、電源を落とした後まで声が残るような異常も起こらない。

 

 

 

全てが正常だった。

異常なのは、水瀬結衣だけだった。

確認画面が表示されると、水瀬は今度こそ迷わず「はい」を押した。

 

 

 

 

《配信は正常に終了しました》

 

 

 

 

画面にそう表示され、部屋にいつもの静けさが戻ってきた。

パソコンのファンが回り、時計が秒を刻み、遠くを車が通り過ぎていく。

マイクから声が出ることも、スピーカーから悲鳴が流れることもない。

 

 

水瀬は椅子に座ったまま、長い間動かなかった。

 

 

やったことだけを並べれば、休止を告げ、一曲歌い、ファンに褒められて配信を終えただけだった。

外から見れば、喉と精神を少し痛めた歌い手がファンへ挨拶し、驚くほど上手い歌を一曲残して活動休止へ入った。

それだけの、何の事故も起きていない配信だった。

 

 

 

彼女からすれば夢の終わりだった。

もう、自分には何も関係がない。

薄暗い部屋の中で、消し忘れたモニターだけが静かに光り続けていた。

 

 

 

 

「良かったね。これで満足した?」

 

 

 

 

誰もソレに応えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水瀬は日付が変わってから、机の端に置いていた大学ノートを開いた。

 

最初のページから読むつもりはなかった。

もうそこに何を書いたのかは覚えている。

体調の記録から始まり、いつあの音を聞いたか、どの動画で強く感じたか、誰へ相談したかといったことを必死に書き残していた。

 

 

 

それが途中から、記録ではなくなった。

ページをめくると、太い筆圧で書かれた文字が一つ。

 

 

 

 

 

《かえして》

 

 

 

 

水瀬はその文字を見つめた。

かえして?

何を返してほしかったのだろう。

 

 

 

声?

歌?

名前?

未来?

 

 

以前なら全部だと思っただろう。

けれど今は、それらを返されてもどうすればいいのかわからなかった。

水瀬はペンを取り、《かえして》の上へ何度も線を引いた。

 

 

一本では消えず、二本、三本と重ねていく。

文字が読めなくなるまで黒く塗り潰してから、その下へ新しい文章を書いた。

 

 

水瀬は長い時間考え、最後の一行を書き加えた。

 

 

《これでかえせる》

 

 

何を誰へ返すのかは書かなかった。

水瀬ユイという名前なのか、歌なのか、それとも今まで自分が握りしめていた何かなのか。

水瀬自身にも、もうよくわかっていなかった。

 

 

 

遺書というにはあまりに抽象的すぎた。

本来の遺書には死ぬ理由、謝罪や怒りなどといった感情がある程度は理路整然とびっしり書き込まれるだろうがこれは違う。

感情的な発露を短文として書き連ねただけだ。

 

 

 

後から第三者が読めば、精神的に追いつめられ、自分自身と活動名の区別さえ曖昧になってしまった若い女性が書いた文章としか思えないだろう。

実際、それ以上の証拠はどこにもなかった。

水瀬はノートを閉じると、机の隅へ置いた。

 

 

 

それから部屋を見渡した。

片づける気にはならなかった。

 

 

 

台所では食べ残したものが腐り、冷蔵庫の中には賞味期限の切れた食品が残っている。

空のペットボトルやコンビニの袋も溜まっていた。

以前の水瀬なら、配信の背景へ映るわけでもない場所まで几帳面に掃除しただろう。

 

 

 

今は、そんなことをする理由がなかった。

 

 

机の上にはマイクがあり、水瀬はその前へ立った。

今日まで、自分の人生で最も大切な道具だったものだ。

決して最上級の機種ではなかったが、当時の水瀬にとってはかなり高い買い物だった。

何週間も迷い、レビューを調べ、少し無理をして買った。

 

 

 

初めて箱から出した日のことを覚えている。

これで今までより綺麗に録れる、もっと良い歌が作れる、いつか、このマイクでプロになるための音源を録る。

 

 

そう考えていた。

水瀬はマイクの表面を指で撫で、次の瞬間に壁に向けて投げ捨てて破壊した。

何度も何度も壁にたたきつけ、二度と使えない様に粉々に砕いて残骸は足で踏みにじった。

 

 

 

本当に彼女は自分が死んだのだと思った。

歌手として終わった。もう何もない。

だから、しっかりと幕を下ろさなくてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼過ぎ、水瀬ユイのコミュニティへ短い投稿があった。

 

 

 

《少し休みます。また歌えるようになったら戻ってきます》

 

 

 

前夜の配信で話していた内容とほとんど同じだった。

投稿されると、すぐにいくつものコメントがついた。

何も知らない奴らが表面上だけ整えたつまらない慰めの言葉をつらつらと。

 

 

 

『ゆっくり休んで』

 

『昨日の歌最高だったよ』

 

『待ってる』

 

『元気になってね』

 

『喉ちゃんと治して』

 

『またいつか』

 

 

誰も不自然には思わなかった。

配信終了後に水瀬本人が文章を用意し、翌日の昼に投稿したとしても何もおかしくない。

予約投稿機能を使っていた可能性もあるし、起きてから短く書いたのかもしれない。

 

 

 

後になっても、それがいつ入力されたものなのかはわからなかった。

ただ一つ確かなのは、その投稿が表示された頃には、彼女は既に自宅にはいなかったということだった。

 

 

 

 

最初に異変へ気づいたのは、ネットの人間ではなかった。

水瀬と日常的に連絡を取っていた現実の知人だった。

 

元々、活動が不安定になってから返信は遅くなっていたため、一日や二日連絡が取れないだけなら誰も大きな問題とは考えなかった。

それでも数日経ち、電話にも出ず、メッセージにも既読がつかない状態が続けばさすがにおかしいという話になる。

 

 

 

 

水瀬は以前から喉と体調の不調を訴えていた。

精神的にもかなり参っているようだったと多くの人は供述した。

家族を通じて確認が取られ、最終的に自宅へ人が入ることになった。

 

 

部屋には争った形跡はなかった。

玄関にも窓にも不自然な破損はなく、誰かが無理やり侵入した様子もない。

 

パソコンの電源は落とされていた。

ヘッドホンはその横に置かれ、オーディオインターフェースも接続されたままだった。

マイクだけがバラバラに破壊され床に散らばっていた。

 

 

 

 

財布もあり、現金もカードも残っている。

スマートフォンは充電器へ繋がれたまま机の上に置かれていた。

 

 

鞄もあった。

身分証明書の類も、日常的に使っていたものの多くが室内に残されていた。

 

 

一方で、普段着の一部と靴が一足なくなっていた。

何も着ずに消えたわけ──誰かに無理やり──という訳ではない、自分の足で外へ出た可能性が高いと警察は判断した。

 

 

 

ただし、長く家を離れる人間の準備には見えなかった。

旅行用の鞄もなければ、着替えを何日分も持ち出した様子もない。

財布も携帯電話も持っていないため、電車へ乗ることも、宿泊施設を使うことも、誰かへ連絡することも難しい。

 

 

 

戻るつもりで近所へ少し出ただけなのかもしれない。

そう考えることもできた。

しかし、そうであれば数日も戻らない理由がなかった。

 

 

 

部屋には生活が途中で止まった痕跡が残っていた。

冷蔵庫では食品が傷み、台所には手をつけられなかった弁当や空容器が積み上がっている。

洗濯物も残され、布団も乱れたままだった。

 

 

机の上には大学ノートがあった。

そこに書かれていた文章は、後に水瀬の精神状態を判断する材料の一つになった。

 

 

 

《私だけが間違っていた》

 

《水瀬ユイはちゃんと歌える》

 

《私が邪魔だった》

 

《これでかえせる》

 

 

 

それ以前のページには、自分の声が自分ではない、誰かが耳元で喋っている、声を返してほしいといった記述も残っていた。

警察にとって、それらは言葉を選ばなければ珍しいものではない。

精神的に不安定になっていた可能性を示す記録でこの手の者は多い。

 

 

特に歌手などといった芸能に携わる人物ではなおさらだ。

アマチュアでしかなかった水瀬を芸能人というかどうかは微妙ではあるが。

しかし話を纏める限り、水瀬は周囲へ体調不良を訴えており、活動も長期間休止していたのは事実だ。

 

 

食生活も崩れ、部屋の状態から見ても日常生活に支障を来していたことは明らかだった。

捜索はしっかりと行われた。若い女性の行方不明、警察が動くには十分だ。

 

 

 

マンションの防犯カメラには、夜明け前に建物から出ていく女性の姿が残っていた。

時刻は配信が終了してから数時間後だった。

服装や体格から、水瀬本人である可能性は高かった。

 

 

 

一人で誰かと一緒ではない。

誰かに追われている様子もなければ、無理やり連れ出された様子もない。

しかし荷物らしい荷物も持っていなかった。

 

 

ただ建物から出て、画面の外へ歩いていった。

それが、水瀬結衣の姿を確認できる最後の映像になった。

 

 

周辺の防犯カメラや聞き込みも行われたが、その先の足取りは明確には掴めなかった。

駅を利用した記録は確認できず、本人名義の口座から金が引き出された形跡もない。

 

 

 

カードも使われていない。

携帯電話は部屋に残されていたため、通信記録から居場所を追うこともできなかった。

結局、事件性を裏づける証拠は見つからなかった。

 

 

 

誰かに脅されていたという記録もなく、ストーカー被害の届け出もない。

部屋から金品が盗まれた様子もなく、第三者との争いを示す痕跡もなかった。

だからといって、どこへ行ったのかがわかったわけではない。

 

 

 

水瀬結衣は、自分の足で家を出た、そこまではわかった。

その後が全くわからなかった。

 

河川や山間部も含め、考えられる場所は調べられ、病院への搬送歴も確認された。

身元不明者との照合も行われたがそれでも見つからなかった。

 

 

 

遺体も生きている水瀬も何も出てこなかった。

ただ、戻るために必要なもののほとんどを部屋へ置いたまま、夜明け前に一人で出て行って、忽然と消えた。

その乾いた事実だけが残った。

 

 

 

 

 

交番の前に一枚の張り紙が増えた。

水瀬結衣を探すためのポスターだった。

家族の悲痛なメッセージと「どうか見つけてください」という文字が大きく印字されている。

 

 

 

彼女の隣には同じような行方不明、神隠しとしか言いようがない不明者の顔が何枚も何枚も張られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実の◆瀬◆■が行方不明になっている一方で、ネット上の水瀬ユイはそれまで以上の勢いで広がり始めていた。

彼らは水瀬の行方不明など知る由もない。

家族が大事にしないでくれと言ったのも大きい。

 

 

 

原因は、最後の配信だった。

最初に誰かが、最後の歌だけを抜き出した動画を投稿した。

題名には《活動休止前の神歌唱》と書かれている。

 

 

 

別の人間は《水瀬ユイ、最後の配信で覚醒》と名づけた。

 

 

 

さらに数日経つとそれらはどんどん跳ね上がっていく。

才能ある若い女性の歌手が精神的に病んで休止……実質引退する前に最後に輝きを見せたのだ。

こんなストーリー性のある話を見逃すはずがない。

 

 

 

《伝説の歌枠》

 

《引退前の最高傑作》

 

《水瀬ユイ史上最高の歌》

 

 

等といった言葉が使われるようになった。

本人は引退すると言っていないが、この手の話題を追う人は判るものだ。

この手の「休みます」はもう戻ってこないと。

 

 

戻ってこない日が続けば続くほど、「最後」という言葉には説得力が生まれ、人々はやはりと思うのだった。

休止直前に披露された、異様なほど完成度の高い歌とその直後から一切の活動がない現状。

 

 

本人の姿も見えないのがこの思いを補強していった。

多くのそうした事情が組み合わされ、歌そのものに物語が付着していった。

 

 

 

『これ本当にすごい』

 

『何度聞いても鳥肌立つ』

 

『なんでこれで引退するんだよ』

 

『休止前に全部出し切った感じする』

 

『この人もっと評価されるべきだった』

 

『普通にプロレベル』

 

『今からでもCD欲しい』

 

『武道館で聞きたかった』

 

 

 

再生数は増え続けていく。

かつて水瀬が一晩中画面を更新し、一万再生を超えたことに大喜びしていた時代とは比較にもならない。

 

 

 

十万。二十万。五十万。百万。

 

 

外部のブログやまとめ記事でも取り上げられ動画サイトを普段使わない層へまで名前が広がった。

 

 

 

水瀬ユイ。

休止した歌い手で、最後の歌が異常に上手い人。

人気の絶頂期で事実上の引退。

 

 

 

知らなかった人間が、後からその名前を覚えていく。

皮肉なことに、水瀬が何年も夢見ていた状況が本人がいなくなった後になって完成し始めていた。

最もそれを受け取ったのは彼女ではないが。

 

 

 

もしも。

もしも何かが違っていれば彼女はイベントへ呼ばれた可能性もあったかもしれない。

 

 

企業から声がかかったかもしれない。

CDやライブの話が具体的に進んだ可能性だって夢じゃないだろう。

少なくとも水瀬がずっと欲しがっていた「次の場所」へ進む切符にはなっただろう。

 

 

 

しかし今はもう彼女はどこにもいない。

水瀬結衣がいなくなってから「水瀬ユイ」だけが完成したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初のうちは水瀬を心配する声も多かった。

 

 

『戻ってきて』

 

『無事ならそれだけでいい』

 

『病院ちゃんと行って』

 

『誰か連絡取れてないの?』

 

『最後の配信ちょっと様子おかしくなかった?』

 

『歌はすごかったけど、本当に大丈夫だったのかな』

 

ネット上ではこの手の常として様々な憶測が飛び交った。

 

病気になったや精神的に限界だったや家族の事情で活動できなくなった等。

 

 

 

他にもプロデビューの準備に入った、別名義へ移った、結婚した、就職した、海外へ行った。

もしくは付き合っていた誰かとトラブルになったなんてのもあった。

中には行方不明になったらしいという情報も出回ったが、確実な情報と噂の区別はすぐに曖昧になった。

 

 

当時のネットでは、配信者が突然消えること自体は珍しくなかった。

理由を告げずに活動をやめる者もいたし、個人情報を知らない視聴者には、その後を確認する手段もない。

一度配信というスクリーンから降りれば個人を追うことはほぼ不可能なのだ。

 

 

「水瀬ユイはどうなったのか」

 

 

その話題は、最初の数週間こそ人を集めたが一か月が経つ頃には、頻度が減った。

半年経てば、名前が出るのは過去動画や最後の歌が再び話題になった時くらいになった。

 

 

 

その間にも、ネットは動き続けて新しい歌い手が次々と現れていく。

驚くほど声の綺麗な新人が、一つの動画で一気にランキング上位へ入った。

別の人気生主が大きな炎上を起こし、有名な配信者同士が揉め、それだけで何日も話題が埋まった。

 

 

 

新しい企画が流行し、新しいサイトができた。

新しい言葉やミームが生まれた。

世界最大規模の動画サイトが巨額の金が動く生配信ビジネスを開始し、そちらが注目を集め出した。

 

 

そんな中で人々の関心は、いつまでも同じ場所には留まらなかった。

情報の濁流は常に氾濫しており人々は常に新しい何かを求め続けているのだ。

 

 

これは、水瀬自身が一番よく知っていたことでもある。

誰かが活動をやめた時、最初は心配するが数日後には別の動画を見る。

 

 

 

一か月後には、たまに思い出し、一年経てば、名前を見てようやく「ああ、いたな」と思い出す程度になる。

水瀬ユイも、同じだった。

 

 

やがて彼女は「昔、突然いなくなった歌い手」になった。

さらに時間が経てば、「最後の歌だけ異常に上手かった人」と呼ばれるようになった。

 

 

 

もっと後になると、「昔の動画サイトにいた伝説の歌い手」という、本人が聞けば困惑したであろう大げさな肩書までついた。

 

 

 

そこに水瀬結衣の実像を知る者は誰もいない。

食事もできなくなり、誰かと話すことさえ怖がり、自分の声を聞くたびに怯えた一人の女性は消えていた。

 

 

残ったのは、美しい歌と不可解な失踪だけで彼女の苦痛は不適切として物語から削ぎ落とされた。

本人にとって何より恐ろしかった出来事は、外から見れば「才能ある歌い手が最後に最高の歌を残して突然消えた」という、どこか美しい話へ変わっていった。

そうやって水瀬は、本人が最も望んでいなかった形で伝説になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水瀬が活動していた頃の日本の年間全国失踪者数は8万を超えていた。

つまり毎日誰がしらが何処かで居なくなっているという話になる。

もちろん全員が全員そのままというわけでもなく、見つかる人物も多々いたが、現実の数値はこの規模になる。

 

 

 

そんな中で水瀬は警察からすれば()()()()話で終ってしまっていた。

 

 

 

……こういうことは警察官の中では()()()()()なのだ。

警察の歴史は長い。どうにも頭を傾げる話の記録は多々あり、その書類が一枚増えただけだ。

 

 

 

若い成人女性が自宅から単独で外出。

財布、携帯電話、身分証明書などを室内へ残置。

精神状態が悪化していた可能性あり事件性を裏づける明確な証拠なし。

 

 

 

その後の所在不明。

探索は打ち切り。

親族の要望によりマスメディアへの露出は抑えるようにとの要望あり。

そして当然ながら捜査情報の漏洩は厳禁。

 

 

 

 

ネットでは何十万、何百万という人間が水瀬ユイの歌を聞いていたとしても、現実の記録では一人の行方不明者にすぎない。

日本では先にも述べた通り毎年、多くの行方不明者届が受理され、彼女は、その一人になったというだけの話だ。

 

 

 

捜査資料の中には顔写真があり、氏名があり、生年月日がある。

ネット上で水瀬ユイとして活動していたことも記録され、最後に確認された防犯カメラの時刻もある。

 

 

 

しかし何年経っても、水瀬の足取りはわからなかった。

生きていると証明するものもないが死んでいると証明するものもない。

ただ「所在不明」というつまらないラベルだけがずっとそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからさらに年月が経ち、動画サイトそのものも変わっていった。

機能が追加され、名称が変わり、利用者の文化や質、年齢層も変化した。

かつて画面いっぱいにコメントを流していた者たちも年齢を重ね、就職し、結婚し、別の趣味を持つようになり、多くは去り、そして新しい人が入ってくる。

 

 

 

電子の世界でも新陳代謝は発生するのだ。

そんな中、水瀬ユイのコミュニティには新しい書き込みはほとんどなくなっていた。

 

 

最後の投稿だけがずっと墓標の様に残っていた。

 

 

《少し休みます。また歌えるようになったら戻ってきます》と。

 

 

数週間、数か月おきにぱらぱらとコメントがそこに書き込まれていく。

 

 

 

『待ってます』

 

『いつでも帰ってきて』

 

『五年経ったけどまだ聞いてるよ』

 

『久しぶりに思い出して来ました』

 

 

等といったコメントが僅かずつではあるが増えたが、それもやがて止まった。

管理者のいないコミュニティはまるで野ざらしにされた家屋の様に少しずつ崩れていく。

 

 

 

古い動画の中には、権利関係の問題で削除されるものが出た。

使用していた楽曲が配信停止になった。

一部の動画は投稿者本人による手続きが必要になったが、水瀬ユイのアカウントを管理する者はおらずそれで更に削除された。

 

 

更にはサイトの仕様変更で、昔のコミュニティ機能そのものが整理され、表示されなくなったページもある。

外部サービスに依存していた画像はリンク切れを起こし、昔のブログも消えた。

紹介記事に貼られていた動画は「削除されました」という文字だけになった。

 

 

 

そんな中、ある時、大規模な障害が起き、運営はシステムの大規模な変革を行うことをした。

その結果として全てが失われたわけではないのだが……されど、一部の古いデータが正常に復旧されなかったのだ。

 

 

水瀬ユイの配信履歴もその中に含まれていた。

彼女の残照がどんどん風化して消えていく。

まるで文明が時間経過でその姿を失っていくように。

 

 

しかしネットとは、そういう場所なのだ。

かつて水瀬が何より恐れた通り人は忘れる生き物である。

 

 

どれほど強く名前を呼ばれた者でも、どれほど多くの人間から愛された声でも

新しいものが増え続ける場所では、永遠に中心へ居続けることなどできない。

 

 

 

水瀬ユイも例外ではなかった。

そして皮肉なことに、その忘却だけが「彼女」が最後まで望みながら恐れていたものを叶えた。

もうあの声が拡散することはない。

 

 

 

誰も水瀬ユイという名前を呼ばなくなった。

誰もあの歌を新しく聞かなくなり、忘れていった。

新しいスターや話題の誕生ばかりが注目され、何年も前の人間など見向きもされない。

 

 

やがて、水瀬ユイという名前そのものがネットの巨大な堆積物の奥へ沈んでいった。

一人の女性が何年もかけて作り上げた名前も、その名前へ集まった称賛も、その最後に起きたことも、ほとんど誰にも知られない過去になった。

 

 

 

 

そうして彼女は完全に消滅し次の餌場を求めて“”はどろりと動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなさんこんにちはー! 聞く飲料水こと、みずせゆいでーす!」「みなさんこんにちはー! 聞く飲料水こと、みずせゆいでーす!」「みなさんこんにちはー! 聞く飲料水こと、みずせゆいでーす!」

 

「みなさんこんにちはー! 聞く飲料水こと、みずせゆいでーす!」「みなさんこんにちはー! きくいんりょうすいこと、みずせゆいでーす!」「みなさんこんにちはー! 聞く飲料水こと、みずせゆいでぇーす!」「みなさんこんにちはー! きくいんりょうすいこと、みずせゆいでぇーす!」

 

「みなさんこんにちはー! きくいんりょうすいこと、みずせゆいでぇーす!」「みなさんこ̴んにちはー! きくいんりょうすいこと、みずせゆいでぇーす!」「みなさんこ̴んにちはー! きくいんりょうすいこと、みずせゆいでぇ̷ーす!」「みなさんこ̴んにちはー! きくいんりょうすいこと、みずせゆいでぇ̷ーす!」

 

「みなざんこんにちはー! きくいんりょうすいこと、みずせゆいでぇーす!」「みなざんごんにちはー! きくいんりょうすいこと、みずぜゆいでぇーす!」「みなざんごんにぢばー! ぎぐいんりょうすいごど、みずぜゆいでぇーず!」「みなざんごんにぢばー! ぎぐいんりょおずいごど、みずぜゆいでぇーず!」

 

「み゛なざんご̴んにぢばー! ぎぐいんりょ゛おずいごど、みずぜゆ゛いでぇず!」「み゛なざんご̴んにぢばー! ぎぐいんりょ゛おずいごど、みずぜゆ゛いでぇず!」「み゛なざんご̴んにぢばー! ぎぐいんりょ゛おずいごど、みずぜゆ゛いでぇず!」「み゛なざんご̴んにぢばー! ぎぐいんりょ゛おずいごど、みずぜゆ゛いでぇず!

 

みなさんこんにちはー! きくいんりょうすいこと、みずせゆいでーす!」「みなさんこんにちはー! 聞く飲料水こと、みずせゆいでーす!」「みなさんこんにちはー! きくいんりょうすいこと、みずせゆいでーす!」「みなざんごんにぢばー! ぎぐいんりょおずいごど、みずぜゆいでーず!」

 

「みなさんこんにちはー! きくいんりょうすいことみずせゆいでーす!」「みなさんこんにちはー! きくいんりょうすいことみずせゆいでぇーす!」「みなざんごんにぢばー! ぎぐいんりょおずいごどみずぜゆいでぇず!」「み゛なざんご̴んにぢばー! ぎぐいんりょ゛おずいごど、みずぜゆ゛いでぇず!

 

みなさんこんにちはー! きくいんりょうすいこと みずせゆいでーす!」「みなざんごんにぢばー! ぎぐいんりょおずいごど みずぜゆいでぇーず!」「み゛なざんご̴んにぢばー!ぎぐいんりょ゛おずいごどみずぜゆ゛いでぇず!

 

 ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳ ミ゙ズゼ ユ゙イ゙ でぇず」「 ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳ きくいんりょうすいこと ミ゙ズゼ ユ゙イ゙ でぇず」「⬬⬭ ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳◖ ̿̈᚛ᚌᚏ᚜̷̲ きくいんりょおずいごど ミ゙ズ  ̴̿⦿  ユ゙

⬬⬭ ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳◖ ̿̈᚛ᚌᚏ᚜̷̲⬭̳̤ ̴̿⦿ ⬬⬭⫘⫘⫘ ̴̳̈ ミ゙ズゼ ユ゙イ゙」「⬬⬭ ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳◖ ̿̈᚛ᚌᚏ᚜̷̲⬭̳̤ ̴̿⦿ ⬬⬭⫘⫘⫘ ̴̳̈ ミ゙ズ ユ゙

 ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳ ミ゙ ズ ゼ  ̴̿⦿  ユ゙ イ゙ で ぇ ず

⬬⬭ ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳◖ ̿̈᚛ᚌᚏ᚜̷̲ ミ゙ズゼ ユ゙イ゙」「⬬⬭ ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳◖ ̿̈᚛ᚌᚏ᚜̷̲ ミ゙ズゼ ユ゙イ゙ デェ゙ェ゙ェ゙ズ」「 ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳  ̴̿⦿  ミ゙ズゼ ユ゙イ゙  ̴̳̈ ̴̳̈ ̴̳̈

⬬⬭ ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳◖ ̿̈᚛ᚌᚏ᚜̷̲⬭̳̤ ̴̿⦿ ⬬⬭⫘⫘⫘ ̴̳̈》《font:u109》⬬⬭ ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳◖ ̿̈᚛ᚌᚏ᚜̷̲ ミ゙ズ  ̴̿⦿  ユ゙」「 ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳ ミ゙ズゼ  ̴̿⦿  ユ゙イ゙》

 

 ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳ ミ゙ズゼ  ̴̿⦿  ユ゙イ゙》」「⬬⬭ ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳◖ ̿̈᚛ᚌᚏ᚜̷̲ ミ゙ズ  ̴̿⦿  ユ゙》」「⬬⬭ ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳◖ ̿̈᚛ᚌᚏ᚜̷̲⬭̳̤ ̴̿⦿ ⬬⬭⫘⫘⫘ ̴̳̈

 ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳ミ゙ズゼ ̴̿⦿ ユ゙イ゙ ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳ミ゙ズゼ ̴̿⦿ ユ゙イ゙ ̴̳̈ⰢⰣ̤̿ ̷̲⦿◉̴̳ミ゙ズゼ ̴̿⦿ ユ゙イ゙

 

 

 

 

 




いずれ、また。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

(ガワだけ)胡乱なカードゲームおじさん(作者:十田心也)(オリジナル現代/冒険・バトル)

【バトルワールド】▼それはただのカードゲームに非ず▼それは世界中の人々を熱狂に導き、いまだ醒まさせない▼ある国では1枚のカードを手に入れるため、世界有数の富豪が一文無しになり都市が壊滅した▼またある国では、そのカードゲームが最も強い者が皆を率いるリーダーとなった▼長年争っていた両国が、1回のカードゲームの勝負で終戦に合意したこともある▼カードゲームの枠を超え…


総合評価:4751/評価:8.41/連載:30話/更新日時:2026年09月02日(水) 18:30 小説情報

ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている(作者:ない因習村:ラーメンは魚介派が9割)(オリジナル現代/コメディ)

 ホラー系の世界に転生しました。夜道を歩くと大概出会いますが、妙に冷めていたり、カラっとしています。どうすればいいでしょう?


総合評価:7816/評価:8.7/連載:32話/更新日時:2026年09月13日(日) 07:00 小説情報

家出人、別名「歴史の観測者」(作者:未来で勘違い)(オリジナル歴史/冒険・バトル)

ただ自由を求めた旅人が無自覚に歴史の転換点を踏み抜き黒幕扱いされてしまう勘違いもの▼未来で評価考察され、過去と落差があるやつが好きです。


総合評価:8952/評価:8.77/完結:9話/更新日時:2026年06月21日(日) 09:02 小説情報

胡散臭いTS美少女占い師は今日も路地裏で笑う(作者:高丸)(オリジナル現代/日常)

転生したら怪異が存在する世界にいた主人公が趣味で占い師をする話▼【挿絵表示】▼


総合評価:5769/評価:8.15/連載:9話/更新日時:2026年07月01日(水) 22:07 小説情報

ホラー世界の狂言回しになったので、怪異どもをボコして回ることにした(作者:暁刀魚)(オリジナル現代/冒険・バトル)

物語の世界には、時折胡散臭い狂言回しが出てくることがあるだろう。▼なった、それに。▼気づいたらそんな狂言回しになっていた男は、狂言回しの役割を放棄して人々を害する怪異をボコボコにして回ることにした。▼いっそお前の方がやばい怪異だろという勢いで暴れ散らかす狂言回し、阿鼻叫喚の怪異と被害者。▼除霊師達からは怪異と同類扱いされる男の行先やいかに。▼「カクヨム」様に…


総合評価:16138/評価:8.91/連載:25話/更新日時:2026年07月13日(月) 07:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>